石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(3)今季初の紅白戦

投稿日時:2019/04/22(月) 08:31

 27日は春恒例の「FIGHTERS DAY」。シーズン開幕を前にファイターズファミリーとファン、支援者が集い、フットボールを共通のテーマにして親交を深める1日である。
 午前中は大学生の練習と紅白戦。午後は小学生やOBらが参加してフラッグフットボールなどを楽しめるようにプログラムがセットされている。天気は晴れ。風もなく穏やかな一日となり、応援のお父さんやお母さんも含めて多くの人たちで賑わった。
 しかし、午前のチーム練習と紅白戦を見せてもらっただけで、早々に引き上げた。時間にして2時間弱。紅白戦だけでは1時間ほど。今季の予告編というのもおこがましいほどの時間だったが、いい意味でも悪い意味でも、見るべき点は少なくなかった。
 まずはいい方から。一言でいえば、昨年秋のシーズン、特に関西リーグの後半戦以降の試合に出場し、苦しい試合を勝ち抜いてきたメンバーはみな、その修羅場を踏んだ経験を糧にして、終始、堅実なプレーを見せてくれた。勝手知ったチームメートとの戦いという点を割り引いても、それぞれに一段と成長していた。攻撃ではラインの村田、藤田統、森、松永、WRの阿部、鈴木、大村、RBでは三宅、前田公。そしてQBは、昨年度甲子園ボウルMVPの奥野。これに昨年はほとんど出場チャンスがなかったTE亀井やRB斎藤、WR鏡味、OL牧野らも元気なところを見せてくれた。
 守備で先発したのはDLが今井、板敷、藤本、青木。LBは実績のある大竹と海崎。DBは逆に北川、和泉、竹原、平尾、中村という新鮮な顔ぶれ。これに加えてDLの春口、LB松永らがスピードに乗った動きで攻撃陣を押し込み、再三、インターセプトやロスタックルを奪った。
 攻撃側で活躍したメンバーを含めて、昨秋の終盤、苦しい試合を経験したことが糧となり、自分の足らざるところを補い、長所を伸ばすべく、春先からの練習に取り組んできた成果だろう。
 問題は2枚目、3枚目として出場したメンバーである。攻撃側でいえば、捕れそうなパスを簡単に落とす。ブロックを振り切られる。スナップを取り損なう。ラインも簡単に割られるといった点だ。昨秋の修羅場をくぐってきたメンバーがそれなりに成長したプレーをしているのを見るに付けても、昨秋の経験値の違いがそのまま成長度の違いに結びついているように思えた。
 もちろん、新2年生は昨年、一度も試合に出してもらえなかったメンバーが大半である。3、4年生でも、昨季の後半、山場の試合にはほとんど出ていないメンバーが何人もいる。4年生が卒業し、学年が一つ上がったからといって、全員が急激にプレー理解が進み、動きにキレが出てくる訳ではない。
 しかしながら、そうしたメンバーが一人でも二人でも、昨季活躍したメンバーに追いつき追い越していかなければ、卒業したメンバーの後は埋められない。当然、勝利への道も遠ざかる。
 それでなくても、ライスボウルに出場した翌年はチーム作りのスタートが遅れる。昨年の関西リーグで敗れたチームはすでの昨年の12月、場合によっては11月末から新チームをスタートさせている。対するファイターズは1月3日にライスボウルを戦った後は、すぐに後期試験。実質的には新しいチームは2月からのスタートである。
 加えて今季は、グラウンドの改修工事が入って3月末まで本拠での練習ができなかった。チームの仕上がりが例年にも増して遅いのは、仕方のないことかも知れない。
 しかし、対戦相手にとっては、そんなことは知ったことではない。春に対戦を予定している関東勢も、社会人チームも相手がファイターズとなれば、全力で立ち向かってくる。それは例年、春先に戦うチームには、決まって苦しい戦いを余儀なくされている前例を見れば明らかだ。
 この日の試合後、鳥内監督とすれ違ったとき、開口一番「今度の試合、負けますよ」と言われたのも理由のあることである。
 グラウンドの端で少し話を聞いた寺岡主将も似たような言葉を口にしていた。「試合形式で行うのは今季初めて。そこで、プレーのレベルの低さがいくつも見られた。きちんと(選手に)言わなければならないことがある」といった話である。
 春先、じっくり筋力トレーニングに取り組めば、その分、試合形式の練習に割ける時間は少なくなる。だからといって、試合形式の取り組みに重点を置くと、肝心の体幹を鍛え、相手を圧倒するパワーを身に付ける時間がなくなる。そのジレンマを解消するためには、選手一人一人が自ら工夫して練習に取り組み、同時に遅れている仲間を引っ張っていくしかない。
 もちろん、たとえ紅白戦であっても、勝手知った身内にさえボコボコにやられた選手は、その屈辱を成長へのエネルギーに換え、これまで以上に真剣に練習に取り組まなければならない。
 今日の紅白戦で、一つだけはっきりしたことがある。それは、学年が一つ上がったからといって、自動的に実力が1ランク上がるとわけではないこと。このことを肝に銘じて練習に励んでもらいたい。
 男子3日会わざれば刮目(かつもく=目を見開いて)して見よ、という。今週後半の練習、あるいは土曜日の試合で、この日、不本意な動きしかできなかったメンバーがどんな動きを見せてくれるのか。刮目して見たい。

(2)4年生の365日

投稿日時:2019/04/15(月) 08:16

 新しい年度が始まり、大学のキャンパスには初々しい新入生が満ちあふれている。昼休みともなれば、中央芝生は人でいっぱいだし、銀座通りも学生会館もラッシュアワーのターミナルのような混雑振りだ。
 大学生活に慣れ、春休みはバイトや旅行に忙しかった上級生も、今の時期は、新しく履修した授業の要領をつかむためにせっせと大学に顔を出しているし、4年生は2月の後半から就職活動やその情報収集に目の色を変えている。
 ファイターズのメンバーにとっても、それは逃れられない。練習や合宿の合間に時間を捻出してOBを訪問して情報を集め、エントリーシートの作成に頭を悩ませている。僕の元にも相談に来る4年生が少なくない。
 僕はファイターズの応援コラムを書いたり、ファイターズを志望する高校生に小論文を指導するだけではない。実は、朝日新聞の論説委員の頃から(会社の提携講座で)都合5年間、立命館宇治高校や立命館大学で小論文の書き方を教えてきた経験がある。朝日新聞を退職後は、関西学院大学の非常勤講師として今春まで、文章表現やマスコミ志望者のための文章講座を担当し、就職活動の相談に乗ってきた。
 そうした経験を多少ともチームの諸君に還元できたらということで、春先は毎年、エントリーシートの書き方や面接の心得などといったことについて、ささやかではあるが相談に乗っている。
 その中で感じることがある。ファイターズの4年生は多分、どのクラブの学生、どの学部、どの学年の学生と比較しても、より充実した365日を過ごしているであろうということだ。
 どういうことか。同じようにエントリーシートを書いても、新しく4年生になったばかりの部員と、4年目を留年し、5年目の春に就職活動に取り組む部員とでは、書いている文章の背景にある「覚悟」とか「事実」とかに明らかに差があるということだ。
 今年も10人以上の部員からエントリーシート作成の相談を受け、仕上げた文章を見せてもらったが、5年生の書いた文章は、出来不出来という以前に、そこに盛り込まれている「事実の強さ」が新4年生のそれに比べると、確実に奥が深いのである。
 それは新しく4年生となった部員のレベルが低いということではまったくない。そうではなく、この1年間、チームに責任を持って活動してきた人間と、これからの1年、チームのリーダーを引き受けようとする新4年生の置かれた状況の違いである。
 その差に、僕はファイターズの4年生が過ごす365日の重みを感じるのである。
 その重みとは何か。言葉ではなかなか表しにくいが、あえていえばチームを背負っていく覚悟、言葉だけではなく自らの行動で範を示すリーダーシップ、練習や試合に対する取り組み、そういったことのすべてが集積されて、初めて「ファイターズの4年生」が誕生するということだろう。
 その大きな荷物を背負って、どのように来年の1月3日までの長い道のりを歩くのか。長い坂を上っていくのか。
 その行く末は現段階では見通せないが、ひとつだけはっきりしていることがある。その荷物を背負うのが、新しいチームを率いる4年生一人一人であり、それを背負い切ってこそ「ファイターズを卒業しました」と胸を張って言えるのである。
 鳥内監督はつねづね「どんな男(人間)になんねん」と問い掛けられる。その言葉をこれから毎日、自分に問い続け、答えを出し続けることこそが「ファイターズの4年生」になることだと僕は思っている。4年生の365日にはそれだけの重みがある。
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