石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

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(5)悲惨な試合

投稿日時:2019/05/08(水) 21:01

 5日、王子スタジアムは晴れ。五月晴れという言葉がぴったりだった。ほんの8日前、同じ場所で開かれた法政大学との試合では、六甲山から摩耶山にかけての山肌はまだまだ淡い緑の新芽が主流だったが、ほんの1週間で樹木は緑を濃くし、初夏本番の色合いに染まっている。
 風もほとんどない。こんな日にファイターズの試合を一番見やすい場所から、小野ディレクターらの解説付きで観戦できるなんて極楽、極楽。そんな気持ちでゆったり構えていたが、どっこい試合展開は最悪。試合が終わるまで、ファイターズは攻守共にドタバタ劇が続き、1プレーごとに天国と地獄が逆転するような試合となった。
 立ち上がりは、攻撃の司令塔となるQB以外は、攻守ともに現時点でのベストメンバーを起用したファイターズのペース。攻撃はダウンを一度更新しただけで二の矢が続かなかったが、即座に守備陣が奮起。相手が自陣22ヤード付近から投じたパスを、LBの位置に入った2年生の北川がインターセプトし、そのままゴールまで独走してTD。安藤のキックも決まって早々に7点をリードした。守備も安定しており、相手に付け入る隙を与えない。
 しかし、安心して見ておられたのはここまで。第2シリーズからは攻撃陣がばたつく。パントリターナーは滑って転ぶし、ボールキャリアはファンブルして相手に攻撃権を献上する。ランプレーに偏った攻撃は相手に見透かされて進まない。FGも入らない。あげくにインターセプトで攻撃権を失う。数えて見れば第1Qだけで4度の攻撃機会があったのに、オフェンスでは1度も得点に結びつけられなかった。
 第2Qの立ち上がり、相手陣23ヤードから巡ってきた5度目の攻撃機会をQB安西、RB渡邊らのランでTDに結び付けてリードを広げる。しかし、確実に決めなければならないPATはスナップが悪くて失敗。続く攻撃シリーズもまたインターセプトで攻撃権を失う。
 ここまで失敗が続くと、相手も勢い付く。前半終了まで2分を切ったところでTDを返して13-6。続くファイターズの攻撃シリーズもインターセプトで攻撃権を失い、前半終了。数えて見れば、前半だけで7回の攻撃シリーズがあったのに、ファンブルで1回、インターセプトで3回も攻撃権を失っている。通常なら、試合にならないほどの惨状だ。当然、相手は勢い付き、後半の立ち上がり早々にTDを決めて13-13。
 やばいぞ、と思ったところで、リターナーに入った2年生RB斎藤が90ヤードを独走してキックオフリターンTD。相手のTDを帳消しにする。
 しかし、今度は交代メンバーが入った守備が踏ん張れない。相手にいいように走られ、同じプレーを連続して決められてあっという間に20-20。そこで再びRB斎藤が90ヤードのリターンを決めて気を吐いたが、ここは安藤のFGによる3点のみ。
 その後、ファイターズはFGで3点を追加し、4Q早々には相手がゴール前でスナップを落としたのをDB出光が素早い反応で確保、そのまま4ヤードを走り切ってファンブルリターンTD。33-20とリードを広げる。
 しかし、この日は守備陣の動きが悪い。相手に走られ、パスを決められて6点差にまで追い上げられる。あげくに、残り時間が1分前後まで迫ったときにファイターズに手痛いスナップミスが出る。自陣ゴール前から大きくパントを蹴って、それで決着を付けようとしたのに、スナップがホールダーに届かず、ゴール前5ヤード付近で相手にボールが渡る。そこから互いにタイムアウトを繰り返し、ゴール前インチの攻防が続いた。何とかファイターズがしのぎきったが、どちらが勝ってもおかしくない試合だった。
 先週、法政を42-0と完封したチームがどうしてここまで苦しんだのか。
 まずは攻撃の司令塔となるエースQBを欠いた試合であったこと。先発した2年生の安西は関西大倉高校時代、走れるQBとして活躍していたが、大学ではずっとRBとしての練習を積んできた。交代要員としてユニフォームを着た3年生の林も、高等部時代はQBとして活躍していたが、けがで昨シーズンを棒に振り、今春復帰してからも、主にWRの練習に励んでいた。
 いくら高校時代に実績があるといっても、練習していないメンバーにすべてを託すのは厳しい。周囲がカバーできればよいが、パスは通らない、ランも相手に読まれて進まない。苦し紛れに投じたパスはインターセプトされるということでは攻撃のリズムが作れない。守備も崩れてくる。そこを相手が突き、一度通ったプレーを何度もたたみかけてくる。ランもパスも面白いように通される。そうなれば、挑戦者の気持ちでぶつかってきた相手の方が有利になる。
 逆に守りに入ったファイターズは、攻守とも無難に無難にという傾向が強くなり、状況を突破するプレーが生まれない。それがスコアにそのまま反映された。
 先週のコラムで「次回は4年生に注目したい」と書いた。しかし、目立ったのは今度も2年生だ。攻撃では2度のビッグリターンを決めたRB斎藤と、パスを捨ててランナーに殺到してくる相手守備陣の密集に何度も飛び込み、ヤードを稼いだRB前田弟。そしてラインの牧野、福田、二木。守備ではインターセプトリターンTDなど派手な見せ場を作ったLB北川に加えて1列目には青木、2列目に赤倉、3列目に竹原という有望な選手がいる。高校時代はバスケットボールの選手だった報徳学園出身の3人にも注目したい。3年生の亀井、2年生の辰巳は、ともにTEとして存在感を発揮したし、同じ2年生の前田はDBに回り、最後の大事な場面を託された。相手との競り合いに負けてTDを奪われたが、それもまた勉強だ。この日は力を発揮できず、悔しい思いをしたQB安西を含め、慶応戦に出場した2年生全員に大きな希望を託したい。彼らの成長なしには、今季は戦えないという印象さえ持った試合だった。

(4)新星登場

投稿日時:2019/04/29(月) 17:23

 意外に思われる方が多いかも知れないが、鳥内監督は「言葉の達人」である。
 試合中、グラウンドで仁王立ちになっている姿だけを見ている人には、なんだか近寄りがたい雰囲気があるかもしれないが、近くで接していると、短いけれどもずばりと核心を突いた言葉に出くわすことが少なくない。折々に部員に問い掛ける「どんな男になんねん」という言葉は、ファイターズに籍を置いた人間なら誰もが聞かされた言葉だろう。「君らが日本1になる言うから、僕らが手伝ってんねん。主役は君らや。勘違いしたらあかんで」という言葉も何度も聞いた。
 そんな語録のなかで、僕が一番好きなのは「君らは(下級生に)助けてもらう立場やで」。これは、経験値の高い上級生がミスをした下級生を怒鳴りつけたり、威張ったりするような場面を見たときに発せられる。チームの運営は、その年の4年生に任せ、その指導力、リーダーシップに期待する。しかし、上級生がその立場を背景に、下級生を頭ごなしに叱ったりすることは許さない。チームに属する全員が日本1という目標に向かって互いに高め合うこと、そういう部活動であってこそ下級生も成長する。下級生の成長があってこそ、上級生ももう一段上の段階を目指して精進し、全体のレベルが上がっていく。そういう活動こそがファイターズの目指す部活動であるという信念に基づいた言葉であろう。
 そうした視点でファイターズの試合を観戦すれば、楽しみは一段と深くなる。2019年春の初戦。法政大学との試合は、その意味では見所が満載だった。
 まず新しく2年生になったばかりの新星が次々に登場し、それぞれがきらりと光るところを見せてくれた。先発メンバーに名前を連ねた2年生は7人。OLの福田、牧野、WRの鏡味、DLの青木、DBの北川、和泉、竹原である。先発ではなかったが、LB赤倉、都賀、DB前田、DL小林、OL二木、田中、RB前田、齋藤、安西、WR遠藤らも交代メンバーとして活躍。経験豊富な3、4年生とも対抗出来るような動きみせてくれた。
 昨秋の試合にも出場した北川や青木、赤倉のことを知っているファンは多いだろうが、残る2年生にはほとんど公式戦の出場経験がない。高校時代は別のスポーツをやっていたメンバーさえいる。
 それが1年間の雌伏期間を経て、開幕戦でしっかり存在感を見せてくれた。RBの前田弟や齋藤は互いに何度もボールを託され、そのたびにパワフルな走りを見せた。上級生を押しのけて先発したOLの牧野と福田は、強烈なパワーで相手ラインを押し込み、ライン戦の主導権をもたらせた。同様、ディフェンスの青木や北川、竹原らも物怖じせずに動き回り、今季の期待値をふくらませてくれた。
 昨秋の厳しい試合で経験を積んだ3年生も昨季より一回り成長した姿を見せてくれた。投じられた9回のパスをすべてキャッチし、都合137ヤードを稼いだWR鈴木は、この試合のMVPといってもよいほどのできばえだったし、先発したQB奥野も前半だけの出場だったが、終始、沈着冷静なプレーを見せてくれた。初戦の緊張した雰囲気の中で、16回パスを投げて13回成功。パスだけで154ヤードを稼いでいるのだから文句の付けようがない。同じ3年生ではRB三宅がチームトップの69ヤードを走り、前半だけで2本のTDを挙げた。高校時代はバスケットボール選手だったTE亀井も、未経験者とは思えないほどの強い当たりとパスキャッチで、今季の期待値を大いに高めた。
 昨シーズンからチームを背負ってきた4年生に加えて、この日はこうした下級生が次々に登場し、存分に活躍してくれた。今季に期待される新星の見本市といってもいい。
 結果は42-0。相手側の攻撃がシンプルで、守りやすかったこと、前半にファイターズがペースをつかみ、終始、落ち着いてプレーできたことなどを割り引いても、今季の初戦としては上々の滑り出しである。
 冒頭の話に戻ると、期待の新星が力を発揮すれば、それに負けじと上級生が頑張る。頑張る上級生の活動を見て、下級生がさらに熱心に練習に取り組む。そういうサイクルを定着させていくために、今度は4年生が踏ん張る番だ。次戦、5月5日の慶応戦は、そういう視点で4年生の動きに注目したい。
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