石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(27)Fight Hard

投稿日時:2016/11/16(水) 08:46rss

 関西リーグ最終戦、立命との戦いを前に、今年のイヤーブックにある山岸主将の言葉をあらためて読み返した。一字一字が意味するものを、上ヶ原のグラウンドで彼が見せる行動、言葉、日ごろのたたずまいに重ね合わせていると、言葉にはならない熱いものがこみ上げてきた。
 練習の邪魔になってはいけないので、グラウンドの内外で交わす言葉は少ないけれど、彼の主将としての心構え、取り組み、行動をずっと見守ってきた人間の一人として、彼が問い掛けている言葉がそのまま胸に突き刺さってくる。
 全文をそのまま引用して、今回のコラムに代えたいぐらいだといえば、いまの僕の気持ちが分かってもらえるだろうか。
 彼はその文章で「どうすれば彼らとの差は埋まるのか」「自分たちはいま何をするべきなのか」と自らに問い掛け、次のように答えている。
 ……常に自分自身に問い掛ける中で、勝つために自分たちが決めたことをやり続けるしかないと考えた。トレーニング、ミーティング、練習。すべてにおいて昨年以上の意識で自分の気持ちを前面に出して取り組まなければ、今年も勝つことはできない。その思いから“Fight Hard”というスローガンを掲げた。
 ファイターズの部歌「Fight On,Kwansei」の歌詞に“Fight hard so we will win the game.”という一節があり、勝つために激しく懸命に戦うことが示されている。
 スローガンを決めるうえで、歴史ある部歌から貴重な言葉を引用した。
 勝つために戦うのは、試合の時だけではない。戦いの日が来るまで“Fight Hard”し続ける。つまりは毎日が勝負であり、毎日が勝つための1日である。
 何事においても、どんな場面においても勝つために“Fight Hard”することを、私が一番体現する。そしてチーム全員が“Fight Hard”を体現したときに、日本1への道が開けると信じている……。
 そして、最後に「ファイターズにいれば何か与えられるのではない。自分から“何か”を掴みに一歩踏み出しでほしい」と仲間に呼び掛け、「主将の私が常にこれで勝てるかを自問自答し“Fight Hard”を体現していきたい」と結んでいる。
 気持ちのこもった文章である。いま、決戦を前に読み返すと、なおさら一言一句が胸に迫ってくる。
 振り返れば、この20年、立命館とはどの学年も死闘を繰り返してきた。京大を含めて3者がそれぞれ1敗して3校が優勝し、甲子園ボウル出場決定戦で苦い汁を飲まされた1996年。関大、立命、関学が同率優勝し、甲子園ボウル出場権を競った2010年。せっかく本番の関西リーグで立命を倒しながら、京大に足下をすくわれ、優勝決定戦で再び立命と対戦。タイブレーク、それも延長戦となって敗れた2004年の例もある。2013年は両者ともに一歩も譲らず、0-0で引き分けている。
 蛇足を承知で付け加えれば、この0-0の試合で値千金のインターセプトを決めたのがDBの大森優斗君。いま、がんとの厳しい戦いのさなかにあることを公表し、朝日新聞のネットで紹介されて、大きな反響を呼んでいる主人公である。その記事を書いた大西史恭記者は、キッカーとして2007年の甲子園ボウル制覇に貢献した。
 もう一つ蛇足を加えれば、その大西君が在学中の4年間、立命との試合はすべて3点差以内で勝敗を分けている。2004年が30-28(甲子園代表決定戦は先に述べたように14-14で延長タイブレーク)、05年は15-17、06年は16-14。そして4年生の07年は31-28。フィールドゴールでの3点、PATでの1点を獲得することを義務づけられたキッカーの役割の重要性とその責任の重さを卒業文集で綴っていたことを思い出す。
 数えて見れば、21世紀に入ってからの15年間で、7点以内、つまり1TDとPAT1本の差以内で勝敗が分かれた試合が9シーズン、10回もある。その結果は関学からみて4勝5敗1分。両者が心技体すべてをかけてぶつかり、互いに一歩も譲らずに戦った結果である。
 逆に言えば、この相手を倒さない限り、甲子園ボウルへの道もライスボウルへの道も開かれないということである。
 その相手に、昨年は苦汁を飲まされた。山岸主将のいう「人生で一番の悔しさと自分自身の無力さを嫌と言うほど味わった」勝負である。
 以来、360日余。チームはこの相手を常に意識して、取り組んできた。その結果が問われる試合が目前に控えている。
 11月20日、万博記念競技場。1980年代後半、京大が全盛期にあり、毎年のようにファイターズと最終決戦を繰り広げた舞台である。そこでファイターズはどう戦うか。
 山岸主将の言葉にある通り、チームの全員が“Fight Hard”を体現するときである。全員が激しく、懸命に戦ってほしい。その向こうに勝利がある。
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