石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(15)グラウンドの片隅で
8月。世間では夏休みの話題が飛び交っているが、新聞記者の予定表はぎっしり詰まっている。仕事の予定は切れ目なく入ってくるし、友人知人との親善、交友も欠かせない。
スケジュール表を繰ってみれば、1日はPL花火大会の鑑賞に紀州・田辺から大阪・羽曳野まで車で往復。ざっと300キロを走って、花火を鑑賞。せっかくいつものメンバーが揃ったからと、花火の後は2日の未明まで雀卓を囲む。一端、田辺に戻っていつもの仕事に従事し、夕方からは和歌山で「ワインを楽しむ会」。
希代のワイン通で、収集家としても知られる某社長のお招きで、おいしいワインと会話が楽しめるとあって、酒も飲めないくせにいそいそと出掛ける。カリフォルニアの有名ワインを根来塗りの瓶子でついでもらって飲むという趣向で盛り上がった後、締めくくりは1995年産のロマネ・コンティ。社長が自宅の蔵から持参して下さった特別の一本である。
なんせ1年に6千本から7千本しか生産されない特別のワインである。世界のワイン通がよだれを流し、大金をはたいて求める最高級品である。自慢じゃないが、こんなに高級なワインは一度も目にしたことがない。もちろん飲んだこともない。開高健や柴田錬三郎のエッセーなどで読んだことはあるが、実物にお目にかかるのは初めてである。
これを惜しげもなく振る舞ってもらえたのだから、驚いたのなんの。「これは冥土への土産話になりますな」なんていいながら、しげしげと眺め、香りをかいで、おもむろに口に含む。正直言って、味は全く分からなかったが、それでも「神話の世界」そのもののようなロマネ・コンティをいただいたことは事実である。ファイターズとは何の関係もないが、僕にとっては特筆すべきことであり、あえて、紹介させていただいた。
週末は、マイカーの買い換えに伴う各種手続きで東奔西走。大手ディーラーから定価で購入するような甲斐性はないから、格安の車を手に入れるためには、友人の知恵を借りながら自分で走り回るしかない。合間に、高校生の勉強会をはさんで3日間、東へ西へと走り回って、待望の車を入手した。
そんなこんなでスケジュールが混み合っていても、ファイターズの練習は見に行きたい。土曜日の午後、少し時間がとれたのを幸い、上ヶ原まで汗をかきかき自転車で駆け上がった。
練習開始時間には間に合ったが、直前に雷が鳴ったため、しばらく練習は見合わせ。仕方なく武田先生に誘われてメキシコでの戦いの模様を撮影したビデオを鑑賞する。周囲には練習開始時間を今か今かと待ちながらそわそわしている部員がひしめいているから、どうも落ち着かない。
「練習開始」という声がかかったのを幸い、勢いよくグラウンドに出る。
さすがに8月。夏の合宿を直前に控えた時期である。グラウンドの熱気は、6月末とは全く異なる。春先はグラウンドの片隅で固まってトレーニングをしていた1年生も各ポジションに散って、上級生と一緒に練習しているから、どこのパートも人であふれている。練習メニューも、合宿を意識して強度が上がっている。
グラウンドのあちこちを回りながら各パートの練習を見せてもらったが、どこもしっかり声が出ている。集散も速い。一つ一つのメニューの間隔も心なしかスピードアップされている。
驚いたのは、グラウンドの端っこで、リハビリのトレーニングに励んでいる選手達の緊張度が上がっていること。周囲の動きがよくなっているせいか、グラウンドの練習にメリハリが出てきたことの反映か。事情は分からないが、チーム練習には参加できない悔しさを抑え、今、自分たちがやるべきトレーニングに集中して取り組んでいる姿が印象的だった。
延々と腹筋を続ける選手、患部をほぐし、バランスボールで体幹を鍛える選手、あるいは足腰の動きを強化するためにどんどん強度を上げてジャンプを繰り返す選手。それぞれが早くけがを治してチーム練習に参加したい、早く試合に出たいという意欲をそのまま行動に表して取り組んでいるのが目に付いた。
これは、僕がチームの状態を見るための尺度としているのだが、リハビリ中の選手達の動きを見ていると、チームの雰囲気はおおむね見当がつく。グラウンドの選手が声を出し、気合いを入れるのは当たり前。だから、それだけを見ていては、チームの状態の善し悪しはなかなか見抜けない。けれども、練習に加われない選手達の行動を注意して眺めていると、チームの士気の高さが自然に見えてくる。
同じようにリハビリのメニューに取り組んでいても、早くチーム練習に合流したい、というオーラが感じられる状態と、どうせけがで出遅れているんだからという気分で取り組んでいるのでは、場の空気が違う。
その尺度で測ると、この夏のチーム状態は上がっている。「よーし、いい感じになってきたぞ。秋にはこの子らがきっと頑張ってくれるに違いない」とほくそ笑んだ。
こういう場面に出くわすことがあるから、練習を見に行くのが楽しくてならない。今週末は日帰りで東鉢伏に出掛け、合宿中の動きを眺めてこよう。
スケジュール表を繰ってみれば、1日はPL花火大会の鑑賞に紀州・田辺から大阪・羽曳野まで車で往復。ざっと300キロを走って、花火を鑑賞。せっかくいつものメンバーが揃ったからと、花火の後は2日の未明まで雀卓を囲む。一端、田辺に戻っていつもの仕事に従事し、夕方からは和歌山で「ワインを楽しむ会」。
希代のワイン通で、収集家としても知られる某社長のお招きで、おいしいワインと会話が楽しめるとあって、酒も飲めないくせにいそいそと出掛ける。カリフォルニアの有名ワインを根来塗りの瓶子でついでもらって飲むという趣向で盛り上がった後、締めくくりは1995年産のロマネ・コンティ。社長が自宅の蔵から持参して下さった特別の一本である。
なんせ1年に6千本から7千本しか生産されない特別のワインである。世界のワイン通がよだれを流し、大金をはたいて求める最高級品である。自慢じゃないが、こんなに高級なワインは一度も目にしたことがない。もちろん飲んだこともない。開高健や柴田錬三郎のエッセーなどで読んだことはあるが、実物にお目にかかるのは初めてである。
これを惜しげもなく振る舞ってもらえたのだから、驚いたのなんの。「これは冥土への土産話になりますな」なんていいながら、しげしげと眺め、香りをかいで、おもむろに口に含む。正直言って、味は全く分からなかったが、それでも「神話の世界」そのもののようなロマネ・コンティをいただいたことは事実である。ファイターズとは何の関係もないが、僕にとっては特筆すべきことであり、あえて、紹介させていただいた。
週末は、マイカーの買い換えに伴う各種手続きで東奔西走。大手ディーラーから定価で購入するような甲斐性はないから、格安の車を手に入れるためには、友人の知恵を借りながら自分で走り回るしかない。合間に、高校生の勉強会をはさんで3日間、東へ西へと走り回って、待望の車を入手した。
そんなこんなでスケジュールが混み合っていても、ファイターズの練習は見に行きたい。土曜日の午後、少し時間がとれたのを幸い、上ヶ原まで汗をかきかき自転車で駆け上がった。
練習開始時間には間に合ったが、直前に雷が鳴ったため、しばらく練習は見合わせ。仕方なく武田先生に誘われてメキシコでの戦いの模様を撮影したビデオを鑑賞する。周囲には練習開始時間を今か今かと待ちながらそわそわしている部員がひしめいているから、どうも落ち着かない。
「練習開始」という声がかかったのを幸い、勢いよくグラウンドに出る。
さすがに8月。夏の合宿を直前に控えた時期である。グラウンドの熱気は、6月末とは全く異なる。春先はグラウンドの片隅で固まってトレーニングをしていた1年生も各ポジションに散って、上級生と一緒に練習しているから、どこのパートも人であふれている。練習メニューも、合宿を意識して強度が上がっている。
グラウンドのあちこちを回りながら各パートの練習を見せてもらったが、どこもしっかり声が出ている。集散も速い。一つ一つのメニューの間隔も心なしかスピードアップされている。
驚いたのは、グラウンドの端っこで、リハビリのトレーニングに励んでいる選手達の緊張度が上がっていること。周囲の動きがよくなっているせいか、グラウンドの練習にメリハリが出てきたことの反映か。事情は分からないが、チーム練習には参加できない悔しさを抑え、今、自分たちがやるべきトレーニングに集中して取り組んでいる姿が印象的だった。
延々と腹筋を続ける選手、患部をほぐし、バランスボールで体幹を鍛える選手、あるいは足腰の動きを強化するためにどんどん強度を上げてジャンプを繰り返す選手。それぞれが早くけがを治してチーム練習に参加したい、早く試合に出たいという意欲をそのまま行動に表して取り組んでいるのが目に付いた。
これは、僕がチームの状態を見るための尺度としているのだが、リハビリ中の選手達の動きを見ていると、チームの雰囲気はおおむね見当がつく。グラウンドの選手が声を出し、気合いを入れるのは当たり前。だから、それだけを見ていては、チームの状態の善し悪しはなかなか見抜けない。けれども、練習に加われない選手達の行動を注意して眺めていると、チームの士気の高さが自然に見えてくる。
同じようにリハビリのメニューに取り組んでいても、早くチーム練習に合流したい、というオーラが感じられる状態と、どうせけがで出遅れているんだからという気分で取り組んでいるのでは、場の空気が違う。
その尺度で測ると、この夏のチーム状態は上がっている。「よーし、いい感じになってきたぞ。秋にはこの子らがきっと頑張ってくれるに違いない」とほくそ笑んだ。
こういう場面に出くわすことがあるから、練習を見に行くのが楽しくてならない。今週末は日帰りで東鉢伏に出掛け、合宿中の動きを眺めてこよう。
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