石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(14)ありがたい勉強会

投稿日時:2016/08/06(土) 17:10rss

 高校の期末試験が終わった直後から、毎週末、西宮市の某所に高校生を集めて「ミーティング」を開いている。受講生は、今秋のスポーツ選抜入試に挑むメンバーである。
 関東の高校からの挑戦者には、ファクスのやりとりしかできないが、大阪圏に住む面々には週に1度、集合してもらって過去問や大学が作った参考問題、そして不肖僕が選んだ「課題文」などを教材に、文章を読むこと、それを基に考えること、考えたことを表現することの訓練をしている。
 週に1度の限られた時間にできることは少ない。しかしそれでも、毎週課題文を読み、考え、表現することには意味がある。普段の高校の授業では、決してお目にかからないようなボリュームがあって、歯ごたえのある文章をじっくり読む。その内容を要約して文章にまとめる。そして、課題文を読んで考えた結果を文章に書き留める。
 この作業を毎週続けていると、一つは「重い内容を含んだ文章」を読むことに抵抗感がなくなる。もう一つは、その文章に触発されて自分の考えをまとめることが「難儀」ではなくなる。そして三つ目。これが大事なことだが、考えたことを表現することに慣れてくる。当然、それなりに自信も付いてくる。
 その証拠に、この夏5回目となる昨晩の授業では、文章の分量は少ないが内容的には難しい課題文を出して要約させ、その後、700字前後の小論文を書けという課題を出したが、参加した全員が所定の時間内に仕上げることができた。小論文の内容もそれぞれしっかりしていた。僕が関学で担当している「文章表現」の授業でも、80点が取れるような小論文を書いた高校生も少なくなかった。
 数えて見れば、こうした夏の勉強会を始めて、今年で19年。始めた当初、僕はまだ朝日新聞社の論説委員をしており、仕事の合間を縫っての「家庭教師」だった。高校生には毎週、大阪・中之島の朝日新聞社に集まってもらい、社内の喫茶室や見学者室、さらには地下にある喫茶店などを転々としながら、勉強会を開いた。受講生は一人。池田高校の秀才、平郡雷太君だけだったが、間もなく箕面高校の池谷陽平君が加わった。それぞれ日程調整が難しく、当初は別々にマンツーマンの勉強会だった。喫茶室でケーキセットを食べながら、話し込んでいたことを思い出す。
 それが翌年の佐岡真弐君の代には5人となり、その後、毎年のように増えていった。対象者が増えてくると、社内の喫茶室では手狭になる。周囲の目も気になる。そこでリクルート担当マネジャーらの協力で西宮市内に会場を用意してもらい、そこに集合して定期的に勉強会を開くことになった。たしか柏木佑介君の代からだったと記憶している。
 そういう勉強会を続けていた頃、僕は縁があって立命館宇治高校で2年間、週に一度、授業を担当することになった。朝日新聞社と立命館が提携して、高校生に文章表現を教えるということになり、論説委員をしていた僕に声がかかったのである。
 大変な仕事だと思ったが、会社から給料をもらっている手前、断ることはできない。それでも授業そのものは自信を持って担当できた。平郡君や佐岡君らを相手に、小論文の書き方をあれこれ手探りで教えてきたことがすべて役立ったからだ。
 そうこうするうちに、今度は立命館大学から「マスコミ志望者のための小論文講座」を期間限定で開講する、ついてはその講座を担当してほしいという声がかかり、これまた週に1度、「社命」によって派遣された。これも、3年間担当したが、このときもファイターズを志望する高校生を相手に勉強会を続けてきた経験が大いに役立った。そのときに教えた学生の何人かは見事に朝日、毎日、読売、NHKなどの入社試験を突破し、いまも記者をしているから、僕の授業も相当水準が高かったのだろう。
 そうした経験もあって、朝日新聞社を定年で退職した後、今も非常勤講師として関西学院大学で文章表現の講座を担当している。最近は生意気にも「カリスマ講師」と自称し、かなり自由にいろいろな手法を使って授業を展開しており、毎年、学期末に実施される学生による「授業に関する調査」のアンケートでは、「全体としてこの授業に満足している」「この授業を履修して、自分にとって新しい知識(技能)や物事の見方が得られた」「この授業を後輩に薦めたい」などという評価項目の平均点(5点満点)はそれぞれ、よいときは5点、一番悪いときでも4.8だから、自分でいうのも何だが、結構、評価されているのではないか。
 それもこれも、元を訪ねれば、高校生を相手に始めた寺子屋授業にたどり着く。「文章を書くのも読むのも苦手」という高校生に、なんとか入試を突破してもらいたい、ファイターズに入って頑張ってもらいたい、そう思って真夏の勉強会を続けてきたことが、結果として僕を指導者として成長させてきたのである。さらに言えば、そうした経験が新聞記者として、あるいは新聞社のコラムニストとしての成長にも資しているのだろう。
 ありがたいことである。
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