石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(11)メキシコでの戦い
白状すると、僕は新聞記者でありながら、海外に出掛けるのが大嫌いである。異国の言葉がしゃべれない、飛行機に乗るのが怖い、狭いところに何時間も閉じ込められるのが耐えられない、という「三重苦」がその理由である。
朝日新聞社の論説委員をしていたときには、それでも職場の同僚たちと(義務として)極東ロシア、台湾、ベトナムの3カ所に出掛けたが、プライベートでは一度も海外に出たことがない。ヨメさんから怒られ、子どもたちには見放されているが、それでも「三重苦」には勝てない。2年前、友人の作家、黒川博行さんが直木賞を受賞されたとき、「マカオツアーご招待、往復の飛行機とホテル代は全額、黒川持ち」という夢のような案内をいただいたが、これもパス。世間も大学も「スーパーグローバル」とか「GO GLOBAL JAPAN」とかいっているのに、まるで石器時代に生きているような毎日である。
今回、ファイターズがメキシコ1の名門大学、メキシコ国立自治大学(UNAM)のフットボールチーム“PUMAS”から招待され、交流試合をするにあたっては、チームから非公式に「一緒に行きませんか」と声を掛けられたが、もちろん「辞退します」と返事。選手たちの奮闘振りを現地で見たいのはやまやまだが、ここでも「三重苦」には勝てなかった。
代わりにというわけでもないが、帰国したチームのご厚意で、試合の模様を編集したDVDを提供していただいた。
正直言って、テレビ局が中継用に撮ったビデオを見慣れている目から見ると、画像そのものは数段劣る。肝心のボールキャリアが写っていない場面もあるし、画像の質も悪い。それでも繰り返し繰り返し再生すれば、ファイターズの諸君の奮闘振りが伝わってくる。ありがたいことだ。
例えばディフェンス。DLを率いる52番松本を中心に、柴田、藤木、安田、大野らの第一列が速くて強い当たりで、相手の動きをコントロールする。LBの動きもよい。つい先日までけがのために試合に出ていなかった主将山岸が右、左、前、後ろと、ボールのあるところに必ず顔を出し、松本や山本の的確な動きと相俟って、相手のランプレーを封じていく。最後列の小池、岡本、小椋の背番号も何度も画面に映っていた。相手のプレーに的確に絡んでいたという証拠である。
1本目のプレーヤーだけではない。次々と交代して入ってくるメンバーの動きもよい。体が大きく、スピードがあり、闘争心をむき出しにして挑んでくる相手を時には力で圧倒し、時には技術で勢いをそいで、効果的な前進を許さない。
得点こそ13点を奪われたが、そのうち1本は相手守備陣がファイターズのパスをインターセプトし、そのままゴールまで走り切ったTD。残る6点はフィールドゴールの2本であり、守備陣としては1本もTDを与えていない。
逆に攻撃陣は苦労したようだ。何より得意とするランプレーでビッグゲインが出ない。ランプレーが思うように進まないからパスの成功率も芳しくない。画面を見る限り、OLは相手ラインと対等に戦っているようだったが、それでもRB陣は苦労している。相手の逆を突いた、これは抜けた、と思っても、横合いから予期せぬプレーヤーが飛び込んでくる。
パスも同様だ。相手守備陣は背が高く、手も長いから、両手を挙げ、振り回すだけでも邪魔になる。どちらかといえば小柄なQB伊豆が投げにくそうにしている場面が何度も現れた。それでも、試合に勝つためにはパスを投げ続けるしかない。右や左に走り回り、ランのフェイクを入れてからの短いパスやショベルパスを織り交ぜ、時には長いパスを投じる。
そうしてグラウンドを広く使っているうちに第3Qと第4QにWR亀山への長いパスがヒット。それぞれパスを受けてからの独走でTDにつなげる。K西岡のPATも決まってファイターズが逆転した。
画面を見ている限りでは、もう少しファイターズがプレーの精度を上げていれば、もっと点を取れる場面があったようにも思える。とりわけ0-0で迎えた前半、短いパスとランプレーを交互に繰り出し、相手ゴールに迫ったときの攻撃が惜しまれる。あそこで一気に先取点を挙げていれば、終始、自分たちのペースで試合を支配できた可能性があったが、結果は無得点。その辺の詰めの甘さを今後、どうするか。夏休みの宿題をもらったような気がする。
そうしたことを含めて、日ごろ親しくしている何人かの選手に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「確かに相手の当たりは強かったけど、自分だけが目立とうとする選手が多かった。その辺のほころびを見極めて攻めれば、もう少し点を取れていたのではないか。チャンスを確実にモノにできなかったのが、心残りといえば心残りです」(WR)
「当たった感じでは立命のDLの方が強かった。メキシコの選手に勝ったといって満足していると、間違いなく立命にいかれます」(OL)
「自分としては、できは普通です。秋にはもっと動けるようになって、チームを引っ張っていきます」(DL)
それぞれ、国際交流試合で勝ったことよりも、秋の試合を見据えた発言ばかり。学生数約25万人。規模でも学力もメキシコを代表する大学を相手に、見事な逆転勝利を収めたことよりも、目の前に「本番」を控えた主力選手たちの、今後の戦いに向けた発言の方がはるかに力がこもっていた。
勝利におごらず、そういう言葉を短い会話の中にさりげなく混ぜることができるようになったことが、今回の交流試合の成果かもしれない。
朝日新聞社の論説委員をしていたときには、それでも職場の同僚たちと(義務として)極東ロシア、台湾、ベトナムの3カ所に出掛けたが、プライベートでは一度も海外に出たことがない。ヨメさんから怒られ、子どもたちには見放されているが、それでも「三重苦」には勝てない。2年前、友人の作家、黒川博行さんが直木賞を受賞されたとき、「マカオツアーご招待、往復の飛行機とホテル代は全額、黒川持ち」という夢のような案内をいただいたが、これもパス。世間も大学も「スーパーグローバル」とか「GO GLOBAL JAPAN」とかいっているのに、まるで石器時代に生きているような毎日である。
今回、ファイターズがメキシコ1の名門大学、メキシコ国立自治大学(UNAM)のフットボールチーム“PUMAS”から招待され、交流試合をするにあたっては、チームから非公式に「一緒に行きませんか」と声を掛けられたが、もちろん「辞退します」と返事。選手たちの奮闘振りを現地で見たいのはやまやまだが、ここでも「三重苦」には勝てなかった。
代わりにというわけでもないが、帰国したチームのご厚意で、試合の模様を編集したDVDを提供していただいた。
正直言って、テレビ局が中継用に撮ったビデオを見慣れている目から見ると、画像そのものは数段劣る。肝心のボールキャリアが写っていない場面もあるし、画像の質も悪い。それでも繰り返し繰り返し再生すれば、ファイターズの諸君の奮闘振りが伝わってくる。ありがたいことだ。
例えばディフェンス。DLを率いる52番松本を中心に、柴田、藤木、安田、大野らの第一列が速くて強い当たりで、相手の動きをコントロールする。LBの動きもよい。つい先日までけがのために試合に出ていなかった主将山岸が右、左、前、後ろと、ボールのあるところに必ず顔を出し、松本や山本の的確な動きと相俟って、相手のランプレーを封じていく。最後列の小池、岡本、小椋の背番号も何度も画面に映っていた。相手のプレーに的確に絡んでいたという証拠である。
1本目のプレーヤーだけではない。次々と交代して入ってくるメンバーの動きもよい。体が大きく、スピードがあり、闘争心をむき出しにして挑んでくる相手を時には力で圧倒し、時には技術で勢いをそいで、効果的な前進を許さない。
得点こそ13点を奪われたが、そのうち1本は相手守備陣がファイターズのパスをインターセプトし、そのままゴールまで走り切ったTD。残る6点はフィールドゴールの2本であり、守備陣としては1本もTDを与えていない。
逆に攻撃陣は苦労したようだ。何より得意とするランプレーでビッグゲインが出ない。ランプレーが思うように進まないからパスの成功率も芳しくない。画面を見る限り、OLは相手ラインと対等に戦っているようだったが、それでもRB陣は苦労している。相手の逆を突いた、これは抜けた、と思っても、横合いから予期せぬプレーヤーが飛び込んでくる。
パスも同様だ。相手守備陣は背が高く、手も長いから、両手を挙げ、振り回すだけでも邪魔になる。どちらかといえば小柄なQB伊豆が投げにくそうにしている場面が何度も現れた。それでも、試合に勝つためにはパスを投げ続けるしかない。右や左に走り回り、ランのフェイクを入れてからの短いパスやショベルパスを織り交ぜ、時には長いパスを投じる。
そうしてグラウンドを広く使っているうちに第3Qと第4QにWR亀山への長いパスがヒット。それぞれパスを受けてからの独走でTDにつなげる。K西岡のPATも決まってファイターズが逆転した。
画面を見ている限りでは、もう少しファイターズがプレーの精度を上げていれば、もっと点を取れる場面があったようにも思える。とりわけ0-0で迎えた前半、短いパスとランプレーを交互に繰り出し、相手ゴールに迫ったときの攻撃が惜しまれる。あそこで一気に先取点を挙げていれば、終始、自分たちのペースで試合を支配できた可能性があったが、結果は無得点。その辺の詰めの甘さを今後、どうするか。夏休みの宿題をもらったような気がする。
そうしたことを含めて、日ごろ親しくしている何人かの選手に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「確かに相手の当たりは強かったけど、自分だけが目立とうとする選手が多かった。その辺のほころびを見極めて攻めれば、もう少し点を取れていたのではないか。チャンスを確実にモノにできなかったのが、心残りといえば心残りです」(WR)
「当たった感じでは立命のDLの方が強かった。メキシコの選手に勝ったといって満足していると、間違いなく立命にいかれます」(OL)
「自分としては、できは普通です。秋にはもっと動けるようになって、チームを引っ張っていきます」(DL)
それぞれ、国際交流試合で勝ったことよりも、秋の試合を見据えた発言ばかり。学生数約25万人。規模でも学力もメキシコを代表する大学を相手に、見事な逆転勝利を収めたことよりも、目の前に「本番」を控えた主力選手たちの、今後の戦いに向けた発言の方がはるかに力がこもっていた。
勝利におごらず、そういう言葉を短い会話の中にさりげなく混ぜることができるようになったことが、今回の交流試合の成果かもしれない。
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