石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(28)死闘
どうして京大との試合は、毎年、あんなにもつれるのだろう。
2004年がその典型だった。宿敵立命を倒し、甲子園ボウルを目前にして臨んだ西京極競技場の京大戦。相手パントを自陣最深部で落としたり、後ろパスを失敗したり、ファイターズには信じられないミスが続いた。そのたびに京大に攻撃権を奪われ、それをことごとく得点に結びつけられて、思いもよらぬ敗退。立命との甲子園ボウル出場権をかけた再試合も、3度の延長戦の末に敗れた。
7日、神戸のユニバースタジアムで行われた今年の京大戦も、逆転また逆転のきわどい戦い。試合終了の笛が鳴ったとき、ファイターズが1点をリードしていたから、勝利が手に入ったが、勝利の女神が京大にほほえんでいても、少しもおかしくない内容だった。
立ち上がり、レシーブを選択したファイターズは自陣30ヤードからの第1プレー。RB松岡が右オフタックルを抜け、一気に70ヤードを独走してタッチダウン(TD)。ファイターズ1のスピードランナーの目の覚めるようなプレーで観客席の度肝を抜いた。
続く京大の攻撃をDL長島の2度のタックルで簡単に抑え、自陣42ヤードから再びファイターズの攻撃。RB久司のラン、WR松原への38ヤードパスなどわずか4プレーで相手ゴール前1ヤードに迫る。加藤が落ち着いたキーププレーでTDを決め、大西のキックも決まって14-0。ここまでは、完全にファイターズが主導権を握っていた。
ところが、次の京大の攻撃が止まらない。QB桐原のタイミングをずらせた2種類のランプレーと、WR中村への的確なパスをキーに、ぐいぐいと攻め込んでくる。あれよあれよという間にゴール前に迫られ、仕上げは中村へのパスが決まって7点差。
2Q5分51秒に大西が22ヤードのフィールドゴール(FG)を決め、ファイターズが17-7とリードして前半を終えたが、手に汗を握るドラマは後半に待っていた。
後半は京大のレシーブで攻撃開始。自陣25ヤードからQB桐原のランとWR中村へのパスをキープレーに、京大の進撃が始まる。ファイターズ守備陣は、それを必死に食い止めようとするのだが、巧妙にパスとランを裏表に使い分けられ、ターゲットが絞れない。5分39秒を費やしてぐいぐい押し込まれ、ついにTDを許してしま
う。
浮足だったファイターズは次の攻撃シリーズでいきなりパスを奪われ、あげくにレートヒットの反則まで加わって、ゴール前14ヤードから京大に攻め立てられる。ここは、守備陣が踏ん張ってFGで抑えたが、それでも3点を奪われ、ついに17-17の同点。
4Qに入り、再び京大の攻撃。自陣20ヤードから、再び桐原のランと中村へのパスをキーに、怒涛のような攻撃を展開する。またも5分近い攻撃を続け、仕上げは中村への4ヤードパスでTD。キックも決まって、ついに京大が7点のリード。
攻めては京大のブリッツに悩まされ、守ってはパスとランに振り回され、流れは完全に京大に傾いている。観客席から見ていると、実際の点差以上にゲーム内容が開いてしまったような感じさえする。
しかし、選手たちはくじけていなかった。加藤は時に孤立させられながらもパスを投げ続け、萬代を中心にしたWR陣がそれを好捕する。ついに4Q7分59秒、加藤からの18ヤードのパスを萬代が確保してTD。キックを決めれば同点という場面だが、ベンチは逆転を狙ってプレーを選択する。右に松原、柴田、萬代というファイターズが誇る3人のレシーバーを並べて相手守備陣を幻惑、マークが乱れたところへ走り込んだ萬代に、加藤が落ち着いてパスを決めた。
ファイターズが1点をリードしたが、京大も負けてはいない。残り3分53秒から始まった次のシリーズ。3分以上を費やす攻撃で42ヤードのFGにつなげ、再び逆転する。
残り18秒。自陣42ヤードからファイターズの攻撃が始まる。しかし、タイムアウトは3回を使い切っているので、時間とも戦わなければならない。ここで加藤がこの日、一番信頼している萬代に42ヤードのパスをヒット、ゴール前16ヤードに迫る。残り時間は4秒。加藤がすぐにボールをスパイクして時計を止めたが、残りは2秒。相手ベンチや選手からのヤジで騒然とする中、大西が冷静に33ヤードのFGを決めて試合終了。得点は28-27。薄氷を踏む勝利だった。
けれども、大きな勝利だった。試合後、鳥内監督は「勝てただけが収穫。あとはなにもなし」と記者団の質問に答えていたが、それが実感だったろう。
けれども、完全に京大のペースになっていた試合を、最後まであきらめず、選手が一丸となって勝利に結びつけた。そこに意義がある。リーグ戦で1勝しかしていない京大にここまで苦戦を強いられた背景、実情を考えると、とても喜べるような気分にはなれないだろうが、それでも勝ち切ったことが素晴らしい。投げるべきパスを投げ、捕るべきボールをキャッチし、蹴るべくボールを正確にけり込んだ。もちろんラインもダミーになる選手も、それぞれの役割をきちんと果たした。
その結果としての勝利である。たとえ内容は、薄氷を踏むような勝利とはいえ、大いに誇りにできる勝利である。最後の最後に結集したチームの意地を、次の立命戦にも見せてほしい。結果はついてくるはずだ。
2004年がその典型だった。宿敵立命を倒し、甲子園ボウルを目前にして臨んだ西京極競技場の京大戦。相手パントを自陣最深部で落としたり、後ろパスを失敗したり、ファイターズには信じられないミスが続いた。そのたびに京大に攻撃権を奪われ、それをことごとく得点に結びつけられて、思いもよらぬ敗退。立命との甲子園ボウル出場権をかけた再試合も、3度の延長戦の末に敗れた。
7日、神戸のユニバースタジアムで行われた今年の京大戦も、逆転また逆転のきわどい戦い。試合終了の笛が鳴ったとき、ファイターズが1点をリードしていたから、勝利が手に入ったが、勝利の女神が京大にほほえんでいても、少しもおかしくない内容だった。
立ち上がり、レシーブを選択したファイターズは自陣30ヤードからの第1プレー。RB松岡が右オフタックルを抜け、一気に70ヤードを独走してタッチダウン(TD)。ファイターズ1のスピードランナーの目の覚めるようなプレーで観客席の度肝を抜いた。
続く京大の攻撃をDL長島の2度のタックルで簡単に抑え、自陣42ヤードから再びファイターズの攻撃。RB久司のラン、WR松原への38ヤードパスなどわずか4プレーで相手ゴール前1ヤードに迫る。加藤が落ち着いたキーププレーでTDを決め、大西のキックも決まって14-0。ここまでは、完全にファイターズが主導権を握っていた。
ところが、次の京大の攻撃が止まらない。QB桐原のタイミングをずらせた2種類のランプレーと、WR中村への的確なパスをキーに、ぐいぐいと攻め込んでくる。あれよあれよという間にゴール前に迫られ、仕上げは中村へのパスが決まって7点差。
2Q5分51秒に大西が22ヤードのフィールドゴール(FG)を決め、ファイターズが17-7とリードして前半を終えたが、手に汗を握るドラマは後半に待っていた。
後半は京大のレシーブで攻撃開始。自陣25ヤードからQB桐原のランとWR中村へのパスをキープレーに、京大の進撃が始まる。ファイターズ守備陣は、それを必死に食い止めようとするのだが、巧妙にパスとランを裏表に使い分けられ、ターゲットが絞れない。5分39秒を費やしてぐいぐい押し込まれ、ついにTDを許してしま
う。
浮足だったファイターズは次の攻撃シリーズでいきなりパスを奪われ、あげくにレートヒットの反則まで加わって、ゴール前14ヤードから京大に攻め立てられる。ここは、守備陣が踏ん張ってFGで抑えたが、それでも3点を奪われ、ついに17-17の同点。
4Qに入り、再び京大の攻撃。自陣20ヤードから、再び桐原のランと中村へのパスをキーに、怒涛のような攻撃を展開する。またも5分近い攻撃を続け、仕上げは中村への4ヤードパスでTD。キックも決まって、ついに京大が7点のリード。
攻めては京大のブリッツに悩まされ、守ってはパスとランに振り回され、流れは完全に京大に傾いている。観客席から見ていると、実際の点差以上にゲーム内容が開いてしまったような感じさえする。
しかし、選手たちはくじけていなかった。加藤は時に孤立させられながらもパスを投げ続け、萬代を中心にしたWR陣がそれを好捕する。ついに4Q7分59秒、加藤からの18ヤードのパスを萬代が確保してTD。キックを決めれば同点という場面だが、ベンチは逆転を狙ってプレーを選択する。右に松原、柴田、萬代というファイターズが誇る3人のレシーバーを並べて相手守備陣を幻惑、マークが乱れたところへ走り込んだ萬代に、加藤が落ち着いてパスを決めた。
ファイターズが1点をリードしたが、京大も負けてはいない。残り3分53秒から始まった次のシリーズ。3分以上を費やす攻撃で42ヤードのFGにつなげ、再び逆転する。
残り18秒。自陣42ヤードからファイターズの攻撃が始まる。しかし、タイムアウトは3回を使い切っているので、時間とも戦わなければならない。ここで加藤がこの日、一番信頼している萬代に42ヤードのパスをヒット、ゴール前16ヤードに迫る。残り時間は4秒。加藤がすぐにボールをスパイクして時計を止めたが、残りは2秒。相手ベンチや選手からのヤジで騒然とする中、大西が冷静に33ヤードのFGを決めて試合終了。得点は28-27。薄氷を踏む勝利だった。
けれども、大きな勝利だった。試合後、鳥内監督は「勝てただけが収穫。あとはなにもなし」と記者団の質問に答えていたが、それが実感だったろう。
けれども、完全に京大のペースになっていた試合を、最後まであきらめず、選手が一丸となって勝利に結びつけた。そこに意義がある。リーグ戦で1勝しかしていない京大にここまで苦戦を強いられた背景、実情を考えると、とても喜べるような気分にはなれないだろうが、それでも勝ち切ったことが素晴らしい。投げるべきパスを投げ、捕るべきボールをキャッチし、蹴るべくボールを正確にけり込んだ。もちろんラインもダミーになる選手も、それぞれの役割をきちんと果たした。
その結果としての勝利である。たとえ内容は、薄氷を踏むような勝利とはいえ、大いに誇りにできる勝利である。最後の最後に結集したチームの意地を、次の立命戦にも見せてほしい。結果はついてくるはずだ。
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