石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(31)男伊達
江戸三男(えどさんおとこ)という言葉がある。江戸時代、粋な男の筆頭にあげられた与力、相撲取り、火消しのことを指す。時代考証家、稲垣史生さんの『江戸考証読本?』(KADOKAWA)によると、この言葉は単に男前という意味ではなく「男子の面目、男伊達の意味にとるべきだ」「伊達の内容は、侠気に満ちて華美(はで)、持てる力を内に秘めて奥床しいところがある」と解説している。
加えて与力は「威あって猛からず、スタイリストでさばけたところがある」「侠気といえば侠気、頼もしくて話せる」。相撲取りは「待ったなしを尊ぶ心意気」「意気は意気地であり、男伊達の本領」。火消しの頭は「信望と統率の才能を要し、貫禄と義侠心と腕っ節の強さが不可欠」と説明する。
なるほど、粋な男たちだ、と本を読み進めながら「ちょっと待て。そういう男なら、ファイターズにもいっぱいいるぞ。江戸三男の向こうを張って、ファイターズ10人衆でも20人衆でもいい、なんなら50人衆の名前を挙げてみようか。粋な女子の名前も一人や二人ではないぞ」と思った。
いつもグラウンドで仲間を鼓舞している橋本主将。体重は約130キロ。腹の底から張り上げる大声は、少なくともこの10年間では一番デカイ。練習を仕切るだけでなく、全体練習が始まるはるか前からグラウンドに顔を出し、時にはダミー、時には早出のOLを相手に、激しく当たりあっている。
副将の3人、作道、田中、木下君も、練習時はもちろん、練習が始まる前からそれぞれが属するパートの練習や下級生の指導に余念がない。チーム練習を終えた後、アフターと称する練習まで、いつも先頭に立ってプレーするのはもちろん、寸暇を惜しんで1センチ単位の足の動き、スタートのタイミングの取り方、そして効果的な当たり方などを繰り返し繰り返し仲間に指導している。けがからの回復途上でシーズン当初は練習もままならなかったDL小川君、一時は社会復帰さえ危ぶまれたRB三好君も、それぞれパートのリーダーとして周囲を盛り立て、下級生を懸命に育ててきた。それぞれが男伊達と呼ぶにふさわしい腕っ節と奥ゆかしさをもった面々である。
4年生だけではない。3年生でエースとなったQB伊豆君は毎日、誰よりもストイックに練習と向き合っている。例えば、今年の夏合宿、僕が1泊2日の日程で見学に行った時のことである。早朝、まだ5時半を過ぎたばかりというのに、いち早くグラウンドに降りてきたのが彼だった。連日の猛練習で疲れ切っているはずなのに、清々しい表情でウオーミングアップを始めた彼の姿を見たとき「今年のオフェンスは、この男に任せて大丈夫」と確信した。
彼と簡単な挨拶を交わした後、グラウンドに目をやると、主務の西村君とマネジャーの今川さんが分担してラインを引いているのが見えた。トレーナーも徐々に集まり、補給用の水を用意し始めている。それぞれ、プレーヤーが降りてきた時には、すぐに早朝練習をスタートできるようにするための準備である。監督もコーチも、選手の多くも疲れ果て、1分でも多く眠っていたい時間に、自発的に起床し、グラウンドに出て黙々とチームに貢献する彼、彼女らもまた粋でいなせな面々である。
こうして上級生、下級生、選手とスタッフが営々と努力を重ね、作り上げてきたのがファイターズである。全日本の代表メンバーに選ばれるほどの力量を持った選手は少なくても、十人並みの選手の力を最大限に引き出して勝ち続けて来たのがこのチームである。監督やコーチの指示を待って行動する大方のチームとは、ひと味もふた味も異なっている。
そのチームの真価が問われる試合が目前に迫っている。11月22日午後2時、大阪・長居でキックオフとなる立命館との決戦である。双方がこれまでの6試合を勝ち続けて迎えた今季関西リーグ最終戦。勝てば優勝、負ければ地獄の釜が開く。
聞くところでは、相手はめちゃめちゃ強いそうだ。これといった死角もないという。それをどのように崩し、甲子園ボウルからライスボウルへの道を切り開くか。
侠気と腕っ節の強さを持ち、信望と統率力のある男伊達の出番である。
監督が常々問い続けている「どんな男になんねん」という問い掛けに応える場面は目の前にある。どんなに苦しい場面に遭遇しても、奥ゆかしくほほえんで仲間の信頼に応える心意気を示してもらいたい。
健闘を祈る。
加えて与力は「威あって猛からず、スタイリストでさばけたところがある」「侠気といえば侠気、頼もしくて話せる」。相撲取りは「待ったなしを尊ぶ心意気」「意気は意気地であり、男伊達の本領」。火消しの頭は「信望と統率の才能を要し、貫禄と義侠心と腕っ節の強さが不可欠」と説明する。
なるほど、粋な男たちだ、と本を読み進めながら「ちょっと待て。そういう男なら、ファイターズにもいっぱいいるぞ。江戸三男の向こうを張って、ファイターズ10人衆でも20人衆でもいい、なんなら50人衆の名前を挙げてみようか。粋な女子の名前も一人や二人ではないぞ」と思った。
いつもグラウンドで仲間を鼓舞している橋本主将。体重は約130キロ。腹の底から張り上げる大声は、少なくともこの10年間では一番デカイ。練習を仕切るだけでなく、全体練習が始まるはるか前からグラウンドに顔を出し、時にはダミー、時には早出のOLを相手に、激しく当たりあっている。
副将の3人、作道、田中、木下君も、練習時はもちろん、練習が始まる前からそれぞれが属するパートの練習や下級生の指導に余念がない。チーム練習を終えた後、アフターと称する練習まで、いつも先頭に立ってプレーするのはもちろん、寸暇を惜しんで1センチ単位の足の動き、スタートのタイミングの取り方、そして効果的な当たり方などを繰り返し繰り返し仲間に指導している。けがからの回復途上でシーズン当初は練習もままならなかったDL小川君、一時は社会復帰さえ危ぶまれたRB三好君も、それぞれパートのリーダーとして周囲を盛り立て、下級生を懸命に育ててきた。それぞれが男伊達と呼ぶにふさわしい腕っ節と奥ゆかしさをもった面々である。
4年生だけではない。3年生でエースとなったQB伊豆君は毎日、誰よりもストイックに練習と向き合っている。例えば、今年の夏合宿、僕が1泊2日の日程で見学に行った時のことである。早朝、まだ5時半を過ぎたばかりというのに、いち早くグラウンドに降りてきたのが彼だった。連日の猛練習で疲れ切っているはずなのに、清々しい表情でウオーミングアップを始めた彼の姿を見たとき「今年のオフェンスは、この男に任せて大丈夫」と確信した。
彼と簡単な挨拶を交わした後、グラウンドに目をやると、主務の西村君とマネジャーの今川さんが分担してラインを引いているのが見えた。トレーナーも徐々に集まり、補給用の水を用意し始めている。それぞれ、プレーヤーが降りてきた時には、すぐに早朝練習をスタートできるようにするための準備である。監督もコーチも、選手の多くも疲れ果て、1分でも多く眠っていたい時間に、自発的に起床し、グラウンドに出て黙々とチームに貢献する彼、彼女らもまた粋でいなせな面々である。
こうして上級生、下級生、選手とスタッフが営々と努力を重ね、作り上げてきたのがファイターズである。全日本の代表メンバーに選ばれるほどの力量を持った選手は少なくても、十人並みの選手の力を最大限に引き出して勝ち続けて来たのがこのチームである。監督やコーチの指示を待って行動する大方のチームとは、ひと味もふた味も異なっている。
そのチームの真価が問われる試合が目前に迫っている。11月22日午後2時、大阪・長居でキックオフとなる立命館との決戦である。双方がこれまでの6試合を勝ち続けて迎えた今季関西リーグ最終戦。勝てば優勝、負ければ地獄の釜が開く。
聞くところでは、相手はめちゃめちゃ強いそうだ。これといった死角もないという。それをどのように崩し、甲子園ボウルからライスボウルへの道を切り開くか。
侠気と腕っ節の強さを持ち、信望と統率力のある男伊達の出番である。
監督が常々問い続けている「どんな男になんねん」という問い掛けに応える場面は目の前にある。どんなに苦しい場面に遭遇しても、奥ゆかしくほほえんで仲間の信頼に応える心意気を示してもらいたい。
健闘を祈る。
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