石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(29)練習台のプライド

投稿日時:2015/11/02(月) 00:23rss

 今週は、ファイターズでは一番目立たないが、チーム浮沈の鍵を握るポジションのことについて書きたい。そう、フルバック(FB)のことである。
 先日の近大戦では、35番の山崎君が97キロの巨体を利して突進に次ぐ突進。5回のボールキャリーで60ヤードを走った。珍しくカットを切って23ヤードを独走し、TDを挙げる場面もあった。彼がボールを持つたびに、スタンドからは大きな歓声が沸き、一躍、人気者になった。その前の神戸大戦では、94番の市原君がゴール前で、QB中根君の投じた逆方向の難しいパスを体を反転させてキャッチした。地味ではあったが、ここで落としてなるものか、という気迫を見せつけたプレーであり、ファイターズFBの存在感を示した。
 けれども、彼らのプレーが多くのファンから注目されるのは通常、1試合に1度か2度。あとはひたすらブロッカーとしてボールキャリアの走路を開き、あるいは相手のブリッツからQBを守る仕事に徹している。
 しかし、ファイターズが多彩な戦術を遂行し、試合を勝利に導く上で、彼らに与えられた役割は限りなく大きい。
 例えば、2007年の甲子園ボウル。ライバル日大を相手に二転三転するゲームを制するキーになったのは、ファイターズが34-38と逆転されて迎えたゲームの終盤、第4ダウンショートという状況でQB三原君がFB多田羅君に投じた短いパスだった。それを多田羅君がしがみつくようにして確保したことで攻撃が続き、第4ダウンゴール前1ヤード、残り時間6秒という場面を作り、RB横山君の逆転TDランに結びついた。
 あの学年は、QBに三原君、レシーバーに榊原君や秋山君を擁し、史上最高のパスオフェンスを繰り広げたチームだったが、ここぞというポイントで、誰もがマークしていないFBへのパスをヒットさせ、勝利に結び付けたのだ。あのキャッチひとつで多田羅君は、僕の中では「記録ではなく、記憶に残る選手」にノミネートされたのである。
 昨年度の4年生FB梶原君のDLとして鍛えた強力なブロックも記憶に新しい。中でも立命戦の冒頭、相手がキックしたボールを受けたリターナーの田中君の走路を、梶原君がえげつないブロックで切り開き、ビッグリターンに結び付けた場面が印象に残っている。彼もまた地味な役割だったが「記憶に残る」選手の一人である。2011年卒の兵田君が小さいけど力強い「小型ダンプ」のような体型を利用して、常に相手の下からまくり上げるブロックをしていた場面も記憶に残っている。
 しかし、試合で活躍している彼らの姿は、実際に彼らがチームで果たしている役割からいえば、氷山の一角。水面下に隠れて見えない部分にこそ、彼らの値打ちがある。
 それは、チームの練習台としての役割である。彼らはテールバックと呼ばれるボールキャリーが中心の選手ほどには素早いカットは切れない。けれども当たりは強いし、動きもラインよりは数段速い。上級生ともなると、体ができあがっているから、少々の当たりにも動じることがない。
 そういう特徴を持っているから、LBやDBの練習相手には欠かせない。チーム練習の前に、FBの彼らを相手チームの当たりが強くてスピードのある選手に見立てたLBやDBの選手が「もう一丁、もう一丁」とぶつかっている姿は、いつだって見ることができるし、スピード派の味方RBの練習台として、相手LBの役割を果たしてぶつかり合っている場面も日常の光景だ。
 FBのメンバーは常に自分たちの練習と同時に、LBやRBの練習台として、仲間を鍛える役割を担っている。つまり、FBの面々が、チームメートのためにしんどい練習台を本気で務めることで、優秀なLBやRBを育てているのである。
 外部からは目立たないが、その地味な役割を果たし続けて自らを鍛えてきた面々が、試合の重要なポイントでいぶし銀のような活躍を見せる。走る姿は少々かっこわるくても、スマートなボールキャッチができなくても、そんなことは知ったことではない。
 確実に走り、確実に相手を倒し、確実にボールを捕捉する。試合中、1度めぐってくるか、3度のチャンスが与えられるか。それはゲームの展開次第。その数少ない機会を確かに成功させる山崎君や市原君のプレーは、練習台としてのプライドの表現である。そういう背景があるから、僕は彼らのプレーが成功するたびに、心からの拍手を贈るのである。
 さあ、今週末は、関西大との決戦だ。彼らがブロッカーとして活躍する場面は間違いなくある。ボールを持って活躍する場面がめぐってくるかどうかは保証の限りではないが、彼らが鍛えたLBやDB、そしてRBの面々が活躍する場面はきっとある。そういう場面に出合うたびに、チームで一番地味で重要な役割を営々と果たし続ける彼らに思いを馳せていただきたい。フットボールを見る楽しみが倍加することを約束します。
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