石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(26)涙の出るプレー
木曜日は紀州・田辺の新聞社から上ヶ原のグラウンドに直行。金曜日は大学の授業。土曜日は早朝から前日の授業で受講生に書かせた小論文の採点と講評。半分だけ済ませて王子スタジアムに駆けつけ、ファイターズの応援。一度西宮の自宅に帰って喪服に着替え、夕方、三田市の葬儀場へ。子どもの頃から世話になった親戚のおじさん(享年92歳)のお通夜である。
今週は、日曜日も本業の新聞社で仕事があるので、夜明け前に西宮を出発して紀州・田辺に直行。半分、寝ぼけた頭から「TPPと紀州のミカン農家」をテーマにしたコラムをひねりだし、なんとか役割を果たす。世間は3連休というのに、今月末で71歳になる爺さんは東奔西走。この3日間の車の走行距離は400キロを超えている。
今夜は、手作りの夕食を「うまい! 俺はなんて料理がうまいんだろう」と自分で自分をほめながら腹を満たし、疲れた体を長風呂でほぐしてほっと一息。コーヒーを一杯飲んで、ようやくいま、ファイターズのコラムを書く順番がめぐってきた。
さて、本題である。
午前11時30分キックオフという早い時間帯から始まった神戸大学との試合は、終始、ファイターズのペース。立ち上がり、先攻の神戸の攻撃をいきなりDL小川のパスカット、LB作道の激しいタックルで簡単にパントに追い込み、自陣25ヤードからファイターズの最初の攻撃シリーズが始まる。
まずQB伊豆がWR前田に3本連続でパスをヒット。3ヤード、10ヤード、32ヤードと確実に陣地を進める。守備陣の意識をパスに引きつけた後、4プレー目はRB山口が16ヤードを走り、仕上げはRB野々垣が中央14ヤードを突き抜けてTD。わずか5プレーで75ヤードを進める鮮やかな攻撃を展開する。
次の神戸の攻撃も3プレーでパントに追いやり、自陣34ヤードから再びファイターズの攻撃。今度は第1プレーで伊豆からWR松井に47ヤードのパス。簡単に相手ゴール前18ヤードに陣地を進め、そこから今度はRB高松、山口、野々垣に連続してボールを持たせ、ここもわずか5プレーでTDに結び付ける。K西岡のキックも決まって、1Q半ばというのに14-0とリードを広げる。
2回の攻撃シリーズに要したプレー数は計10回。そのうち短いパス2本、長いパス2本をすべて成功させて陣地を進め、残る6回は野々垣、高松、山口に2回ずつボールを持たせてTDにつなげる。守備は2度とも相手を完封し、攻撃はこれ以上は望めないほどの美しいプレーで、相手を圧倒する。ともに「これが今年のファイターズだ」と宣言したような立ち上がりで、過去3戦とは雲泥の差があった。
伊豆の仕上がり具合に満足したのか、ベンチは2Qの半ばからQBを中根にスイッチ。中根もまた万全のオフェンスラインに守られてのびのびとプレーする。前田にいきなり35ヤードのパスを通してゴール前17ヤードに迫ると、そこからは山口、野々垣が走って残り3ヤード。そこはお約束のように山口が走ってTD。自陣35ヤードから始まった続くシリーズでも松井への54ヤードパスなどで一気に陣地を進め、仕上げはFB市原への1ヤードパス。これまた二つのシリーズあわせて12プレーという無駄のない攻撃で前半を28-0で折り返す。
驚いたのは後半の立ち上がり、自陣30ヤードから始まったファイターズの攻撃。中根からピッチを受けた山口があれよあれよという間に左サイドを駆け上がり、70ヤードを走り切ってTD。ボールを手にしてからの縦に上がるスピード、守備陣とブロッカーの動きを見ながら走る余裕。この日、2本のロングパスをこともなげに捕球した松井とともに、今春入部した1年生とは思えないほどのすごみを見せたシーンだった。
場内の興奮、相手カバーチームの動揺が冷めやらぬ中、ファイターズのPATはロンリーセンターの体型からホールダーの石井がWR池田にパス。それが見事に決まって2点をもぎ取る。油断も隙もないチャレンジで、試合を支配し続ける。
4Q残り3分少々というところで、ファイターズはQBを2年生の百田に交代させ、前節の龍谷大戦で8本中7本のパスを通した力が本物かどうかを試す。
1回目のシリーズは2本のパスを失敗し、簡単にパントに追いやられたが、2回目のシリーズ、自陣42ヤードから始まった攻撃では、いきなりWR木村に43ヤードのパスをヒット。自慢の強肩を披露する。さらに同じ木村に今度は短いパスを通して残り10ヤード。そこから自身のスクランブルでゴール前1ヤードに迫り、仕上げはRB山本の中央ダイブ。試合経験の少ない百田にとっては、首脳陣にアピールする貴重なTDとなった。
ただし、このシリーズで僕が拍手を送ったのは、百田のパスをキャッチした4年生の木村である。1本目の長いパスも、2本目の短いパスも結構難しいコースに飛んできたが、2本とも見事に捕球したからだ。彼は2年生の頃はJV戦で活躍していたが、上級生になってからはもっぱらJVレシーバーたちのリーダー役。今季の関西リーグで試合に出場したのも、パスが飛んできたのもおそらく初めてではなかったか。その滅多にない機会を2度とも成功させたのだが、そこに僕は控えプレーヤーの意地を見た。チームの期待が集まる後輩QBを俺のキャッチで育ててやるというプライドを感じたのである。
彼の二つのプレーを見て、これがファイターズの上級生だ、これが控え選手のプライドだと思うと、なんだか心がぽかぽかし、涙が出そうになった。
今週は、日曜日も本業の新聞社で仕事があるので、夜明け前に西宮を出発して紀州・田辺に直行。半分、寝ぼけた頭から「TPPと紀州のミカン農家」をテーマにしたコラムをひねりだし、なんとか役割を果たす。世間は3連休というのに、今月末で71歳になる爺さんは東奔西走。この3日間の車の走行距離は400キロを超えている。
今夜は、手作りの夕食を「うまい! 俺はなんて料理がうまいんだろう」と自分で自分をほめながら腹を満たし、疲れた体を長風呂でほぐしてほっと一息。コーヒーを一杯飲んで、ようやくいま、ファイターズのコラムを書く順番がめぐってきた。
さて、本題である。
午前11時30分キックオフという早い時間帯から始まった神戸大学との試合は、終始、ファイターズのペース。立ち上がり、先攻の神戸の攻撃をいきなりDL小川のパスカット、LB作道の激しいタックルで簡単にパントに追い込み、自陣25ヤードからファイターズの最初の攻撃シリーズが始まる。
まずQB伊豆がWR前田に3本連続でパスをヒット。3ヤード、10ヤード、32ヤードと確実に陣地を進める。守備陣の意識をパスに引きつけた後、4プレー目はRB山口が16ヤードを走り、仕上げはRB野々垣が中央14ヤードを突き抜けてTD。わずか5プレーで75ヤードを進める鮮やかな攻撃を展開する。
次の神戸の攻撃も3プレーでパントに追いやり、自陣34ヤードから再びファイターズの攻撃。今度は第1プレーで伊豆からWR松井に47ヤードのパス。簡単に相手ゴール前18ヤードに陣地を進め、そこから今度はRB高松、山口、野々垣に連続してボールを持たせ、ここもわずか5プレーでTDに結び付ける。K西岡のキックも決まって、1Q半ばというのに14-0とリードを広げる。
2回の攻撃シリーズに要したプレー数は計10回。そのうち短いパス2本、長いパス2本をすべて成功させて陣地を進め、残る6回は野々垣、高松、山口に2回ずつボールを持たせてTDにつなげる。守備は2度とも相手を完封し、攻撃はこれ以上は望めないほどの美しいプレーで、相手を圧倒する。ともに「これが今年のファイターズだ」と宣言したような立ち上がりで、過去3戦とは雲泥の差があった。
伊豆の仕上がり具合に満足したのか、ベンチは2Qの半ばからQBを中根にスイッチ。中根もまた万全のオフェンスラインに守られてのびのびとプレーする。前田にいきなり35ヤードのパスを通してゴール前17ヤードに迫ると、そこからは山口、野々垣が走って残り3ヤード。そこはお約束のように山口が走ってTD。自陣35ヤードから始まった続くシリーズでも松井への54ヤードパスなどで一気に陣地を進め、仕上げはFB市原への1ヤードパス。これまた二つのシリーズあわせて12プレーという無駄のない攻撃で前半を28-0で折り返す。
驚いたのは後半の立ち上がり、自陣30ヤードから始まったファイターズの攻撃。中根からピッチを受けた山口があれよあれよという間に左サイドを駆け上がり、70ヤードを走り切ってTD。ボールを手にしてからの縦に上がるスピード、守備陣とブロッカーの動きを見ながら走る余裕。この日、2本のロングパスをこともなげに捕球した松井とともに、今春入部した1年生とは思えないほどのすごみを見せたシーンだった。
場内の興奮、相手カバーチームの動揺が冷めやらぬ中、ファイターズのPATはロンリーセンターの体型からホールダーの石井がWR池田にパス。それが見事に決まって2点をもぎ取る。油断も隙もないチャレンジで、試合を支配し続ける。
4Q残り3分少々というところで、ファイターズはQBを2年生の百田に交代させ、前節の龍谷大戦で8本中7本のパスを通した力が本物かどうかを試す。
1回目のシリーズは2本のパスを失敗し、簡単にパントに追いやられたが、2回目のシリーズ、自陣42ヤードから始まった攻撃では、いきなりWR木村に43ヤードのパスをヒット。自慢の強肩を披露する。さらに同じ木村に今度は短いパスを通して残り10ヤード。そこから自身のスクランブルでゴール前1ヤードに迫り、仕上げはRB山本の中央ダイブ。試合経験の少ない百田にとっては、首脳陣にアピールする貴重なTDとなった。
ただし、このシリーズで僕が拍手を送ったのは、百田のパスをキャッチした4年生の木村である。1本目の長いパスも、2本目の短いパスも結構難しいコースに飛んできたが、2本とも見事に捕球したからだ。彼は2年生の頃はJV戦で活躍していたが、上級生になってからはもっぱらJVレシーバーたちのリーダー役。今季の関西リーグで試合に出場したのも、パスが飛んできたのもおそらく初めてではなかったか。その滅多にない機会を2度とも成功させたのだが、そこに僕は控えプレーヤーの意地を見た。チームの期待が集まる後輩QBを俺のキャッチで育ててやるというプライドを感じたのである。
彼の二つのプレーを見て、これがファイターズの上級生だ、これが控え選手のプライドだと思うと、なんだか心がぽかぽかし、涙が出そうになった。
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