石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(24)メンタルコーチ
ラグビーのワールドカップイングランド大会で、日本代表が南アフリカに勝ち、日本中が盛り上がっている。僕の働いている和歌山県田辺市の新聞社でも、これまで高校ラグビーの県予選ぐらいしか見たことのない記者がにわかに専門家のような口ぶりで、あれこれと解説してくれるくらいだから、東京や大阪など大都市圏では、大変な騒動になっているのは想像に難くない。
そんな中で一つ、興味深い記事を見つけた。共同通信が配信した「南ア戦勝利、陰の立て役者」という記事である。スポーツ心理学者であり、代表のメンタルコーチを務めている兵庫県立大学准教授、荒木香織さん(42)を取り上げ、彼女が日本代表のメンタル面をどのようにサポートしたかを報じている。
例えば、正確なキックで勝利に貢献したFB五郎丸選手がプレースキックを蹴る前の動作である。拝むように両手を合わせ、前屈みになってからキックを蹴る「ルーティン(決めごと)を一から一緒に作り上げた」と書き、それは「どんな状況でも蹴ることに集中できる」ようにするための決めごとだったと表現している。
五郎丸選手だけでなく、重圧でナーバスになっていく選手に「W杯や五輪のような非日常では、緊張して当たり前」と説き、ニュージーランド代表などの研究事例を挙げて意識的な呼吸法など具体的な対処法を授けたそうだ。同じ話は、毎日新聞も社会面で扱っていたから、目にされたファンも多いだろう。大きな大会になればなるほど、目の前のプレーに集中することが難しいことを考えると、選手を精神的に支えるコーチの存在が脚光を浴びるのはよく理解出来る。
しかし、読後、一呼吸置いてみると、実はこうしたルーティンやメンタル面のサポートは、ファイターズではとっくに標準になっているのではないか、という気がしてきた。
例えば、TDの後のキックやフィールドゴールを狙うとき、ファイターズのキッカーはみな、独特のルーティンを持っている。ボールがスナップされる位置からホールダーの位置までを自分の歩幅で正確に計り、蹴る場所が決まったらゴールポストに向けてまっすぐ片腕を伸ばし、ボールの軌道を頭に描く。大西志宣君、堀本大輔君、三輪隼也君、そして千葉海人君、西岡慎太朗君と続くファイターズのキッカーは、すべて一連のその動作を判で押したように繰り返す。まるで神様、仏様に祈るような動作だが、そうした約束事を何一つ違えずに繰り返すことで、目の前のキックに集中する環境をつくっているのである。
ことはキッカーに限らない。チーム全体でいえば、前島先生による試合前のお祈りは、選手の精神性を高めるための重要な儀式だし、大きな試合の前に、必ず全員で「Fight on, KWANSEI」を歌うのも、チームをひとつにし、士気を高めるためのルーティンである。
もとをたどれば、理由やきっかけが明確な決めごともあるし、個人が自分で決めた約束事もある。メンタルサポートというよりは「験担ぎ」に類することも少なくない。それでも、そうした決めごとを墨守することによって、それぞれの部員、指導者がそれぞれ目の前の試合に全力を投入できる精神状態を作り上げてきたのである。
ファイターズはそれを一歩進めて、学問的な裏付けのあるメンタル面のサポートに、他のチームに先駆けて取り組んできた。10年以上も前から、臨床心理を専門とする池埜聡人間福祉学部教授をメンタルサポートのスタッフ(現在は副部長)として迎え、選手や部員の不安を取り除くための助言をもらっている。その助言は、ときには選手のプレーをサポートする場合もあるし、部活動そのものに対する不安を取り除く場合もある。
例えば、三輪君が3年生のとき、秋のシーズンで一度もフィールドゴールを決められなかったのに、4年生では100%成功させたことの背景を考えれば、メンタルコーチの役割の一端を理解してもらえるのではないか。
小野ディレクターからの伝聞だが、池埜先生は2013年度にアメリカのUCLAへ1年間留学した際に学んできた「マインドフルネス」という新しい領域の研究成果を応用し、昨年度三輪君に集中力を高めるトレーニングを行った。三輪君も「とても大きな効果があった」とシーズン終了後、その成果を小野さんに打ち明けたという。
こういう専門家やトレーナーに支えられて、選手たちは日ごろ鍛えた力をグラウンドで発揮しているのである。
ラグビー日本代表の大活躍で、一躍脚光を浴びたメンタルコーチとルーティンワーク。しかしファイターズは、10年以上も前からその役割の重要性に目を向け、専任のコーチを雇ったのと同様の活動を専門家に担ってもらっている。毎試合、お祈りの時間を持って下さる前島先生も含め、そういう役割を快く引き受けて下さる先生方の存在がファイターズという「人が育つ」組織を支えているのである。
そんな中で一つ、興味深い記事を見つけた。共同通信が配信した「南ア戦勝利、陰の立て役者」という記事である。スポーツ心理学者であり、代表のメンタルコーチを務めている兵庫県立大学准教授、荒木香織さん(42)を取り上げ、彼女が日本代表のメンタル面をどのようにサポートしたかを報じている。
例えば、正確なキックで勝利に貢献したFB五郎丸選手がプレースキックを蹴る前の動作である。拝むように両手を合わせ、前屈みになってからキックを蹴る「ルーティン(決めごと)を一から一緒に作り上げた」と書き、それは「どんな状況でも蹴ることに集中できる」ようにするための決めごとだったと表現している。
五郎丸選手だけでなく、重圧でナーバスになっていく選手に「W杯や五輪のような非日常では、緊張して当たり前」と説き、ニュージーランド代表などの研究事例を挙げて意識的な呼吸法など具体的な対処法を授けたそうだ。同じ話は、毎日新聞も社会面で扱っていたから、目にされたファンも多いだろう。大きな大会になればなるほど、目の前のプレーに集中することが難しいことを考えると、選手を精神的に支えるコーチの存在が脚光を浴びるのはよく理解出来る。
しかし、読後、一呼吸置いてみると、実はこうしたルーティンやメンタル面のサポートは、ファイターズではとっくに標準になっているのではないか、という気がしてきた。
例えば、TDの後のキックやフィールドゴールを狙うとき、ファイターズのキッカーはみな、独特のルーティンを持っている。ボールがスナップされる位置からホールダーの位置までを自分の歩幅で正確に計り、蹴る場所が決まったらゴールポストに向けてまっすぐ片腕を伸ばし、ボールの軌道を頭に描く。大西志宣君、堀本大輔君、三輪隼也君、そして千葉海人君、西岡慎太朗君と続くファイターズのキッカーは、すべて一連のその動作を判で押したように繰り返す。まるで神様、仏様に祈るような動作だが、そうした約束事を何一つ違えずに繰り返すことで、目の前のキックに集中する環境をつくっているのである。
ことはキッカーに限らない。チーム全体でいえば、前島先生による試合前のお祈りは、選手の精神性を高めるための重要な儀式だし、大きな試合の前に、必ず全員で「Fight on, KWANSEI」を歌うのも、チームをひとつにし、士気を高めるためのルーティンである。
もとをたどれば、理由やきっかけが明確な決めごともあるし、個人が自分で決めた約束事もある。メンタルサポートというよりは「験担ぎ」に類することも少なくない。それでも、そうした決めごとを墨守することによって、それぞれの部員、指導者がそれぞれ目の前の試合に全力を投入できる精神状態を作り上げてきたのである。
ファイターズはそれを一歩進めて、学問的な裏付けのあるメンタル面のサポートに、他のチームに先駆けて取り組んできた。10年以上も前から、臨床心理を専門とする池埜聡人間福祉学部教授をメンタルサポートのスタッフ(現在は副部長)として迎え、選手や部員の不安を取り除くための助言をもらっている。その助言は、ときには選手のプレーをサポートする場合もあるし、部活動そのものに対する不安を取り除く場合もある。
例えば、三輪君が3年生のとき、秋のシーズンで一度もフィールドゴールを決められなかったのに、4年生では100%成功させたことの背景を考えれば、メンタルコーチの役割の一端を理解してもらえるのではないか。
小野ディレクターからの伝聞だが、池埜先生は2013年度にアメリカのUCLAへ1年間留学した際に学んできた「マインドフルネス」という新しい領域の研究成果を応用し、昨年度三輪君に集中力を高めるトレーニングを行った。三輪君も「とても大きな効果があった」とシーズン終了後、その成果を小野さんに打ち明けたという。
こういう専門家やトレーナーに支えられて、選手たちは日ごろ鍛えた力をグラウンドで発揮しているのである。
ラグビー日本代表の大活躍で、一躍脚光を浴びたメンタルコーチとルーティンワーク。しかしファイターズは、10年以上も前からその役割の重要性に目を向け、専任のコーチを雇ったのと同様の活動を専門家に担ってもらっている。毎試合、お祈りの時間を持って下さる前島先生も含め、そういう役割を快く引き受けて下さる先生方の存在がファイターズという「人が育つ」組織を支えているのである。
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