石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(21)「まだまだようなりますよ」

投稿日時:2009/09/15(火) 12:30rss

 試合が終わった直後、新聞やテレビの記者がグラウンドに降りて、監督や選手から取材をする。業界用語で「囲み」とか「ぶら下がり」とかいわれる取材である。
 取材対象と1対1になって向き合うインタビューではなく、大勢が取り囲んで、次々と質問するから、話は拡散し、底は浅くなりがちだ。取材慣れしている監督やコーチは、そういう場では当たり障りのないことしか話さないことも多い。逆に、話の内容が選手やこれから対戦するチームに伝わることを計算に入れて発言する「食えないオヤジ」もいる。楽天の野村監督などはその代表だろう。
 けれども、試合が終わった直後は、まだ戦いの熱気がグラウンドに残っていることもあって、注意深く聞いていれば、思わず本音が漏れることもある。そういう一言を聞きたくて、僕はいつも試合終了後、大勢の記者が鳥内監督を囲んで取材している外側から、聞き耳を立てている。
 例えば、13日の同志社戦の後の「囲み」取材の最後に、監督はこんな一言をぽろっと漏らした。「まだまだようなりますよ」
 多分、記者のみなさんにとっては、監督が試合を振り返って解説した言葉の方が「記事になる」内容だったと思うけれども、僕にとっては、この一言が一番値打ちがあった。
 解説しよう。
 この日の先発メンバーを学年別に見ると、オフェンスは4年生5人、3年生4人、2年生2人。ディフェンスは4年生4人、3年生4人、2年生2人、1年生1人。攻守とも4年生より3年生以下のメンバーの方が多いのである。
 その下級生が活躍した。これまでから試合に出ている3年生は当然としても、2年生や1年生が素晴らしいセンスを披露したのである。オフェンスラインの右側を固める2年生コンビ、谷山、濱本は素晴らしいセンスを感じさせるプレーぶりだったし、交代メンバーで出場した2年生のRB松岡、QB糟谷、WR和田は先発メンバーと遜色のない動きを披露した。42ヤードの難しいフィールドゴールをあっさりと決めた大西も2年生だ。終盤に登場し、立て続けに難しいロングパスをキャッチして観客の度肝を抜いたWR小山は1年生だし、同じ1年生のTE榎、C和田も非凡な所を見せた。
 ディフェンスでも下級生が活躍した。試合開始直後に相手パスをインターセプトした2年生DB香山は、今春卒業した徳井君を思わせるような突き刺すタックルも披露した。初戦から先発で出場している1年生DL梶原がはつらつと動き回れば、後半から出てきた同じ1年生DLの金本や岸も、彼に刺激されたように元気なプレーを見せてくれた。
 もちろん、2年生の交代要員も負けてはいない。DLの長島や好川、DB重田らが元気なプレーを披露してくれた。
 ファイターズは4年生が中心になって運営するチーム。4年生の取り組みがその年の成績を決めてきたともいわれている。その通りである。
 けれども、チームは4年生だけでは成り立たない。3年生、2年生の力強い突き上げと協力があって、ようやく動き始めるのである。「2年生が活躍するチームは強い」という言葉も、昔からある。
 今年のチームは、交代要員も含めて学年間のバランスがよくなった。3年生以下の4人が最前列を守り、その後ろに経験豊富な4年生3人がLBとして立ちはだかるディフェンスはその典型である。ここに名前を挙げなかった選手も含め、将来が期待される多くの1年生がこれにからんで、攻守ともチーム内の競争が激化している。
 鳥内監督が「まだまだようなりますよ」と漏らしたのは、そういうチーム事情を背景にしている。下級生が突き上げてチーム内の競争が激化し、それがチーム力を向上させているという手応えを感じたからこそ、監督の口から思わず「ようなりますよ」という本音が漏れたのである。
 この信頼を裏切ってはならない。
 次週の関大をはじめ、これから厳しい相手が次々と立ちはだかってくる。「立命に勝って日本1」という目標を達成するためには、一瞬の遅滞も許されない。厳しい相手との対戦を肥やしにして自らの技量を磨き、チームとしての力を向上させることだ。一層の奮励努力を求めたい。
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