石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(7)アナログに意味がある
4月27日の日経新聞を見て驚いた。なんと、われらが爆走28番星、鷺野前主将が伊藤忠商事の全面広告のモデルになって登場しているではないか。写真ではなく肖像画。りりしくたくましく、そして見るからに聡明な表情が見事に描かれている。
肖像画の下には、こんなコピーがさりげなく付け加えられている。
「小学生の頃は、ケンカさえしたことがなかった。大学時代はアメフト部のキャプテンでランニングバック。5年後の自分、どうしてるんでしょうね」
思わず、突っ込みを入れた。三つある。
?「男前に生んでもらってよかったな。ご両親に感謝せなあかんで」
?この広告費はなんぼやろ。相場からいえば1500万円ほどか。つまり鷺野君は、入社早々、1500万円の仕事をしたということ。すごいなあ。
?小学生の頃は、ケンカもしたことがなかったというコピーに、大学では部活を卒業するまで、フェイスブックなんかに見向きもしなかった、と付け加えて欲しかった。
この三つである。
一番目と二番目は冗談である。でも三番目については、ファイターズというチームの在り方を考える時、常々、どこかで紹介しておきたいと考えていたことだった。どういう意味か。
話は先日、信州大学の入学式で山沢清人学長が新入生を前にぶち上げた「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」というあいさつに関係する。
学長はそのあいさつで、日本が活力ある社会を維持し、世界に貢献していくためには独創性や個性を発揮することが必要であると主張。自分で考えることを習慣付けよう、決して考えることから逃げないことだ、自ら探求的に考える能力を育てることが大切だと呼び掛けた。
そして創造性を育てる上で、とくに心掛けなければならないことは時間的、心理的なゆとりを持つこと、物事にとらわれ過ぎないこと、豊かすぎないこと、飽食でないことなどが挙げられますと説き、スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの「見慣れた世界」にいると、脳の取り込み情報は低下し、時間は早く過ぎ去ってしまいます。「スマホやめますか、それとも信大生止めますか」。スイッチを切って本を読みましょう。友達と話をしましょう。そして、自分で考えることを習慣づけましょう、と結んでいる。
この最後の言葉だけが一人歩きして、ネットで賑やかなことになったのは、ご承知の通り。でも大事な話は、新入生に独創性や個性の大切さを説き、そのための心掛けを説いた部分にある。それは、信州大学のホームページに紹介されている「学長あいさつ」の全文を読めば、誰でも分かる。大学生諸君には一読をオススメする。
さて、この話がどうしてファイターズに関係するのか、ということである。
これは、知る人ぞ知る話だが、昨年度、鷺野主将が率いたチームは、部内の連絡にスマホを使うことを止め、必要な情報はすべて部室の掲示板で公開することにした。練習のタイムスケジュールからチケットの情報、体重管理の必要性や筋力数値の一覧表、そして熱中症予防の心掛けに至るまで、すべての情報(連絡事項)は部員が部室に顔を出さなければ手に入らないようにしたのである。
受け身で部活動に参加することは止めよう。ファイターズでは指示を待ち、情報を待つのではなく、自ら求め、自ら行動することが大切であり、それは普段の行動から改めていくしか身につかない。そのためには、たとえ便利な情報機器があっても、それに頼らず、掲示板の利用というアナログの手法を大事にしたい。そのように主将や幹部が話し合い、監督やコーチの了解を得て決めた「決めごと」だそうだ。
以前、このコラムで紹介した「足下のごみ」に注意を促す1年生部員の張り紙も、こういう素地があったから、部員全員の目にとまり、その胸に響いたのであろう。
ファイターズは、何事によらず、合理性を重んじ、最先端の知識や機器を導入することに積極的である。それでも、その便利さが時として部員の自発性、自主性をスポイルする要因になる。そうと分かれば、直ちにその便利さを捨て去る柔軟な思考力も持っている。融通無碍、流れる水のような自在さがファイターズの真骨頂であろう。
スマホによる情報伝達は部員の自主性、自発性を阻害すると考えた主将の直感。信州大学の学長が具体的な根拠を示しながら約2500字(あいさつの全文は字4500)を費やして述べた情報機器の落とし穴を、ファイターズの幹部は瞬時にかぎ取り、さっさとその対策を講じてチームの独創性を育ててきたのである。
細部に神は宿る。チームが強くなる秘密はこういう些細なところに潜んでいる。「当たり前」のことを「当たり前」に実行出来るチームのたたずまいに、あらためて感心した次第である。
※当該広告は以下のサイトからご覧になれます。
http://shonin.itochu.co.jp/hajimete_no_shimei/
肖像画の下には、こんなコピーがさりげなく付け加えられている。
「小学生の頃は、ケンカさえしたことがなかった。大学時代はアメフト部のキャプテンでランニングバック。5年後の自分、どうしてるんでしょうね」
思わず、突っ込みを入れた。三つある。
?「男前に生んでもらってよかったな。ご両親に感謝せなあかんで」
?この広告費はなんぼやろ。相場からいえば1500万円ほどか。つまり鷺野君は、入社早々、1500万円の仕事をしたということ。すごいなあ。
?小学生の頃は、ケンカもしたことがなかったというコピーに、大学では部活を卒業するまで、フェイスブックなんかに見向きもしなかった、と付け加えて欲しかった。
この三つである。
一番目と二番目は冗談である。でも三番目については、ファイターズというチームの在り方を考える時、常々、どこかで紹介しておきたいと考えていたことだった。どういう意味か。
話は先日、信州大学の入学式で山沢清人学長が新入生を前にぶち上げた「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」というあいさつに関係する。
学長はそのあいさつで、日本が活力ある社会を維持し、世界に貢献していくためには独創性や個性を発揮することが必要であると主張。自分で考えることを習慣付けよう、決して考えることから逃げないことだ、自ら探求的に考える能力を育てることが大切だと呼び掛けた。
そして創造性を育てる上で、とくに心掛けなければならないことは時間的、心理的なゆとりを持つこと、物事にとらわれ過ぎないこと、豊かすぎないこと、飽食でないことなどが挙げられますと説き、スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの「見慣れた世界」にいると、脳の取り込み情報は低下し、時間は早く過ぎ去ってしまいます。「スマホやめますか、それとも信大生止めますか」。スイッチを切って本を読みましょう。友達と話をしましょう。そして、自分で考えることを習慣づけましょう、と結んでいる。
この最後の言葉だけが一人歩きして、ネットで賑やかなことになったのは、ご承知の通り。でも大事な話は、新入生に独創性や個性の大切さを説き、そのための心掛けを説いた部分にある。それは、信州大学のホームページに紹介されている「学長あいさつ」の全文を読めば、誰でも分かる。大学生諸君には一読をオススメする。
さて、この話がどうしてファイターズに関係するのか、ということである。
これは、知る人ぞ知る話だが、昨年度、鷺野主将が率いたチームは、部内の連絡にスマホを使うことを止め、必要な情報はすべて部室の掲示板で公開することにした。練習のタイムスケジュールからチケットの情報、体重管理の必要性や筋力数値の一覧表、そして熱中症予防の心掛けに至るまで、すべての情報(連絡事項)は部員が部室に顔を出さなければ手に入らないようにしたのである。
受け身で部活動に参加することは止めよう。ファイターズでは指示を待ち、情報を待つのではなく、自ら求め、自ら行動することが大切であり、それは普段の行動から改めていくしか身につかない。そのためには、たとえ便利な情報機器があっても、それに頼らず、掲示板の利用というアナログの手法を大事にしたい。そのように主将や幹部が話し合い、監督やコーチの了解を得て決めた「決めごと」だそうだ。
以前、このコラムで紹介した「足下のごみ」に注意を促す1年生部員の張り紙も、こういう素地があったから、部員全員の目にとまり、その胸に響いたのであろう。
ファイターズは、何事によらず、合理性を重んじ、最先端の知識や機器を導入することに積極的である。それでも、その便利さが時として部員の自発性、自主性をスポイルする要因になる。そうと分かれば、直ちにその便利さを捨て去る柔軟な思考力も持っている。融通無碍、流れる水のような自在さがファイターズの真骨頂であろう。
スマホによる情報伝達は部員の自主性、自発性を阻害すると考えた主将の直感。信州大学の学長が具体的な根拠を示しながら約2500字(あいさつの全文は字4500)を費やして述べた情報機器の落とし穴を、ファイターズの幹部は瞬時にかぎ取り、さっさとその対策を講じてチームの独創性を育ててきたのである。
細部に神は宿る。チームが強くなる秘密はこういう些細なところに潜んでいる。「当たり前」のことを「当たり前」に実行出来るチームのたたずまいに、あらためて感心した次第である。
※当該広告は以下のサイトからご覧になれます。
http://shonin.itochu.co.jp/hajimete_no_shimei/
この記事は外部ブログを参照しています。すべて見るには下のリンクをクリックしてください。
記事タイトル:(7)アナログに意味がある
(ブログタイトル:石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」)
アーカイブ
- 2024年11月(3)
- 2024年10月(3)
- 2024年9月(3)
- 2024年6月(2)
- 2024年5月(3)
- 2024年4月(1)
- 2023年12月(3)
- 2023年11月(3)
- 2023年10月(4)
- 2023年9月(3)
- 2023年7月(1)
- 2023年6月(1)
- 2023年5月(3)
- 2023年4月(1)
- 2022年12月(2)
- 2022年11月(3)
- 2022年10月(3)
- 2022年9月(2)
- 2022年8月(1)
- 2022年7月(1)
- 2022年6月(2)
- 2022年5月(3)
- 2021年12月(3)
- 2021年11月(3)
- 2021年10月(4)
- 2021年1月(2)
- 2020年12月(3)
- 2020年11月(4)
- 2020年10月(4)
- 2020年9月(2)
- 2020年1月(3)
- 2019年12月(3)
- 2019年11月(3)
- 2019年10月(5)
- 2019年9月(4)
- 2019年8月(3)
- 2019年7月(2)
- 2019年6月(4)
- 2019年5月(4)
- 2019年4月(4)
- 2019年1月(1)
- 2018年12月(4)
- 2018年11月(4)
- 2018年10月(5)
- 2018年9月(3)
- 2018年8月(4)
- 2018年7月(2)
- 2018年6月(3)
- 2018年5月(4)
- 2018年4月(3)
- 2017年12月(3)
- 2017年11月(4)
- 2017年10月(3)
- 2017年9月(4)
- 2017年8月(4)
- 2017年7月(3)
- 2017年6月(4)
- 2017年5月(4)
- 2017年4月(4)
- 2017年1月(2)
- 2016年12月(4)
- 2016年11月(5)
- 2016年10月(3)
- 2016年9月(4)
- 2016年8月(4)
- 2016年7月(3)
- 2016年6月(2)
- 2016年5月(4)
- 2016年4月(4)
- 2015年12月(1)
- 2015年11月(4)
- 2015年10月(3)
- 2015年9月(5)
- 2015年8月(3)
- 2015年7月(5)
- 2015年6月(4)
- 2015年5月(2)
- 2015年4月(3)
- 2015年3月(3)
- 2015年1月(2)
- 2014年12月(4)
- 2014年11月(4)
- 2014年10月(4)
- 2014年9月(4)
- 2014年8月(4)
- 2014年7月(4)
- 2014年6月(4)
- 2014年5月(5)
- 2014年4月(4)
- 2014年1月(1)
- 2013年12月(5)
- 2013年11月(4)
- 2013年10月(5)
- 2013年9月(3)
- 2013年8月(3)
- 2013年7月(4)
- 2013年6月(4)
- 2013年5月(5)
- 2013年4月(4)
- 2013年1月(1)
- 2012年12月(4)
- 2012年11月(5)
- 2012年10月(4)
- 2012年9月(5)
- 2012年8月(4)
- 2012年7月(3)
- 2012年6月(3)
- 2012年5月(5)
- 2012年4月(4)
- 2012年1月(1)
- 2011年12月(5)
- 2011年11月(5)
- 2011年10月(4)
- 2011年9月(4)
- 2011年8月(3)
- 2011年7月(3)
- 2011年6月(4)
- 2011年5月(5)
- 2011年4月(4)
- 2010年12月(1)
- 2010年11月(4)
- 2010年10月(4)
- 2010年9月(4)
- 2010年8月(3)
- 2010年7月(2)
- 2010年6月(5)
- 2010年5月(3)
- 2010年4月(4)
- 2010年3月(1)
- 2009年11月(4)
- 2009年10月(4)
- 2009年9月(3)
- 2009年8月(4)
- 2009年7月(3)
- 2009年6月(4)
- 2009年5月(3)
- 2009年4月(4)
- 2009年3月(1)
- 2008年12月(1)
- 2008年11月(4)
- 2008年10月(3)
- 2008年9月(5)
- 2008年8月(2)
- 2008年4月(1)