石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(4)さあ、出発だ
4月。上ヶ原は桜が満開。3日、花のトンネルをくぐり抜けて大学に行き、第3フィールドに向かう。花見には絶好のタイミングだが、グラウンドは雨。時折、風までが強く吹く。「花に嵐」という通りの悪天候だ。
しかしこの日は、新しいシーズンを迎えて、チームの全員がお祈りをする日である。雨だから風だからとひるんではおれない。雨の中、傘を差し、いそいそとグラウンドに降りていく。
鳥内監督をはじめチームの全員が「屋根下」と呼ばれる簡単なトレーニングやテーピングの出来るスペースに集まる。顧問の前島先生(元宗教総主事)が聖書の一節を読み上げ、人は何のために生きているのかと問い掛け、学院の理念である「マスタリー・フォー・サービス」について、それが意味する二つの側面から説かれる。人に奉仕することの大切さと、奉仕の出来る人間になれるように自分を鍛え上げることの必要性。
50年も前、学生時代にチャペルの時間などでさんざん聞かされた内容であり、当時は「ふーん、そうですか」という感じで聞き流していたが、憂き世を50年も生き延びてきたいまは、ずしりと胸に響く。とりわけ、「弱虫は要らない」「奉仕の出来る強い人間に自らを鍛えよ」という部分に共感し、思わずわが身を振り返る。
シーズン開幕に当たってのお祈りは、毎年恒例の行事である。それは選手やスタッフに向けた語りかけだが、その場に立ち会うたびに、気持ちが改まり、よーし、今年も頑張るぞ、と気分が高揚してくる。新しい年の門出であり、新年のみそぎでもある。
とはいっても、今年は3月21日にプリンストン大学との日米大学交流戦「LEGACY BOWL」があったから、実質的に新しいチームはスタートを切っている。その試合は36-7。ファイターズの完敗だった。完敗からのスタートとなると、前途の多難が予想されるが、ものは受け止めようである。
あの試合はもちろんのこと、アメリカを代表する大学のメンバーと交流した1週間を通じて何を学んだのか。彼らの高いモラル、高い目的意識、合理的な時間の使い方、学問とスポーツを両立させている取り組み……。
そして、当日の試合で彼らが見せてくれた数々のパフォーマンス。闘争心、試合に対する準備、ひとつひとつのプレーに対する集中力、そしてボールに対する執着心。ひとつひとつのプレーは激しく戦うけれども、スポーツマンとしての矜持は決して失わない彼らのたたずまい。
さらに、試合の前々日にあった「課外活動と人材育成」をテーマにしたシンポジウムを含め、プリンストン大学の選手、スタッフから学ぶべきことは数限りなくあった。それらはファイターズが今後、どう歩んでいくべきかという羅針盤であり、課題解決のヒントでもあった。
それを一人一人の選手がプレーの中で体験し、体に染みこませた。その価値は、計り知れないほど大きい。
試合だけでない。日常の振る舞いの端々に至るまで、将来、アメリカを背負って立つ人間としての高い使命感をもって行動していた彼らの残していったことを、チームの全員が共有し、わがこととして骨や肉に出来るかどうかである。
お祈りがあった翌日の夕方。一足先に練習を終えた中学部の主将が、スタンドの一角で着替えをしている部員たちに「みんな、宿題をしっかり仕上げるように。宿題を仕上げられないような人間は……」と声を大にして呼び掛けていた。
同じ頃、大学のチーム練習が終わった時、グラウンド中央に集まった選手たちを前に、鳥内監督が普段以上に語気を強めて訓示をされていた。円陣の後方にいたので、途切れ途切れにしか聞き取れなかったが、多分、こんな話だった。
「プリンストン大学の連中は、日本滞在中も勉学に励み、奉仕活動も続けていた。ファイターズのメンバーも、しっかり授業を受けて勉強し、あの試合でもらった課題をやりきるように。口先だけでなく、自分たちの課題をやりきって初めて、人として成長出来る」
まったく同感である。
プリンストン大学との交流を通じて見つけた課題に真摯(しんし)に取り組み、それを一つずつ解決していくことで道は開ける。多くの課題とともにスタートを切った今季、橋本主将が率いるチームがどこまで成長していくか。新しいシーズンが楽しみでならない。
しかしこの日は、新しいシーズンを迎えて、チームの全員がお祈りをする日である。雨だから風だからとひるんではおれない。雨の中、傘を差し、いそいそとグラウンドに降りていく。
鳥内監督をはじめチームの全員が「屋根下」と呼ばれる簡単なトレーニングやテーピングの出来るスペースに集まる。顧問の前島先生(元宗教総主事)が聖書の一節を読み上げ、人は何のために生きているのかと問い掛け、学院の理念である「マスタリー・フォー・サービス」について、それが意味する二つの側面から説かれる。人に奉仕することの大切さと、奉仕の出来る人間になれるように自分を鍛え上げることの必要性。
50年も前、学生時代にチャペルの時間などでさんざん聞かされた内容であり、当時は「ふーん、そうですか」という感じで聞き流していたが、憂き世を50年も生き延びてきたいまは、ずしりと胸に響く。とりわけ、「弱虫は要らない」「奉仕の出来る強い人間に自らを鍛えよ」という部分に共感し、思わずわが身を振り返る。
シーズン開幕に当たってのお祈りは、毎年恒例の行事である。それは選手やスタッフに向けた語りかけだが、その場に立ち会うたびに、気持ちが改まり、よーし、今年も頑張るぞ、と気分が高揚してくる。新しい年の門出であり、新年のみそぎでもある。
とはいっても、今年は3月21日にプリンストン大学との日米大学交流戦「LEGACY BOWL」があったから、実質的に新しいチームはスタートを切っている。その試合は36-7。ファイターズの完敗だった。完敗からのスタートとなると、前途の多難が予想されるが、ものは受け止めようである。
あの試合はもちろんのこと、アメリカを代表する大学のメンバーと交流した1週間を通じて何を学んだのか。彼らの高いモラル、高い目的意識、合理的な時間の使い方、学問とスポーツを両立させている取り組み……。
そして、当日の試合で彼らが見せてくれた数々のパフォーマンス。闘争心、試合に対する準備、ひとつひとつのプレーに対する集中力、そしてボールに対する執着心。ひとつひとつのプレーは激しく戦うけれども、スポーツマンとしての矜持は決して失わない彼らのたたずまい。
さらに、試合の前々日にあった「課外活動と人材育成」をテーマにしたシンポジウムを含め、プリンストン大学の選手、スタッフから学ぶべきことは数限りなくあった。それらはファイターズが今後、どう歩んでいくべきかという羅針盤であり、課題解決のヒントでもあった。
それを一人一人の選手がプレーの中で体験し、体に染みこませた。その価値は、計り知れないほど大きい。
試合だけでない。日常の振る舞いの端々に至るまで、将来、アメリカを背負って立つ人間としての高い使命感をもって行動していた彼らの残していったことを、チームの全員が共有し、わがこととして骨や肉に出来るかどうかである。
お祈りがあった翌日の夕方。一足先に練習を終えた中学部の主将が、スタンドの一角で着替えをしている部員たちに「みんな、宿題をしっかり仕上げるように。宿題を仕上げられないような人間は……」と声を大にして呼び掛けていた。
同じ頃、大学のチーム練習が終わった時、グラウンド中央に集まった選手たちを前に、鳥内監督が普段以上に語気を強めて訓示をされていた。円陣の後方にいたので、途切れ途切れにしか聞き取れなかったが、多分、こんな話だった。
「プリンストン大学の連中は、日本滞在中も勉学に励み、奉仕活動も続けていた。ファイターズのメンバーも、しっかり授業を受けて勉強し、あの試合でもらった課題をやりきるように。口先だけでなく、自分たちの課題をやりきって初めて、人として成長出来る」
まったく同感である。
プリンストン大学との交流を通じて見つけた課題に真摯(しんし)に取り組み、それを一つずつ解決していくことで道は開ける。多くの課題とともにスタートを切った今季、橋本主将が率いるチームがどこまで成長していくか。新しいシーズンが楽しみでならない。
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