石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(25)キーワードは集中
11月1日の西京極陸上競技場は晴れ。日は照っても、日差しは柔らかく、緑の芝生も少々色があせ始めている。公園の木々は赤や黄に色づき始め、吹く風が冷たい。
晩秋。京都のまちは、冬支度を始めるこの時季が一番美しい。新聞社の京都支局に勤務していたときに3年間、このまちに住んでいたが、そのころはこの時季になると、愛用の自転車に乗って、大原や嵐山、嵯峨野や東山、果ては鞍馬の奥、京北町のあたりまで走り回った。どこに立ち寄っても、魅力的な景色が広がり、その光景を眺めながら、しみじみと季節の移ろいを味わった。もう20年近く前のことである。
ファイターズにとってこの時季は、宿敵・京大との決戦の時である。しかし、このグラウンドには、あまりよい思い出がない。4年前。せっかく立命を倒しながら、ここで京大に足元をすくわれた。2年前。試合途中から冷たい北山しぐれがたたきつけ、手が凍えてメモが取れずに難儀した。急きょファイターズのグッズ売り場に走ってフリースの手袋を買い、震えながらメモをとったことを思い出す。
しかし、この日のファイターズは、そんないやな思い出を一気に払拭してくれた。キーワードで言えば「集中」。グラウンドに立つファイターズの全員が、すべてのプレーに集中して、見事なパフォーマンスを見せてくれたのである。
例えば、自陣20ヤード付近から始まったファイターズの最初の攻撃シリーズ。第1プレーはQB加納が確信を持った走りで中央を突破し16ヤード前進。ダウンを更新した最初のプレーではRB浅谷が果敢に中央を突いて5ヤードを稼ぐ。第3ダウン。加納が一度小さなフェイクを入れて右サイドに投じたパスをWR萬代が俊足を飛ばしてキャッチ、そのままエンドゾーンまで59ヤードを走り切って先制のタッチダウン(TD)。投げる方も受ける方も、一つのボールに気持ちを集中した見事なプレーだった。
まだある。2本目のTDを挙げたシリーズの集中力も光った。自陣44ヤードからの攻撃は、加納からTE垣内へのパス、浅谷やRB稲毛のランなどで、あっという間にゴール前21ヤード。ここで手痛い反則があり、第3ダウン10ヤードという状況に追い込まれたが、加納がWR松原に10ヤードのパスを通した。ダウンが更新できたかどうか微妙な距離だったが、松原が倒れ際に思いっきり体を伸ばしたのが奏功。ぎりぎりで次の攻撃につなげた。残る11ヤードからの攻撃も垣内のパスキャッチ、WR太田のランでダウン更新につなげ、最後は稲毛が中央のダイブプレーでTD。この間、ボールを手にしたプレーヤーのすべてが、相手の厳しいタックルにもめげず、相手ゴールに向かって倒れた。相手の執念を上回る執念を見せ、集中心をプレーで表現したのである。今季のこれまでの4試合には見られなかった集中力だった。
守備陣はもっとすごかった。
主将・早川を中心に、平澤、村上らDB並みのスピードを持ったラインが相手ラインを次々に突破、中央のランプレーをことごとく封じ込む。大げさに言えば、ボールがスナップされた瞬間に、相手OLの一角を突き崩しているというほどの素早さである。
こうなると2列目、3列目の守りにも余裕が出る。LB深川、DB徳井らが次々に強烈なタックルを見舞う。スピード豊かな2年生DB善元、三木らも負けじと相手のボールキャリアーを追いつめる。前半、攻撃がやや手詰まりになったときに連続した三木のインターセプトも、徳井のパントブロックも、彼らが常に集中力を切らさずにプレーしてきたたまものである。
後半になると、さらにビッグプレーが飛び出す。第4Q1分24秒、中央から割って入った深川の強烈なタックルを受けた相手QBが落としたボールをDL川島が素早く拾い、そのままエンドゾーンまで64ヤードを独走してTD。続いて第4Q7分46秒、自陣15ヤードで相手パスをインターセプトしたLB吉井優哉がそのまま85ヤードを走り切ってTD。ともに、相手の動きから一瞬たりとも目を離さない集中力がもたらせたビッグプレーだった。
特筆すべきは、二人が独走したとき、ともに周囲をファイターズの白いユニフォームが包み込み、京大の選手が入れないようにブロックしていたこと。これもまた、グラウンドに出ているすべての選手がそのプレーに集中していたことの証明である。
最終盤、この試合では初めて登場した1年生DB香山が、最初のプレーで相手のはじいたパスを反応よくインターセプトした。これもまた、ボールに対する集中力があったからこそである。一つひとつのプレーに集中するチームの雰囲気が、1年生までを巻き込み、好結果を生み出したのである。こういう集中力を持ってチームのみんなが戦う限り、強敵・立命とも対等に渡り合えるはずだ。
試合後、グラウンドを引き揚げる鳥内監督に「いい試合でしたね」と声をかけた。返ってきた答えは「たまたまですよ」。相変わらず素っ気ない感想だったが、表情はゆるんでいた。この日の試合で、ようやく立命と戦える資格を得たという手応えがあったからだろう。僕はそう受け止めている。
晩秋。京都のまちは、冬支度を始めるこの時季が一番美しい。新聞社の京都支局に勤務していたときに3年間、このまちに住んでいたが、そのころはこの時季になると、愛用の自転車に乗って、大原や嵐山、嵯峨野や東山、果ては鞍馬の奥、京北町のあたりまで走り回った。どこに立ち寄っても、魅力的な景色が広がり、その光景を眺めながら、しみじみと季節の移ろいを味わった。もう20年近く前のことである。
ファイターズにとってこの時季は、宿敵・京大との決戦の時である。しかし、このグラウンドには、あまりよい思い出がない。4年前。せっかく立命を倒しながら、ここで京大に足元をすくわれた。2年前。試合途中から冷たい北山しぐれがたたきつけ、手が凍えてメモが取れずに難儀した。急きょファイターズのグッズ売り場に走ってフリースの手袋を買い、震えながらメモをとったことを思い出す。
しかし、この日のファイターズは、そんないやな思い出を一気に払拭してくれた。キーワードで言えば「集中」。グラウンドに立つファイターズの全員が、すべてのプレーに集中して、見事なパフォーマンスを見せてくれたのである。
例えば、自陣20ヤード付近から始まったファイターズの最初の攻撃シリーズ。第1プレーはQB加納が確信を持った走りで中央を突破し16ヤード前進。ダウンを更新した最初のプレーではRB浅谷が果敢に中央を突いて5ヤードを稼ぐ。第3ダウン。加納が一度小さなフェイクを入れて右サイドに投じたパスをWR萬代が俊足を飛ばしてキャッチ、そのままエンドゾーンまで59ヤードを走り切って先制のタッチダウン(TD)。投げる方も受ける方も、一つのボールに気持ちを集中した見事なプレーだった。
まだある。2本目のTDを挙げたシリーズの集中力も光った。自陣44ヤードからの攻撃は、加納からTE垣内へのパス、浅谷やRB稲毛のランなどで、あっという間にゴール前21ヤード。ここで手痛い反則があり、第3ダウン10ヤードという状況に追い込まれたが、加納がWR松原に10ヤードのパスを通した。ダウンが更新できたかどうか微妙な距離だったが、松原が倒れ際に思いっきり体を伸ばしたのが奏功。ぎりぎりで次の攻撃につなげた。残る11ヤードからの攻撃も垣内のパスキャッチ、WR太田のランでダウン更新につなげ、最後は稲毛が中央のダイブプレーでTD。この間、ボールを手にしたプレーヤーのすべてが、相手の厳しいタックルにもめげず、相手ゴールに向かって倒れた。相手の執念を上回る執念を見せ、集中心をプレーで表現したのである。今季のこれまでの4試合には見られなかった集中力だった。
守備陣はもっとすごかった。
主将・早川を中心に、平澤、村上らDB並みのスピードを持ったラインが相手ラインを次々に突破、中央のランプレーをことごとく封じ込む。大げさに言えば、ボールがスナップされた瞬間に、相手OLの一角を突き崩しているというほどの素早さである。
こうなると2列目、3列目の守りにも余裕が出る。LB深川、DB徳井らが次々に強烈なタックルを見舞う。スピード豊かな2年生DB善元、三木らも負けじと相手のボールキャリアーを追いつめる。前半、攻撃がやや手詰まりになったときに連続した三木のインターセプトも、徳井のパントブロックも、彼らが常に集中力を切らさずにプレーしてきたたまものである。
後半になると、さらにビッグプレーが飛び出す。第4Q1分24秒、中央から割って入った深川の強烈なタックルを受けた相手QBが落としたボールをDL川島が素早く拾い、そのままエンドゾーンまで64ヤードを独走してTD。続いて第4Q7分46秒、自陣15ヤードで相手パスをインターセプトしたLB吉井優哉がそのまま85ヤードを走り切ってTD。ともに、相手の動きから一瞬たりとも目を離さない集中力がもたらせたビッグプレーだった。
特筆すべきは、二人が独走したとき、ともに周囲をファイターズの白いユニフォームが包み込み、京大の選手が入れないようにブロックしていたこと。これもまた、グラウンドに出ているすべての選手がそのプレーに集中していたことの証明である。
最終盤、この試合では初めて登場した1年生DB香山が、最初のプレーで相手のはじいたパスを反応よくインターセプトした。これもまた、ボールに対する集中力があったからこそである。一つひとつのプレーに集中するチームの雰囲気が、1年生までを巻き込み、好結果を生み出したのである。こういう集中力を持ってチームのみんなが戦う限り、強敵・立命とも対等に渡り合えるはずだ。
試合後、グラウンドを引き揚げる鳥内監督に「いい試合でしたね」と声をかけた。返ってきた答えは「たまたまですよ」。相変わらず素っ気ない感想だったが、表情はゆるんでいた。この日の試合で、ようやく立命と戦える資格を得たという手応えがあったからだろう。僕はそう受け止めている。
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