石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(33)会心の勝利
ライバル立命を相手に21-7。弱い弱いといわれ続けたチームが会心の勝利をもぎ取った。
ファイターズ最後の攻撃は相手陣21ヤード付近から。残り時間は30秒を切り、相手はタイムアウトを使い切っている。QB斎藤が当然のようにニーダウンで時計を進める。満員の応援席から送られるカウントダウンコールを聞きながら、笑顔で勝利の瞬間を迎えるチームの姿を見ながら、僕は不覚にも涙が出そうだった。
それほど感動的な試合だった。
実力は拮抗。というより、ファイターズ関係者からは、異口同音に「勝つのは難しい」「分析すればするほど、相手の攻撃が止まりそうにない」と、悲観的な声が出ていた。鳥内監督の口からは「今年の4年はまだまだ本気になってない。学生相手に負けた悔しさを知らんからや」と、いつも辛口の評が聞こえてきた。
そうした言葉を聞くと、僕も不安が募ってくる。立命戦の前日は決まって、上ヶ原の八幡神社にお参りするのだが、この3年間はなぜか「きっと勝ってくれる」という確信めいた考えを抱いていた。しかし今年は「ひょっとして、明日でシーズンが終わってしまうのではないか」とか「どこかでとんでもないミスが出るのではないか」という不安ばかりが募っていた。
しかし、試合が始まると、それは杞憂だった。レシーブを選択したファイターズはDB田中の狙い澄ませた63ヤードのキックオフリターンで、相手陣32ヤードから攻撃開始。RB鷺野と橋本のラッシュを中心に、WR横山、樋之本への短いパスを織り込んであっという間に相手ゴール前に。仕上げは橋本のランでTDというところだったが、相手の強烈なタックルでボールをファンブル。それを冷静にC松井が押さえ込んでTD。K三輪のキックも決まって7-0と先行する。
ファイターズはこの1年間、この日のために準備してきたノーハドルオフェンス。それを速いテンポで展開するから、相手の守備陣は的が絞れない。考える間も、一息入れる時間もない。攻撃権を失おうが、パスを失敗しようが委細構わず、用意したプレーを次々と展開、陣地を進めて行く。相手守備陣に考えるゆとりを与えない、というファイターズの戦略が見事に的中しているのがスタンドからでもうかがえた。
2Qも半ば。ファイターズは横山の思い切りのいいパントリターンで陣地を回復。相手陣46ヤードから攻撃をスタート。ここでも斎藤から鷺野やWR木下、RB飯田へのパスと橋本の豪走で陣地を進め、最後は鷺野が中央にダイブしてTD。待望の2本目を決め、14-0で前半終了。
2本差のリードを持って迎えた後半もファイターズペース。途中、斎藤のパスがインターセプトされ、そのままゴールに駆け込まれるという予期せぬ出来事もあったが、ファイターズは自分たちのペースを崩さない。手痛いTDを奪われた直後の攻撃シリーズでは、斎藤がWR木下、木戸、大園、横山にパスを投げ分け、自身のスクランブルを効果的に決めてあっという間にゴール前残り2ヤード。ここでも鷺野がゴールに飛び込んでTD。再び14点差に引き離す。
オフェンスが自在に攻撃できたのは、守備陣の活躍があったからだ。なんせ、立命オフェンスの第1シリーズでDB小椋がパスをインターセプトしたのを皮切りに、DB国吉、LB小野、DB田中が立て続けに相手パスを奪い取った。相手がファンブルしたボールをカバーしたプレーを含めて攻撃権を奪ったのは都合5回。QBサックもDL安田が2回、LB小野と作道がそれぞれ1回。さらにもう一人のLB山岸も獅子奮迅の活躍だった。
これだけ2列目、3列目が安定していたら、DLも安心して前に突っ込める。「人間山脈」とも例えられるほど強力な相手OLを毎プレーのように突破して、ボールキャリアを自在に走らせない。ランが止まれば、パスも怖くない。気がつけばファイターズ守備陣が完全に主導権を握っていた。
このように書き進めていくと、両軍の力に差があったように受け止められる方が多いかも知れない。しかし、スタンドから見ている限りでは両軍の力は拮抗。個々のスキルを比べると、相手の方が上だったかも知れない。
そんな強力な相手に、どうして終始、主導権を握って試合を進めることが出来たのか。
結論からいえば、事前の準備、構想の立て方という点で、ファイターズの方に多少、分があったということではないか。この試合のために周到に準備してきたノーハドルオフェンスが功を奏して、相手を混乱させたことはその一例である。最初のシリーズで、松井が見せた見事なファンブルカバーも、そういう場面を想定して毎日、毎日、ファンブルカバーの練習を積み重ねてきた成果である。この試合では、とりわけ相手DBに対するWR陣の執拗なブロックが効果的だったが、それも日ごろからブロックの練習をメニューに組み込み、営々と積み重ねてきたからできたことである。
特筆したいのは、3年生の橋本、山本、2年生の松井、高橋、1年生の井若で固めたOL陣の活躍。これにTE松島を加えたラインの強さは、関西リーグ最強といわれた相手にも、まったくひけをとらなかった。
彼らの活躍も、日ごろの密度の濃い練習、鍛錬があったからだ。大村コーチや神田コーチが見守る中、相手ディフェンスの動きに対応出来るように、何度も何度も繰り返して練習する姿を僕は目撃している。時にはコーチから厳しい叱声を浴びることもあったし、5年生のアシスタントコーチに歯が立たない場面もあった。それでもめげず、臆せず、地道な練習を営々と続けて来た。
その練習台を務めてきたのがDLの浜。相手DLの中心となる選手と同じ93番、マルーンのユニフォームを着け、来る日も来る日も味方の当たりを受け止めてきた。双子の弟が務める相手QBに扮して練習台となったQB前田の献身とともに、あえてこの場で紹介しておきたい。
こうした準備をひとつひとつ積み重ね、プレーの精度を追求し続けたチーム。「まだ時間はある。もっともっと詰めろ。詰め切れ。やりきろう」と、最後まで声を張り上げ続けた鷺野主将のゲキに4年生が応え、下級生が呼応した結果としての21-7。
練習は裏切らない。言い古された言葉だが、その言葉の意味を体現し、会心の勝利を収めたファイターズの面々。その晴れ晴れとした表情を見て、僕は思わずこみ上げてくるものがあった。
ファイターズ最後の攻撃は相手陣21ヤード付近から。残り時間は30秒を切り、相手はタイムアウトを使い切っている。QB斎藤が当然のようにニーダウンで時計を進める。満員の応援席から送られるカウントダウンコールを聞きながら、笑顔で勝利の瞬間を迎えるチームの姿を見ながら、僕は不覚にも涙が出そうだった。
それほど感動的な試合だった。
実力は拮抗。というより、ファイターズ関係者からは、異口同音に「勝つのは難しい」「分析すればするほど、相手の攻撃が止まりそうにない」と、悲観的な声が出ていた。鳥内監督の口からは「今年の4年はまだまだ本気になってない。学生相手に負けた悔しさを知らんからや」と、いつも辛口の評が聞こえてきた。
そうした言葉を聞くと、僕も不安が募ってくる。立命戦の前日は決まって、上ヶ原の八幡神社にお参りするのだが、この3年間はなぜか「きっと勝ってくれる」という確信めいた考えを抱いていた。しかし今年は「ひょっとして、明日でシーズンが終わってしまうのではないか」とか「どこかでとんでもないミスが出るのではないか」という不安ばかりが募っていた。
しかし、試合が始まると、それは杞憂だった。レシーブを選択したファイターズはDB田中の狙い澄ませた63ヤードのキックオフリターンで、相手陣32ヤードから攻撃開始。RB鷺野と橋本のラッシュを中心に、WR横山、樋之本への短いパスを織り込んであっという間に相手ゴール前に。仕上げは橋本のランでTDというところだったが、相手の強烈なタックルでボールをファンブル。それを冷静にC松井が押さえ込んでTD。K三輪のキックも決まって7-0と先行する。
ファイターズはこの1年間、この日のために準備してきたノーハドルオフェンス。それを速いテンポで展開するから、相手の守備陣は的が絞れない。考える間も、一息入れる時間もない。攻撃権を失おうが、パスを失敗しようが委細構わず、用意したプレーを次々と展開、陣地を進めて行く。相手守備陣に考えるゆとりを与えない、というファイターズの戦略が見事に的中しているのがスタンドからでもうかがえた。
2Qも半ば。ファイターズは横山の思い切りのいいパントリターンで陣地を回復。相手陣46ヤードから攻撃をスタート。ここでも斎藤から鷺野やWR木下、RB飯田へのパスと橋本の豪走で陣地を進め、最後は鷺野が中央にダイブしてTD。待望の2本目を決め、14-0で前半終了。
2本差のリードを持って迎えた後半もファイターズペース。途中、斎藤のパスがインターセプトされ、そのままゴールに駆け込まれるという予期せぬ出来事もあったが、ファイターズは自分たちのペースを崩さない。手痛いTDを奪われた直後の攻撃シリーズでは、斎藤がWR木下、木戸、大園、横山にパスを投げ分け、自身のスクランブルを効果的に決めてあっという間にゴール前残り2ヤード。ここでも鷺野がゴールに飛び込んでTD。再び14点差に引き離す。
オフェンスが自在に攻撃できたのは、守備陣の活躍があったからだ。なんせ、立命オフェンスの第1シリーズでDB小椋がパスをインターセプトしたのを皮切りに、DB国吉、LB小野、DB田中が立て続けに相手パスを奪い取った。相手がファンブルしたボールをカバーしたプレーを含めて攻撃権を奪ったのは都合5回。QBサックもDL安田が2回、LB小野と作道がそれぞれ1回。さらにもう一人のLB山岸も獅子奮迅の活躍だった。
これだけ2列目、3列目が安定していたら、DLも安心して前に突っ込める。「人間山脈」とも例えられるほど強力な相手OLを毎プレーのように突破して、ボールキャリアを自在に走らせない。ランが止まれば、パスも怖くない。気がつけばファイターズ守備陣が完全に主導権を握っていた。
このように書き進めていくと、両軍の力に差があったように受け止められる方が多いかも知れない。しかし、スタンドから見ている限りでは両軍の力は拮抗。個々のスキルを比べると、相手の方が上だったかも知れない。
そんな強力な相手に、どうして終始、主導権を握って試合を進めることが出来たのか。
結論からいえば、事前の準備、構想の立て方という点で、ファイターズの方に多少、分があったということではないか。この試合のために周到に準備してきたノーハドルオフェンスが功を奏して、相手を混乱させたことはその一例である。最初のシリーズで、松井が見せた見事なファンブルカバーも、そういう場面を想定して毎日、毎日、ファンブルカバーの練習を積み重ねてきた成果である。この試合では、とりわけ相手DBに対するWR陣の執拗なブロックが効果的だったが、それも日ごろからブロックの練習をメニューに組み込み、営々と積み重ねてきたからできたことである。
特筆したいのは、3年生の橋本、山本、2年生の松井、高橋、1年生の井若で固めたOL陣の活躍。これにTE松島を加えたラインの強さは、関西リーグ最強といわれた相手にも、まったくひけをとらなかった。
彼らの活躍も、日ごろの密度の濃い練習、鍛錬があったからだ。大村コーチや神田コーチが見守る中、相手ディフェンスの動きに対応出来るように、何度も何度も繰り返して練習する姿を僕は目撃している。時にはコーチから厳しい叱声を浴びることもあったし、5年生のアシスタントコーチに歯が立たない場面もあった。それでもめげず、臆せず、地道な練習を営々と続けて来た。
その練習台を務めてきたのがDLの浜。相手DLの中心となる選手と同じ93番、マルーンのユニフォームを着け、来る日も来る日も味方の当たりを受け止めてきた。双子の弟が務める相手QBに扮して練習台となったQB前田の献身とともに、あえてこの場で紹介しておきたい。
こうした準備をひとつひとつ積み重ね、プレーの精度を追求し続けたチーム。「まだ時間はある。もっともっと詰めろ。詰め切れ。やりきろう」と、最後まで声を張り上げ続けた鷺野主将のゲキに4年生が応え、下級生が呼応した結果としての21-7。
練習は裏切らない。言い古された言葉だが、その言葉の意味を体現し、会心の勝利を収めたファイターズの面々。その晴れ晴れとした表情を見て、僕は思わずこみ上げてくるものがあった。
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