石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(28)「俺がやる。俺は本気や」
快晴の日曜日。一番暑い時間帯に、長居第2陸上競技場(いまはヤンマーフィールド長居と呼ぶそうだ)に出掛けた。Xリーグ西地区のファーストステージ最終戦、エレコム神戸ファイニーズとアズワンブラックイーグルスの試合を観戦するためである。
社会人同士の試合を見るのは、10数年ぶり。その昔、まだエレコムがスポンサーに加わっておらず、ファイニーズが市民球団として悪戦苦闘していたころ以来である。その当時は、日本に初めて誕生したアメフットの「市民チーム」を何とか盛り上げたいと、よく応援に出掛けていた。夜、仕事を終えてから練習を見に行っていたし、チームの応援コラムも書いていた。ヘッドコーチをされていた村田斉潔氏(現在は龍谷大のヘッドコーチである)と食事をともにしながら、日本のアメフット界はどうすれば発展するか、というようなことを熱く語り合ったこともある。
しかし、朝日新聞社を定年退職し、和歌山県田辺市の紀伊民報に再就職してからは、ファイターズの応援で精一杯。とても、社会人の試合にまで足を運ぶゆとりはなかった。
ところがこの1、2年、ファイターズの卒業生が大量に入団して大活躍。とりわけ今季は、西地区の強豪、パナソニックやアサヒ飲料を破って、ついに全勝優勝に王手を掛けている。ここは自宅で学生の小論文を添削している場合ではない。何がなんでもスタジアムに足を運び、ファイターズOBたちを応援しなければならない。そう思って、開門前から並んで待ったのである。
試合は28-0でファイニーズの勝利。ファーストステージは全勝でセカンドステージに駒を進めた。試合の説明は省略。活躍が目についたファイターズOBについて紹介する。
順不同でいうとオフェンスではQB糟谷君、WR松田君、OL東元君(以上、2012年卒)、WR榎君(13年卒)、ディフェンスではLB香山君、DB重田君(以上2012年卒)、DL岸君(13年卒)が先発、あるいは主要な交代メンバーとして出場した。香山君は守備の要として、ほとんどのプレーに絡み、炎のタックルと冷静なパスカバーで鉄壁の守りを見せた。重田君の魂のタックルも健在。まともにタックルを食らった相手が本当に痛そうにしているのが印象的だった。岸君はラインの真ん中を死守。相変わらず鋭い出足でQBに襲いかかり10ヤードのQBサックを奪った。
オフェンス陣も負けていない。糟谷君はスタメンで出場、前半こそWRとの呼吸が合わなかったが、後半は持ち味の豪快なスクランブルで陣地を稼ぎ、チームを引っ張った。パンターとしても飛距離のあるパントを的確に決め、何度も味方のピンチを救った。松田君は学生時代よりプレーが進化したように見え、決定的なTDパスをキャッチした。東元君はOLのパートリーダーにふさわしい安定したプレーを続けた。TEからWRに転じた榎君は故障から回復したばかりで、この試合が今季初めての登場だったが、的確なブロックは健在だった。
このように書き進めていくと、エレコム躍進のキーマンは1、2年前までファイターズの選手として、あるいはアシスタントコーチとしてがんばってきた選手たちであることがよく分かる。これは彼らに注目している僕のひいき目だろうか。
本題に入る。
エレコムの優勝について、世間では「番狂わせ」という人が多い。僕も、春の試合でファイターズをこてんぱんに破ったパナソニックに勝つのは容易じゃない、と見ていた。
しかし、初めから今季の優勝を公言していた人物が、僕の知っている範囲で少なくとも一人はいる。今季からエレコムに入社し、チームに加わった香山君である。今年2月、宝塚ホテルでに行われたファイターズの祝勝会で、今季の幹部となった新4年生たちに「おれは社会人の代表としてライスボウルに行く。おまえらと本気で試合をしたいんや」と宣言した。ちょうどその場に居合わせたので、そのときの様子を克明に覚えているが、みんなは「まさかエレコムが……」という表情だった。僕も、パーティーの席を盛り上げるためのリップサービスだと思っていた。
だが、彼は本気だった。「俺がやる、俺がチームを変えて行くと言い切らないと、チームは変わらない。目標を口にしてチームを変える。俺がやる。東京ドームで会おう」といっていた。
今日の試合後、とりあえず第一目標は達成出来たな、と声をかけると「僕は本気であいつらとライスボウルで戦いたいんです。どんなに楽しいことか」と言い切った。
彼はファイターズにスポーツ推薦で入部。3年生までは人並みの取り組みで「才能はあるが、それが十分に発揮できていない」という印象を受ける選手だった。それが4年生になって一変。守備の要として大活躍した。関西リーグの優勝を決める立命戦で、相手のエースQBに激突した炎のタックルを記憶されている方も少なくないだろう。留年してからは2年間、アシスタントコーチとして後輩を育て「俺がやる、俺がチームを変える、という気持ちで取り組まないと、何も変わらん」と、叱咤し続けてきた。
同じことをエレコムでも言い続け、有言実行でチームを変えた。その結果の全勝優勝である。ファイターズの諸君にとっても、大いに参考になる話ではないか。
いま、チームに「俺がやる」「俺がチームを変える」と公言し、それを実行する部員がどれだけ存在するか。先輩は「あいつらとライスボウルで戦いたいねん」という目標に向かってばく進している。後輩も負けてはいられない。東京ドームに乗り込み、勝利するためには、目の前のライバルたちに勝ち続けなければならない。そのためには「俺がチームを変える」「俺がやる」と言い切れる人間にならなければならない。
残されたシーズンは短い。いまこそ全員が「俺がやる」「私がやる」と腹をくくる時だ。自分との戦いに勝利してもらいたい。
社会人同士の試合を見るのは、10数年ぶり。その昔、まだエレコムがスポンサーに加わっておらず、ファイニーズが市民球団として悪戦苦闘していたころ以来である。その当時は、日本に初めて誕生したアメフットの「市民チーム」を何とか盛り上げたいと、よく応援に出掛けていた。夜、仕事を終えてから練習を見に行っていたし、チームの応援コラムも書いていた。ヘッドコーチをされていた村田斉潔氏(現在は龍谷大のヘッドコーチである)と食事をともにしながら、日本のアメフット界はどうすれば発展するか、というようなことを熱く語り合ったこともある。
しかし、朝日新聞社を定年退職し、和歌山県田辺市の紀伊民報に再就職してからは、ファイターズの応援で精一杯。とても、社会人の試合にまで足を運ぶゆとりはなかった。
ところがこの1、2年、ファイターズの卒業生が大量に入団して大活躍。とりわけ今季は、西地区の強豪、パナソニックやアサヒ飲料を破って、ついに全勝優勝に王手を掛けている。ここは自宅で学生の小論文を添削している場合ではない。何がなんでもスタジアムに足を運び、ファイターズOBたちを応援しなければならない。そう思って、開門前から並んで待ったのである。
試合は28-0でファイニーズの勝利。ファーストステージは全勝でセカンドステージに駒を進めた。試合の説明は省略。活躍が目についたファイターズOBについて紹介する。
順不同でいうとオフェンスではQB糟谷君、WR松田君、OL東元君(以上、2012年卒)、WR榎君(13年卒)、ディフェンスではLB香山君、DB重田君(以上2012年卒)、DL岸君(13年卒)が先発、あるいは主要な交代メンバーとして出場した。香山君は守備の要として、ほとんどのプレーに絡み、炎のタックルと冷静なパスカバーで鉄壁の守りを見せた。重田君の魂のタックルも健在。まともにタックルを食らった相手が本当に痛そうにしているのが印象的だった。岸君はラインの真ん中を死守。相変わらず鋭い出足でQBに襲いかかり10ヤードのQBサックを奪った。
オフェンス陣も負けていない。糟谷君はスタメンで出場、前半こそWRとの呼吸が合わなかったが、後半は持ち味の豪快なスクランブルで陣地を稼ぎ、チームを引っ張った。パンターとしても飛距離のあるパントを的確に決め、何度も味方のピンチを救った。松田君は学生時代よりプレーが進化したように見え、決定的なTDパスをキャッチした。東元君はOLのパートリーダーにふさわしい安定したプレーを続けた。TEからWRに転じた榎君は故障から回復したばかりで、この試合が今季初めての登場だったが、的確なブロックは健在だった。
このように書き進めていくと、エレコム躍進のキーマンは1、2年前までファイターズの選手として、あるいはアシスタントコーチとしてがんばってきた選手たちであることがよく分かる。これは彼らに注目している僕のひいき目だろうか。
本題に入る。
エレコムの優勝について、世間では「番狂わせ」という人が多い。僕も、春の試合でファイターズをこてんぱんに破ったパナソニックに勝つのは容易じゃない、と見ていた。
しかし、初めから今季の優勝を公言していた人物が、僕の知っている範囲で少なくとも一人はいる。今季からエレコムに入社し、チームに加わった香山君である。今年2月、宝塚ホテルでに行われたファイターズの祝勝会で、今季の幹部となった新4年生たちに「おれは社会人の代表としてライスボウルに行く。おまえらと本気で試合をしたいんや」と宣言した。ちょうどその場に居合わせたので、そのときの様子を克明に覚えているが、みんなは「まさかエレコムが……」という表情だった。僕も、パーティーの席を盛り上げるためのリップサービスだと思っていた。
だが、彼は本気だった。「俺がやる、俺がチームを変えて行くと言い切らないと、チームは変わらない。目標を口にしてチームを変える。俺がやる。東京ドームで会おう」といっていた。
今日の試合後、とりあえず第一目標は達成出来たな、と声をかけると「僕は本気であいつらとライスボウルで戦いたいんです。どんなに楽しいことか」と言い切った。
彼はファイターズにスポーツ推薦で入部。3年生までは人並みの取り組みで「才能はあるが、それが十分に発揮できていない」という印象を受ける選手だった。それが4年生になって一変。守備の要として大活躍した。関西リーグの優勝を決める立命戦で、相手のエースQBに激突した炎のタックルを記憶されている方も少なくないだろう。留年してからは2年間、アシスタントコーチとして後輩を育て「俺がやる、俺がチームを変える、という気持ちで取り組まないと、何も変わらん」と、叱咤し続けてきた。
同じことをエレコムでも言い続け、有言実行でチームを変えた。その結果の全勝優勝である。ファイターズの諸君にとっても、大いに参考になる話ではないか。
いま、チームに「俺がやる」「俺がチームを変える」と公言し、それを実行する部員がどれだけ存在するか。先輩は「あいつらとライスボウルで戦いたいねん」という目標に向かってばく進している。後輩も負けてはいられない。東京ドームに乗り込み、勝利するためには、目の前のライバルたちに勝ち続けなければならない。そのためには「俺がチームを変える」「俺がやる」と言い切れる人間にならなければならない。
残されたシーズンは短い。いまこそ全員が「俺がやる」「私がやる」と腹をくくる時だ。自分との戦いに勝利してもらいたい。
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