石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(16)「死中活あり」
8月1日午後4時半。上ケ原の第3フィールド。待ちに待った夏の練習がスタートした。今年は新型インフルエンザの余波で、前期試験が7月末までずれ込んだ。ファイターズの諸君もその影響を受け、いつもは走り込みにあてる期間を、勉強する時間に費やした。
早く練習がしたい。グラウンドで思い切り汗を流したい。そういう部員の気持ちが盛り上がり、練習開始の笛が鳴るのを待ちかねているのが、見ていても肌で感じられた。けがで長い間、戦線を離脱していた選手も、この日に復帰の照準を合わせて戻ってきた。
練習前のハドルが始まる。この日のために出掛けてきたOB会長の奥井さんがグラウンドに降り、部員たちに短い訓示をする。スタンドからでは、遠すぎて聞こえない。後で、ご本人に聞くと「今年のスローガンを胸に刻み、自らの足跡を残せ。OBのためでも、母校のためでもない。君たち自身のために、存分に練習し、自分の足跡をファイターズの歴史に刻んでくれ。そういう話をしました。長話は嫌われるので、一言だけです」ということだった。
練習は一気に盛り上がった。喉の乾いた馬が水を飲むように、キビキビと動く。自発的に声が出る。集散が早い。隣の席で、選手たちの動きを俯瞰していた鳥内監督に「さすがに動きがいいですね。練習開始を待ちかねていたという気持ちが出ていますね」と声をかける。返事は「当然ですよ。やっと練習ができるようになったのに、ここで気持ちが表れないようでは話にならんでしょう」。
それにしても部員が多い。グラウンドを全面的に使っているのに、それでも狭苦しく見える。今春入部した1年生の多くが上級生の練習に加わってきたからだ。その中には、秋の試合にスタメンで出られそうな期待の星も少なくない。
だが、どのコーチに聞いても「合宿までにメンバーの振り分けを急がないと。このままでは効率的な練習ができない」と口をそろえる。この数年、絶えて聞けなかった贅沢な悩みである。
全体練習は、約50分で終了。初日ということで、まずは体を慣らす程度のレベルから始めたようだ。もちろん、全体練習の後は、各パートに別れた居残り練習がある。それがいわば「本番」の練習になる。
その間のハドルで、今度は小野コーチが気合を入れる。ハドルの空気が引き締まる。もちろんスタンドからでは遠くて内容は聞き取れない。
これも後からご本人に聞くと「長い間、クラブで受け継がれてきた『死中活あり』 という文章を全員に配り、そのことについて話をしました。この何年かは、この話をしていなかったのですが、今年の部員には聞かせておきたかったのです」ということだった。
「死中活あり」。元は「晋書―呂光載記」にある「死中求生、正在今日也」という言葉である。読み下せば「死中に生を求むるは、正に今日にあり」。難局を打開するためには、あえて死地(危険な状況)に飛び込んでいく勇気、決心が必要。身を捨ててこそ、そこから活路が見いだせる、ということを説いている。
ファイターズにとっては、特別に意味のある文章である。この言葉はかつて、日大を相手に苦しい戦いを強いられていた時代に、昭和28年卒のOBから贈られたものだそうだ。
「一度死んでご覧。そこから新しい境地が開ける」と挑発するこの言葉を、歴代の部員は胸に刻み、苦しい状況を打破してきた。近年は、その過激な表現が誤解を受けかねないとして、あまり聞く機会もなかったが、チームが新しく出発するに当たって、小野コーチはあえて、その意図する所を全部員に伝えたかったようだ。
「死中活あり」。ファイターズに席を置くすべての部員が、この言葉を自分の言葉として受け止めた時、彼、彼女らは必ず新しい足跡、輝かしい歴史を刻むに違いない。
早く練習がしたい。グラウンドで思い切り汗を流したい。そういう部員の気持ちが盛り上がり、練習開始の笛が鳴るのを待ちかねているのが、見ていても肌で感じられた。けがで長い間、戦線を離脱していた選手も、この日に復帰の照準を合わせて戻ってきた。
練習前のハドルが始まる。この日のために出掛けてきたOB会長の奥井さんがグラウンドに降り、部員たちに短い訓示をする。スタンドからでは、遠すぎて聞こえない。後で、ご本人に聞くと「今年のスローガンを胸に刻み、自らの足跡を残せ。OBのためでも、母校のためでもない。君たち自身のために、存分に練習し、自分の足跡をファイターズの歴史に刻んでくれ。そういう話をしました。長話は嫌われるので、一言だけです」ということだった。
練習は一気に盛り上がった。喉の乾いた馬が水を飲むように、キビキビと動く。自発的に声が出る。集散が早い。隣の席で、選手たちの動きを俯瞰していた鳥内監督に「さすがに動きがいいですね。練習開始を待ちかねていたという気持ちが出ていますね」と声をかける。返事は「当然ですよ。やっと練習ができるようになったのに、ここで気持ちが表れないようでは話にならんでしょう」。
それにしても部員が多い。グラウンドを全面的に使っているのに、それでも狭苦しく見える。今春入部した1年生の多くが上級生の練習に加わってきたからだ。その中には、秋の試合にスタメンで出られそうな期待の星も少なくない。
だが、どのコーチに聞いても「合宿までにメンバーの振り分けを急がないと。このままでは効率的な練習ができない」と口をそろえる。この数年、絶えて聞けなかった贅沢な悩みである。
全体練習は、約50分で終了。初日ということで、まずは体を慣らす程度のレベルから始めたようだ。もちろん、全体練習の後は、各パートに別れた居残り練習がある。それがいわば「本番」の練習になる。
その間のハドルで、今度は小野コーチが気合を入れる。ハドルの空気が引き締まる。もちろんスタンドからでは遠くて内容は聞き取れない。
これも後からご本人に聞くと「長い間、クラブで受け継がれてきた『死中活あり』 という文章を全員に配り、そのことについて話をしました。この何年かは、この話をしていなかったのですが、今年の部員には聞かせておきたかったのです」ということだった。
「死中活あり」。元は「晋書―呂光載記」にある「死中求生、正在今日也」という言葉である。読み下せば「死中に生を求むるは、正に今日にあり」。難局を打開するためには、あえて死地(危険な状況)に飛び込んでいく勇気、決心が必要。身を捨ててこそ、そこから活路が見いだせる、ということを説いている。
ファイターズにとっては、特別に意味のある文章である。この言葉はかつて、日大を相手に苦しい戦いを強いられていた時代に、昭和28年卒のOBから贈られたものだそうだ。
「一度死んでご覧。そこから新しい境地が開ける」と挑発するこの言葉を、歴代の部員は胸に刻み、苦しい状況を打破してきた。近年は、その過激な表現が誤解を受けかねないとして、あまり聞く機会もなかったが、チームが新しく出発するに当たって、小野コーチはあえて、その意図する所を全部員に伝えたかったようだ。
「死中活あり」。ファイターズに席を置くすべての部員が、この言葉を自分の言葉として受け止めた時、彼、彼女らは必ず新しい足跡、輝かしい歴史を刻むに違いない。
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