石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(25)最強のチームへ
先週末は、今期の直木賞を受賞した友人、黒川博行さんの講演会とサイン会。僕も対談の相手役兼司会者の役割を振り当てられ、いそいそと大阪・中之島の朝日カルチャーセンターに出掛けた。
日ごろは一緒に食事をしたり、マージャン卓を囲んだりして気楽につきあっているが、いざ講演会、それも有料の集まりとあれば、それにふさわしい話をしなければならない。当然、準備も必要だ。という次第で、この2週間ほどは、毎晩のように黒川さんの過去に出版された本を読み、薄れかけた記憶を引っ張り出すのに必死だった。
でも、心配は無用。聞きに来て下さった方々はみな黒川さんのファン。顔を見るだけで満足、創作の舞台裏が聞けたら元が取れた、普段の生活ぶりやペットとのつきあい方なんぞが聞けたら、楽しくて仕方がない、という方が多かったから、司会者は適当でも、会は大いに盛り上がった。
そんな次第で、週末の練習は見ることが出来なかった。その代わり、木曜と金曜の練習はしっかり見せてもらった。
そのときのことである。あるコーチと立ち話をしている中で「この10年間では、松岡主将の代が一番強かったのではないか」という話になった。
理由は、4年生に松岡君や長島君、谷山君や香山君がいてチームを引っ張り、大西君や和田君という職人肌の選手もいた。それに加えて、下級生に梶原君や池永君、池田君という全日本級の元気なメンバーがおり、好き放題、のびのびと暴れ回っていた。畑君や小山君、望月君や川端君といった伸び盛りの選手も多く、チーム内の競争が活発だった。そんな話だった。
なるほど、そういう見方もあるか、と聞きながら、僕は「それをいうなら、今年も同様ではないか」と思った。
4年生では、鷺野君や斎藤君、松島君や木戸君ががんばっている。デフェンスでも小野君や吉原君が活躍しているではないか。3年生にも橋本君や田中君、作道君や小川君がいる。2年生には松井君、橋本君、松本君や山岸君という化け物のような選手がいる。伊豆君や小池君もまだまだ伸びてくるだろう。彼らが存分に活躍してくれたら、松岡主将の代にも負けないチームが出来るのではないか。そう思ったのである。
当のコーチは練習を見るのに忙しく、それ以上、込み入った評定をすることはできなかった。そこで、僕は一人「彼は一体、何を言おうとしたのだろうか」と考えた。すぐに答えが出た。推測するに、こういうことである。箇条書きにしてみよう。
1、秋のシーズンが始まり、チームはこの2試合、順調に勝ち進んできた。でも、相手は昨年の下位チーム。甲子園ボウルで4連覇し、ライスボウルで社会人に勝つというのなら、下位チームに勝ったくらいで喜ぶな。
2、なるほど、4年生も下級生もがんばっている。でも、見る者が見たら失敗も少なくない。見た目の得点差だけでいい気になっていたら、足下をすくわれるぞ。
3、下級生には高い潜在能力を持った選手が何人もいることは間違いない。しかし、まだ、本当に強いチームと戦って、その力を発揮したわけではない。京大や関大、立命館と正面からぶつかり合い、そこで力を発揮してこそ、下級生のころの梶原君や池永君、池田君や川端君のパフォーマンスと比較が可能になる。評価はそれからでも遅くはない。
そういう話だったのだろう。言い換えれば「昨年の下位チームに勝ったぐらいでいい気になってたらダメですよ」と言いたかったのだろう。それは、選手に向けての発言であり、このコラムで「爆走!28番星」と書いたり、ライバルチームのコーチに若手が評価されたことをうれしそうに披露している僕に対する「忠告」でもあったのだろう。
確かにその通りである。昨年まで、甲子園ボウルで3連覇してきたけれども、それは別のチームが成し遂げたこと。今年は全く新しい気持ちでより強いチームを作り上げなければならない。リーグ戦で、負けてもよい試合は一つもない。勝って当たり前であり、勝ち続けることが最低限の仕事である。首尾よくそこを勝ち抜いても甲子園ボウルで勝たなければ、社会人への挑戦権は得られない。これからが本当の勝負であり、まだまだ長く苦しい戦いが続く。
そこを突破するためにどうするか。日ごろの真摯(しんし)な取り組み以外にない。周囲に評価されたとか、大差で勝利したとかいって喜ぶのではなく、しっかり足下を見つめて練習に励むことだ。「社会人に勝つ」という目標に向かって、一日一日を有意義に過ごすことだ。
それは、鷺野主将が毎日のハドルで言っていることでもある。ファイターズで活動する全員が、主将やコーチの意のあるところを理解し、自らを鍛え、高めたときに、初めて「松岡主将の代」よりも強いチームが完成するのである。がんばろう。
日ごろは一緒に食事をしたり、マージャン卓を囲んだりして気楽につきあっているが、いざ講演会、それも有料の集まりとあれば、それにふさわしい話をしなければならない。当然、準備も必要だ。という次第で、この2週間ほどは、毎晩のように黒川さんの過去に出版された本を読み、薄れかけた記憶を引っ張り出すのに必死だった。
でも、心配は無用。聞きに来て下さった方々はみな黒川さんのファン。顔を見るだけで満足、創作の舞台裏が聞けたら元が取れた、普段の生活ぶりやペットとのつきあい方なんぞが聞けたら、楽しくて仕方がない、という方が多かったから、司会者は適当でも、会は大いに盛り上がった。
そんな次第で、週末の練習は見ることが出来なかった。その代わり、木曜と金曜の練習はしっかり見せてもらった。
そのときのことである。あるコーチと立ち話をしている中で「この10年間では、松岡主将の代が一番強かったのではないか」という話になった。
理由は、4年生に松岡君や長島君、谷山君や香山君がいてチームを引っ張り、大西君や和田君という職人肌の選手もいた。それに加えて、下級生に梶原君や池永君、池田君という全日本級の元気なメンバーがおり、好き放題、のびのびと暴れ回っていた。畑君や小山君、望月君や川端君といった伸び盛りの選手も多く、チーム内の競争が活発だった。そんな話だった。
なるほど、そういう見方もあるか、と聞きながら、僕は「それをいうなら、今年も同様ではないか」と思った。
4年生では、鷺野君や斎藤君、松島君や木戸君ががんばっている。デフェンスでも小野君や吉原君が活躍しているではないか。3年生にも橋本君や田中君、作道君や小川君がいる。2年生には松井君、橋本君、松本君や山岸君という化け物のような選手がいる。伊豆君や小池君もまだまだ伸びてくるだろう。彼らが存分に活躍してくれたら、松岡主将の代にも負けないチームが出来るのではないか。そう思ったのである。
当のコーチは練習を見るのに忙しく、それ以上、込み入った評定をすることはできなかった。そこで、僕は一人「彼は一体、何を言おうとしたのだろうか」と考えた。すぐに答えが出た。推測するに、こういうことである。箇条書きにしてみよう。
1、秋のシーズンが始まり、チームはこの2試合、順調に勝ち進んできた。でも、相手は昨年の下位チーム。甲子園ボウルで4連覇し、ライスボウルで社会人に勝つというのなら、下位チームに勝ったくらいで喜ぶな。
2、なるほど、4年生も下級生もがんばっている。でも、見る者が見たら失敗も少なくない。見た目の得点差だけでいい気になっていたら、足下をすくわれるぞ。
3、下級生には高い潜在能力を持った選手が何人もいることは間違いない。しかし、まだ、本当に強いチームと戦って、その力を発揮したわけではない。京大や関大、立命館と正面からぶつかり合い、そこで力を発揮してこそ、下級生のころの梶原君や池永君、池田君や川端君のパフォーマンスと比較が可能になる。評価はそれからでも遅くはない。
そういう話だったのだろう。言い換えれば「昨年の下位チームに勝ったぐらいでいい気になってたらダメですよ」と言いたかったのだろう。それは、選手に向けての発言であり、このコラムで「爆走!28番星」と書いたり、ライバルチームのコーチに若手が評価されたことをうれしそうに披露している僕に対する「忠告」でもあったのだろう。
確かにその通りである。昨年まで、甲子園ボウルで3連覇してきたけれども、それは別のチームが成し遂げたこと。今年は全く新しい気持ちでより強いチームを作り上げなければならない。リーグ戦で、負けてもよい試合は一つもない。勝って当たり前であり、勝ち続けることが最低限の仕事である。首尾よくそこを勝ち抜いても甲子園ボウルで勝たなければ、社会人への挑戦権は得られない。これからが本当の勝負であり、まだまだ長く苦しい戦いが続く。
そこを突破するためにどうするか。日ごろの真摯(しんし)な取り組み以外にない。周囲に評価されたとか、大差で勝利したとかいって喜ぶのではなく、しっかり足下を見つめて練習に励むことだ。「社会人に勝つ」という目標に向かって、一日一日を有意義に過ごすことだ。
それは、鷺野主将が毎日のハドルで言っていることでもある。ファイターズで活動する全員が、主将やコーチの意のあるところを理解し、自らを鍛え、高めたときに、初めて「松岡主将の代」よりも強いチームが完成するのである。がんばろう。
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