石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(24)爆走!28番星
「爆走!一番星」といえば、1975年に公開された「トラック野郎」シリーズの第2弾。菅原文太と愛川欣也のコンビが満艦飾のトラックを爆走させ、熱い熱気を爆発させた映画である。このシリーズはみな、少々下品な登場人物と、マドンナを想う主人公の純情のミスマッチが面白く、僕は結構好みだった。
いま「爆走!28番星」といえば、ファイターズの主将、鷺野君。ボールを持つたびにグラウンドを爆走する姿は、トラック野郎も顔負けである。
15日の近大戦では、8回のボールキャリーで208ヤードを獲得。82ヤードの独走を含めタッチダウンが3本。パントリターンでも一気に49ヤードを走るなど、その実力のほどを見せつけた。第3Qの初めに54ヤードを独走し、自身3本目のTDを決めた後は、下級生に出場機会を譲ってしまったが、最後まで走り続けていたら、RB史上でも類のない大記録を達成していたのではないかと、少々残念に思うほどだ。
ファイターズには過去、何人もの記憶に残るRBがいた。この10年ほどをさかのぼっても、12年度卒の望月君や11年度卒の松岡君は傑出したランナーだった。09年度卒の川原君や08年度卒の稲毛君のカットバックも懐かしい。07年度卒では、4年間、けがでほとんど試合に出られなかったのに、最後の甲子園ボウルで決勝TDを挙げ、男を上げた横山君が記憶に残っている。
そうした面々でも、1試合、たった8回のボールキャリーで208ヤードを獲得し、おまけにパントリターンでも49ヤードを稼ぐなんて離れ業は記憶にない。率先垂範。主将の面目躍如である。
試合会場で、FM放送の解説をされていたディレクターの小野さんが「今のは鷺野君だから、相手ディフェンスを振り切れましたね」とか「さすがですね」とか、感嘆しきりだったということ一つとっても、その走りの凄さが分かってもらえるだろう。
けれどもこれは、偶然の産物ではない。ファイターズの若いOLたちが懸命に走路を開いたことはもちろんだが、それ以上に鷺野君の相手守備陣を突破する技術とスピード、そして「俺がやる」という強い意志が上回っていたということだろう。
振り返れば、今年のチームがスタートして以来、鷺野君は常に先頭に立ってチームを引っ張ってきた。高い目標を口にし、それを完遂するために、いま何をなすべきか、何が必要か、と常に仲間に問い掛けてきた。結果だけでなく練習の内容にもこだわり、チームメイトに「もう1段階も2段階も上のレベルに上げること」を求め、全員の士気を鼓舞し続けてきた。
そうした言動には責任が伴う。口先だけ、言うだけではだれも付いてこない。常に先頭に立って行動し、激しい言葉で仲間を鼓舞し、時には後ろ姿でチームを引っ張る。
そういう主将が試合で「俺がやる」という姿を見せつけた。それは鬼気迫る独走であり、渾身のセカンドエフォートだった。彼の日ごろの取り組みの一端を知っているだけに、見ていた僕は主将の活躍がうれしくてうれしくて、涙が出そうだった。
うれしいことといえば、近大との試合ではもう一つ特筆しておきたいことがある。
それはWRの木下君が9カ月ぶりにグラウンドに戻り、たちまちTDパスをキャッチしてくれたことである。
彼は、昨年の関西リーグで大活躍した選手だが、ライスボウルの激戦の中でけがをし、長いリハビリ生活を続けてきた。しかし、まだ松葉杖をついているような状況からグラウンドに顔を出し、チームの練習を見守ってくれた。懸命のリハビリで少し状態が回復すると、レシーバー陣の練習を手伝い、パスを投げたり下級生にアドバイスしたりしてチームに貢献し続けた。けがをして試合に出ることは不可能でも「いま自分に出来る貢献」を自ら探し、その役割を果たし続けたのである。
口で言うのは簡単だが、それはなかなか出来ることではない。自分のポジションに入った選手が活躍するのを見るのは複雑な気持ちだろうし、ほかの選手の活躍をベンチで見ているだけというのものもストレスが貯まる。しかし、そういうマイナス思考とは無縁のところで、彼はひたすら「自分に出来る貢献」を探し、それを見つけて実行してきた。
そういう苦しい戦いを知っているだけに、この日、9カ月ぶりにグラウンドに登場し、たった1回、QB斎藤君から投じられたゴールポスト直下のパスをいとも簡単にキャッチしてTDを獲得したことに、僕は感動した。審判の両手が上がった瞬間「よくぞ戻ってきてくれた」という感謝の気持ちと、これからの活躍を期待して、心からの拍手を送ったことである。
主将の活躍と木下君の復活。そして斎藤君の精密機械のようなパス・コントロール。こうしたうれしい場面を目に焼き付けて、その夜、僕は勤務地の和歌山県田辺市まで、満足感を道連れに車を走らせた。
念のために付け加えておけば、当方は「爆走!一番星」ではなく、交通ルールを守った安全運転だった。
いま「爆走!28番星」といえば、ファイターズの主将、鷺野君。ボールを持つたびにグラウンドを爆走する姿は、トラック野郎も顔負けである。
15日の近大戦では、8回のボールキャリーで208ヤードを獲得。82ヤードの独走を含めタッチダウンが3本。パントリターンでも一気に49ヤードを走るなど、その実力のほどを見せつけた。第3Qの初めに54ヤードを独走し、自身3本目のTDを決めた後は、下級生に出場機会を譲ってしまったが、最後まで走り続けていたら、RB史上でも類のない大記録を達成していたのではないかと、少々残念に思うほどだ。
ファイターズには過去、何人もの記憶に残るRBがいた。この10年ほどをさかのぼっても、12年度卒の望月君や11年度卒の松岡君は傑出したランナーだった。09年度卒の川原君や08年度卒の稲毛君のカットバックも懐かしい。07年度卒では、4年間、けがでほとんど試合に出られなかったのに、最後の甲子園ボウルで決勝TDを挙げ、男を上げた横山君が記憶に残っている。
そうした面々でも、1試合、たった8回のボールキャリーで208ヤードを獲得し、おまけにパントリターンでも49ヤードを稼ぐなんて離れ業は記憶にない。率先垂範。主将の面目躍如である。
試合会場で、FM放送の解説をされていたディレクターの小野さんが「今のは鷺野君だから、相手ディフェンスを振り切れましたね」とか「さすがですね」とか、感嘆しきりだったということ一つとっても、その走りの凄さが分かってもらえるだろう。
けれどもこれは、偶然の産物ではない。ファイターズの若いOLたちが懸命に走路を開いたことはもちろんだが、それ以上に鷺野君の相手守備陣を突破する技術とスピード、そして「俺がやる」という強い意志が上回っていたということだろう。
振り返れば、今年のチームがスタートして以来、鷺野君は常に先頭に立ってチームを引っ張ってきた。高い目標を口にし、それを完遂するために、いま何をなすべきか、何が必要か、と常に仲間に問い掛けてきた。結果だけでなく練習の内容にもこだわり、チームメイトに「もう1段階も2段階も上のレベルに上げること」を求め、全員の士気を鼓舞し続けてきた。
そうした言動には責任が伴う。口先だけ、言うだけではだれも付いてこない。常に先頭に立って行動し、激しい言葉で仲間を鼓舞し、時には後ろ姿でチームを引っ張る。
そういう主将が試合で「俺がやる」という姿を見せつけた。それは鬼気迫る独走であり、渾身のセカンドエフォートだった。彼の日ごろの取り組みの一端を知っているだけに、見ていた僕は主将の活躍がうれしくてうれしくて、涙が出そうだった。
うれしいことといえば、近大との試合ではもう一つ特筆しておきたいことがある。
それはWRの木下君が9カ月ぶりにグラウンドに戻り、たちまちTDパスをキャッチしてくれたことである。
彼は、昨年の関西リーグで大活躍した選手だが、ライスボウルの激戦の中でけがをし、長いリハビリ生活を続けてきた。しかし、まだ松葉杖をついているような状況からグラウンドに顔を出し、チームの練習を見守ってくれた。懸命のリハビリで少し状態が回復すると、レシーバー陣の練習を手伝い、パスを投げたり下級生にアドバイスしたりしてチームに貢献し続けた。けがをして試合に出ることは不可能でも「いま自分に出来る貢献」を自ら探し、その役割を果たし続けたのである。
口で言うのは簡単だが、それはなかなか出来ることではない。自分のポジションに入った選手が活躍するのを見るのは複雑な気持ちだろうし、ほかの選手の活躍をベンチで見ているだけというのものもストレスが貯まる。しかし、そういうマイナス思考とは無縁のところで、彼はひたすら「自分に出来る貢献」を探し、それを見つけて実行してきた。
そういう苦しい戦いを知っているだけに、この日、9カ月ぶりにグラウンドに登場し、たった1回、QB斎藤君から投じられたゴールポスト直下のパスをいとも簡単にキャッチしてTDを獲得したことに、僕は感動した。審判の両手が上がった瞬間「よくぞ戻ってきてくれた」という感謝の気持ちと、これからの活躍を期待して、心からの拍手を送ったことである。
主将の活躍と木下君の復活。そして斎藤君の精密機械のようなパス・コントロール。こうしたうれしい場面を目に焼き付けて、その夜、僕は勤務地の和歌山県田辺市まで、満足感を道連れに車を走らせた。
念のために付け加えておけば、当方は「爆走!一番星」ではなく、交通ルールを守った安全運転だった。
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