石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(22)晴れ舞台は第3フィールド
永井荷風が小説を書く者の心得として、こんな随筆を書いている。
……読書、思索、観察の三事は小説かくものの寸毫(すんごう)も怠りてはならぬものなり。読書と思索とは剣術使の毎日道場にて竹刀を持つがごとく、観察は武者修行に出でて他流試合をなすが如し。
僕は小説家ではない。だが、新聞記者の端くれとして「世の中実地の観察」の大切さはよく理解出来る。だから、上ヶ原のグラウンドに顔を出すたびに、部員たちの練習ぶりや練習前の行動などについて、ひとかたならぬ関心をもって眺めている。フットボールの経験者ではないが、ファイターズのホームページでコラムを書くようになってからは、新聞記者の目で、部員の振るまいをより丁寧にチェックするようにもなった。その結果、最近は「試合会場で見る部員の姿は仮りの姿。本当の姿は上ヶ原の第3フィールドにある」と思うようになった。
試合会場でライバルを相手に活躍している姿こそ、選手にとっての晴れ舞台。ファンの誰もがそう思っておられるに違いない。だが、僕は最近、第3フィールドこそ部員にとっての晴れ舞台であり、そこでもがき苦しんでいる姿が千両役者だと思えるようになっているのである。
どういうことか。今季の初戦、同志社大との試合で、誰もが「おっ、やるじゃないか」と思うような活躍をした選手たちの名前を挙げて説明してみよう。
まずは、正真正銘の新戦力として活躍した1年生から。初戦のメンバー表を見た人は、先発メンバーにOLの井若君(箕面自由)とWR前田泰一君(関大一)の二人が名前を連ねているのに驚かれたに違いない。試合が始まって間もなく、同じ1年生のRB高松君(箕面自由)、DB小椋君(同)、DL藤木、三木、柴田君の3人と、WR中西君(いずれも高等部)らが交代メンバーとして次々に登場し、スタメンで出た二人とともに縦横無尽に活躍した姿にもびっくりされただろう。
この日が初めての公式戦なのに、前田君や中西君は当然のようにロングパスをキャッチし、高松君は30ヤードの独走TDを決めた。小椋君は、もう何年も試合に出続けているような安定した守備を見せたし、高等部のDL3人組も、それぞれが競い合うように鋭いフットワークでタックルを連発した。先発で左のタックルを任された井若君は、173センチという小柄な体からは想像も出来ない粘り腰で、QBの背後を守り切った。
けれども、上ヶ原での練習ぶりを何度も観察していた僕は、彼らが活躍するのは「当然、当たり前のこと」だった。
チーム練習の前に、前田君はアシスタントコーチの梅本君を相手に、何度も何度も同じ練習を続け、守備選手の交わし方のタイミングを身に付けようとしていた。井若君は、同じくアシスタントコーチ池永君の胸を借りて「強くて素早いDL」を相手にしたときの身のこなし、足の運び、腰の落とし方などを徹底的に追求、その動きを体に覚えさせようと必死だった。
DLの高等部3人組も負けてはいない。4年生の岡部君や3年生の小川君らをお手本に、スタートのタイミングの取り方やタックルの練習を、これでもか、というほど続けていた。
RBの高松君や山本君(立教新座)も、身のこなしが素早くて当たりが強い4年生の鷺野君や飯田君からマンツーマンの指導を受け、首の守り方からタックルの受け方、交わし方まで、徹底的な反復練習を続けていた。
同じような取り組みは、2年生も同様だった。この日の試合でともにTDパスをキャッチしたTEの藏野君と杉山君も、数日前の練習で、大村コーチが見守る中、アシスタントコーチの池田君や長森君を相手に、スタートのタイミングや足の運び、タックルの交わし方などを、繰り返し繰り返し練習していた。
そういう実戦を想定した練習、取り組みを徹底してきたから、彼らはみな本番でも軽快な動きが出来た。「準備してきたことを遂行するだけ。結果は付いてくる」という、極めてシンプルな考え方で試合に臨めたから、初戦というプレッシャーに動じることなく、堂々と戦えたのである。
練習のための練習ではない。マニュアル通りの練習でもない。試合を想定した練習、それも初戦だけでなく、これから続く強烈な力を秘めたライバルたちを想定して、全日本級の力を持つ先輩やアシスタントコーチを相手に、何度も転がされ、徹底的に汗をかいてきた結果が、あの華々しいデビューとなったのである。
相手は1、2年生とはいえ、本気になってその練習台を務めた上級生が活躍したことはいうまでもない。
定例のチーム練習の前に、どのパートでもこうした真剣勝負が毎日行われているのが、上ヶ原の第3フィールドである。そこは練習グラウンドではなく、晴れ舞台であるという意味がここにある。
……読書、思索、観察の三事は小説かくものの寸毫(すんごう)も怠りてはならぬものなり。読書と思索とは剣術使の毎日道場にて竹刀を持つがごとく、観察は武者修行に出でて他流試合をなすが如し。
僕は小説家ではない。だが、新聞記者の端くれとして「世の中実地の観察」の大切さはよく理解出来る。だから、上ヶ原のグラウンドに顔を出すたびに、部員たちの練習ぶりや練習前の行動などについて、ひとかたならぬ関心をもって眺めている。フットボールの経験者ではないが、ファイターズのホームページでコラムを書くようになってからは、新聞記者の目で、部員の振るまいをより丁寧にチェックするようにもなった。その結果、最近は「試合会場で見る部員の姿は仮りの姿。本当の姿は上ヶ原の第3フィールドにある」と思うようになった。
試合会場でライバルを相手に活躍している姿こそ、選手にとっての晴れ舞台。ファンの誰もがそう思っておられるに違いない。だが、僕は最近、第3フィールドこそ部員にとっての晴れ舞台であり、そこでもがき苦しんでいる姿が千両役者だと思えるようになっているのである。
どういうことか。今季の初戦、同志社大との試合で、誰もが「おっ、やるじゃないか」と思うような活躍をした選手たちの名前を挙げて説明してみよう。
まずは、正真正銘の新戦力として活躍した1年生から。初戦のメンバー表を見た人は、先発メンバーにOLの井若君(箕面自由)とWR前田泰一君(関大一)の二人が名前を連ねているのに驚かれたに違いない。試合が始まって間もなく、同じ1年生のRB高松君(箕面自由)、DB小椋君(同)、DL藤木、三木、柴田君の3人と、WR中西君(いずれも高等部)らが交代メンバーとして次々に登場し、スタメンで出た二人とともに縦横無尽に活躍した姿にもびっくりされただろう。
この日が初めての公式戦なのに、前田君や中西君は当然のようにロングパスをキャッチし、高松君は30ヤードの独走TDを決めた。小椋君は、もう何年も試合に出続けているような安定した守備を見せたし、高等部のDL3人組も、それぞれが競い合うように鋭いフットワークでタックルを連発した。先発で左のタックルを任された井若君は、173センチという小柄な体からは想像も出来ない粘り腰で、QBの背後を守り切った。
けれども、上ヶ原での練習ぶりを何度も観察していた僕は、彼らが活躍するのは「当然、当たり前のこと」だった。
チーム練習の前に、前田君はアシスタントコーチの梅本君を相手に、何度も何度も同じ練習を続け、守備選手の交わし方のタイミングを身に付けようとしていた。井若君は、同じくアシスタントコーチ池永君の胸を借りて「強くて素早いDL」を相手にしたときの身のこなし、足の運び、腰の落とし方などを徹底的に追求、その動きを体に覚えさせようと必死だった。
DLの高等部3人組も負けてはいない。4年生の岡部君や3年生の小川君らをお手本に、スタートのタイミングの取り方やタックルの練習を、これでもか、というほど続けていた。
RBの高松君や山本君(立教新座)も、身のこなしが素早くて当たりが強い4年生の鷺野君や飯田君からマンツーマンの指導を受け、首の守り方からタックルの受け方、交わし方まで、徹底的な反復練習を続けていた。
同じような取り組みは、2年生も同様だった。この日の試合でともにTDパスをキャッチしたTEの藏野君と杉山君も、数日前の練習で、大村コーチが見守る中、アシスタントコーチの池田君や長森君を相手に、スタートのタイミングや足の運び、タックルの交わし方などを、繰り返し繰り返し練習していた。
そういう実戦を想定した練習、取り組みを徹底してきたから、彼らはみな本番でも軽快な動きが出来た。「準備してきたことを遂行するだけ。結果は付いてくる」という、極めてシンプルな考え方で試合に臨めたから、初戦というプレッシャーに動じることなく、堂々と戦えたのである。
練習のための練習ではない。マニュアル通りの練習でもない。試合を想定した練習、それも初戦だけでなく、これから続く強烈な力を秘めたライバルたちを想定して、全日本級の力を持つ先輩やアシスタントコーチを相手に、何度も転がされ、徹底的に汗をかいてきた結果が、あの華々しいデビューとなったのである。
相手は1、2年生とはいえ、本気になってその練習台を務めた上級生が活躍したことはいうまでもない。
定例のチーム練習の前に、どのパートでもこうした真剣勝負が毎日行われているのが、上ヶ原の第3フィールドである。そこは練習グラウンドではなく、晴れ舞台であるという意味がここにある。
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