石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(12)今年の漢字
今日は2カ月ぶりに眼科の診察日。夕方、早めに勤務を終えて病院に向かい、順番を待つ。待合室のベンチから雨にけぶる山並みを眺め、考えるのはファイターズのこと。まだJVの試合が二つ残っているが、自分なりに春のシーズンを振り返ってみた。
さて、今年はどんな漢字が象徴するチームになるのだろうか。これを思案していると、近年、甲子園ボウルで勝ったチームのことが次々と浮かんできた。
2007年、岡田主将が率い、QB三原君が最高のパスゲームを展開した時は、4年生が懸命の努力を続けた。選手層はお世辞にも厚いとは言えなかったけど「ラインは家族や。一心同体や」といって結束を固めたオフェンスライン。QBとレシーバー陣はいつも、練習が始まる2時間以上前からグラウンドの中央を独占してパスキャッチの練習。三原君の投げるパスをレシーバーの秋山、榊原、岸、萬代君らがひたすら追いかける。シーズンが深まるにつれて、ほとんど落とす場面はなくなったが、それでも失敗した時は自発的に腕立て伏せ10回。彼らの求道者のような練習ぶりは、見ている方まで背筋が伸びるような気がしたことを思い出す。
この年のチームを漢字一文字で表すとすれば、努力の「努」であろう。
2011年、松岡主将が率いたチームはどうか。彼らは3年連続、甲子園ボウル出場がかなわなかった学年だったが、主将の松岡君と副将の長島君を中心とした幹部の統率力でチームを牽引した。その統率力は、練習や試合の時はもちろん、日常の取り組みの中でも存分に発揮された。
チームに貢献した部員にプライズシールを与えて、その功績を顕彰し始めたのはこの学年からだし、下宿生の栄養補給を目的に朝食会が定例化されたのも、この年からだ。大学職員の昼休み時間にコーチの部屋を訪ね、そこでミーティングをするようになったのもこの年からだし、単位の取得が滞っている部員を対象に補習授業を始めたのもこの年だった。僕もちょこっと協力させてもらったから、その一端を承知しているが、学習面で自信をつけたことで、プレーヤーとしても飛躍的に伸びた選手が間違いなく存在した。
もちろん、練習や試合でのリーダーシップも異彩を放っていた。練習中、グラウンドの真ん中で、松岡君と長島君が本気で殴り合いそうになった場面を目撃した僕は、そのとき「彼らは本気だ。絶対に甲子園に行く。日本1になる」と確信した。
そういう統率力のあるリーダーたちが率いたチームである。この年の漢字は「統率」しか考えられない。一字で表現すれば「統」である。
2012年、梶原主将が率いたチームは、梶原君の存在感が圧倒的だった。率先垂範。主将がいつも先頭に立って戦い、士気を高めた。チーム浮沈のカギを握るDLの柱として、常に戦いの先頭に立ち、闘志をむき出しにして相手に襲い掛かった。味方にすればこれほど頼もしい選手はいないが、相手にすれば、これほど厄介なやつもいない。それは先日、パナソニックのDLとして、QB斎藤君に襲い掛かった姿を見た人はすべてが思い知ったことだろう。
実は、梶原君だけではない。この年のRBには、望月君という突貫小僧がいた。闘志むき出しで相手に当たり、跳ね飛ばすことに快感を覚えるという、これまた相手にとっては厄介な選手だった。そう思ってこの年のメンバーを思い浮かべてみると、WRの小山君、和田君、QBの畑君、TEの金本君、LBの川端君、DLの岸君や前川君。相手を飲んでかかった選手の名前が次々に思い出される。
そういう意味では、この年の漢字は闘志の「闘」で決まりだろう。
そして昨年、池永主将が率いたチームはどうか。努力もリーダーシップも闘志も、それぞれ素晴らしかった。けれども、それがこれまでに挙げた3年のチームをさらに上回るかといえば、そうでもない。
主将池永君、副将の池田君、友国君、鳥内君の顔を思い浮かべながら、彼らに似合う言葉を探してみると「信頼」という言葉がふさわしいように思えてきた。関西リーグ最終の立命戦を思い浮かべてみると、それは理解してもらえるだろう。
相手の守備力と当方の攻撃力、当方の守備力と相手の攻撃力。決定的な決め手を持っている相手のキッキングチーム。そして当方は全勝で迎え、相手は1敗しているという条件を冷静に把握すれば、戦い方もおのずから決まってくる。「相手に点をやらなければ勝てる」「勝つためには、相手をFG圏内にも進めてはいけない」。そういうミッションをもって守備陣は懸命に踏ん張った。
その象徴的な場面が第2Q終盤、自陣ゴール前23ヤードで相手にボールを奪われた局面で表れた。相手の第一プレーはパス。ジャンプしたLB池田君が指先でちょこっと触れ、少しコースが変わったところをLB吉原君がカット。大きく跳ね上がったボールをDB大森君がすっぽりと腕に抱え込んでターンオーバー。もし、最初のプレーでFGを狙われていたら確実に3点を奪われた場面を、守備の3人の連携で見事に断ち切ったのだ。
オフェンスもまた、少しでも守備の負担を少なくするようにとラインが結束。陣地を進めた。4年生レシーバーは3年生QBをとことん信頼し、困ったときは俺に投げてこいといい続けた。QBもそれに応えて果敢に攻め続けた。その結果が0-0の引き分け。負けなかったファイターズは堂々と甲子園に歩を進めた。
こういうチームである。仲間を徹底的に信じて戦った彼らには「信頼」、一字で表せば「信」の字が一番似合うのではないか。
あの場面、この場面と回想しながら、あれこれ考えていると、病院の長い待ち時間はあっという間に過ぎ去った。
さて、鷺野主将率いる今年のチームには、どんな漢字が当てはまるだろうか。それはこれからの彼らの取り組みにかかっている。夏に鍛え、木枯らしが吹く時期になっても、全員が自らを高め続けることができれば、その答えは出る。
僕はひたすら、後々まで語り継がれるようなチームを創造してくれることを願っている。
さて、今年はどんな漢字が象徴するチームになるのだろうか。これを思案していると、近年、甲子園ボウルで勝ったチームのことが次々と浮かんできた。
2007年、岡田主将が率い、QB三原君が最高のパスゲームを展開した時は、4年生が懸命の努力を続けた。選手層はお世辞にも厚いとは言えなかったけど「ラインは家族や。一心同体や」といって結束を固めたオフェンスライン。QBとレシーバー陣はいつも、練習が始まる2時間以上前からグラウンドの中央を独占してパスキャッチの練習。三原君の投げるパスをレシーバーの秋山、榊原、岸、萬代君らがひたすら追いかける。シーズンが深まるにつれて、ほとんど落とす場面はなくなったが、それでも失敗した時は自発的に腕立て伏せ10回。彼らの求道者のような練習ぶりは、見ている方まで背筋が伸びるような気がしたことを思い出す。
この年のチームを漢字一文字で表すとすれば、努力の「努」であろう。
2011年、松岡主将が率いたチームはどうか。彼らは3年連続、甲子園ボウル出場がかなわなかった学年だったが、主将の松岡君と副将の長島君を中心とした幹部の統率力でチームを牽引した。その統率力は、練習や試合の時はもちろん、日常の取り組みの中でも存分に発揮された。
チームに貢献した部員にプライズシールを与えて、その功績を顕彰し始めたのはこの学年からだし、下宿生の栄養補給を目的に朝食会が定例化されたのも、この年からだ。大学職員の昼休み時間にコーチの部屋を訪ね、そこでミーティングをするようになったのもこの年からだし、単位の取得が滞っている部員を対象に補習授業を始めたのもこの年だった。僕もちょこっと協力させてもらったから、その一端を承知しているが、学習面で自信をつけたことで、プレーヤーとしても飛躍的に伸びた選手が間違いなく存在した。
もちろん、練習や試合でのリーダーシップも異彩を放っていた。練習中、グラウンドの真ん中で、松岡君と長島君が本気で殴り合いそうになった場面を目撃した僕は、そのとき「彼らは本気だ。絶対に甲子園に行く。日本1になる」と確信した。
そういう統率力のあるリーダーたちが率いたチームである。この年の漢字は「統率」しか考えられない。一字で表現すれば「統」である。
2012年、梶原主将が率いたチームは、梶原君の存在感が圧倒的だった。率先垂範。主将がいつも先頭に立って戦い、士気を高めた。チーム浮沈のカギを握るDLの柱として、常に戦いの先頭に立ち、闘志をむき出しにして相手に襲い掛かった。味方にすればこれほど頼もしい選手はいないが、相手にすれば、これほど厄介なやつもいない。それは先日、パナソニックのDLとして、QB斎藤君に襲い掛かった姿を見た人はすべてが思い知ったことだろう。
実は、梶原君だけではない。この年のRBには、望月君という突貫小僧がいた。闘志むき出しで相手に当たり、跳ね飛ばすことに快感を覚えるという、これまた相手にとっては厄介な選手だった。そう思ってこの年のメンバーを思い浮かべてみると、WRの小山君、和田君、QBの畑君、TEの金本君、LBの川端君、DLの岸君や前川君。相手を飲んでかかった選手の名前が次々に思い出される。
そういう意味では、この年の漢字は闘志の「闘」で決まりだろう。
そして昨年、池永主将が率いたチームはどうか。努力もリーダーシップも闘志も、それぞれ素晴らしかった。けれども、それがこれまでに挙げた3年のチームをさらに上回るかといえば、そうでもない。
主将池永君、副将の池田君、友国君、鳥内君の顔を思い浮かべながら、彼らに似合う言葉を探してみると「信頼」という言葉がふさわしいように思えてきた。関西リーグ最終の立命戦を思い浮かべてみると、それは理解してもらえるだろう。
相手の守備力と当方の攻撃力、当方の守備力と相手の攻撃力。決定的な決め手を持っている相手のキッキングチーム。そして当方は全勝で迎え、相手は1敗しているという条件を冷静に把握すれば、戦い方もおのずから決まってくる。「相手に点をやらなければ勝てる」「勝つためには、相手をFG圏内にも進めてはいけない」。そういうミッションをもって守備陣は懸命に踏ん張った。
その象徴的な場面が第2Q終盤、自陣ゴール前23ヤードで相手にボールを奪われた局面で表れた。相手の第一プレーはパス。ジャンプしたLB池田君が指先でちょこっと触れ、少しコースが変わったところをLB吉原君がカット。大きく跳ね上がったボールをDB大森君がすっぽりと腕に抱え込んでターンオーバー。もし、最初のプレーでFGを狙われていたら確実に3点を奪われた場面を、守備の3人の連携で見事に断ち切ったのだ。
オフェンスもまた、少しでも守備の負担を少なくするようにとラインが結束。陣地を進めた。4年生レシーバーは3年生QBをとことん信頼し、困ったときは俺に投げてこいといい続けた。QBもそれに応えて果敢に攻め続けた。その結果が0-0の引き分け。負けなかったファイターズは堂々と甲子園に歩を進めた。
こういうチームである。仲間を徹底的に信じて戦った彼らには「信頼」、一字で表せば「信」の字が一番似合うのではないか。
あの場面、この場面と回想しながら、あれこれ考えていると、病院の長い待ち時間はあっという間に過ぎ去った。
さて、鷺野主将率いる今年のチームには、どんな漢字が当てはまるだろうか。それはこれからの彼らの取り組みにかかっている。夏に鍛え、木枯らしが吹く時期になっても、全員が自らを高め続けることができれば、その答えは出る。
僕はひたすら、後々まで語り継がれるようなチームを創造してくれることを願っている。
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