石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(7)括目して見よ
友人の木工作家にお願いしていた仕事用の机と椅子のセットが届いた。これまでの机は高さが調節できず、根を詰めて原稿を書いていると、どうしても姿勢が悪くなり、肩が凝って仕方なかったので、僕の体型に合わせて特別に作ってもらっていたのだ。
さすがは熟練の仕事である。椅子の座り心地はいいし、机の高さもぴったりだ。仕事もはかどる。原稿を書いたり本を読んだりする以外の時間にも、ずっと座っていたい気分になる。
この作家からは、数年前にも別の種類の椅子を購入して使っているが、当時の椅子より今回の椅子の方がはるかに座り心地がいい。職人としての技術が何段階か向上しているのだろう。
「相当、腕が上がったんと違いますか」。ぶしつけとは思いながら、そこは友人の気安さ。遠慮のない問い掛けをすると「そう言っていただくとうれしい。いつも昨日より今日、今日より明日、という気持ちで取り組んでいますから。ちょっとでも評価されると励みになります」。謙遜の中にも多少の自負を交えた答えが返ってきた。
その通りである。人間、何歳になっても、何かを手にしたと思っても、それでも「昨日より今日、今日より明日」という向上心を持って取り組むことが肝要である。その向上心と努力が、気がつけば3年前、5年前とは全く違った高みに自分を引き上げている。それは70歳を目前にした新聞記者でも、机や椅子を製作する熟練の職人でも変わることではない。
もちろん、20歳前後の大学生においては、成長の実感はもっともっと具体的である。3日前に捕れなかったパスが今日は捕れた、3週間前には追いつけなかった相手に今日はタックル出来た、3カ月前には全くかなわなかった相手と今日は対等にぶつかり合えた、そんなことは、まじめに練習に取り組み、試合に集中している人間なら、必ずどこかで実感することである。
今春のファイターズの2年生たちを見ていると、そのことがよく分かる。QB伊豆(箕面)は試合のたびに成長しているし、4月中旬の紅白戦で、全くといっていいほど活躍できなかったWR陣も先日の明治大学との試合では立て続けにTDを連発した。
今春、彗星のように登場したRB橋本(清教学園)は、第1Q半ば、グラウンドの中央付近からドロープレーで抜け出したと思ったら、そのまま51ヤードを走り切ってTD。次は相手陣29ヤードでQB伊豆からショベルパスを受けると、そのまま中央を走り切って2本目のTD。
2年生レシーバーたちも負けてはいない。まずはWR芝山が伊豆からの長いパスをキャッチすると、一気にサイドライン際を駆け上がって80ヤードのTD。続いて水野(池田)が6ヤードのTDパスキャッチ。TDにはならなかったが、WR荻原や藤原、TE杉山らがそれぞれ非凡なところを見せつけ、2年生同士の激しい競争の一端を見せつけた。
同じことは守備陣にもいえる。とりわけ小野、作道、山岸といったレギュラー陣を温存し、2年生を中心にしたフレッシュなメンバーを次々に起用したLB陣の競争が激しい。松尾(高等部)を中心に幸田(箕面)、元原(関西大倉)の2年生がはつらつとしたプレーを見せれば、3年生の山野や高も負けてはいない。誰もがチーム内競争に勝ち抜こうと懸命にプレーする姿は、感動的でさえあった。
DB陣の競争も激化している。昨年の先発メンバーとして唯一残った田中は試合には出ないで控え選手のアドバイスに徹しているが、残る面々が上級生、下級生の別なく、入れ替わり立ち変わり登場して、激しいポジション争いを展開している。
DL陣も同様だ。先発こそ4年生の岡部や国安、3年生の浜が並んだが、ここでも2年生同士の競争が激しい。昨年の試合にも登場した怪力の松本(高等部)は休んでいるが、この日先発した安田(啓明)のほかに、油野(啓明)、パング(横浜栄)、大野(関西大倉)、福田(追手門学院)らが次々と登場、それぞれに目につくプレーを見せてくれた。
このように、5月に入ってからの龍谷大学や明治大学との試合に登場した2年生の名前を挙げていくと、今年は彼らがチーム浮沈のカギを握っているように思えてならない。それは監督やコーチも同様だろう。だからこそ、昨年まで先発メンバーに名前を連ねていた主力選手をあえてベンチに置き、新しいメンバーにチャンスを与えているのだ。試合で経験を積ませることが、何よりも成長のステップになると信じて、少々の失敗には目をつぶって使い続けているのである。
ここ数年、ファイターズは「勝負は秋。春はチーム力の底上げ」と思い定めたような取り組みを続けてきた。今年はその傾向が例年以上に顕著である。あえて2年生を中心にメンバーを組み、その能力を引き出そうと工夫しているのがスタンドからでもありありとうかがえる。
「社会人に勝つというなら、勝てる選手になれ」という鳥内監督の方針が貫徹されているのである。
選手がそれに応えられるかどうか。
男子は3日会わなかったら括目(かつもく=目をこすって見ること)して見よ、という言葉がある。真の男は、たった3日会わないうちに目を見張るほど成長しているという意味である。
関西大学、パナソニック。まだまだ試金石となる試合が続く。そこで「括目して見る」活躍ができるように「昨日より今日、今日より明日」という強い決意で練習に励んでもらいたい。道は開ける。
さすがは熟練の仕事である。椅子の座り心地はいいし、机の高さもぴったりだ。仕事もはかどる。原稿を書いたり本を読んだりする以外の時間にも、ずっと座っていたい気分になる。
この作家からは、数年前にも別の種類の椅子を購入して使っているが、当時の椅子より今回の椅子の方がはるかに座り心地がいい。職人としての技術が何段階か向上しているのだろう。
「相当、腕が上がったんと違いますか」。ぶしつけとは思いながら、そこは友人の気安さ。遠慮のない問い掛けをすると「そう言っていただくとうれしい。いつも昨日より今日、今日より明日、という気持ちで取り組んでいますから。ちょっとでも評価されると励みになります」。謙遜の中にも多少の自負を交えた答えが返ってきた。
その通りである。人間、何歳になっても、何かを手にしたと思っても、それでも「昨日より今日、今日より明日」という向上心を持って取り組むことが肝要である。その向上心と努力が、気がつけば3年前、5年前とは全く違った高みに自分を引き上げている。それは70歳を目前にした新聞記者でも、机や椅子を製作する熟練の職人でも変わることではない。
もちろん、20歳前後の大学生においては、成長の実感はもっともっと具体的である。3日前に捕れなかったパスが今日は捕れた、3週間前には追いつけなかった相手に今日はタックル出来た、3カ月前には全くかなわなかった相手と今日は対等にぶつかり合えた、そんなことは、まじめに練習に取り組み、試合に集中している人間なら、必ずどこかで実感することである。
今春のファイターズの2年生たちを見ていると、そのことがよく分かる。QB伊豆(箕面)は試合のたびに成長しているし、4月中旬の紅白戦で、全くといっていいほど活躍できなかったWR陣も先日の明治大学との試合では立て続けにTDを連発した。
今春、彗星のように登場したRB橋本(清教学園)は、第1Q半ば、グラウンドの中央付近からドロープレーで抜け出したと思ったら、そのまま51ヤードを走り切ってTD。次は相手陣29ヤードでQB伊豆からショベルパスを受けると、そのまま中央を走り切って2本目のTD。
2年生レシーバーたちも負けてはいない。まずはWR芝山が伊豆からの長いパスをキャッチすると、一気にサイドライン際を駆け上がって80ヤードのTD。続いて水野(池田)が6ヤードのTDパスキャッチ。TDにはならなかったが、WR荻原や藤原、TE杉山らがそれぞれ非凡なところを見せつけ、2年生同士の激しい競争の一端を見せつけた。
同じことは守備陣にもいえる。とりわけ小野、作道、山岸といったレギュラー陣を温存し、2年生を中心にしたフレッシュなメンバーを次々に起用したLB陣の競争が激しい。松尾(高等部)を中心に幸田(箕面)、元原(関西大倉)の2年生がはつらつとしたプレーを見せれば、3年生の山野や高も負けてはいない。誰もがチーム内競争に勝ち抜こうと懸命にプレーする姿は、感動的でさえあった。
DB陣の競争も激化している。昨年の先発メンバーとして唯一残った田中は試合には出ないで控え選手のアドバイスに徹しているが、残る面々が上級生、下級生の別なく、入れ替わり立ち変わり登場して、激しいポジション争いを展開している。
DL陣も同様だ。先発こそ4年生の岡部や国安、3年生の浜が並んだが、ここでも2年生同士の競争が激しい。昨年の試合にも登場した怪力の松本(高等部)は休んでいるが、この日先発した安田(啓明)のほかに、油野(啓明)、パング(横浜栄)、大野(関西大倉)、福田(追手門学院)らが次々と登場、それぞれに目につくプレーを見せてくれた。
このように、5月に入ってからの龍谷大学や明治大学との試合に登場した2年生の名前を挙げていくと、今年は彼らがチーム浮沈のカギを握っているように思えてならない。それは監督やコーチも同様だろう。だからこそ、昨年まで先発メンバーに名前を連ねていた主力選手をあえてベンチに置き、新しいメンバーにチャンスを与えているのだ。試合で経験を積ませることが、何よりも成長のステップになると信じて、少々の失敗には目をつぶって使い続けているのである。
ここ数年、ファイターズは「勝負は秋。春はチーム力の底上げ」と思い定めたような取り組みを続けてきた。今年はその傾向が例年以上に顕著である。あえて2年生を中心にメンバーを組み、その能力を引き出そうと工夫しているのがスタンドからでもありありとうかがえる。
「社会人に勝つというなら、勝てる選手になれ」という鳥内監督の方針が貫徹されているのである。
選手がそれに応えられるかどうか。
男子は3日会わなかったら括目(かつもく=目をこすって見ること)して見よ、という言葉がある。真の男は、たった3日会わないうちに目を見張るほど成長しているという意味である。
関西大学、パナソニック。まだまだ試金石となる試合が続く。そこで「括目して見る」活躍ができるように「昨日より今日、今日より明日」という強い決意で練習に励んでもらいたい。道は開ける。
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