石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(12)鮮やかな逆転勝利、だけど。
11-10。19日の関大戦は、試合終了8秒前、ファイターズがQB加藤からRB久司に鮮やかなショベルパスを決め、2点をもぎ取って逆転勝ち。詰めかけた大勢のファンが「すごい追い上げ。まるで1昨年の甲子園ボウルみたい」と大喜びする幕切れだった。
たしかに、自陣27ヤード地点から始まった最後の攻撃シリーズは素晴らしかった。実は、この攻撃シリーズは、ある意味で関大からもらったチャンスだった。説明しよ
う。
物語は、その前のファイターズの攻撃シリーズから始まる。3-10でリードする関大を追うファイターズの攻撃は、自陣26ヤード付近から。まずQB浅海のキープで8ヤード、続く久司のランでダウンを更新。ここまではよかった。しかし、ここでファイターズのOLに手痛いパーソナルファールがあり、15ヤードの罰退。起死回生のパスを狙ったが、相手守備陣に狙い澄ましたブリッツを決められ、陣地は後退するばかり。第4ダウンでパントを蹴ろうとした時点ではゴール前3ヤード付近まで追いつめられた。
あわやセーフティーというピンチだったが、K高野が落ち着いてパントを決め、自陣47ヤード付近まで盛り返して、攻撃権は関大に移る。勢いに乗る相手は、この局面からぐいぐいとランプレーで押し込み、気がつけばゴール前25ヤード付近に迫っている。第4ダウン1ヤード。さあ、フィールドゴールを決めてファイターズを突き放すか、それとも勢いに乗って第4ダウンも攻撃してくるか。3点を取られ、3-13とされれば、残り時間から考えて、ファイターズにほとんど勝ち目はない。けれども、強い風が吹く中で42ヤードという距離は、微妙。この日の彼我の勢いから考えると、押せ押せムードに乗ってギャンブルに来る選択も当然考えられる。
案の定、関大は第4ダウンも攻撃を選択。それをファイターズ守備陣が極端に言えば「全員ブリッツ」とでもいうようなプレーで食い止めたのだ。この時のDLは、4人中3人が1年生。金本(滝川)、梶原(箕面自由)、早坂(法政二)という、ほとんど試合経験のない面々である。彼らが相手OLに真っ向から当たった瞬間に、吉川を中心にしたLB陣が相手のボールキャリアに襲いかかり、攻撃を食い止めた。チーム一丸となった見事なプレーだった。
もし、相手がFGを選択していたら、もし、QBがRBにボールを渡さず、自ら中央を突破するプレーを選択していたら、というのは結果論。だが、とにかくファイターズは、最高の形で攻撃権を手に入れたのである。
そこからの攻撃は、鮮やかだった。まず、加藤からTE垣内への短いパスを決めて陣地を進め、次は加藤からWR松原への22ヤードパスで相手陣に攻め込む。次のパスは失敗したが、続けてWR萬代に10ヤードのパスを決めてダウン更新。敵陣35ヤードからの攻撃はまたもやWR柴田へのパス。ここで相手DBがインターフェアの反則で敵陣21ヤード。ここでまた垣内への短いパスとRB松岡へのスクリーン気味のパスが通ってついにゴール前10ヤード。
相手がパスを警戒する中で、あえてパスを投げ続け、一気に60ヤード以上を稼いだファイターズのパス攻撃がさえる。しかし、ここで再び、OLが手痛い反則。トリッピングで15ヤードを下げられてしまう。
残り時間はどんどんなくなっていく。パスを警戒されても、パスで行くしかない、と思ったところで、加藤から松岡への絶妙のドロープレー。松岡が中央を走り込み、残り4ヤード。ここでタイムアウトをとり、じっくり作戦を練って加藤から松原へのパス。これを相手DBがゴール内でインターフェア。ゴール前2ヤードからの攻撃を加藤が右隅に走り込んでTD。残り時間8秒というギリギリの場面で9-10に追い上げる。
さあ、ここでどうする。成功する確率は低くても2点を取って勝ちに行くか、確実にキックで同点、引き分けを狙うか。当然のことながら、ベンチが選択したのは勝ちに行くプレー。ここで、加藤から久司へのショベルパスが見事に決まって、11-10。薄氷の逆転勝利を収めた。
と、ファイターズが鮮やかに攻め込んだ場面だけを取り上げれば、まさに1昨年の甲子園ボウル、日大戦の幕切れを思わせる劇的な勝利である。だが、現実はそんなにかっこいいモノではない。試合開始当初から、関大の周到なランプレーに押しまくられ、ディフェンスは四苦八苦。攻撃も、要所要所で相手にラインを割られたり手痛い反則を犯したりして、リズムに乗れない。終始、相手に先手を許し、最後の最後まで苦しい戦いを強いられたのが実情である。それは相手の獲得ヤードが237ヤード、ファイターズが最後の73ヤードのTDドライブを含めて185ヤードという数字をみても、明かである。
かろうじてK高野のロングパントと、K大西の45ヤードフィールドゴールで、接戦に持ち込んでいたが、これが秋のリーグ戦だったら、と背筋が寒くなったのでは、僕だけではあるまい。
思えば、春のシーズンは日大、京大に勝つには勝ったが圧倒され、その後の明治とアサヒ飲料には敗戦。そして最終の関大戦も、あわやというところまで追いつめられた。鮮やかな逆転勝ちを喜んでいるような状況ではないのである。
これらの試合で突きつけられた、たくさんの宿題にどんな回答を用意するか。立命に勝って日本1というのなら、ファイターズの全員が、宮本武蔵が「五輪書」にいう「よくよく工夫し、朝鍛、夕錬を重ねるべし」。すなわち、自分のやるべきことを見据え、工夫し、朝に鍛錬、夕べに鍛錬を重ねるしかないのである。がんばろうではないか。
たしかに、自陣27ヤード地点から始まった最後の攻撃シリーズは素晴らしかった。実は、この攻撃シリーズは、ある意味で関大からもらったチャンスだった。説明しよ
う。
物語は、その前のファイターズの攻撃シリーズから始まる。3-10でリードする関大を追うファイターズの攻撃は、自陣26ヤード付近から。まずQB浅海のキープで8ヤード、続く久司のランでダウンを更新。ここまではよかった。しかし、ここでファイターズのOLに手痛いパーソナルファールがあり、15ヤードの罰退。起死回生のパスを狙ったが、相手守備陣に狙い澄ましたブリッツを決められ、陣地は後退するばかり。第4ダウンでパントを蹴ろうとした時点ではゴール前3ヤード付近まで追いつめられた。
あわやセーフティーというピンチだったが、K高野が落ち着いてパントを決め、自陣47ヤード付近まで盛り返して、攻撃権は関大に移る。勢いに乗る相手は、この局面からぐいぐいとランプレーで押し込み、気がつけばゴール前25ヤード付近に迫っている。第4ダウン1ヤード。さあ、フィールドゴールを決めてファイターズを突き放すか、それとも勢いに乗って第4ダウンも攻撃してくるか。3点を取られ、3-13とされれば、残り時間から考えて、ファイターズにほとんど勝ち目はない。けれども、強い風が吹く中で42ヤードという距離は、微妙。この日の彼我の勢いから考えると、押せ押せムードに乗ってギャンブルに来る選択も当然考えられる。
案の定、関大は第4ダウンも攻撃を選択。それをファイターズ守備陣が極端に言えば「全員ブリッツ」とでもいうようなプレーで食い止めたのだ。この時のDLは、4人中3人が1年生。金本(滝川)、梶原(箕面自由)、早坂(法政二)という、ほとんど試合経験のない面々である。彼らが相手OLに真っ向から当たった瞬間に、吉川を中心にしたLB陣が相手のボールキャリアに襲いかかり、攻撃を食い止めた。チーム一丸となった見事なプレーだった。
もし、相手がFGを選択していたら、もし、QBがRBにボールを渡さず、自ら中央を突破するプレーを選択していたら、というのは結果論。だが、とにかくファイターズは、最高の形で攻撃権を手に入れたのである。
そこからの攻撃は、鮮やかだった。まず、加藤からTE垣内への短いパスを決めて陣地を進め、次は加藤からWR松原への22ヤードパスで相手陣に攻め込む。次のパスは失敗したが、続けてWR萬代に10ヤードのパスを決めてダウン更新。敵陣35ヤードからの攻撃はまたもやWR柴田へのパス。ここで相手DBがインターフェアの反則で敵陣21ヤード。ここでまた垣内への短いパスとRB松岡へのスクリーン気味のパスが通ってついにゴール前10ヤード。
相手がパスを警戒する中で、あえてパスを投げ続け、一気に60ヤード以上を稼いだファイターズのパス攻撃がさえる。しかし、ここで再び、OLが手痛い反則。トリッピングで15ヤードを下げられてしまう。
残り時間はどんどんなくなっていく。パスを警戒されても、パスで行くしかない、と思ったところで、加藤から松岡への絶妙のドロープレー。松岡が中央を走り込み、残り4ヤード。ここでタイムアウトをとり、じっくり作戦を練って加藤から松原へのパス。これを相手DBがゴール内でインターフェア。ゴール前2ヤードからの攻撃を加藤が右隅に走り込んでTD。残り時間8秒というギリギリの場面で9-10に追い上げる。
さあ、ここでどうする。成功する確率は低くても2点を取って勝ちに行くか、確実にキックで同点、引き分けを狙うか。当然のことながら、ベンチが選択したのは勝ちに行くプレー。ここで、加藤から久司へのショベルパスが見事に決まって、11-10。薄氷の逆転勝利を収めた。
と、ファイターズが鮮やかに攻め込んだ場面だけを取り上げれば、まさに1昨年の甲子園ボウル、日大戦の幕切れを思わせる劇的な勝利である。だが、現実はそんなにかっこいいモノではない。試合開始当初から、関大の周到なランプレーに押しまくられ、ディフェンスは四苦八苦。攻撃も、要所要所で相手にラインを割られたり手痛い反則を犯したりして、リズムに乗れない。終始、相手に先手を許し、最後の最後まで苦しい戦いを強いられたのが実情である。それは相手の獲得ヤードが237ヤード、ファイターズが最後の73ヤードのTDドライブを含めて185ヤードという数字をみても、明かである。
かろうじてK高野のロングパントと、K大西の45ヤードフィールドゴールで、接戦に持ち込んでいたが、これが秋のリーグ戦だったら、と背筋が寒くなったのでは、僕だけではあるまい。
思えば、春のシーズンは日大、京大に勝つには勝ったが圧倒され、その後の明治とアサヒ飲料には敗戦。そして最終の関大戦も、あわやというところまで追いつめられた。鮮やかな逆転勝ちを喜んでいるような状況ではないのである。
これらの試合で突きつけられた、たくさんの宿題にどんな回答を用意するか。立命に勝って日本1というのなら、ファイターズの全員が、宮本武蔵が「五輪書」にいう「よくよく工夫し、朝鍛、夕錬を重ねるべし」。すなわち、自分のやるべきことを見据え、工夫し、朝に鍛錬、夕べに鍛錬を重ねるしかないのである。がんばろうではないか。
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