石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(38)花いちもんめ
悔しくてならない。ライスボウルが終わって6時間。夜道を和歌山県田辺市まで戻り、ようやくパソコンの前に座ったが、それでも悔しくて悔しくて、なかなか気持ちの整理がつかない。
34-16。ライスボウルでは3年連続の敗退である。この現実は潔く受け止める。
しかし、しかしである。主力選手が全員、万全の状態で試合に臨んでいたらどうだったか。勝負に「たら」も「れば」もないことは重々承知している。選手も監督やコーチも、試合結果についてぐだぐだと言い訳するようなことは、100%あり得ない。
だが、シーズンが深まるとともに攻守とも主力メンバーに故障が相次ぎ、それぞれが極めて厳しい状況だったことを知っている僕には、もし彼らが万全な状態で出場し、真っ向から社会人チームと渡り合っていたらと、ついつい考えてしまうのである。
ある選手は立命戦の直前、練習中のけがで救急車で病院に運ばれ、そのまま入院した。ある選手は、脱臼で片腕が使えないまま、試合に出続けた。またある選手は、昨年の試合中に重傷を負い、手術で回復したものの、試合で激しい動きをすると熱が出る、だましだましやるしかありません、と苦しい胸の内を明かしてくれた。
これらがみな、攻守の主力選手である。それぞれが何事もないような顔をして試合に出続け、目を見張るような素晴らしいプレーを何度も披露してくれた。そして関西リーグ優勝の立役者になり、甲子園ボウルでも日大を圧倒する主役を務めた。
痛む体を引きづり、だましだましのプレーを、何食わぬ顔でやり続けてきた彼らがいてくれたから、何とかライスボウルまで駒を進めることができた。だが、LB池田雄紀君の場合はそうはいかなかった。甲子園ボウルを前にした練習で左足を痛め、松葉杖なしでは歩けない状態で甲子園に登場した姿は、相手チームに焼き付いている。ぶっつけ本番で、この日の試合には出場したが、いつもの速くて強くてシャープな彼ではないことは、即座に見破られてしまった。
当然だろう。12月最後の練習を見に行ったときには、まだ軽いジョグしかできない状態。今日、東京ドームでジャージを着てグラウンドに立っていること自体が奇跡のようなことだったのだ。
しかし、彼は副将であり、ファイターズ守備の要である。足が痛いの動けないのとは、口が裂けても弁解しない。黙って役割を果たし、執拗にブリッツをかけ続けた。それがわずかに届かず、相手に交わされる姿をテレビの画面(そう、この日は新幹線が全面的にストップし、チームのスタッフの多くや一部の交代メンバー、それにゲーム進行にベンチで重要な役割を果たすメンバーらが試合開始に間に合わなかった。僕も急きょ、新大阪駅から西宮に引き返し、自宅でテレビを見ながら応援するしかなかった。これもまた悔しい出来事だった)で見ながら、思うようにプレーができない彼の胸中を思うと、僕は悔しくて悔しくてならなかったのである。
池田君が万全に動けなかったら、その分、同じLBの小野君らにかかる負担は倍加する。今季ファイターズの強力な守備陣を支えてきたLB陣の動きが制約されれば、DLやDBの動きにも影響は避けられない。その結果、相手にランプレーを自信をもって通され、気分的にも余裕を与えてしまう。
実力のある相手に余裕をもってプレーされたら、当然のことだがゲーム展開は相手のペースになる。ファイターズの戦術的な工夫も思い切った作戦も、相手をあわてさせるところまでには至らない。そういうことの総和が34-16というこの日の結果である。
この試合の結果から、ネットではもう「学生は社会人に勝てないのでは」というような議論が持ち上がっている。今朝の朝日新聞によると、相手チームの監督も「どこかのタイミングでXリーグと大学フットボールは乖離(かいり)していくものだと思う」と話していたそうだ。
そういう勝手な議論がおきることもまた口惜しい話である。
だが、口惜しい、悔しいと騒いでいるのは僕だけである。試合後のインタビューやフェイスブックの発言などを聞いても、チームの当事者は黙ってこの敗北をかみしめている。そして、コンチクショウ!次は倍返しだ!と奥歯をかみしめているに違いない。
「花いちもんめ」という歌がある。「勝ってうれしい花いちもんめ」「負けて悔しい花いちもんめ」と子どもたちがはやし立てて遊ぶ。この歌の深い意味は知らないが、僕にとっては、結構、深い意味のある歌である。
思い返せば若いころ、職場で理不尽な仕打ちを受けるたびに、なぜかこの歌詞を思い浮かべた。そして「負けて悔しい花いちもんめ」とつぶやきながら「もう一丁、やったろかい」と気持ちを新たにしてきた。今日もまた、そんな心境である。
ファイターズの明日を担うメンバーもまた、それぞれ苦い汁を飲みながら、今日の悔しさをかみしめているに違いない。
けれども、これですべてが終わったわけではない。1年間、懸命にチームを引っ張ってくれた4年生を失うのはつらいが、今日からは新しいチームがスタートする。悔しさを力に変え、胸に花を抱いて「もう一丁、やったろかい」と、残された諸君が立ち上がってくれることを心から祈っている。
34-16。ライスボウルでは3年連続の敗退である。この現実は潔く受け止める。
しかし、しかしである。主力選手が全員、万全の状態で試合に臨んでいたらどうだったか。勝負に「たら」も「れば」もないことは重々承知している。選手も監督やコーチも、試合結果についてぐだぐだと言い訳するようなことは、100%あり得ない。
だが、シーズンが深まるとともに攻守とも主力メンバーに故障が相次ぎ、それぞれが極めて厳しい状況だったことを知っている僕には、もし彼らが万全な状態で出場し、真っ向から社会人チームと渡り合っていたらと、ついつい考えてしまうのである。
ある選手は立命戦の直前、練習中のけがで救急車で病院に運ばれ、そのまま入院した。ある選手は、脱臼で片腕が使えないまま、試合に出続けた。またある選手は、昨年の試合中に重傷を負い、手術で回復したものの、試合で激しい動きをすると熱が出る、だましだましやるしかありません、と苦しい胸の内を明かしてくれた。
これらがみな、攻守の主力選手である。それぞれが何事もないような顔をして試合に出続け、目を見張るような素晴らしいプレーを何度も披露してくれた。そして関西リーグ優勝の立役者になり、甲子園ボウルでも日大を圧倒する主役を務めた。
痛む体を引きづり、だましだましのプレーを、何食わぬ顔でやり続けてきた彼らがいてくれたから、何とかライスボウルまで駒を進めることができた。だが、LB池田雄紀君の場合はそうはいかなかった。甲子園ボウルを前にした練習で左足を痛め、松葉杖なしでは歩けない状態で甲子園に登場した姿は、相手チームに焼き付いている。ぶっつけ本番で、この日の試合には出場したが、いつもの速くて強くてシャープな彼ではないことは、即座に見破られてしまった。
当然だろう。12月最後の練習を見に行ったときには、まだ軽いジョグしかできない状態。今日、東京ドームでジャージを着てグラウンドに立っていること自体が奇跡のようなことだったのだ。
しかし、彼は副将であり、ファイターズ守備の要である。足が痛いの動けないのとは、口が裂けても弁解しない。黙って役割を果たし、執拗にブリッツをかけ続けた。それがわずかに届かず、相手に交わされる姿をテレビの画面(そう、この日は新幹線が全面的にストップし、チームのスタッフの多くや一部の交代メンバー、それにゲーム進行にベンチで重要な役割を果たすメンバーらが試合開始に間に合わなかった。僕も急きょ、新大阪駅から西宮に引き返し、自宅でテレビを見ながら応援するしかなかった。これもまた悔しい出来事だった)で見ながら、思うようにプレーができない彼の胸中を思うと、僕は悔しくて悔しくてならなかったのである。
池田君が万全に動けなかったら、その分、同じLBの小野君らにかかる負担は倍加する。今季ファイターズの強力な守備陣を支えてきたLB陣の動きが制約されれば、DLやDBの動きにも影響は避けられない。その結果、相手にランプレーを自信をもって通され、気分的にも余裕を与えてしまう。
実力のある相手に余裕をもってプレーされたら、当然のことだがゲーム展開は相手のペースになる。ファイターズの戦術的な工夫も思い切った作戦も、相手をあわてさせるところまでには至らない。そういうことの総和が34-16というこの日の結果である。
この試合の結果から、ネットではもう「学生は社会人に勝てないのでは」というような議論が持ち上がっている。今朝の朝日新聞によると、相手チームの監督も「どこかのタイミングでXリーグと大学フットボールは乖離(かいり)していくものだと思う」と話していたそうだ。
そういう勝手な議論がおきることもまた口惜しい話である。
だが、口惜しい、悔しいと騒いでいるのは僕だけである。試合後のインタビューやフェイスブックの発言などを聞いても、チームの当事者は黙ってこの敗北をかみしめている。そして、コンチクショウ!次は倍返しだ!と奥歯をかみしめているに違いない。
「花いちもんめ」という歌がある。「勝ってうれしい花いちもんめ」「負けて悔しい花いちもんめ」と子どもたちがはやし立てて遊ぶ。この歌の深い意味は知らないが、僕にとっては、結構、深い意味のある歌である。
思い返せば若いころ、職場で理不尽な仕打ちを受けるたびに、なぜかこの歌詞を思い浮かべた。そして「負けて悔しい花いちもんめ」とつぶやきながら「もう一丁、やったろかい」と気持ちを新たにしてきた。今日もまた、そんな心境である。
ファイターズの明日を担うメンバーもまた、それぞれ苦い汁を飲みながら、今日の悔しさをかみしめているに違いない。
けれども、これですべてが終わったわけではない。1年間、懸命にチームを引っ張ってくれた4年生を失うのはつらいが、今日からは新しいチームがスタートする。悔しさを力に変え、胸に花を抱いて「もう一丁、やったろかい」と、残された諸君が立ち上がってくれることを心から祈っている。
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