石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(37)稽古に神変あり
「稽古に神変あり」という言葉がある。
倦まずたゆまず、営々と稽古を重ねているうちに、気がつけば「神変」としかいいようのないほどの劇的な変化を遂げ、高い境地に到達していることをいう。
もちろん、営々と努力するといっても、ただの反復稽古ではない。上級生やコーチに言われたことを漫然と繰り返し、与えられた時間を過ごすだけの稽古ではない。
毎回毎回、稽古の手法を工夫し、創意を盛り込み、得意なところを伸ばしていく。自分の創意工夫だけでなく、同じポジションの仲間から助言をもらい、相対するポジションのメンバーから欠けているところを指摘してもらって、自らの足りないところを補い、改善していく。
そういう創意と工夫、改革に裏付けられた稽古を営々と続けることで、気がつけば当初は及びもつかなかったほどの高い境地に進んでいる。それを指して、昔の人は「神変」と呼んだのである。
関西リーグで立命館と引き分けてから1カ月余り。途中、西日本代表決定戦、甲子園ボウルの2試合を挟んで、今も同じメンバーで、社会人代表との決戦に向けた練習を続けているファイターズ諸君の練習ぶりを見ていると、なぜかこの言葉が浮かんできた。
僕のような素人が見ても、それほど攻守蹴すべてにおける選手の成長が感じられるのである。ディフェンスでは、巨漢揃いのラインがまるでダンスを踊るように素早くリズミカルな動きをしている。バックの面々も、最初の一歩が確実に早くなっている。いまは試合直前の練習とあって、火花の散るようなタックルは自制しているが、それでもボールキャリアに駆け寄るスピードは、この秋、関西リーグが開幕した当初より、数段速くなっている。1年生を含めた交代メンバーも試合経験を積んで驚くほど力をつけてきた。
オフェンスも同様である。昨年からの不動のメンバーが並ぶラインの結束は固いし、一人一人の動きにもリズム感が出てきた。足の運びの一歩一歩にこだわるその稽古ぶりからは、強力な守備陣を揃える社会人に、一歩たりとも下がるな、という強い気持ちが現れている。
QBはもちろん、RBやレシーバー陣の動きも軽快だ。斎藤君からのパスの精度も上がっている。たとえて言えば、立命戦の前の成功率が85%とすれば、甲子園ボウルの前は90%、いまは95%というところか。もちろん、スカウトチームを相手にした練習だから、実戦とはQBにかかる圧力が全く異なるが、それでも、ピンポイントのパスを気持ちよく決め続けているのを見ていると、神変と呼ぶにふさわしい成長ぶりを実感する。
関西リーグの激闘を制して1カ月あまり。チーム全員がずっと大きな目標を持ち続けて練習に取り組んできた成果であろう。なんせ、いまこの時期に、日本中を探しても、これだけ高い目標を持ち、密度の濃い練習に日々取り組んでいるのは、ファイターズともう一つのチーム以外にないのである。その濃密な練習の中から周囲をあっと驚かせるプレーがいくつも生まれ、その精度が日増しに上がっていくのである。
シーズンの始まる前、「社会人を倒して日本1」を目標に掲げ、手探りでチームを作ってきた2013年のファイターズがいま、決戦の時を迎える。12月30日、13年最後のチーム練習を終えるにあたって、主将の池永君がチーム全員の前に立って短い挨拶をした。「ライスボウルまでまだ日が残されている。その残された期間、詰めるべき点を詰め、やるべきことを絶対にやり遂げよう」。たったこれだけの言葉だったが、最後の最後までやるべきことをやろうという主将の強い意志が伝わってきた。
最後の瞬間まで、どん欲に自らを鍛える。工夫すべきことを考える。勝つための手段、方法を磨く。そして、考えに考え抜いたプレーを成功させるために、グラウンドで稽古を重ねる。そのストイックな営みが年末年始、浮ついた世間と関係なく続くのである。
練習が休みの12月31日午後。一人で第3フィールドに向かった。1年間、多くの学生たちを成長させてくれたグラウンドに感謝の気持ちをささげるために、毎年の歳末、自らに課した習慣である。
大学は休み、学生会館も休館日。グラウンドの出入り口も閉じられている。それでも通用口から入って、グラウンドに向かう。まず平郡君の記念樹の前に立ち、頭を下げ、碑銘を読む。そしてグラウンドに向かって一礼する。周囲はファイターズの諸君が前日にきれいに掃き清めたのだろう。落ち葉一つ落ちていない。人に気配はまったくないが、それでも体育棟を見上げると、一つの部屋に明かりがともっている。分析スタッフかマネジャーの誰かが、数少ない「残された日」になすべきことをしているのだろう。
池永君が言うとおり、チームの全員が「詰めるべき点を詰め、なすべきことをなした」時、チームは神変する。それを1月3日、東京ドームでしっかり見届けたい。
倦まずたゆまず、営々と稽古を重ねているうちに、気がつけば「神変」としかいいようのないほどの劇的な変化を遂げ、高い境地に到達していることをいう。
もちろん、営々と努力するといっても、ただの反復稽古ではない。上級生やコーチに言われたことを漫然と繰り返し、与えられた時間を過ごすだけの稽古ではない。
毎回毎回、稽古の手法を工夫し、創意を盛り込み、得意なところを伸ばしていく。自分の創意工夫だけでなく、同じポジションの仲間から助言をもらい、相対するポジションのメンバーから欠けているところを指摘してもらって、自らの足りないところを補い、改善していく。
そういう創意と工夫、改革に裏付けられた稽古を営々と続けることで、気がつけば当初は及びもつかなかったほどの高い境地に進んでいる。それを指して、昔の人は「神変」と呼んだのである。
関西リーグで立命館と引き分けてから1カ月余り。途中、西日本代表決定戦、甲子園ボウルの2試合を挟んで、今も同じメンバーで、社会人代表との決戦に向けた練習を続けているファイターズ諸君の練習ぶりを見ていると、なぜかこの言葉が浮かんできた。
僕のような素人が見ても、それほど攻守蹴すべてにおける選手の成長が感じられるのである。ディフェンスでは、巨漢揃いのラインがまるでダンスを踊るように素早くリズミカルな動きをしている。バックの面々も、最初の一歩が確実に早くなっている。いまは試合直前の練習とあって、火花の散るようなタックルは自制しているが、それでもボールキャリアに駆け寄るスピードは、この秋、関西リーグが開幕した当初より、数段速くなっている。1年生を含めた交代メンバーも試合経験を積んで驚くほど力をつけてきた。
オフェンスも同様である。昨年からの不動のメンバーが並ぶラインの結束は固いし、一人一人の動きにもリズム感が出てきた。足の運びの一歩一歩にこだわるその稽古ぶりからは、強力な守備陣を揃える社会人に、一歩たりとも下がるな、という強い気持ちが現れている。
QBはもちろん、RBやレシーバー陣の動きも軽快だ。斎藤君からのパスの精度も上がっている。たとえて言えば、立命戦の前の成功率が85%とすれば、甲子園ボウルの前は90%、いまは95%というところか。もちろん、スカウトチームを相手にした練習だから、実戦とはQBにかかる圧力が全く異なるが、それでも、ピンポイントのパスを気持ちよく決め続けているのを見ていると、神変と呼ぶにふさわしい成長ぶりを実感する。
関西リーグの激闘を制して1カ月あまり。チーム全員がずっと大きな目標を持ち続けて練習に取り組んできた成果であろう。なんせ、いまこの時期に、日本中を探しても、これだけ高い目標を持ち、密度の濃い練習に日々取り組んでいるのは、ファイターズともう一つのチーム以外にないのである。その濃密な練習の中から周囲をあっと驚かせるプレーがいくつも生まれ、その精度が日増しに上がっていくのである。
シーズンの始まる前、「社会人を倒して日本1」を目標に掲げ、手探りでチームを作ってきた2013年のファイターズがいま、決戦の時を迎える。12月30日、13年最後のチーム練習を終えるにあたって、主将の池永君がチーム全員の前に立って短い挨拶をした。「ライスボウルまでまだ日が残されている。その残された期間、詰めるべき点を詰め、やるべきことを絶対にやり遂げよう」。たったこれだけの言葉だったが、最後の最後までやるべきことをやろうという主将の強い意志が伝わってきた。
最後の瞬間まで、どん欲に自らを鍛える。工夫すべきことを考える。勝つための手段、方法を磨く。そして、考えに考え抜いたプレーを成功させるために、グラウンドで稽古を重ねる。そのストイックな営みが年末年始、浮ついた世間と関係なく続くのである。
練習が休みの12月31日午後。一人で第3フィールドに向かった。1年間、多くの学生たちを成長させてくれたグラウンドに感謝の気持ちをささげるために、毎年の歳末、自らに課した習慣である。
大学は休み、学生会館も休館日。グラウンドの出入り口も閉じられている。それでも通用口から入って、グラウンドに向かう。まず平郡君の記念樹の前に立ち、頭を下げ、碑銘を読む。そしてグラウンドに向かって一礼する。周囲はファイターズの諸君が前日にきれいに掃き清めたのだろう。落ち葉一つ落ちていない。人に気配はまったくないが、それでも体育棟を見上げると、一つの部屋に明かりがともっている。分析スタッフかマネジャーの誰かが、数少ない「残された日」になすべきことをしているのだろう。
池永君が言うとおり、チームの全員が「詰めるべき点を詰め、なすべきことをなした」時、チームは神変する。それを1月3日、東京ドームでしっかり見届けたい。
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