石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(35)強さの秘密
12月15日、めっきり冷え込んだ甲子園球場を舞台に、2年ぶりに繰り広げられた赤の日大と青の関学の決戦は、青の勝利で幕を閉じた。あの強力な陣容を揃えた日大を全く寄せ付けない戦いを展開したファイターズは、こんなにも強いチームだったのか。
スポーツ紙や専門誌を読むと、記者の予想は五分と五分。東京発の記事を見ると、どちらかといえば日大に分のあるような書き方をしている人が多かった。
ところが、ふたを開けてみると、ファイターズが終始先手をとり、主導権を握ったままで試合を進めた。立ち上がり2度にわたってゴール前1ヤードまで陣地を進め、まずはK三輪のFGで3点。続いて相手ゴール前7ヤードからQB斎藤がWR木戸へTDパスを通して10-0。相手にも1本FGを返されたが、前半は10-3で折り返した。
後半に入っても、三輪が2本のFGを決めて16-3。さらに、斎藤がWR木下、大園、梅本へのパスを次々と通し、相手ゴール前9ヤード。ここで狙い澄ませたように木戸へのパスを成功させ、23-3。第4Q残り6分17秒という時間、相手オフェンスを確実に止めるファイターズの守備。双方を考えると、この時点で勝負の行く末は見えた。
この日、甲子園に登場した日大のメンバーは、評判通りの素早い動きを見せた。関西リーグの最後に戦った立命の選手と同様、みんな体がでかいし、動きにキレがある。選手一人一人の潜在的な力量を比べれば、明らかにファイターズの面々を圧倒しているようなメンバーも少なくなかった。新聞や専門誌の記者が予想する通り、そして鳥内監督が何度も言っておられた通りに「強い日大」の登場だった。
にもかかわらず、得点は最後、ファイターズ守備陣が交代メンバーを大量に出場させたシリーズで奪われた6点を含めても23-9。スタッツを見ても、関学がパスで281ヤード、ランで66ヤードの計347ヤードを獲得しているのに、日大は計185ヤードと大きな開きがある。
どうしてこのような結果になったのか。
少なくとも、ファイターズに関しては、それを考えるためのヒントになりそうな場面がいくつかある。紹介させてもらおう。
一つは、春のシーズン中のことである。ラインバッカーの練習台に入っていたRB鷺野君に、LBの池田雄紀君がまともに当たった場面があった。味方同士の練習とは思えないほどの突き刺すような当たりを鷺野君も一歩も引かずに受け止めたが、体格の差はどうしようもない。鷺野君はその時に足を痛め、しばらく練習から離脱するしかなかった。
味方同士だからと、いわゆる「寸止め」の当たりではなく、互いにしっかり当たりあう。その結果、不運にも片方がけがをすることになったが、そのけがが癒えた時には、鷺野君の当たりは1段レベルアップし、同時に相手のタックルを交わす身体操作も身に着けていた。動きの素早い鷺野君を相手に、素早いタックルを見舞った池田君の動きにキレが生まれ、当たりが強さを増したことはいうまでもない。
二つ目は、チーム練習が始まる前のQBとWR、TEの練習風景である。QBは4年生の橘君と3年の斎藤君、レシーバーは4年の梅本君と松下君、TEは松島君と樋之本君、それにけがをする前の木戸君らが練習開始の2時間以上前にグラウンドの中央に集まり、営々とパスを投げ、パスを受ける。梅本君や橘君が練習のメニューを組み、何度もコースとスピード、ボールの角度や強さを確認しながら、とにかく投げ続け、走り続け、受け続ける。
そういう練習の中で、斎藤君はこの日の試合で見せたようなピンポイントのパスを通す技術を身に着け、レシーバーは走る方向、タイミング、スピードなどを身に沁みこませてきた。実際、春先は精度の低かったパスが春のシーズンの終わりごろから通りはじめ、秋も終盤になると9割ぐらいは確実に成功するようになった。投げる方も受ける方も、毎日毎日、工夫しながら練習を続けることによって、1段も2段も高いステージでパスをやり取りできるように成長していった。そこから互いを信頼する気持ちが醸成され、どんな場面であっても「斎藤はここに、このタイミングで投げ込んでくる」「梅本さんは必ず目標の場所にいてくれる」「木戸や樋之本は絶対に相手DBに競り勝ってくれる」と、互いが確信をもってプレーできるようになったのだ。
これは、前にも書いたことがあるが、攻守のラインにしても、LBやDB、RBやキッキングメンバーにしても同様である。QBとレシーバーのような派手さがないから目立たないだけで、それぞれのパートごとにリーダーを中心として、選手たちが自発的、自主的に自らを鍛え、仲間同士を高めあっている。そういう練習の積み重ねが、鉄壁というのにふさわしい強力なOLをつくり、相手オフェンスを突き破るDLのスピードを養成していった。
日大戦の直前、たまたま練習を見に行ったとき、DLの池永君とLBの小野君、作道君がOLの友國君らを相手に、何度も何度もブリッツの練習をしている場面に出くわした。足の運び方から体の寄せ方まで、コンマ何秒のタイミング、1センチ単位の足の踏み出し方を納得いくまで調整している。その姿をみて、必ず彼らが活躍してくれるはず、と確信を持った。
この日、何度も相手QBに襲い掛かり、パスをカットした3人の活躍ぶりを見れば、その確信にはしっかりとした裏付けがあったことが証明された。練習は裏切らない。納得できるだけの練習ができて、初めて試合でも結果が出せるのである。
そしてもう一つ。それは今日、試合が終わってからの場面である。ひとつは、松葉づえをついた副将の池田君が同じ副将の鳥内君の肩を借りて日大サイドに足を運び、きちんと副将としての挨拶をしていた姿、もう一つは表彰式の際、同じく鳥内君が池田君を介助していた姿である。今季のチームを池永主将、友國副将とともに引っ張ってきた二人が互いに肩を貸し、借りてグラウンドを歩む姿を見て、僕は思わず「これがファイターズだ」という思いを強くした。まるで「スポ根漫画」と思われる方もあるかもしれないが、二人をはじめ、4年生たちがすべてをフットボールにかけ、懸命にチームを成長させてきた長い道のりの一端を知っているだけに、その団結の象徴ともいうべき二人の姿を見て、思わず目頭が熱くなった。
以上、ここに挙げた4つの場面が、今年のファイターズである。本気の練習で互いを高めあい、自主的、自発的な取り組みでプレーの精度を上げる。なすべきことは徹底的に詰め切って自分のものにする。そして、仲間をいたわり、励まし、互いに助け合って、より一層高い境地を目指す。
そういったことのすべてを、あの強力な立命や日大との試合で発揮することができたから、厳しい戦いではあったが、終始、主導権をもって試合を進めることができたのだ。その証が試合終了後のグラウンドで選手やスタッフに配られた白い帽子、そう、チャンピオンキャップである。
今年で連続3つ目となる「勝利者の白い帽子」をかぶり、パートごとに集まって互いに写真を取り合っている選手やスタッフの晴れやかな顔を見ながら、僕はもう、次の試合に思いを走らせていた。
残るはもう1試合。ここまで自分たちがやってきた取り組みに自信を持ち、誇りをもって、心置きなく挑んでほしい。まだまだできることはある。やらねばならないこともある。がんばろう!
スポーツ紙や専門誌を読むと、記者の予想は五分と五分。東京発の記事を見ると、どちらかといえば日大に分のあるような書き方をしている人が多かった。
ところが、ふたを開けてみると、ファイターズが終始先手をとり、主導権を握ったままで試合を進めた。立ち上がり2度にわたってゴール前1ヤードまで陣地を進め、まずはK三輪のFGで3点。続いて相手ゴール前7ヤードからQB斎藤がWR木戸へTDパスを通して10-0。相手にも1本FGを返されたが、前半は10-3で折り返した。
後半に入っても、三輪が2本のFGを決めて16-3。さらに、斎藤がWR木下、大園、梅本へのパスを次々と通し、相手ゴール前9ヤード。ここで狙い澄ませたように木戸へのパスを成功させ、23-3。第4Q残り6分17秒という時間、相手オフェンスを確実に止めるファイターズの守備。双方を考えると、この時点で勝負の行く末は見えた。
この日、甲子園に登場した日大のメンバーは、評判通りの素早い動きを見せた。関西リーグの最後に戦った立命の選手と同様、みんな体がでかいし、動きにキレがある。選手一人一人の潜在的な力量を比べれば、明らかにファイターズの面々を圧倒しているようなメンバーも少なくなかった。新聞や専門誌の記者が予想する通り、そして鳥内監督が何度も言っておられた通りに「強い日大」の登場だった。
にもかかわらず、得点は最後、ファイターズ守備陣が交代メンバーを大量に出場させたシリーズで奪われた6点を含めても23-9。スタッツを見ても、関学がパスで281ヤード、ランで66ヤードの計347ヤードを獲得しているのに、日大は計185ヤードと大きな開きがある。
どうしてこのような結果になったのか。
少なくとも、ファイターズに関しては、それを考えるためのヒントになりそうな場面がいくつかある。紹介させてもらおう。
一つは、春のシーズン中のことである。ラインバッカーの練習台に入っていたRB鷺野君に、LBの池田雄紀君がまともに当たった場面があった。味方同士の練習とは思えないほどの突き刺すような当たりを鷺野君も一歩も引かずに受け止めたが、体格の差はどうしようもない。鷺野君はその時に足を痛め、しばらく練習から離脱するしかなかった。
味方同士だからと、いわゆる「寸止め」の当たりではなく、互いにしっかり当たりあう。その結果、不運にも片方がけがをすることになったが、そのけがが癒えた時には、鷺野君の当たりは1段レベルアップし、同時に相手のタックルを交わす身体操作も身に着けていた。動きの素早い鷺野君を相手に、素早いタックルを見舞った池田君の動きにキレが生まれ、当たりが強さを増したことはいうまでもない。
二つ目は、チーム練習が始まる前のQBとWR、TEの練習風景である。QBは4年生の橘君と3年の斎藤君、レシーバーは4年の梅本君と松下君、TEは松島君と樋之本君、それにけがをする前の木戸君らが練習開始の2時間以上前にグラウンドの中央に集まり、営々とパスを投げ、パスを受ける。梅本君や橘君が練習のメニューを組み、何度もコースとスピード、ボールの角度や強さを確認しながら、とにかく投げ続け、走り続け、受け続ける。
そういう練習の中で、斎藤君はこの日の試合で見せたようなピンポイントのパスを通す技術を身に着け、レシーバーは走る方向、タイミング、スピードなどを身に沁みこませてきた。実際、春先は精度の低かったパスが春のシーズンの終わりごろから通りはじめ、秋も終盤になると9割ぐらいは確実に成功するようになった。投げる方も受ける方も、毎日毎日、工夫しながら練習を続けることによって、1段も2段も高いステージでパスをやり取りできるように成長していった。そこから互いを信頼する気持ちが醸成され、どんな場面であっても「斎藤はここに、このタイミングで投げ込んでくる」「梅本さんは必ず目標の場所にいてくれる」「木戸や樋之本は絶対に相手DBに競り勝ってくれる」と、互いが確信をもってプレーできるようになったのだ。
これは、前にも書いたことがあるが、攻守のラインにしても、LBやDB、RBやキッキングメンバーにしても同様である。QBとレシーバーのような派手さがないから目立たないだけで、それぞれのパートごとにリーダーを中心として、選手たちが自発的、自主的に自らを鍛え、仲間同士を高めあっている。そういう練習の積み重ねが、鉄壁というのにふさわしい強力なOLをつくり、相手オフェンスを突き破るDLのスピードを養成していった。
日大戦の直前、たまたま練習を見に行ったとき、DLの池永君とLBの小野君、作道君がOLの友國君らを相手に、何度も何度もブリッツの練習をしている場面に出くわした。足の運び方から体の寄せ方まで、コンマ何秒のタイミング、1センチ単位の足の踏み出し方を納得いくまで調整している。その姿をみて、必ず彼らが活躍してくれるはず、と確信を持った。
この日、何度も相手QBに襲い掛かり、パスをカットした3人の活躍ぶりを見れば、その確信にはしっかりとした裏付けがあったことが証明された。練習は裏切らない。納得できるだけの練習ができて、初めて試合でも結果が出せるのである。
そしてもう一つ。それは今日、試合が終わってからの場面である。ひとつは、松葉づえをついた副将の池田君が同じ副将の鳥内君の肩を借りて日大サイドに足を運び、きちんと副将としての挨拶をしていた姿、もう一つは表彰式の際、同じく鳥内君が池田君を介助していた姿である。今季のチームを池永主将、友國副将とともに引っ張ってきた二人が互いに肩を貸し、借りてグラウンドを歩む姿を見て、僕は思わず「これがファイターズだ」という思いを強くした。まるで「スポ根漫画」と思われる方もあるかもしれないが、二人をはじめ、4年生たちがすべてをフットボールにかけ、懸命にチームを成長させてきた長い道のりの一端を知っているだけに、その団結の象徴ともいうべき二人の姿を見て、思わず目頭が熱くなった。
以上、ここに挙げた4つの場面が、今年のファイターズである。本気の練習で互いを高めあい、自主的、自発的な取り組みでプレーの精度を上げる。なすべきことは徹底的に詰め切って自分のものにする。そして、仲間をいたわり、励まし、互いに助け合って、より一層高い境地を目指す。
そういったことのすべてを、あの強力な立命や日大との試合で発揮することができたから、厳しい戦いではあったが、終始、主導権をもって試合を進めることができたのだ。その証が試合終了後のグラウンドで選手やスタッフに配られた白い帽子、そう、チャンピオンキャップである。
今年で連続3つ目となる「勝利者の白い帽子」をかぶり、パートごとに集まって互いに写真を取り合っている選手やスタッフの晴れやかな顔を見ながら、僕はもう、次の試合に思いを走らせていた。
残るはもう1試合。ここまで自分たちがやってきた取り組みに自信を持ち、誇りをもって、心置きなく挑んでほしい。まだまだできることはある。やらねばならないこともある。がんばろう!
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