石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(10)新任コーチが見た景色
今年のファイターズで、一番変わったことは何か。
もちろん、学年が新たになり、選手の顔ぶれは一新された。1年生にも有望なメンバーがたくさん入ってきた。けがで苦しんでいた上級生が練習に復帰し、みんなとグラウンドで練習できるようにもなっている。
それはしかし、毎年、年度が変わるたびに繰り返されていることである。
そういうことではなく、もっと根本的なところで劇的に変わったことがある。フルタイムのコーチとして、新たに大村和輝氏(1994年卒)が就任したことである。彼が毎日、グラウンドに顔を出すようになって、いろんなことが変わったことを実感する。
ファイターズにはこれまで、1日中、選手につきあってくれるコーチはいなかった。
鳥内監督には早朝の家業があり、専任コーチはトレーニング担当の油谷コーチ以外は全員、大学の職員として、重責を担って活躍しており、グラウンドに出てくるのは、毎日の仕事が一区切りついてからになる。朝からファイターズのために時間の使えるコーチはいなかった。
ライバルと目される強豪チームがそれぞれ、豊富なコーチングスタッフを抱えているのと比べると、部外者には想像できないほどお寒い状況だったのである。毎年、日本一を争う強力なチームがこうした環境からつくられることは、ある意味で感嘆すべきことだが、いつまでも、その状況を放置しておけないことはいうまでもない。フルタイムのプロコーチを招くのは、チームの悲願だった。
では、大村コーチが就任して、何が変わったのか。それはおいおい、このコラムでも書かせていただくつもりだが、その前に、大村コーチの目に映ったファイターズの風景とはどんなものだったのか。インタビューをもとに紹介したい。
――ファイターズに戻って、最初に感じられたことは。
練習内容が昔と変わっていることにびっくりしました。私たちの時代には大事にされていたことが大事にされていないのです。ひとつは、最後までやりきることがやりきれていない。私たちは「ラストを終わる」といって、最後をきちっと締めくくることが徹底されていましたが、いまはそれがユルくなっている。にもかかわらず、部員同士でそういう状況について、厳しく要求しあわなくなっている。そのユルい空気に驚きました。
練習メニューはこなしているのですが、それを何のためにやるのか、という焦点がぼけている。なのに、その点をきちんと指導できる4年生が少ない。一番いけないパターンですね。気合を入れろという上級生はいるけど、具体的に何をどうしたらいいのか、ということが指摘できていない。分からなければ考え、試行錯誤をしながらもがけばいいのに、そこまでやる上級生がいない。具体的な指摘ができないから練習メニューをこなしても、それが上達に結びつかないのです。
――練習時間はどうですか。
短いですね。週に3回練習して、週に3回の筋力トレーニング。全体練習も60分から70分。それにキッキングの練習が加わるだけですから。だからこそ練習前、練習後の時間が大事になるのに、それが十分に利用できていない。取り組みがユルいのです。下手やのに、なんでもっと練習せえへんのん、下手すぎるやろ、と歯がゆくなります。
それと、試合を意識するというか、勝つための練習ができていない。まじめにトレーニングはするのですが、その成果を試合に生かし切れていないのです。
――指導にあたって注意していることは。
根本的なことは「最後までやりきること」ですね。すべてのプレーを最後まで「フィニッシュ」すること。どういうフィニッシュをするかについて選手と話す過程で、選手自身のプレーのイメージが必要になってきます。これは着任してすぐ、新谷(主将)に指摘しました。いまは劇的に改善されています。
もう一つは「言い過ぎないこと」です。でも、これは難しい。4年生がきちんとみんなに指摘し、要求できるようになればいいのですが、それまでは私がいうしかない。いまは毎日、私が担当しているWRとOLの4年生を部屋に呼んでミーティングをし、ビデオを見ながら細かいことまで指摘しています。
――フルタイムの指導ということですが、どんな日課ですか。
毎朝、9時半ごろに大学に来て、前日の練習ビデオを見直します。練習ビデオは毎晩、寝る前に見ていますが、それを朝、もう一度見るのです。11時ごろからWRの4年生とミーティング。それを半時間ほどで切り上げて、引き続きOLの4年生とまたミーティングです。ビデオを見ながら細かい所まで注意するので、時間がかかります。
その後、昼飯を食べて、監督と簡単な打ち合わせをしたり、時にはミーティングをしたりしした後、3時にはグラウンドに出ます。8時ごろまで練習し、簡単なミーティングをして帰宅は9時ごろ。休みはチームがオフの日だけです。
――最後に、いまのチームに望むことは。
学生がどれだけ本気で勝ちたいと思えるようにするか、ですね。アメリカのように「コーチが絶対」というのではなく、関学はあくまで学生が主体になって強いチームを作ってきました。人間教育という部分についてのアプローチでも、このチームは優れています。それを尊重しながら、プロのコーチとしてどうかかわれるか、毎日が試行錯誤です。
でも、選手は徐々に変わってきています。パフォーマンスも上がってきています。下級生にも、明らかにうまくなってきているメンバーがいます。まだまだレベルは低いし、物足りないし、寒い試合が続いています。試合でも結果が出ていません。けれども、個々の選手が「オレがやったんねん」という気持ちになれば、一気に伸びますよ。基本的に、みんな真面目なヤツですから。泥臭く練習していけば、可能性は十分にあると思っています。
――ありがとうございました。
もちろん、学年が新たになり、選手の顔ぶれは一新された。1年生にも有望なメンバーがたくさん入ってきた。けがで苦しんでいた上級生が練習に復帰し、みんなとグラウンドで練習できるようにもなっている。
それはしかし、毎年、年度が変わるたびに繰り返されていることである。
そういうことではなく、もっと根本的なところで劇的に変わったことがある。フルタイムのコーチとして、新たに大村和輝氏(1994年卒)が就任したことである。彼が毎日、グラウンドに顔を出すようになって、いろんなことが変わったことを実感する。
ファイターズにはこれまで、1日中、選手につきあってくれるコーチはいなかった。
鳥内監督には早朝の家業があり、専任コーチはトレーニング担当の油谷コーチ以外は全員、大学の職員として、重責を担って活躍しており、グラウンドに出てくるのは、毎日の仕事が一区切りついてからになる。朝からファイターズのために時間の使えるコーチはいなかった。
ライバルと目される強豪チームがそれぞれ、豊富なコーチングスタッフを抱えているのと比べると、部外者には想像できないほどお寒い状況だったのである。毎年、日本一を争う強力なチームがこうした環境からつくられることは、ある意味で感嘆すべきことだが、いつまでも、その状況を放置しておけないことはいうまでもない。フルタイムのプロコーチを招くのは、チームの悲願だった。
では、大村コーチが就任して、何が変わったのか。それはおいおい、このコラムでも書かせていただくつもりだが、その前に、大村コーチの目に映ったファイターズの風景とはどんなものだったのか。インタビューをもとに紹介したい。
――ファイターズに戻って、最初に感じられたことは。
練習内容が昔と変わっていることにびっくりしました。私たちの時代には大事にされていたことが大事にされていないのです。ひとつは、最後までやりきることがやりきれていない。私たちは「ラストを終わる」といって、最後をきちっと締めくくることが徹底されていましたが、いまはそれがユルくなっている。にもかかわらず、部員同士でそういう状況について、厳しく要求しあわなくなっている。そのユルい空気に驚きました。
練習メニューはこなしているのですが、それを何のためにやるのか、という焦点がぼけている。なのに、その点をきちんと指導できる4年生が少ない。一番いけないパターンですね。気合を入れろという上級生はいるけど、具体的に何をどうしたらいいのか、ということが指摘できていない。分からなければ考え、試行錯誤をしながらもがけばいいのに、そこまでやる上級生がいない。具体的な指摘ができないから練習メニューをこなしても、それが上達に結びつかないのです。
――練習時間はどうですか。
短いですね。週に3回練習して、週に3回の筋力トレーニング。全体練習も60分から70分。それにキッキングの練習が加わるだけですから。だからこそ練習前、練習後の時間が大事になるのに、それが十分に利用できていない。取り組みがユルいのです。下手やのに、なんでもっと練習せえへんのん、下手すぎるやろ、と歯がゆくなります。
それと、試合を意識するというか、勝つための練習ができていない。まじめにトレーニングはするのですが、その成果を試合に生かし切れていないのです。
――指導にあたって注意していることは。
根本的なことは「最後までやりきること」ですね。すべてのプレーを最後まで「フィニッシュ」すること。どういうフィニッシュをするかについて選手と話す過程で、選手自身のプレーのイメージが必要になってきます。これは着任してすぐ、新谷(主将)に指摘しました。いまは劇的に改善されています。
もう一つは「言い過ぎないこと」です。でも、これは難しい。4年生がきちんとみんなに指摘し、要求できるようになればいいのですが、それまでは私がいうしかない。いまは毎日、私が担当しているWRとOLの4年生を部屋に呼んでミーティングをし、ビデオを見ながら細かいことまで指摘しています。
――フルタイムの指導ということですが、どんな日課ですか。
毎朝、9時半ごろに大学に来て、前日の練習ビデオを見直します。練習ビデオは毎晩、寝る前に見ていますが、それを朝、もう一度見るのです。11時ごろからWRの4年生とミーティング。それを半時間ほどで切り上げて、引き続きOLの4年生とまたミーティングです。ビデオを見ながら細かい所まで注意するので、時間がかかります。
その後、昼飯を食べて、監督と簡単な打ち合わせをしたり、時にはミーティングをしたりしした後、3時にはグラウンドに出ます。8時ごろまで練習し、簡単なミーティングをして帰宅は9時ごろ。休みはチームがオフの日だけです。
――最後に、いまのチームに望むことは。
学生がどれだけ本気で勝ちたいと思えるようにするか、ですね。アメリカのように「コーチが絶対」というのではなく、関学はあくまで学生が主体になって強いチームを作ってきました。人間教育という部分についてのアプローチでも、このチームは優れています。それを尊重しながら、プロのコーチとしてどうかかわれるか、毎日が試行錯誤です。
でも、選手は徐々に変わってきています。パフォーマンスも上がってきています。下級生にも、明らかにうまくなってきているメンバーがいます。まだまだレベルは低いし、物足りないし、寒い試合が続いています。試合でも結果が出ていません。けれども、個々の選手が「オレがやったんねん」という気持ちになれば、一気に伸びますよ。基本的に、みんな真面目なヤツですから。泥臭く練習していけば、可能性は十分にあると思っています。
――ありがとうございました。
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