石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(28)「守備が作る試合」
野球は、守りから、といわれる。華々しい打ち合いを制して勝つというのは、見ている者には楽しいが、長いシーズンを乗り切った結果、リーグのてっぺんに君臨するのは、結局は投手力、守備力がしっかりしているチームである。いま、日本シリーズを戦っている楽天にしても、巨人にしても、互いに絶対的に信頼できる先発投手が複数おり、試合を締めくくる投手も充実している。
僕の記憶では、ひたすら打ちまくって勝ったのは、1985年のタイガースくらいである。先頭が長打力があって堅実な打撃も出来る真弓、クリーンアップがバース、掛布、岡田。甲子園球場のバックスクリーンに3人が連続して本塁打を放った年のことである。
フットボールも同様である。守備陣のしっかりしているチームは、少々のことでは崩れない。何かの事情で攻撃が振るわなくても、守りさえ安定しておれば、やがて攻撃陣も突破口を見つけてくれる。守備陣のビッグプレーで試合を動かすことも出来る。安定した守備力に攻撃力がかみ合えば、これはもう万全の戦い、王者の試合ができる。
この前の日曜日、長居のキンチョウスタジアムで行われた京大との戦いがその典型だった。
試合は、コイントスに勝ったファイターズが珍しくレシーブを選択。自陣12ヤードの位置から攻撃が始まった。第1プレーはQB斎藤からWR横山へのパスでいきなりダウンを更新。RB鷺野の4ヤードランを挟んでWR木下、TE松島へのパスを立て続けにヒットさせ、今度は野々垣の14ヤードラン。さらにWR大園へのパス、鷺野の13ヤードランで、一気にゴール前9ヤードに迫る。そこからRB飯田、FB梶原が相手の壁を破壊するようなランでTD。この間のプレー数はちょうど10回。自陣ゴール前からの88ヤードをひとつの無駄もなく前進させ、試合の主導権を握った。
続く京大の攻撃は京大陣25ヤードから。これを守備陣が完璧に抑え、第4ダウン22ヤード。ここで京大がパント隊形からまさかのフェイクパス。一瞬、ひやりとしたが、DB大森が冷静にレシーバーにタックルして、ダウンの更新を防ぐ。観客はもちろん、ベンチも選手も当然のようにパントを警戒している局面で、意表を突いたフェイクパスであり、それが見事に決まったが、それでもダウンの更新を許さなかった大森の冷静さが光る。
この好守備で、続くファイターズの攻撃は相手陣32ヤードから。ここでも斎藤から木下、鷺野への短いパスが連続して決まってゴール前19ヤード。ランプレーを一つ挟んで、今度は野々垣がゴール寸前まで走ったが、そこで痛恨のファンブル。そのボールをゴール内で相手に抑えられ、14-0と引き離すチャンスを逃がしてしまった。
これで流れは一気に京大に傾く。ゴール前25ヤードから始まった攻撃でパスとランを織り交ぜてダウンを更新。さらに自陣40ヤード、第4ダウン7ヤードという状況から仕掛けてきたギャンブルプレーが成功して50ヤード付近から新たな攻撃が始まる。
フットボールの常識にないギャンブルプレーを2回連続で成功させ、勢いに乗る京大の攻撃を止めたのがまたも大森。第1プレーでセンターライン付近からQBが投げたロングパスを見事なジャンプでインターセプトしてしまった。スタジアム内のFM放送を担当していた小野ディレクターが「相手QBの動きを冷静に見ていた大森君のファインプレーです。レシーバーの動きだけをマークしていたら、絶対に捕れないボールでした」と解説されていたが、まさに「守備が試合を動かす」という言葉通りのビッグプレーだった。
ところが、攻撃陣がいま一つ波に乗りきれない。自陣28ヤードから斎藤がいきなりWR梅本に36ヤードのパスをヒットさせ、一気に相手陣深くまで攻め込んだが、そこでまたRB飯田が痛恨のファンブル。相手にカバーされて、またも攻撃権は京大に。
それでも守備陣が踏ん張って簡単に第4ダウンロングの状況に追いやったが、ここでも京大はわざと反則を犯して5ヤード下がった上で、ギャンブルプレーを仕掛けてくる。リバースプレーを3回重ねたような複雑な動きで守備陣を幻惑したが、ここもLB池田雄が相手の動きを冷静に見極めてタックル。再び攻撃権を奪い取り、相手ゴール前31ヤードからファイターズの攻撃。
ここは鷺野、飯田ががっちりボールを確保して確実に18ヤードを前進。残る13ヤードを斎藤からショベルパスを受けた鷺野が走り込んでTD。三輪のキックも決まって14-0。ようやく試合が落ち着く。後半に入ると、ファイターズの攻撃陣が安定感を取り戻し、斎藤のキープ、斎藤から梅本へのパスで立て続けに2本のTDを決め、結局は28-0。ファイターズの完封だった。
それにしても、京大は思い切ったプレーコールでたたみかけてきた。第1Qに3度あった自陣内での第4ダウンのプレーで1度もパントを蹴らず、練りに練ったフェイクプレーを仕掛け、それをすべて成功させた。それでもダウンを更新できたのは1度きり。後は大森と池田が相手の動きに幻惑されず、しっかり止めきった。守りのよいチームが勝つ、という場面をこれほど如実に示した試合は、そうそうあることではない。
後半に登場したDB小池、LB西田の1年生が連続して見せた鮮やかなインターセプトを含め、守備陣がことごとく攻撃の芽を摘んでくれたから、いつもの年なら必ず冷や汗を握る京大との試合が、やっと安心して観戦できた。ありがとう。
僕の記憶では、ひたすら打ちまくって勝ったのは、1985年のタイガースくらいである。先頭が長打力があって堅実な打撃も出来る真弓、クリーンアップがバース、掛布、岡田。甲子園球場のバックスクリーンに3人が連続して本塁打を放った年のことである。
フットボールも同様である。守備陣のしっかりしているチームは、少々のことでは崩れない。何かの事情で攻撃が振るわなくても、守りさえ安定しておれば、やがて攻撃陣も突破口を見つけてくれる。守備陣のビッグプレーで試合を動かすことも出来る。安定した守備力に攻撃力がかみ合えば、これはもう万全の戦い、王者の試合ができる。
この前の日曜日、長居のキンチョウスタジアムで行われた京大との戦いがその典型だった。
試合は、コイントスに勝ったファイターズが珍しくレシーブを選択。自陣12ヤードの位置から攻撃が始まった。第1プレーはQB斎藤からWR横山へのパスでいきなりダウンを更新。RB鷺野の4ヤードランを挟んでWR木下、TE松島へのパスを立て続けにヒットさせ、今度は野々垣の14ヤードラン。さらにWR大園へのパス、鷺野の13ヤードランで、一気にゴール前9ヤードに迫る。そこからRB飯田、FB梶原が相手の壁を破壊するようなランでTD。この間のプレー数はちょうど10回。自陣ゴール前からの88ヤードをひとつの無駄もなく前進させ、試合の主導権を握った。
続く京大の攻撃は京大陣25ヤードから。これを守備陣が完璧に抑え、第4ダウン22ヤード。ここで京大がパント隊形からまさかのフェイクパス。一瞬、ひやりとしたが、DB大森が冷静にレシーバーにタックルして、ダウンの更新を防ぐ。観客はもちろん、ベンチも選手も当然のようにパントを警戒している局面で、意表を突いたフェイクパスであり、それが見事に決まったが、それでもダウンの更新を許さなかった大森の冷静さが光る。
この好守備で、続くファイターズの攻撃は相手陣32ヤードから。ここでも斎藤から木下、鷺野への短いパスが連続して決まってゴール前19ヤード。ランプレーを一つ挟んで、今度は野々垣がゴール寸前まで走ったが、そこで痛恨のファンブル。そのボールをゴール内で相手に抑えられ、14-0と引き離すチャンスを逃がしてしまった。
これで流れは一気に京大に傾く。ゴール前25ヤードから始まった攻撃でパスとランを織り交ぜてダウンを更新。さらに自陣40ヤード、第4ダウン7ヤードという状況から仕掛けてきたギャンブルプレーが成功して50ヤード付近から新たな攻撃が始まる。
フットボールの常識にないギャンブルプレーを2回連続で成功させ、勢いに乗る京大の攻撃を止めたのがまたも大森。第1プレーでセンターライン付近からQBが投げたロングパスを見事なジャンプでインターセプトしてしまった。スタジアム内のFM放送を担当していた小野ディレクターが「相手QBの動きを冷静に見ていた大森君のファインプレーです。レシーバーの動きだけをマークしていたら、絶対に捕れないボールでした」と解説されていたが、まさに「守備が試合を動かす」という言葉通りのビッグプレーだった。
ところが、攻撃陣がいま一つ波に乗りきれない。自陣28ヤードから斎藤がいきなりWR梅本に36ヤードのパスをヒットさせ、一気に相手陣深くまで攻め込んだが、そこでまたRB飯田が痛恨のファンブル。相手にカバーされて、またも攻撃権は京大に。
それでも守備陣が踏ん張って簡単に第4ダウンロングの状況に追いやったが、ここでも京大はわざと反則を犯して5ヤード下がった上で、ギャンブルプレーを仕掛けてくる。リバースプレーを3回重ねたような複雑な動きで守備陣を幻惑したが、ここもLB池田雄が相手の動きを冷静に見極めてタックル。再び攻撃権を奪い取り、相手ゴール前31ヤードからファイターズの攻撃。
ここは鷺野、飯田ががっちりボールを確保して確実に18ヤードを前進。残る13ヤードを斎藤からショベルパスを受けた鷺野が走り込んでTD。三輪のキックも決まって14-0。ようやく試合が落ち着く。後半に入ると、ファイターズの攻撃陣が安定感を取り戻し、斎藤のキープ、斎藤から梅本へのパスで立て続けに2本のTDを決め、結局は28-0。ファイターズの完封だった。
それにしても、京大は思い切ったプレーコールでたたみかけてきた。第1Qに3度あった自陣内での第4ダウンのプレーで1度もパントを蹴らず、練りに練ったフェイクプレーを仕掛け、それをすべて成功させた。それでもダウンを更新できたのは1度きり。後は大森と池田が相手の動きに幻惑されず、しっかり止めきった。守りのよいチームが勝つ、という場面をこれほど如実に示した試合は、そうそうあることではない。
後半に登場したDB小池、LB西田の1年生が連続して見せた鮮やかなインターセプトを含め、守備陣がことごとく攻撃の芽を摘んでくれたから、いつもの年なら必ず冷や汗を握る京大との試合が、やっと安心して観戦できた。ありがとう。
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