石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(26)「成長の実感」
たいていの草花は、種をまいてから1年以内に花を咲かせる。学校で子どもたちが観察日記を書かされるアサガオやゴーヤなんて、種をまいて3カ月もたてば、花が咲き、実が収穫できる。
けれども樹木はそうはいかない。「桃栗3年、柿8年」というのは、極めて短い方で、スギやヒノキが用材として利用できるようになるまでには少なくとも60年から70年の歳月が必要だ。
人間となると、さらにやっかいである。歳月を重ね、身体は一人前になっても、それが直接、人としての成長にはつながるわけではない。孔子は数えの40歳を不惑といい、60歳を耳順といって、人の成長の一つの理想を説いた。けれども、そういうことをいうこと自体、40歳になっても惑う人が多く、60歳になっても耳に従う、すなわち人の言うことに耳を傾けることの出来ない人が多かったからだろう。僕も例外ではない。間もなく69歳になるというのに、未だに惑いっぱなし。人の言うことも素直に聞けない。馬齢を重ねてきたというしかない。
けれども、馬齢を重ねることにも、時にはいいことがある。こんなことを言うと、腹を抱えて笑われるだろうが、この年齢になっても、何かの折に「俺って、文章書くのがうまくなったんちゃうか」とか、「この年齢になって新聞記者の仕事のおもしろさが分かってきた」とかいうようなことを実感することがあるからだ。
それは、人からみれば自己満足のたわごとだが、別の言葉でいえば、発展途上の人間にのみ許される「成長の実感」である。その手応えはそのまま、明日も頑張ろうというエネルギーになって自分に返ってくる。そのエネルギーがまた、明後日の成長、発展の足がかりになってくれる。
大事なことは、そういう「成長の実感」を人はどのようにして手に入れることが出来るか、という点にある。
だらだらとこんなことを書き連ねているのは、ファイターズの諸君のうち何人かがいま、確かにそうした実感を手にしつつある、その実感を土台にさらなる成長を遂げようとしていると感じるからである。
先日の神戸大学との試合を振り返って見よう。ファイターズの諸君は、スタンドで観戦している多くのファンの前で、これまでとは見違えるようなリズミカルな動きを見せてくれた。
攻撃では、QB斎藤がWR大園、梅本、木下、横山、TE松島らに長短のパスが次々と成功させる。時にはRB鷺野や飯田へのパスを交えて目先を変え、なんとパスだけで298ヤード、4本のTDを獲得した。勢いに乗って、短い出番だったが、QB前田もWR片岡へのTDパスをヒットさせ、華麗なパスアタックを締めくくった。
守備では池田雄、小野、作道、そして1年生の山岸で構成する盤石のLB陣を中心に、池永を柱にしたライン、鳥内、大森が率いるDBの動きが補完しあって、相手に得点を許さない。これまでの試合では、前半は完璧でも、後半、交代メンバーが出てきた途端にまったく別のチームのようになっていた守備陣が、この日は最後までしっかり守りきった。
特筆すべきは、ベンチのプレーコールである。どこまでもランにこだわったこれまでの3戦とは打って変わって、パスを中心にした思い切りのよい作戦を貫き通した。
圧巻は第2Q後半、ファイターズ5回目の攻撃シリーズ。自陣32ヤードから大園へのリバースプレーで6ヤードを獲得したのを皮切りに6回連続のパスプレーをコールし、5回を成功させた。パスをキャッチしたのは順に大園(20ヤード)、木下(19ヤード)、横山(6ヤード)、HB梶原(7ヤード)、仕上げが梅本へ浮かせた10ヤードTDパス。
長い間、ファイターズの試合を見てきたが、試合終盤の時間に追われる場面以外で、ここまで徹底してパスで攻め続けた攻撃は記憶にない。ベンチのコールもひと味違ったし、それ以上に、ターゲットをすべて変え、長短、左右を投げ分けて、次々とピンポイントのパスを成功させた斎藤の成長に目を見張った。これだけのプレーを立て続けに成功させれば、自分の感覚の中で、例えば「ぱっと電球がともる」というような瞬間があったに違いない。それが僕のいう「成長の実感」である。
人は、決して右肩上がりの曲線を描いて成長するのではない。時には停滞し、後退することもある。重い荷物を背負って、その重さにつぶされてしまいそうになるときもある。予期せぬ事態に、思わずひるむこともあるだろう。
それでも、音を上げず、ひたすら練習に取り組み、自分を鍛える。奥歯をかみしめてならぬ我慢もする。その我慢が出来ずに、思わず手近にある湯飲みを床にたたきつけるようなことがあるかもしれない。
けれども、ある日突然、そういう停滞期が嘘のように消え、突き抜けた青空が広がることがある。そのときは気がつかないかもしれないが、後から振り返れば、あのとき確かに階段を一つ上がった、昨日とは違う舞台で戦っている自分がいた、というようなことを思い知るのである。それが僕のいう「成長の実感」である。実際に何かをつかんだ瞬間にそれが訪れることもあるし、振り返ってその手応えをつかんだことを実感することもある。
つまりそれは、停滞期、後退期に悩み、もがき抜いて、それでも自分を信じて目標に挑み、自らを鍛え続けた者だけが手にすることのできる「実感」である。
先日の神戸大戦だけではない。その前の龍谷や近大との戦い、そして普段の練習の中でも、あえて名前は挙げないが、そういう「実感」を手にしつつある人材が少しずつ現れてきているような気がする。それは僕のひいき目だろうか。
けれども樹木はそうはいかない。「桃栗3年、柿8年」というのは、極めて短い方で、スギやヒノキが用材として利用できるようになるまでには少なくとも60年から70年の歳月が必要だ。
人間となると、さらにやっかいである。歳月を重ね、身体は一人前になっても、それが直接、人としての成長にはつながるわけではない。孔子は数えの40歳を不惑といい、60歳を耳順といって、人の成長の一つの理想を説いた。けれども、そういうことをいうこと自体、40歳になっても惑う人が多く、60歳になっても耳に従う、すなわち人の言うことに耳を傾けることの出来ない人が多かったからだろう。僕も例外ではない。間もなく69歳になるというのに、未だに惑いっぱなし。人の言うことも素直に聞けない。馬齢を重ねてきたというしかない。
けれども、馬齢を重ねることにも、時にはいいことがある。こんなことを言うと、腹を抱えて笑われるだろうが、この年齢になっても、何かの折に「俺って、文章書くのがうまくなったんちゃうか」とか、「この年齢になって新聞記者の仕事のおもしろさが分かってきた」とかいうようなことを実感することがあるからだ。
それは、人からみれば自己満足のたわごとだが、別の言葉でいえば、発展途上の人間にのみ許される「成長の実感」である。その手応えはそのまま、明日も頑張ろうというエネルギーになって自分に返ってくる。そのエネルギーがまた、明後日の成長、発展の足がかりになってくれる。
大事なことは、そういう「成長の実感」を人はどのようにして手に入れることが出来るか、という点にある。
だらだらとこんなことを書き連ねているのは、ファイターズの諸君のうち何人かがいま、確かにそうした実感を手にしつつある、その実感を土台にさらなる成長を遂げようとしていると感じるからである。
先日の神戸大学との試合を振り返って見よう。ファイターズの諸君は、スタンドで観戦している多くのファンの前で、これまでとは見違えるようなリズミカルな動きを見せてくれた。
攻撃では、QB斎藤がWR大園、梅本、木下、横山、TE松島らに長短のパスが次々と成功させる。時にはRB鷺野や飯田へのパスを交えて目先を変え、なんとパスだけで298ヤード、4本のTDを獲得した。勢いに乗って、短い出番だったが、QB前田もWR片岡へのTDパスをヒットさせ、華麗なパスアタックを締めくくった。
守備では池田雄、小野、作道、そして1年生の山岸で構成する盤石のLB陣を中心に、池永を柱にしたライン、鳥内、大森が率いるDBの動きが補完しあって、相手に得点を許さない。これまでの試合では、前半は完璧でも、後半、交代メンバーが出てきた途端にまったく別のチームのようになっていた守備陣が、この日は最後までしっかり守りきった。
特筆すべきは、ベンチのプレーコールである。どこまでもランにこだわったこれまでの3戦とは打って変わって、パスを中心にした思い切りのよい作戦を貫き通した。
圧巻は第2Q後半、ファイターズ5回目の攻撃シリーズ。自陣32ヤードから大園へのリバースプレーで6ヤードを獲得したのを皮切りに6回連続のパスプレーをコールし、5回を成功させた。パスをキャッチしたのは順に大園(20ヤード)、木下(19ヤード)、横山(6ヤード)、HB梶原(7ヤード)、仕上げが梅本へ浮かせた10ヤードTDパス。
長い間、ファイターズの試合を見てきたが、試合終盤の時間に追われる場面以外で、ここまで徹底してパスで攻め続けた攻撃は記憶にない。ベンチのコールもひと味違ったし、それ以上に、ターゲットをすべて変え、長短、左右を投げ分けて、次々とピンポイントのパスを成功させた斎藤の成長に目を見張った。これだけのプレーを立て続けに成功させれば、自分の感覚の中で、例えば「ぱっと電球がともる」というような瞬間があったに違いない。それが僕のいう「成長の実感」である。
人は、決して右肩上がりの曲線を描いて成長するのではない。時には停滞し、後退することもある。重い荷物を背負って、その重さにつぶされてしまいそうになるときもある。予期せぬ事態に、思わずひるむこともあるだろう。
それでも、音を上げず、ひたすら練習に取り組み、自分を鍛える。奥歯をかみしめてならぬ我慢もする。その我慢が出来ずに、思わず手近にある湯飲みを床にたたきつけるようなことがあるかもしれない。
けれども、ある日突然、そういう停滞期が嘘のように消え、突き抜けた青空が広がることがある。そのときは気がつかないかもしれないが、後から振り返れば、あのとき確かに階段を一つ上がった、昨日とは違う舞台で戦っている自分がいた、というようなことを思い知るのである。それが僕のいう「成長の実感」である。実際に何かをつかんだ瞬間にそれが訪れることもあるし、振り返ってその手応えをつかんだことを実感することもある。
つまりそれは、停滞期、後退期に悩み、もがき抜いて、それでも自分を信じて目標に挑み、自らを鍛え続けた者だけが手にすることのできる「実感」である。
先日の神戸大戦だけではない。その前の龍谷や近大との戦い、そして普段の練習の中でも、あえて名前は挙げないが、そういう「実感」を手にしつつある人材が少しずつ現れてきているような気がする。それは僕のひいき目だろうか。
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