石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(23)いま、でしょう
先週末、数人のマネジャー、トレーナーらと焼き肉屋に出掛けた。日ごろ、リクルート活動のお手伝いなどを通じて、密接な関係にあるにもかかわらず、じっくり話し込んだことがなかったので、激励会を兼ねて食事をともにしようという目的だった。
その話を聞きつけて「それなら、僕にも話したいことがある」と駆けつけてくれたアシスタントコーチの香山君も交え「食べ放題コース」に舌鼓を打ちながら、あれやこれやと話し込んだ。
みんな胸にしまい込んでいることがたくさんあるようだった。マネジャーやトレーナーという仕事柄、選手のプレーそのものの論評はしにくい。けれども、4年生として、同じ学年の幹部たち、あるいは下級生たちの練習に対する取り組み方については、言いたいことがいっぱいある。練習をマネジメントする立場、選手を鍛える立場からは、指摘しなければならないことがいくつも見えている。そういう自負があるのだろう。彼らの舌鋒は鋭かった。
加えて、コーチの香山君からも厳しい現状認識と鋭い指摘が個人名を挙げて具体的に出された。自分が4年生の時に取り組んだ内容、昨年コーチとして見たチームと、現状との違い。その指摘が一つ一つ具体的になされるから、説得力がある。いつしか食事会が遠慮のない「反省ミーティング」のような雰囲気になってきた。
詳しい内容を話せば、このコラムの注目度は一気に上がるだろう。でも、チームにとっては内緒にしたい、ここだけの話にしておきたいことが一杯含まれている。とうていすべての話を書けることではない。
それでも、こんなエピソードなら差し障りはないだろう。紹介する。それは香山君が4年生の時、毎晩のように幹部で話し合い、時には議論が感情的になって「○○(同級生の幹部)に殺されるかと思った」という場面があったという話や、議論の後、泊まり込んだ松岡主将の部屋で、先に就寝した松岡君が突然「お前、何回言っても、なんでできひんねん」と叫び出した話。彼は寝ていてもチームの練習を夢に見て、必死に仲間に檄を飛ばしていたのだ。
「こいつ、ここまでチームのことを気にかけているんや。オレも死ぬ気でやらなあかんと思った」と香山君。
それに呼応して、4年生マネジャーの野瀬君が「似たような話は昨年の夏合宿でもありました」と次のような話を紹介してくれた。
木戸さん(当時、4年生の女子マネジャー)が夜中に突然、「あと、みっつ」と叫んだのです。寝ていても、練習のことを夢に見ており、思わず声を挙げたのでしょう。それほど熱い気持ちを持ったマネジャーでした、という話だった。
僕はもっぱら聞き役で、相づちを打っているだけだが、こんなエピソードを交えて議論は白熱。最後にトレーナーの佐久間君が「明日からもっともっと走らせます」、主務の多田君が「今夜から、さらに気合いを入れていきます」とまとめて、ようやく一段落した。
幕末、倒幕軍のトップ、西郷隆盛と談判して、江戸城を無血開城し、徳川幕府の幕を引いた勝海舟が、剣術の修業についてこんな話を残している。「氷川清話」からその趣旨を引用する。
本当に修業したのは剣術ばかりだ。寒中になると、毎日、稽古がすむと、夕方から稽古着一枚で王子権現に行って夜稽古をした。まず拝殿の礎石に腰をかけて瞑目沈思、心胆を錬磨し、しかる後、起って木剣を振り回し、また元の礎石に腰をかけて心胆を錬磨し、また起って木剣を振り回し、こういう風に夜明けまで5,6回もやって、それから帰って朝稽古をやり、夕方になるとまた王子権現に出掛けて、一日も怠らなかった(中略)修業の効は(幕府)瓦解の前後に顕れて、あんな艱難辛苦に堪え得て、少しもひるまなかった……。
そう、若い頃は思い込んだら、とことん熱中できる。それが苦しいとか、いやだとかいう気持ちは毛頭ない。型ばかりではなく、本当の剣術をやりたい。心身ともに錬磨したい。そう発心したら、寒さも夜の寂しさも、睡眠不足もいっこうに気にならない。自らの発心だから、納得するまで突き詰める。苦しいとか疲れたとか、自分に言い訳している場合ではない。やり遂げてなんぼ、である。
そういう経験は、勝海舟に限らない。世の中に爪痕を残したような人なら、大なり小なり経験していることである。懸命に語学に取り組む。仕事を誰よりも速く成し遂げる。売り上げトップを達成する。新聞社でいえば誰もが驚く特ダネを書く。誰もが書いたことのないような記事を書く。それも次々と連打する。そういうことである。
そのための努力はやって当たり前。自分に言い訳するぐらいなら、はじめから尻尾を巻いて逃げ出せ。中途半端なことをされたら、周りが迷惑する。そんな言葉を言ったり聞いたりしたのは、僕だけではないはずだ。
そう。何事かを成し遂げた人はみなそういう努力を続けている。夢の中でも檄を飛ばし、仲間を鼓舞するような経験は、決して卒業した松岡主将や木戸マネジャーだけの専売ではない。
やるのは、いまでしょ。関西リーグ最終の立命戦まで2カ月。その前に近大、神戸大、京大、関大が手ぐすね引いて待っている。先日の龍大戦を振り返れば、今後、楽に戦える試合なんて、一つもないだろう。
やるのは、いましかない。それぞれが厳しく仲間に要求すること。要求できるだけの取り組みを自発的にすること。主務の多田君が先日のコラムに書いている通りである。
ファイターズの諸君に、それが出来ないはずはない。頑張れ! 期待している。
その話を聞きつけて「それなら、僕にも話したいことがある」と駆けつけてくれたアシスタントコーチの香山君も交え「食べ放題コース」に舌鼓を打ちながら、あれやこれやと話し込んだ。
みんな胸にしまい込んでいることがたくさんあるようだった。マネジャーやトレーナーという仕事柄、選手のプレーそのものの論評はしにくい。けれども、4年生として、同じ学年の幹部たち、あるいは下級生たちの練習に対する取り組み方については、言いたいことがいっぱいある。練習をマネジメントする立場、選手を鍛える立場からは、指摘しなければならないことがいくつも見えている。そういう自負があるのだろう。彼らの舌鋒は鋭かった。
加えて、コーチの香山君からも厳しい現状認識と鋭い指摘が個人名を挙げて具体的に出された。自分が4年生の時に取り組んだ内容、昨年コーチとして見たチームと、現状との違い。その指摘が一つ一つ具体的になされるから、説得力がある。いつしか食事会が遠慮のない「反省ミーティング」のような雰囲気になってきた。
詳しい内容を話せば、このコラムの注目度は一気に上がるだろう。でも、チームにとっては内緒にしたい、ここだけの話にしておきたいことが一杯含まれている。とうていすべての話を書けることではない。
それでも、こんなエピソードなら差し障りはないだろう。紹介する。それは香山君が4年生の時、毎晩のように幹部で話し合い、時には議論が感情的になって「○○(同級生の幹部)に殺されるかと思った」という場面があったという話や、議論の後、泊まり込んだ松岡主将の部屋で、先に就寝した松岡君が突然「お前、何回言っても、なんでできひんねん」と叫び出した話。彼は寝ていてもチームの練習を夢に見て、必死に仲間に檄を飛ばしていたのだ。
「こいつ、ここまでチームのことを気にかけているんや。オレも死ぬ気でやらなあかんと思った」と香山君。
それに呼応して、4年生マネジャーの野瀬君が「似たような話は昨年の夏合宿でもありました」と次のような話を紹介してくれた。
木戸さん(当時、4年生の女子マネジャー)が夜中に突然、「あと、みっつ」と叫んだのです。寝ていても、練習のことを夢に見ており、思わず声を挙げたのでしょう。それほど熱い気持ちを持ったマネジャーでした、という話だった。
僕はもっぱら聞き役で、相づちを打っているだけだが、こんなエピソードを交えて議論は白熱。最後にトレーナーの佐久間君が「明日からもっともっと走らせます」、主務の多田君が「今夜から、さらに気合いを入れていきます」とまとめて、ようやく一段落した。
幕末、倒幕軍のトップ、西郷隆盛と談判して、江戸城を無血開城し、徳川幕府の幕を引いた勝海舟が、剣術の修業についてこんな話を残している。「氷川清話」からその趣旨を引用する。
本当に修業したのは剣術ばかりだ。寒中になると、毎日、稽古がすむと、夕方から稽古着一枚で王子権現に行って夜稽古をした。まず拝殿の礎石に腰をかけて瞑目沈思、心胆を錬磨し、しかる後、起って木剣を振り回し、また元の礎石に腰をかけて心胆を錬磨し、また起って木剣を振り回し、こういう風に夜明けまで5,6回もやって、それから帰って朝稽古をやり、夕方になるとまた王子権現に出掛けて、一日も怠らなかった(中略)修業の効は(幕府)瓦解の前後に顕れて、あんな艱難辛苦に堪え得て、少しもひるまなかった……。
そう、若い頃は思い込んだら、とことん熱中できる。それが苦しいとか、いやだとかいう気持ちは毛頭ない。型ばかりではなく、本当の剣術をやりたい。心身ともに錬磨したい。そう発心したら、寒さも夜の寂しさも、睡眠不足もいっこうに気にならない。自らの発心だから、納得するまで突き詰める。苦しいとか疲れたとか、自分に言い訳している場合ではない。やり遂げてなんぼ、である。
そういう経験は、勝海舟に限らない。世の中に爪痕を残したような人なら、大なり小なり経験していることである。懸命に語学に取り組む。仕事を誰よりも速く成し遂げる。売り上げトップを達成する。新聞社でいえば誰もが驚く特ダネを書く。誰もが書いたことのないような記事を書く。それも次々と連打する。そういうことである。
そのための努力はやって当たり前。自分に言い訳するぐらいなら、はじめから尻尾を巻いて逃げ出せ。中途半端なことをされたら、周りが迷惑する。そんな言葉を言ったり聞いたりしたのは、僕だけではないはずだ。
そう。何事かを成し遂げた人はみなそういう努力を続けている。夢の中でも檄を飛ばし、仲間を鼓舞するような経験は、決して卒業した松岡主将や木戸マネジャーだけの専売ではない。
やるのは、いまでしょ。関西リーグ最終の立命戦まで2カ月。その前に近大、神戸大、京大、関大が手ぐすね引いて待っている。先日の龍大戦を振り返れば、今後、楽に戦える試合なんて、一つもないだろう。
やるのは、いましかない。それぞれが厳しく仲間に要求すること。要求できるだけの取り組みを自発的にすること。主務の多田君が先日のコラムに書いている通りである。
ファイターズの諸君に、それが出来ないはずはない。頑張れ! 期待している。
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