石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(19)平郡君に
8月16日は、平郡雷太君の命日である。
2003年8月16日、兵庫県東鉢伏高原で合宿中に彼が急性心不全で亡くなってから、この日がちょうど10年。いま同じ場所で合宿中の部員や監督、コーチたちは、早朝練習が始まる前、彼を偲んで黙祷を捧げた。
高校生の勉強会のため西宮にいる僕は、朝から上ヶ原の第3フィールドに出向き、平郡君の死を悼んで植えられた山桃の木に向かって黙祷し、彼に語りかけてきた。
チームは彼にいくつかのことを誓った。その内容は、山桃の木の下に設置されたプレートの碑文に刻まれている。?君のファイターズにおける生き様を記憶し?部が存続する限り君の事故を教訓にして、常に安全に対する意識を高めることを心掛け?フットボールに対する君のひたむきな情熱を部関係者全員が学び、心新たに日々の活動に邁進する……というようなことである。
そして「これからは、この地より後輩たちを見守り、励ましてください」とお願いして碑文を結び、最後に「一粒の麦は地に落ちなければ一粒のままである。だが死ねば多くの身を結ぶ」という新訳聖書の言葉が添えられている。
この碑文は、ただの追悼碑ではない。いまも練習のために集まって来る部員が全員、その前にたたずんで、この碑文を読み、碑文の内容を胸に刻んでグラウンドに降りる。チームで長く活動している4年生も、入部したばかりの1年生も、その姿に変わりはない。
もちろん、いまの部員で彼と面識のあった者は一人もいない。それでも、チームがいつも彼のことを語り継いでいるから、彼のことはすべての部員が知っている。チームの監督やコーチ、それに顧問の前島先生らが折に触れて彼のことにふれ、この記念樹が植えられた由縁を話し、プレートの碑文に込められた意味を語り継いできたからである。
「常に安全に対する意識を高めことに心掛け」ということについても、真剣に取り組んでいる。チームには何人ものチームドクターがいるのに加え(合宿中も交代で参加してくれている)、プロのトレーニングコーチや理学療法士を置いて、安全な練習、事故に対する素早い手当などを心掛けるようになったのは、彼の事故が起きてからのことだし、毎年、新しいチームがスタートするときには小野ディレクターによる安全講習会を行っている。もちろん、全員の健康状態のチェックも厳密に行っている。入学時の脳検診(MRI)によって、日常生活では気がつかなかった脳の症状が見つかった部員もいる。脳震盪を起こした部員が練習に復帰するための厳密なマニュアルを定め、それを厳守させてもいる。
気温の高い夏場は、練習開始時間も夕方5時以降に設定、熱中症に備えている。トレーナーは常に水分と塩分の補給を呼び掛け、休憩のたびに「頭の痛い者はすぐに申告を」と大きな声を掛ける。もちろん、練習自体も短く区切り、必ず水分やサプリメント補給の時間を設けている。
夏の合宿中には、決まってこんなシーンを見掛ける。監督が自らホースを持ち、部員のヘルメットを脱がせて頭から水をかけて回るシーンである。
すべてが安全に対する取り組みである。先日も久しぶりに合宿の慰問に行ったというOBの一人が「僕らの頃には、想像もつかない取り組み」とフェイスブックに投稿していたが、10年前といまでは安全に対する取り組みが変わってしまっている。
こんな風に書くと「そんな練習で日本1のチームが出来るのか。平郡君に約束した日本1のチームが作れるのか」という疑問をもたれる方もあるに違いない。
だが、それは杞憂である。いわゆる「根性練」でなくても、チームを強くする方法はある。チームの指導者が確信を持って、人間の身体構造から考えた合理的な練習、最新のメソッドを取り入れたより効率的なメニュー、食事の取り方や栄養バランス、そして適切な休養時間の確保。そうしたことに配慮しつつ練習メニューを組めば、十分に選手を鍛えることは出来る。それは、そうした取り組みに目を向けた以降のファイターズの成績が証明している。
この2年間の甲子園ボウル2連覇は、安全を最優先した練習の成果と言っても過言ではないのである。
平郡君! そういった次第です。チームに関係する全員があの日、君と約束した「君の事故を教訓にし、常に安全に対する意識を高めることを心掛け、フットボールに対する君のひたむきな情熱を全員が受け継いで」活動を続けています。安心して、これからもファイターズの活動を見守り続けてください。
2003年8月16日、兵庫県東鉢伏高原で合宿中に彼が急性心不全で亡くなってから、この日がちょうど10年。いま同じ場所で合宿中の部員や監督、コーチたちは、早朝練習が始まる前、彼を偲んで黙祷を捧げた。
高校生の勉強会のため西宮にいる僕は、朝から上ヶ原の第3フィールドに出向き、平郡君の死を悼んで植えられた山桃の木に向かって黙祷し、彼に語りかけてきた。
チームは彼にいくつかのことを誓った。その内容は、山桃の木の下に設置されたプレートの碑文に刻まれている。?君のファイターズにおける生き様を記憶し?部が存続する限り君の事故を教訓にして、常に安全に対する意識を高めることを心掛け?フットボールに対する君のひたむきな情熱を部関係者全員が学び、心新たに日々の活動に邁進する……というようなことである。
そして「これからは、この地より後輩たちを見守り、励ましてください」とお願いして碑文を結び、最後に「一粒の麦は地に落ちなければ一粒のままである。だが死ねば多くの身を結ぶ」という新訳聖書の言葉が添えられている。
この碑文は、ただの追悼碑ではない。いまも練習のために集まって来る部員が全員、その前にたたずんで、この碑文を読み、碑文の内容を胸に刻んでグラウンドに降りる。チームで長く活動している4年生も、入部したばかりの1年生も、その姿に変わりはない。
もちろん、いまの部員で彼と面識のあった者は一人もいない。それでも、チームがいつも彼のことを語り継いでいるから、彼のことはすべての部員が知っている。チームの監督やコーチ、それに顧問の前島先生らが折に触れて彼のことにふれ、この記念樹が植えられた由縁を話し、プレートの碑文に込められた意味を語り継いできたからである。
「常に安全に対する意識を高めことに心掛け」ということについても、真剣に取り組んでいる。チームには何人ものチームドクターがいるのに加え(合宿中も交代で参加してくれている)、プロのトレーニングコーチや理学療法士を置いて、安全な練習、事故に対する素早い手当などを心掛けるようになったのは、彼の事故が起きてからのことだし、毎年、新しいチームがスタートするときには小野ディレクターによる安全講習会を行っている。もちろん、全員の健康状態のチェックも厳密に行っている。入学時の脳検診(MRI)によって、日常生活では気がつかなかった脳の症状が見つかった部員もいる。脳震盪を起こした部員が練習に復帰するための厳密なマニュアルを定め、それを厳守させてもいる。
気温の高い夏場は、練習開始時間も夕方5時以降に設定、熱中症に備えている。トレーナーは常に水分と塩分の補給を呼び掛け、休憩のたびに「頭の痛い者はすぐに申告を」と大きな声を掛ける。もちろん、練習自体も短く区切り、必ず水分やサプリメント補給の時間を設けている。
夏の合宿中には、決まってこんなシーンを見掛ける。監督が自らホースを持ち、部員のヘルメットを脱がせて頭から水をかけて回るシーンである。
すべてが安全に対する取り組みである。先日も久しぶりに合宿の慰問に行ったというOBの一人が「僕らの頃には、想像もつかない取り組み」とフェイスブックに投稿していたが、10年前といまでは安全に対する取り組みが変わってしまっている。
こんな風に書くと「そんな練習で日本1のチームが出来るのか。平郡君に約束した日本1のチームが作れるのか」という疑問をもたれる方もあるに違いない。
だが、それは杞憂である。いわゆる「根性練」でなくても、チームを強くする方法はある。チームの指導者が確信を持って、人間の身体構造から考えた合理的な練習、最新のメソッドを取り入れたより効率的なメニュー、食事の取り方や栄養バランス、そして適切な休養時間の確保。そうしたことに配慮しつつ練習メニューを組めば、十分に選手を鍛えることは出来る。それは、そうした取り組みに目を向けた以降のファイターズの成績が証明している。
この2年間の甲子園ボウル2連覇は、安全を最優先した練習の成果と言っても過言ではないのである。
平郡君! そういった次第です。チームに関係する全員があの日、君と約束した「君の事故を教訓にし、常に安全に対する意識を高めることを心掛け、フットボールに対する君のひたむきな情熱を全員が受け継いで」活動を続けています。安心して、これからもファイターズの活動を見守り続けてください。
この記事は外部ブログを参照しています。すべて見るには下のリンクをクリックしてください。
記事タイトル:(19)平郡君に
(ブログタイトル:石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」)
アーカイブ
- 2024年11月(3)
- 2024年10月(3)
- 2024年9月(3)
- 2024年6月(2)
- 2024年5月(3)
- 2024年4月(1)
- 2023年12月(3)
- 2023年11月(3)
- 2023年10月(4)
- 2023年9月(3)
- 2023年7月(1)
- 2023年6月(1)
- 2023年5月(3)
- 2023年4月(1)
- 2022年12月(2)
- 2022年11月(3)
- 2022年10月(3)
- 2022年9月(2)
- 2022年8月(1)
- 2022年7月(1)
- 2022年6月(2)
- 2022年5月(3)
- 2021年12月(3)
- 2021年11月(3)
- 2021年10月(4)
- 2021年1月(2)
- 2020年12月(3)
- 2020年11月(4)
- 2020年10月(4)
- 2020年9月(2)
- 2020年1月(3)
- 2019年12月(3)
- 2019年11月(3)
- 2019年10月(5)
- 2019年9月(4)
- 2019年8月(3)
- 2019年7月(2)
- 2019年6月(4)
- 2019年5月(4)
- 2019年4月(4)
- 2019年1月(1)
- 2018年12月(4)
- 2018年11月(4)
- 2018年10月(5)
- 2018年9月(3)
- 2018年8月(4)
- 2018年7月(2)
- 2018年6月(3)
- 2018年5月(4)
- 2018年4月(3)
- 2017年12月(3)
- 2017年11月(4)
- 2017年10月(3)
- 2017年9月(4)
- 2017年8月(4)
- 2017年7月(3)
- 2017年6月(4)
- 2017年5月(4)
- 2017年4月(4)
- 2017年1月(2)
- 2016年12月(4)
- 2016年11月(5)
- 2016年10月(3)
- 2016年9月(4)
- 2016年8月(4)
- 2016年7月(3)
- 2016年6月(2)
- 2016年5月(4)
- 2016年4月(4)
- 2015年12月(1)
- 2015年11月(4)
- 2015年10月(3)
- 2015年9月(5)
- 2015年8月(3)
- 2015年7月(5)
- 2015年6月(4)
- 2015年5月(2)
- 2015年4月(3)
- 2015年3月(3)
- 2015年1月(2)
- 2014年12月(4)
- 2014年11月(4)
- 2014年10月(4)
- 2014年9月(4)
- 2014年8月(4)
- 2014年7月(4)
- 2014年6月(4)
- 2014年5月(5)
- 2014年4月(4)
- 2014年1月(1)
- 2013年12月(5)
- 2013年11月(4)
- 2013年10月(5)
- 2013年9月(3)
- 2013年8月(3)
- 2013年7月(4)
- 2013年6月(4)
- 2013年5月(5)
- 2013年4月(4)
- 2013年1月(1)
- 2012年12月(4)
- 2012年11月(5)
- 2012年10月(4)
- 2012年9月(5)
- 2012年8月(4)
- 2012年7月(3)
- 2012年6月(3)
- 2012年5月(5)
- 2012年4月(4)
- 2012年1月(1)
- 2011年12月(5)
- 2011年11月(5)
- 2011年10月(4)
- 2011年9月(4)
- 2011年8月(3)
- 2011年7月(3)
- 2011年6月(4)
- 2011年5月(5)
- 2011年4月(4)
- 2010年12月(1)
- 2010年11月(4)
- 2010年10月(4)
- 2010年9月(4)
- 2010年8月(3)
- 2010年7月(2)
- 2010年6月(5)
- 2010年5月(3)
- 2010年4月(4)
- 2010年3月(1)
- 2009年11月(4)
- 2009年10月(4)
- 2009年9月(3)
- 2009年8月(4)
- 2009年7月(3)
- 2009年6月(4)
- 2009年5月(3)
- 2009年4月(4)
- 2009年3月(1)
- 2008年12月(1)
- 2008年11月(4)
- 2008年10月(3)
- 2008年9月(5)
- 2008年8月(2)
- 2008年4月(1)