石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(2)練習2時間前
この前の日曜日。前夜からの強風は衰えを見せず、天気予報は「爆弾低気圧」の襲来を警告していた。
しかし、朝、目を覚ますと、暴風雨の気配はない。これなら予定通りに練習が始まるぞ、と勝手に決めて、さっさと会社の原稿を仕上げ、昼前には上ヶ原の第3フィールドに向かった。
グラウンドに到着したのは正午前。チーム練習が始まるまでには、まだ2時間以上ある。けれども、もう4年生を中心に2,30人の部員が集まって防具を着け、簡単な準備運動を始めている。ファイアターズの諸君が「屋根下」と呼んでいる物置兼治療スペース兼準備室兼マッサージ室兼着替え室という便利なスペースでテーピングをしたり、練習前の用具を点検したりしている。その中心になっているのがトレーナーやマネジャーで、みんな忙しく立ち働いている。いつもと変わらぬ光景である。
ふと見ると、その片隅で副将のDB鳥内君がせっせと練習に使うボールに空気を入れている。同じく4年生のRB野々垣君は大きなダミーを担いで何度もグラウンドを往復している。ともに練習のための準備である。主将の池永君や副将の友國君、池田君は、テーピングを巻き終わると同時にグラウンドに飛び出し、それぞれパートのメンバーと体をほぐしている。
早くからグラウンドに出ていたキッカーたちは、強風に立ち向かうようにパントの練習を始め、中央ではQBの斎藤君が肩慣らしのキャッチボールをしている。これもまた、いつも通りの光景である。
練習2時間前といえば、コーチや監督はまだグラウンドに顔を見せていない。大声を上げて命令する部員もいないし、何をしてよいのか分からずにうろうろする部員もいない。けれども部員たちは、誰に指示されるわけでもなく、自らのやるべきことに黙々と取り組んでいる。
その先頭に立っているのが4年生である。練習の準備から進行、安全対策まで、すべてに責任を持ち、パートの先頭に立って練習を引っ張っている。3年生や2年生もそれに同調し、黙々とメニューをこなしていく。学年が変わり、新しいシーズンが始まっても、この流れは変わらない。
その昔、まだ人工芝のグラウンドがなく、土のグラウンドで練習していたころの光景を思い出す。僕が熱心に練習を見学するようになったのは2001年、石田力哉君が主将の時代だったが、その頃も練習が始まる何時間も前から石田君がトンボでグラウンドをならし、副将の榊原君がホースで水をまいていた。それを横目に1年生の佐岡君や石田貴祐君がデカイ態度で談笑していた。
そのときに石田主将から聞いた言葉が忘れられない。「体力のある4年生が(練習の下準備など)しんどいことをするのは当たり前。僕らは下級生に助けてもらうんですから」。いかつい体格に似合わない笑顔で、彼はそんなことを話してくれた。
ファイターズは、常々、「4年生のチーム」と言われる。4年生がすべてを仕切り、すべてに責任を持つチームということだろう。しかし、それは4年生が威張ることではない。その権力を背景に、下級生を怒鳴ったり、いじめたりすることでもない。そうではなくて、4年生がしんどいこと、苦しいことに率先して取り組み、その振る舞いでチームを引っ張っていくことである。
重いダミーを運ぶのも、ボールに空気を入れるのも、練習をスムーズに運ぶためには欠かせない行動である。それを4年生の幹部が自発的に、自然な形で行うところに「4年生のチーム」の本質がある。そして「しんどいことを4年生がするのは当たり前」という伝統が、誰かに命令されたり強制されたりすることなく受け継がれてきたところに、このチームの奥の深さがある。
それはいま、世間で話題になっている体罰やいじめとは無縁の世界である。怒鳴り声とも暴力とも、遠く離れた世界である。
チーム練習の始まる2時間も前から、そういう光景が見られるのだから「爆弾低気圧」の予報ごときにはひるんでおれない。かくして、僕はまた、せっせと仁川からの坂道を上っていくのである。
しかし、朝、目を覚ますと、暴風雨の気配はない。これなら予定通りに練習が始まるぞ、と勝手に決めて、さっさと会社の原稿を仕上げ、昼前には上ヶ原の第3フィールドに向かった。
グラウンドに到着したのは正午前。チーム練習が始まるまでには、まだ2時間以上ある。けれども、もう4年生を中心に2,30人の部員が集まって防具を着け、簡単な準備運動を始めている。ファイアターズの諸君が「屋根下」と呼んでいる物置兼治療スペース兼準備室兼マッサージ室兼着替え室という便利なスペースでテーピングをしたり、練習前の用具を点検したりしている。その中心になっているのがトレーナーやマネジャーで、みんな忙しく立ち働いている。いつもと変わらぬ光景である。
ふと見ると、その片隅で副将のDB鳥内君がせっせと練習に使うボールに空気を入れている。同じく4年生のRB野々垣君は大きなダミーを担いで何度もグラウンドを往復している。ともに練習のための準備である。主将の池永君や副将の友國君、池田君は、テーピングを巻き終わると同時にグラウンドに飛び出し、それぞれパートのメンバーと体をほぐしている。
早くからグラウンドに出ていたキッカーたちは、強風に立ち向かうようにパントの練習を始め、中央ではQBの斎藤君が肩慣らしのキャッチボールをしている。これもまた、いつも通りの光景である。
練習2時間前といえば、コーチや監督はまだグラウンドに顔を見せていない。大声を上げて命令する部員もいないし、何をしてよいのか分からずにうろうろする部員もいない。けれども部員たちは、誰に指示されるわけでもなく、自らのやるべきことに黙々と取り組んでいる。
その先頭に立っているのが4年生である。練習の準備から進行、安全対策まで、すべてに責任を持ち、パートの先頭に立って練習を引っ張っている。3年生や2年生もそれに同調し、黙々とメニューをこなしていく。学年が変わり、新しいシーズンが始まっても、この流れは変わらない。
その昔、まだ人工芝のグラウンドがなく、土のグラウンドで練習していたころの光景を思い出す。僕が熱心に練習を見学するようになったのは2001年、石田力哉君が主将の時代だったが、その頃も練習が始まる何時間も前から石田君がトンボでグラウンドをならし、副将の榊原君がホースで水をまいていた。それを横目に1年生の佐岡君や石田貴祐君がデカイ態度で談笑していた。
そのときに石田主将から聞いた言葉が忘れられない。「体力のある4年生が(練習の下準備など)しんどいことをするのは当たり前。僕らは下級生に助けてもらうんですから」。いかつい体格に似合わない笑顔で、彼はそんなことを話してくれた。
ファイターズは、常々、「4年生のチーム」と言われる。4年生がすべてを仕切り、すべてに責任を持つチームということだろう。しかし、それは4年生が威張ることではない。その権力を背景に、下級生を怒鳴ったり、いじめたりすることでもない。そうではなくて、4年生がしんどいこと、苦しいことに率先して取り組み、その振る舞いでチームを引っ張っていくことである。
重いダミーを運ぶのも、ボールに空気を入れるのも、練習をスムーズに運ぶためには欠かせない行動である。それを4年生の幹部が自発的に、自然な形で行うところに「4年生のチーム」の本質がある。そして「しんどいことを4年生がするのは当たり前」という伝統が、誰かに命令されたり強制されたりすることなく受け継がれてきたところに、このチームの奥の深さがある。
それはいま、世間で話題になっている体罰やいじめとは無縁の世界である。怒鳴り声とも暴力とも、遠く離れた世界である。
チーム練習の始まる2時間も前から、そういう光景が見られるのだから「爆弾低気圧」の予報ごときにはひるんでおれない。かくして、僕はまた、せっせと仁川からの坂道を上っていくのである。
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