石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(37)それぞれの役割
先週末、少し時間が空いたので、録画していた甲子園ボウルの映像をじっくりと見返した。何度見ても、苦しい試合であり、見事な結末だった。
第4Qも残り6分を切って、得点は10-17。前半リードしていたファイターズは、第3Q途中から法政に厳しく追い上げられ、逆転された。残り時間からいっても、両チームの勢いからいっても、敗色濃厚である。
進退窮まったこの状況で、4年生のQB畑が足の痛みをおして登場。試合前の練習もできなかったエースが懸命にパスを投げる。残り4分42秒、畑がセンターライン付近から右サイドライン付近に投じた長いパスをWR木戸がキャッチ、そのまま相手コーナーバックとセーフティーを振り切ってTD。堀本のキックも決まって同点に追いつく。
スタンドから見ていたときは、木戸が余裕でキャッチしたように見えたが、ビデオで確認すると、思いの外きわどい状況だった。右手からはCB、左手からはSFが挟み撃ちにするように詰めている。その真ん中にピンポイントで投げ込まれたパスを確保し、スピードで相手を振り切り、一気に25ヤードほどを走り切っていた。
驚いたのは、このときの木戸の表情である。もちろん、喜んではいるのだが、それよりも「キャッチして当然」「独走して当たり前」。どちらかといえば涼しい顔に見えた。これは第3Q開始早々のキックを自陣6ヤードでキャッチし、そのまま94ヤードを独走してTDに結び付けたプレーの時にも見られたのだが、ともに勝敗を左右するビッグプレーの当事者とは思えないほどの冷静さだった。
後日、練習前のグラウンドでその辺のことを聞いた。リターンTDの時は「前がぱっと開き、ブロッカーが大勢出て役割を果たしてくれ、走路が確保されていた。僕はそのコースを走っただけです」。TDパスをキャッチしたときは「二人のDBに挟まれたけど、畑さんのパスがその真ん中にきたので、そのまま走り切りました」。つまり、ブロッカーやQBがきちんと役割を果たしてくれたから、自分も役割を果たしただけ、というような趣旨の説明をしてくれた。
その返事を聞いて、僕は驚き、また感心した。
ファイターズはチーム練習を切り上げるとき、必ずハドルを組み、主将や副将、主務らが一言ずつコメントする。そこではよく「それぞれの役割をきっちり果たそう。やることをやって必ず勝とう」という意味の檄が飛ぶ。「それぞれの役割を果たす」ことに価値を置き「チームへの献身」が重んじられることを、4年生から1年生まで、構成員すべてが了解している組織といってもよい。
試合に出る選手はもちろん、出られないけれどもスカウトチームを務める選手、練習の進行を管理するマネジャー、選手のトレーニングを担当し、食事から体調管理までを担当するトレーナー、ゲームプランを立てるために不可欠な資料を集め、分析するアナライジングスタッフ……。約200人の大所帯を構成する全員に、それぞれの役割があり、その役割を全員が確実に果たすことでチームが運営される。その総和が勝利に結びつく。
ファイターズとは、そういうチームである。だから、試合の流れを変えるようなビッグプレーをしても、それは「ブロッカーが走路を確保してくれたから」であり「QBがいいパスを投げてくれたから」という言葉になるのだろう。自らの手柄は「役割を果たしただけ」と控えめに語れるのである。そういうたたずまいを持ったヒーローがいることに、僕はただただ感動する。そのヒーローがたゆまぬ鍛錬で、チームでも1、2を争う頑強な肉体を鍛え上げている事実を知っているだけに、その控えめな言葉がなおさら清々しく感じられるのである。
「役割を果たす」ということでいえば、オフェンスラインが今季、営々と続けてきた「特訓」のことも忘れられない。主に3年生が中心になって通常の練習とは別にグラウンドに集合し、大村コーチの指導の下、2班に分かれて特別の練習を続けてきた。普段の練習だけでは力がつかないからということで始めた試みだが、これで木村、長森らのOLが格段に力を付けたという。これもまたOLとしての役割を果たすために取り組んだ努力の一端である。
朝の食事会も行われた。生協食堂に協力を求め、主に大学周辺に下宿している部員を対象に、栄養面で配慮した朝食を提供する集まりだが、そこでもトレーナーの柿原君や楳田さんらが重要な役割を果たした。栄養面からの選手の体力作りに心を配ったのである。
このように、それぞれの持ち場で200人の部員が「役割を果たした」結果が、大学日本1につながった。それもまた「仲間への信頼」「チームへの献身」の具体的な姿といえるだろう。
こういうチームだからこそ、是非とも社会人代表を倒して日本1になってほしい。頂点に立つことによって、全国のフットボーラーに、青少年に「信頼」とか「献身」とかに、みんなが思っている以上に価値があることを知らしめてほしい。僕はそれを心から願っている。
第4Qも残り6分を切って、得点は10-17。前半リードしていたファイターズは、第3Q途中から法政に厳しく追い上げられ、逆転された。残り時間からいっても、両チームの勢いからいっても、敗色濃厚である。
進退窮まったこの状況で、4年生のQB畑が足の痛みをおして登場。試合前の練習もできなかったエースが懸命にパスを投げる。残り4分42秒、畑がセンターライン付近から右サイドライン付近に投じた長いパスをWR木戸がキャッチ、そのまま相手コーナーバックとセーフティーを振り切ってTD。堀本のキックも決まって同点に追いつく。
スタンドから見ていたときは、木戸が余裕でキャッチしたように見えたが、ビデオで確認すると、思いの外きわどい状況だった。右手からはCB、左手からはSFが挟み撃ちにするように詰めている。その真ん中にピンポイントで投げ込まれたパスを確保し、スピードで相手を振り切り、一気に25ヤードほどを走り切っていた。
驚いたのは、このときの木戸の表情である。もちろん、喜んではいるのだが、それよりも「キャッチして当然」「独走して当たり前」。どちらかといえば涼しい顔に見えた。これは第3Q開始早々のキックを自陣6ヤードでキャッチし、そのまま94ヤードを独走してTDに結び付けたプレーの時にも見られたのだが、ともに勝敗を左右するビッグプレーの当事者とは思えないほどの冷静さだった。
後日、練習前のグラウンドでその辺のことを聞いた。リターンTDの時は「前がぱっと開き、ブロッカーが大勢出て役割を果たしてくれ、走路が確保されていた。僕はそのコースを走っただけです」。TDパスをキャッチしたときは「二人のDBに挟まれたけど、畑さんのパスがその真ん中にきたので、そのまま走り切りました」。つまり、ブロッカーやQBがきちんと役割を果たしてくれたから、自分も役割を果たしただけ、というような趣旨の説明をしてくれた。
その返事を聞いて、僕は驚き、また感心した。
ファイターズはチーム練習を切り上げるとき、必ずハドルを組み、主将や副将、主務らが一言ずつコメントする。そこではよく「それぞれの役割をきっちり果たそう。やることをやって必ず勝とう」という意味の檄が飛ぶ。「それぞれの役割を果たす」ことに価値を置き「チームへの献身」が重んじられることを、4年生から1年生まで、構成員すべてが了解している組織といってもよい。
試合に出る選手はもちろん、出られないけれどもスカウトチームを務める選手、練習の進行を管理するマネジャー、選手のトレーニングを担当し、食事から体調管理までを担当するトレーナー、ゲームプランを立てるために不可欠な資料を集め、分析するアナライジングスタッフ……。約200人の大所帯を構成する全員に、それぞれの役割があり、その役割を全員が確実に果たすことでチームが運営される。その総和が勝利に結びつく。
ファイターズとは、そういうチームである。だから、試合の流れを変えるようなビッグプレーをしても、それは「ブロッカーが走路を確保してくれたから」であり「QBがいいパスを投げてくれたから」という言葉になるのだろう。自らの手柄は「役割を果たしただけ」と控えめに語れるのである。そういうたたずまいを持ったヒーローがいることに、僕はただただ感動する。そのヒーローがたゆまぬ鍛錬で、チームでも1、2を争う頑強な肉体を鍛え上げている事実を知っているだけに、その控えめな言葉がなおさら清々しく感じられるのである。
「役割を果たす」ということでいえば、オフェンスラインが今季、営々と続けてきた「特訓」のことも忘れられない。主に3年生が中心になって通常の練習とは別にグラウンドに集合し、大村コーチの指導の下、2班に分かれて特別の練習を続けてきた。普段の練習だけでは力がつかないからということで始めた試みだが、これで木村、長森らのOLが格段に力を付けたという。これもまたOLとしての役割を果たすために取り組んだ努力の一端である。
朝の食事会も行われた。生協食堂に協力を求め、主に大学周辺に下宿している部員を対象に、栄養面で配慮した朝食を提供する集まりだが、そこでもトレーナーの柿原君や楳田さんらが重要な役割を果たした。栄養面からの選手の体力作りに心を配ったのである。
このように、それぞれの持ち場で200人の部員が「役割を果たした」結果が、大学日本1につながった。それもまた「仲間への信頼」「チームへの献身」の具体的な姿といえるだろう。
こういうチームだからこそ、是非とも社会人代表を倒して日本1になってほしい。頂点に立つことによって、全国のフットボーラーに、青少年に「信頼」とか「献身」とかに、みんなが思っている以上に価値があることを知らしめてほしい。僕はそれを心から願っている。
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