石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(29)「好きなんだ」
このところ、本業に追われて、コラムの更新が遅れている。更新どころか、練習を見に行く時間もない。なんせ京大戦以降、一度もグラウンドに顔を出していないのだ。リーグ戦は佳境に入っているというのに、なんてこった。寝る間も惜しんで練習やミーティングに取り組んでいるファイターズの諸君のことを考えると、居ても立ってもいられない。
それでも、本業はおろそかにできない。紀伊半島の片隅にある小さな新聞社ではあるが、地域での普及率は7割近い。僕たちが書くこと、伝えることに期待して下さる大勢の読者がおられる以上、手を抜いた紙面を届けるわけにはいかないのである。
とりわけ、この3カ月ほどは、地域の権力者の不正を暴く調査報道に全力投球だった。その陣頭に立って担当記者を鼓舞し、その原稿をすべてチェックし、果ては自分でも不正を追及するコラムや社説を書き続けた。
書かれた側をも納得させながら、なおかつビシバシと不正を暴いていくのだから、記事の一字一句には細心の注意が必要だ。それでいて筆先がにぶるようなことがあってはならない。気力と体力と情熱、そして技術と使命感がなければ続かない仕事である。
ローカル紙の編集局長となれば、地域では結構信用がある。それに応じて、紙面作り以外の仕事も増えてくる。例えば、この1カ月間に地域の小中学校で計6回、出前授業を担当、町内会の集まりで2回の講演をしたといえば、その多忙ぶりが分かっていただけるだろう。加えて大学では週に1日、ふたコマの講義を担当している。われながらよくやっていると思う。
というような事情で、この10日ほどは練習も見に行けていない。当然、コラムを書く具体的な事例、場面もない。何より練習も見ないでコラムを書くというのは不遜である。そう思って、今週はパスしようか、と思っていたら、友人から電話がかかってきた。
「今週はコラムが更新されてないけど、何かあったんか。心配になってな」。親切なことである。
「ほっといてくれ、オレは忙しいんじゃ」といいたいところだったが、せっかく心配して電話をくれたのに、そんなことはいえない。「うん、ちょっと遅れているけど、ちゃんと書くよ」と、ついつい心にもない返事をしてしまった。
でも、練習を見ていないし、選手の顔も見ていない。「何を書いたらいいんだ」と考えあぐねていた。
そんな時、昨日出掛けた小学校で6年生と交わしたやりとりがきっかけで、ぱっと明かりがともった。
2時間ぶっ通しの授業が佳境に入ったころだった。聡明そうな女の子がこんな質問をしてくれた。「長い間、新聞記者の仕事をしていて、しんどいとか、やめたいとか思ったことはありますか」
すぐに答えた。「しんどいことはいっぱいありました。夜、寝る時間が3時間ほどしかない日が何日も続いたことがあったし、毎朝5時に家に帰って、昼には会社に出て行く生活が5カ月間続いたこともありました」「でも、辞めたいと思ったことは一度もありません」
「どうしてですか」と再度の質問がくる。小学生には、どうして、そんなに苦しくてしんどいことを続けるのか、不思議だったのだろう。
僕は即座に答えた。「新聞記者という仕事が好きなんです。もう一度生まれ変わっても、この仕事をしたいと思っています」
そう答えると、女の子は「好きだから、しんどいことがあってもがんばれるのですね」といって納得してくれた。聡明な子である。
そう。「好きだから、がんばれる」のだ。壁にぶつかっても、それを突破するために努力できるし、家族から「なぜ、そんな割の合わないことを」といわれても、気にせず目標に向かっていけるのだ。というより、目標に向かっていくこと、壁を突破することを喜びと感じ、それを自身のエネルギーに変えて行くことができるのだ。
「好き」という言葉には、そういう力がある。
ファイターズの諸君も、アメフットが好きでこのスポーツに取り組んでいるはずである。ならば、その「好き」を突き詰めてみようではないか。どんなに苦しいことがあっても、どんなに強力な相手が立ちふさがっても「僕は勝つことが好きなんだ」「目の前の相手をやっつけることが生き甲斐なんだ」という、このスポーツに取り組んだ原点に戻ってみようではないか。そこから道は開ける。苦しみが喜びになる。
それが小学生に答えたことであり、45年間、新聞記者として生きてきた結論である。
リーグ連覇まで、あと2試合。残された時間は少ない。だからこそ「僕はアメフットが好きなんだ」「ファイターズが命なんだ」という気持ちをトコトン突き詰めてほしい。自分と向き合い、自分に打ち克ってほしい。
それでも、本業はおろそかにできない。紀伊半島の片隅にある小さな新聞社ではあるが、地域での普及率は7割近い。僕たちが書くこと、伝えることに期待して下さる大勢の読者がおられる以上、手を抜いた紙面を届けるわけにはいかないのである。
とりわけ、この3カ月ほどは、地域の権力者の不正を暴く調査報道に全力投球だった。その陣頭に立って担当記者を鼓舞し、その原稿をすべてチェックし、果ては自分でも不正を追及するコラムや社説を書き続けた。
書かれた側をも納得させながら、なおかつビシバシと不正を暴いていくのだから、記事の一字一句には細心の注意が必要だ。それでいて筆先がにぶるようなことがあってはならない。気力と体力と情熱、そして技術と使命感がなければ続かない仕事である。
ローカル紙の編集局長となれば、地域では結構信用がある。それに応じて、紙面作り以外の仕事も増えてくる。例えば、この1カ月間に地域の小中学校で計6回、出前授業を担当、町内会の集まりで2回の講演をしたといえば、その多忙ぶりが分かっていただけるだろう。加えて大学では週に1日、ふたコマの講義を担当している。われながらよくやっていると思う。
というような事情で、この10日ほどは練習も見に行けていない。当然、コラムを書く具体的な事例、場面もない。何より練習も見ないでコラムを書くというのは不遜である。そう思って、今週はパスしようか、と思っていたら、友人から電話がかかってきた。
「今週はコラムが更新されてないけど、何かあったんか。心配になってな」。親切なことである。
「ほっといてくれ、オレは忙しいんじゃ」といいたいところだったが、せっかく心配して電話をくれたのに、そんなことはいえない。「うん、ちょっと遅れているけど、ちゃんと書くよ」と、ついつい心にもない返事をしてしまった。
でも、練習を見ていないし、選手の顔も見ていない。「何を書いたらいいんだ」と考えあぐねていた。
そんな時、昨日出掛けた小学校で6年生と交わしたやりとりがきっかけで、ぱっと明かりがともった。
2時間ぶっ通しの授業が佳境に入ったころだった。聡明そうな女の子がこんな質問をしてくれた。「長い間、新聞記者の仕事をしていて、しんどいとか、やめたいとか思ったことはありますか」
すぐに答えた。「しんどいことはいっぱいありました。夜、寝る時間が3時間ほどしかない日が何日も続いたことがあったし、毎朝5時に家に帰って、昼には会社に出て行く生活が5カ月間続いたこともありました」「でも、辞めたいと思ったことは一度もありません」
「どうしてですか」と再度の質問がくる。小学生には、どうして、そんなに苦しくてしんどいことを続けるのか、不思議だったのだろう。
僕は即座に答えた。「新聞記者という仕事が好きなんです。もう一度生まれ変わっても、この仕事をしたいと思っています」
そう答えると、女の子は「好きだから、しんどいことがあってもがんばれるのですね」といって納得してくれた。聡明な子である。
そう。「好きだから、がんばれる」のだ。壁にぶつかっても、それを突破するために努力できるし、家族から「なぜ、そんな割の合わないことを」といわれても、気にせず目標に向かっていけるのだ。というより、目標に向かっていくこと、壁を突破することを喜びと感じ、それを自身のエネルギーに変えて行くことができるのだ。
「好き」という言葉には、そういう力がある。
ファイターズの諸君も、アメフットが好きでこのスポーツに取り組んでいるはずである。ならば、その「好き」を突き詰めてみようではないか。どんなに苦しいことがあっても、どんなに強力な相手が立ちふさがっても「僕は勝つことが好きなんだ」「目の前の相手をやっつけることが生き甲斐なんだ」という、このスポーツに取り組んだ原点に戻ってみようではないか。そこから道は開ける。苦しみが喜びになる。
それが小学生に答えたことであり、45年間、新聞記者として生きてきた結論である。
リーグ連覇まで、あと2試合。残された時間は少ない。だからこそ「僕はアメフットが好きなんだ」「ファイターズが命なんだ」という気持ちをトコトン突き詰めてほしい。自分と向き合い、自分に打ち克ってほしい。
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記事タイトル:(29)「好きなんだ」
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