石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(28)頂への挑戦
先日読んだ、冲方丁の「光圀伝」(角川書店)にこんな言葉があった。
「天下が、よもやこんなにも遠いものだとは……。ここまでできた、そう思ったときには、頂はさらに遠く離れたところにある。近づけば近づくほど、峠は高くなる」
「峠を登るとき、遠目には低くとも、ふもとに来れば高さが分かる。実際に登り始めれば、頂は見えないほど高くなる」
これは、後に水戸の黄門さまと呼ばれる徳川光圀が若い頃、詩業に志を立て、詩作で天下を獲る、と決意した頃の友人との会話の一節である。その道のはるかに遠いことを実感した若者が、それでもくじけず、その峠を登ろうと覚悟を決める場面でもある。
京大との激しい戦いを観戦した後、帰り道で、なぜかこの言葉を思い浮かべていた。
それほど、両軍ともに気合いの入った戦いだった。
ファイターズのパントで始まった立ち上がり、京大はいきなり切れのいいランプレーで17ヤードを獲得。たたみかけるように5ヤードのラッシュを連発して2度目のダウン更新。あっという間に中央付近にまで迫ってくる。
京大恐るべし、と浮き足立つ場面だったが、ここはDL前川の鋭いタックルと、主将梶原のQBサックでなんとか食い止め、相手にパントを蹴らせる。
ところが、そのパントが高く遠く飛ぶ。相手キッキングチームの力量をたっぷりと見せつけられ、ファイターズはゴール前6ヤードからの攻撃。これは苦しい試合になるぞ、と見ている方も身が引き締まる。
しかし、この苦しい局面で、QB畑はあくまで冷静だった。いきなりWR木戸にロングパスを投じる。これは惜しくも失敗したが、第2ダウン10ヤードでRB望月が中央を突破、13ヤードを獲得してダウンを更新。続いて畑からWR梅本へ息の合った23ヤードのパスがヒットした。パスはややオーバー気味だったが、梅本はこれを片手でキャッチ。このビッグプレーで、ようやくチームが落ち着く。
勢いづいたファイターズはRB鷺野のラン、畑からWR小山へのパスと、リズムよく攻撃を展開。仕上げは畑からWR大園への20ヤードTDパス。K堀本のキックも決まって7-0と主導権を握った。
次の京大の攻撃は、キッキングチームに入ったWR小山のナイスタックルで自陣13ヤードから。ここでも前川のタックルとDB大森のパスカットで相手に何もさせず、再びファイターズの攻撃。
このシリーズは畑から小山へのパス、畑のキーププレー、望月の中央突破などで一
気にゴール前10ヤード。しかし、ここでランプレーが決まらず、結局は堀本のFGによる3点止まり。京大の守りが固いのか、それともわが方の攻撃が手詰まりになったのか。遠く離れたスタンドからではよく分からなかったが、これからの関大、立命との戦いを考えると、少々気になる詰めの甘さだった。
ファイターズの次の攻撃シリーズは、木戸の好リターンで自陣45ヤードの好位置から。ここでも望月の中央突破、畑から木戸やWR南本へのパスが次々にヒット。最後はパワープレーでこじ開けたオフタックルを望月が走り抜けてTDに結び付けた。
ファイターズは続く4度目の攻撃シリーズでも、畑から1年生WR木下への27ヤードのパスなどで敵陣9ヤードに迫り、最後は堀本が短いFGを決めた。結局、前半は一度もパントを蹴ることなく、4度の攻撃機会をすべて得点に結びつけ20-0で折り返した。
このように試合経過を追っていくと、ファイターズの楽勝ペースに思える。だが、現場で見ていると、なかなかそんな気分にはなれなかった。ゴール前10ヤードほどの距離からの2度に渡るファイターズの攻撃を見事にしのいでTDを許さなかった京大守備陣の集まりの速さと強いタックルが余りに印象深かったせいだろう。
それを見ながら、関大や立命はこれ以上の強力な守備陣を擁している。おまけに攻撃では、それぞれ一発の個人技でTDをとれるタレントが何人もいる。京大という「峠」を越えても、その先にもっと高い頂が次々とそびえている現実があるから、目の前の得点に一喜一憂している場合ではないぞ。そんな警告が、頭の片隅でずっと鳴り続けていた。
試合後、記者団に囲まれた鳥内監督も同じような心境だったのだろう。いい試合でしたね、という記者の質問にこんな風に答えていた。
「あきません。2度もタッチダウンをとれるチャンスを逃がしているようでは、関大や立命あいてではしんどいですよ」「1秒あったら、タッチダウンをとれる選手が何人もいる相手ですから。また、がんばりますわ」
一つの頂を越えれば、また次の高い頂が立ちはだかる。しかし、それを極めない限り天下は取れない。だから、がんばるしかない。そこで弱音を吐かず、踏ん張ってきたのがファイターズの先輩たちである。
現役の諸君も、さらに気合いを入れて高い頂に挑もうではないか。1に鍛錬、2に鍛錬である。
「天下が、よもやこんなにも遠いものだとは……。ここまでできた、そう思ったときには、頂はさらに遠く離れたところにある。近づけば近づくほど、峠は高くなる」
「峠を登るとき、遠目には低くとも、ふもとに来れば高さが分かる。実際に登り始めれば、頂は見えないほど高くなる」
これは、後に水戸の黄門さまと呼ばれる徳川光圀が若い頃、詩業に志を立て、詩作で天下を獲る、と決意した頃の友人との会話の一節である。その道のはるかに遠いことを実感した若者が、それでもくじけず、その峠を登ろうと覚悟を決める場面でもある。
京大との激しい戦いを観戦した後、帰り道で、なぜかこの言葉を思い浮かべていた。
それほど、両軍ともに気合いの入った戦いだった。
ファイターズのパントで始まった立ち上がり、京大はいきなり切れのいいランプレーで17ヤードを獲得。たたみかけるように5ヤードのラッシュを連発して2度目のダウン更新。あっという間に中央付近にまで迫ってくる。
京大恐るべし、と浮き足立つ場面だったが、ここはDL前川の鋭いタックルと、主将梶原のQBサックでなんとか食い止め、相手にパントを蹴らせる。
ところが、そのパントが高く遠く飛ぶ。相手キッキングチームの力量をたっぷりと見せつけられ、ファイターズはゴール前6ヤードからの攻撃。これは苦しい試合になるぞ、と見ている方も身が引き締まる。
しかし、この苦しい局面で、QB畑はあくまで冷静だった。いきなりWR木戸にロングパスを投じる。これは惜しくも失敗したが、第2ダウン10ヤードでRB望月が中央を突破、13ヤードを獲得してダウンを更新。続いて畑からWR梅本へ息の合った23ヤードのパスがヒットした。パスはややオーバー気味だったが、梅本はこれを片手でキャッチ。このビッグプレーで、ようやくチームが落ち着く。
勢いづいたファイターズはRB鷺野のラン、畑からWR小山へのパスと、リズムよく攻撃を展開。仕上げは畑からWR大園への20ヤードTDパス。K堀本のキックも決まって7-0と主導権を握った。
次の京大の攻撃は、キッキングチームに入ったWR小山のナイスタックルで自陣13ヤードから。ここでも前川のタックルとDB大森のパスカットで相手に何もさせず、再びファイターズの攻撃。
このシリーズは畑から小山へのパス、畑のキーププレー、望月の中央突破などで一
気にゴール前10ヤード。しかし、ここでランプレーが決まらず、結局は堀本のFGによる3点止まり。京大の守りが固いのか、それともわが方の攻撃が手詰まりになったのか。遠く離れたスタンドからではよく分からなかったが、これからの関大、立命との戦いを考えると、少々気になる詰めの甘さだった。
ファイターズの次の攻撃シリーズは、木戸の好リターンで自陣45ヤードの好位置から。ここでも望月の中央突破、畑から木戸やWR南本へのパスが次々にヒット。最後はパワープレーでこじ開けたオフタックルを望月が走り抜けてTDに結び付けた。
ファイターズは続く4度目の攻撃シリーズでも、畑から1年生WR木下への27ヤードのパスなどで敵陣9ヤードに迫り、最後は堀本が短いFGを決めた。結局、前半は一度もパントを蹴ることなく、4度の攻撃機会をすべて得点に結びつけ20-0で折り返した。
このように試合経過を追っていくと、ファイターズの楽勝ペースに思える。だが、現場で見ていると、なかなかそんな気分にはなれなかった。ゴール前10ヤードほどの距離からの2度に渡るファイターズの攻撃を見事にしのいでTDを許さなかった京大守備陣の集まりの速さと強いタックルが余りに印象深かったせいだろう。
それを見ながら、関大や立命はこれ以上の強力な守備陣を擁している。おまけに攻撃では、それぞれ一発の個人技でTDをとれるタレントが何人もいる。京大という「峠」を越えても、その先にもっと高い頂が次々とそびえている現実があるから、目の前の得点に一喜一憂している場合ではないぞ。そんな警告が、頭の片隅でずっと鳴り続けていた。
試合後、記者団に囲まれた鳥内監督も同じような心境だったのだろう。いい試合でしたね、という記者の質問にこんな風に答えていた。
「あきません。2度もタッチダウンをとれるチャンスを逃がしているようでは、関大や立命あいてではしんどいですよ」「1秒あったら、タッチダウンをとれる選手が何人もいる相手ですから。また、がんばりますわ」
一つの頂を越えれば、また次の高い頂が立ちはだかる。しかし、それを極めない限り天下は取れない。だから、がんばるしかない。そこで弱音を吐かず、踏ん張ってきたのがファイターズの先輩たちである。
現役の諸君も、さらに気合いを入れて高い頂に挑もうではないか。1に鍛錬、2に鍛錬である。
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