石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(27)兄貴たちの献身

投稿日時:2012/10/23(火) 22:49rss

 京大という名前を聞くと、その昔、取材記者として武田建先生を訪ね、アメフットの初歩的なことをいろいろ教えてもらった頃のことを思い出す。昭和でいえば49年から50年、ファイターズという愛称で呼ばれ始めた頃である。QBは玉野、ラインには小寺、神木、松田、前川、RBには柴田、谷口、レシーバーには小川というスター選手がそろっていた時代といえば、懐かしく思い出されるファンも多いだろう。
 当時、僕は朝日新聞阪神支局の遊軍担当記者。関学も持ち場の一つということで、しょっちゅう取材に立ち寄っていた。取材だけではなく、昼飯を食べに学生会館に寄ったり、ゼミの先生の研究室に遊びに行ったりもしていた。
 そんなある日、グラウンドでロングスナップを出す練習に励んでいた吉川宏選手を取材したことが縁で、先生とも話をするようになったのである。
 当時、関西のアメフット界は、関学の一人舞台という状況だったが、年を追うごとに京大が力を付けていた。そこである日、先生にこんな質問をした。
 「京大は国立でも1、2を争う名門大学。選手の獲得もままならないのに、どうしてあんなに強くなるのでしょうね」
 先生は、いくつかの理由を挙げて下さったが、一番印象に残っているのがこんな言葉だった。
 「頭がよくて運動能力に優れた高校生が大学に入って、アメフットの魅力にを知ったら夢中になる。4年間はアメフット漬けで過ごし、5年目でしっかり勉強しようと覚悟を決めているから、練習に対する取り組み、集中力が違う」
 「1年留年して5年生になった選手たちが学生コーチとなって、自分の身につけたことを懸命に現役選手に教え込む。頭のいい学生が頭のいい学生に指導するのだから、上達も早い。未経験者というハンディキャップは簡単になくなります。うちのチームも5年生になって指導してくれる学生がいてくれるといいのですが、留年するとなると、国立と違って私学は授業料の負担が大きいから、留年してくれと頼むわけにもいけませんしね」
 そういう話だった。5年生コーチの役割と重要性を初めて知った時でもあった。
 時は移り、いまはファイターズでも5年生コーチがチームの運営に大きな役割を果たしている。今年は昨年の主将、松岡君をはじめ関西のベスト11に選ばれた香山、重田の両君、そして坪谷君と石川君がアシスタントコーチに名を連ねている。毎日のようにグラウンドに顔を出し、後輩を指導し、時には防具を着けて練習相手を務めている。
 それぞれが今年1月3日まで、チームの主柱として活躍していた選手だから、そのプレーぶりには目を見張らされる。1枚目のメンバーを相手に、仮想京大、仮想立命の選手として練習台を務めていても、相手を圧倒するようなパフォーマンスを見せている。
 それだけではない。監督やコーチと連絡を密にし、そのアドバイスを選手に伝え、実行させることも大きな役割だ。現役の選手は、監督やコーチと年齢が離れているが、5年生コーチは昨年までのチームメート。選手が頼れる兄貴分としての役割も重要だ。個々の選手の悩みを聞いたり、個人的な練習の相手を務めたりもしている。
 大学で幹部職員として働いているコーチよりグラウンドにいる時間は長いし、動き回る量も半端ではない。いくら頂点を極めた選手だとはいえ、常時、選手と同じように体を鍛え、情熱を持って取り組まないと続けられることではない。
 加えて、この時期になるとコーチとしては登録されていない5年生たちも顔を出し、練習台を務めたり、審判を務めたりしている。その昔、武田先生が「京大には5年生コーチがいるからうらやましい」といわれていた状況が、ファイターズでも生まれているのだ。
 さて、今週末はあの西京極競技場で、京大との全勝対決である。選手たちには、その能力を全開にしたパフォーマンスを期待し、兄貴分たちには、選手たちの精神的な支柱としての役割を果たしてくれるように期待しよう。負けられない一戦が、目の前にある。
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