石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(10)練習は裏切らない

投稿日時:2012/06/12(火) 09:30rss

 10日のパナソニックインパルスとの試合は見応えがあった。逆転、逆転、また逆転という試合の経過を追うだけでも面白かったが、個人的に注目している選手がそれぞれ見せ場を作ってくれたことがうれしかった。
 筆頭は、第3Qの終盤、逆転の39ヤードTDパスをキャッチ、試合終了間際には決勝点となる92ヤードのキックオフリターンTDを挙げたWR木戸。次いで、終始冷静なプレーぶりで社会人王者相手のタフな試合を戦い抜いたQB斎藤、そして、余り目立たなかったけれども、何度も「あわや独走」という場面を演出したRB鷺野。まずは、この2年生3人の活躍を特筆しておきたい。
 木戸は、試合を決める92ヤードのキックオフリターンTDもすごかったが、僕が目を見張ったのは、その前の39ヤードのTDパスキャッチ。相手のフィールドゴール失敗からつかんだ好機に、まずはRB望月が41ヤードを独走して相手陣に攻め込む。相手守備陣が次の対応を決めかねている一瞬の隙を突いて、斎藤がゴールめがけて長いパス。それを超スピードで走り込んだ木戸が相手守備陣のカバーをかいくぐってキャッチ。一度ははじいて空中に浮かんだボールを執念で確保した見事なプレーだった。
 このプレーもすごかったが、本当にすごいのは、これと全く同じ状況のスーパーキャッチを1週間ほど前の練習で彼が実現していたこと。誰もが捕れない、パス失敗、と思ったボールを彼が確保し、チームメートも思わず拍手を送った現場を見ている僕は「練習通りのプレーが出た。練習は裏切らない」と一人快哉を叫んでいた。
 同じことは、この日の斎藤のプレーからも確信させられた。彼は昨年、中央大学附属高校からファイターズの門を叩き、数々のカルチャーショックを経験しながら、懸命にチームに溶け込んできた。1年生のシーズンが終わった後、小野コーチからパスのフォーム改造を提案され、来る日も来る日も、理想とする新しいフォームを身につけようと練習に励んできた。しかし、春先の試合ではなかなか成果が出ず、エースQBの畑が欠場した穴を埋めるのに四苦八苦していた。
 しかし、腐ることなく、ひたすら練習に取り組み、ようやく春季最後の試合で、光明を見いだした。途中、チームの反則をきっかけにリズムを崩し、ずるずると後退した場面もあったけれども、強力なパナソニックの守備陣に臆することなくパスを投げ、走り続けた。とりわけ、第4Qの半ば、ゴール前11ヤードからの攻撃でWR梅本に投じたパスがよかった。梅本と相手DBの身長差を見極めて軽く浮かせて投げたパスは、思惑通り梅本の頭上に飛び、それを計算通り梅本がキャッチしてTD。ひいき目かもしれないが「試合を自分でコントロールしている」という自信が生み出したプレーに見えた。彼もまた「練習は裏切らない」ということを証明した一人である。
 この試合では、びっくりするような記録は残さなかったが、鷺野もキックオフリターンとラッシュで、何度も非凡な走りを見せた。鋭角に切れ込み、かつスピードのある彼のラッシュは、いつでも1発TDの魅力があり、相手守備陣を幻惑する。彼のスピードと望月の突破力が相乗効果を上げれば、ファイターズのラン攻撃の威力は倍増する。相手チームから見れば、とてもやっかいなことになりそうだ。
 彼も冬場から6月まで、一度も試合に出ることなく、ずっと地味な練習に専念してきた一人である。
 攻撃の3人だけではない。守備でも2年生LB小野が鋭い動きを見せていた。遠く離れたスタンドからでも、持ち前のスピードを生かしてボールキャリアに襲いかかり、何度もピンチを食い止めている彼の姿が目立った。彼もまた、毎日、練習が楽しくて仕方がない、という表情で取り組んでいる選手の一人である。
 この試合では、大村コーチの指導で特別な練習をしている3年生のOL(左から田渕、石橋、上沢、長森、木村が先発)も練習の成果を見せてくれた。昨年のライスボウルのスタメンからは濱本、谷山、和田、友國と4人が欠け、残っているのは田渕だけだったが、強力な相手守備陣の強くて速い動きに、粘り強く対応し続けた。彼らもまた、練習は裏切らないということを実証した面々である。
 守備陣も、日ごろからしっかり練習に取り組んでいるメンバーが先発した。DLの朝倉、梶原弟、岡部、寺本、LBの川端、小野、池田、DBの高、大森、保宗、鳥内弟。この日、先発に名を連ねたのは、いつもそれぞれのパート練習で、先頭に立って声を上げ、汗をかいているメンバーである。
 こういう面々が活躍し、関西の社会人王者を下したことを喜びたい。そして「練習は裏切らない」「練習でできないことは試合でもできない」という当たり前のことを、チームの全員が共有し、秋に向けて取り組んでほしい。
 ファイターズに「所属」していることが目的ではない。そこで「活動」し「活躍」することを目標に、全員がもう一段上のステージを目指して励んでもらいたいと願っている。
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