石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(1)ファイターズファミリー
気がつけば4月。僕が働いている紀州・田辺では、遅れていた桜もようやく満開。新しいシーズンの始まりである。
そうなると、ライスボウル終了後、ぷっつり中断していたこのコラムも、再開のときが来たということ。ファイターズの諸君に負けないように、気合いを入れて書き始めなければならない。
と、元気よく宣言したものの、チームはまだ基礎的な練習ばかり。ときおり上ヶ原のグラウンドに足は運んでいるけれども、特段、みなさまにお知らせするようなニュースもない。強いていうなら「4年生の抜けた穴は大きい」「でも、それぞれのポジション、それぞれの選手ごとに課題を見つけ、それを一つ一つ解消しようと、全員が体作りから取り組んでいる」「体力作りも基礎練習も、例年と同様、あるいはそれ以上に熱がこもっている」と報告すれば、それで完了だ。
でもそれだけでは、コラムにならない。
だから、冬場の練習で特別に興味深かった場面を一つ紹介して、1回目の報告とする。こんな場面である。
たしか、1月末の土曜日だった。いつものようにグラウンドに顔を出すと、QBの諸君が熱のこもったキャッチボールをしていた。4年生の畑君、遠藤君、3年生の橘君、2年生の斎藤君に前田君。ほかにボールを受けるためにキッキングチームのメンバーやWRのメンバーが何人も協力している。その様子をビデオに収録するマネジャーや分析スタッフの顔も見える。
それでも見知らぬ顔がある。高等部の諸君である。そう、この日は高等部と大学のQBが全員そろって、小野宏コーチからボールの投げ方のチェックを受け、よりよいフォームを探っていたのである。いわば、お兄ちゃんと弟が一緒になってお父さんの指導を受けている光景だった。
その隣で、一回り大きな男前が二人。手慣れたフォームで悠然とキャッチボールをしている。彼らの顔を見て驚いた。投げているのが三原雄太氏、受けているのが秋山武史氏である。2007年の甲子園ボウルを勝ち、ライスボウルで史上最高のパスゲームを演じたときの主役二人が、現役の大学、高校生に混じって、楽しそうにキャッチボールに興じていたのだ。
「秋山が体を動かしたいというので、つきあっている」と三原氏。「週末の大阪出張で時間が空いたから三原を引っ張り出した」と秋山氏。かくして2007年のライスボウル以来、初めて上ヶ原のグラウンドで名コンビが復活した。三原氏のパスも健在だが、今も日本のトッププレーヤーとして活躍している秋山氏のスピードはさらにすごみを増している。ターボエンジンが加速するような独特の走りで、三原氏が投げるどんなパスも確実にキャッチ。結局、30分ほどの練習中、1本のパスも落とさなかった。
「久しぶりのグラウンドは気持ちがいい」と秋山氏がいえば、三原氏も「これからは、努めて週末に顔を出しますよ」と応じる。例えていえば、就職して実家を出た兄二人が久しぶりに実家に帰り、弟たちと旧交を温めている光景。たまたまその場に居合わせWRの小山君も「半端じゃないスピードですね」とびっくり。スピードをつけるためのトレーニングについて質問していた。
話はそれだけでは終わらない。今度は防寒着をしっかり着込んだ武田建先生の登場である。JVの練習が終わった後、QBの練習を見に顔を出されたのだ。こんなたとえをすれば叱られるかもしれないが、まるで親子の練習を見守る好々爺、おじいちゃんである。
ついでにいえば、そんな光景をうれしそうに眺めている僕は、親戚のおっちゃん。毒にも薬にもならないけれども、ただそこにいるだけで、なぜかしらその場が和む。そんな役回りをしているとでもいえばよいだろう。
以上、六甲おろしが吹き下ろし、寒さの厳しい上ヶ原のグラウンドで見た「小春日和」のような光景である。
それを見ながら、これが「KGファミリーだ、ファイターズファミリーの姿だ」となぜかしら感動した。
年代を超え、境遇や社会的立場の違いを超えて、ファイターズにつながる多彩な人たちがファイターズのために集まる。そして自分たちの持っている貴重な資産(経験や知識、技術や心意気……)を現役の選手たちに惜しみなく提供する。誰に命令されたわけでもなく、それが当然のように、そして自然な形で実現する。こういう環境を70年余にわたって作り上げてきたのが、ファイターズというチームであり、ほかのチームとはひと味違ったたたずまいである、と僕は妙に感心し、また納得した。
もちろん、試合会場に詰めかけて下さる熱心なファンやOBの方々、保護者のみなさまの応援は、どのチームにも増して心強い。それは昨季の関西リーグの終盤から甲子園ボウル、ライスボウルへと続く「Vロード」でも実証された。その結束力を指して「ファイターズの底力」という方も少なくない。
けれども、本当にファイターズがすごいのは、オフシーズンの地味な練習にも、お父さんやおじいちゃん、それに就職して実家を離れたお兄ちゃんらが、当然のように顔を出し、弟たちを励ましてくれる、そんな「ファイターズ愛」にあると僕は思っている。
以上、あまりにもうれしい光景であり、僕一人の胸に抱えておくのはもったいない話だと思って、紹介させていただいた。
◇ ◇
お知らせが二つあります。
?新しいシーズンの開幕にあわせて、このコラムを再開。原則として、1週間に1度のペースで更新を続けます。ご愛読いただければ幸いです。
?昨季のコラムをまとめた冊子「2011年 ファイターズ 栄光への軌跡」を発行し、見事な戦いで大学王者になったファイターズの諸君に贈呈しました。2月の祝勝会でお披露目しましたが、一般の方々には試合会場でお求めできるようにします。1冊500円。売り上げはすべてファイターズに寄付させていただきます。ご協力いただければ幸甚です。
そうなると、ライスボウル終了後、ぷっつり中断していたこのコラムも、再開のときが来たということ。ファイターズの諸君に負けないように、気合いを入れて書き始めなければならない。
と、元気よく宣言したものの、チームはまだ基礎的な練習ばかり。ときおり上ヶ原のグラウンドに足は運んでいるけれども、特段、みなさまにお知らせするようなニュースもない。強いていうなら「4年生の抜けた穴は大きい」「でも、それぞれのポジション、それぞれの選手ごとに課題を見つけ、それを一つ一つ解消しようと、全員が体作りから取り組んでいる」「体力作りも基礎練習も、例年と同様、あるいはそれ以上に熱がこもっている」と報告すれば、それで完了だ。
でもそれだけでは、コラムにならない。
だから、冬場の練習で特別に興味深かった場面を一つ紹介して、1回目の報告とする。こんな場面である。
たしか、1月末の土曜日だった。いつものようにグラウンドに顔を出すと、QBの諸君が熱のこもったキャッチボールをしていた。4年生の畑君、遠藤君、3年生の橘君、2年生の斎藤君に前田君。ほかにボールを受けるためにキッキングチームのメンバーやWRのメンバーが何人も協力している。その様子をビデオに収録するマネジャーや分析スタッフの顔も見える。
それでも見知らぬ顔がある。高等部の諸君である。そう、この日は高等部と大学のQBが全員そろって、小野宏コーチからボールの投げ方のチェックを受け、よりよいフォームを探っていたのである。いわば、お兄ちゃんと弟が一緒になってお父さんの指導を受けている光景だった。
その隣で、一回り大きな男前が二人。手慣れたフォームで悠然とキャッチボールをしている。彼らの顔を見て驚いた。投げているのが三原雄太氏、受けているのが秋山武史氏である。2007年の甲子園ボウルを勝ち、ライスボウルで史上最高のパスゲームを演じたときの主役二人が、現役の大学、高校生に混じって、楽しそうにキャッチボールに興じていたのだ。
「秋山が体を動かしたいというので、つきあっている」と三原氏。「週末の大阪出張で時間が空いたから三原を引っ張り出した」と秋山氏。かくして2007年のライスボウル以来、初めて上ヶ原のグラウンドで名コンビが復活した。三原氏のパスも健在だが、今も日本のトッププレーヤーとして活躍している秋山氏のスピードはさらにすごみを増している。ターボエンジンが加速するような独特の走りで、三原氏が投げるどんなパスも確実にキャッチ。結局、30分ほどの練習中、1本のパスも落とさなかった。
「久しぶりのグラウンドは気持ちがいい」と秋山氏がいえば、三原氏も「これからは、努めて週末に顔を出しますよ」と応じる。例えていえば、就職して実家を出た兄二人が久しぶりに実家に帰り、弟たちと旧交を温めている光景。たまたまその場に居合わせWRの小山君も「半端じゃないスピードですね」とびっくり。スピードをつけるためのトレーニングについて質問していた。
話はそれだけでは終わらない。今度は防寒着をしっかり着込んだ武田建先生の登場である。JVの練習が終わった後、QBの練習を見に顔を出されたのだ。こんなたとえをすれば叱られるかもしれないが、まるで親子の練習を見守る好々爺、おじいちゃんである。
ついでにいえば、そんな光景をうれしそうに眺めている僕は、親戚のおっちゃん。毒にも薬にもならないけれども、ただそこにいるだけで、なぜかしらその場が和む。そんな役回りをしているとでもいえばよいだろう。
以上、六甲おろしが吹き下ろし、寒さの厳しい上ヶ原のグラウンドで見た「小春日和」のような光景である。
それを見ながら、これが「KGファミリーだ、ファイターズファミリーの姿だ」となぜかしら感動した。
年代を超え、境遇や社会的立場の違いを超えて、ファイターズにつながる多彩な人たちがファイターズのために集まる。そして自分たちの持っている貴重な資産(経験や知識、技術や心意気……)を現役の選手たちに惜しみなく提供する。誰に命令されたわけでもなく、それが当然のように、そして自然な形で実現する。こういう環境を70年余にわたって作り上げてきたのが、ファイターズというチームであり、ほかのチームとはひと味違ったたたずまいである、と僕は妙に感心し、また納得した。
もちろん、試合会場に詰めかけて下さる熱心なファンやOBの方々、保護者のみなさまの応援は、どのチームにも増して心強い。それは昨季の関西リーグの終盤から甲子園ボウル、ライスボウルへと続く「Vロード」でも実証された。その結束力を指して「ファイターズの底力」という方も少なくない。
けれども、本当にファイターズがすごいのは、オフシーズンの地味な練習にも、お父さんやおじいちゃん、それに就職して実家を離れたお兄ちゃんらが、当然のように顔を出し、弟たちを励ましてくれる、そんな「ファイターズ愛」にあると僕は思っている。
以上、あまりにもうれしい光景であり、僕一人の胸に抱えておくのはもったいない話だと思って、紹介させていただいた。
◇ ◇
お知らせが二つあります。
?新しいシーズンの開幕にあわせて、このコラムを再開。原則として、1週間に1度のペースで更新を続けます。ご愛読いただければ幸いです。
?昨季のコラムをまとめた冊子「2011年 ファイターズ 栄光への軌跡」を発行し、見事な戦いで大学王者になったファイターズの諸君に贈呈しました。2月の祝勝会でお披露目しましたが、一般の方々には試合会場でお求めできるようにします。1冊500円。売り上げはすべてファイターズに寄付させていただきます。ご協力いただければ幸甚です。
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