石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(37)成長の軌跡
「まことに小さな国が、開化期をむかえようとしている」
司馬遼太郎の『坂の上の雲』はこんな書き出しで始まる。この言葉をもじっていえば、今年のファイターズは「まことにひ弱なチームが、開化期をむかえようとしている」とでもいうのだろうか。
それほどひ弱なチームだった。春、新しいシーズンを迎えた時のメンバーを振り返れば、そのことは実感できるだろう。
主将の松岡は、昨シーズン終盤のけがで、練習には加われない状態。オフェンスラインは、リーダー濱本が故障がちで、2年生になったばかりの友国や木村、長森や上沢らに頼らなければならなかったし、攻撃の司令塔となるQBはもっと悲惨だった。エースと期待された糟谷は手術後の回復期にあり、グラウンドには出られない。畑と2番手を争うはずだった遠藤も故障。急遽、高等部のコーチを志望していた2年生の橘をプレーヤーとして呼び戻さなければ、畑一人では練習にも不自由する状態だった。
デフェンスも、新戦力の台頭が待ち遠しい状態。長島、梶原、池永とそろったラインこそ強力だったが、LBやDBは3年生以下の成長に望みを託すしかない状態からのスタートだった。
「日本1になる」という松岡主将の決意は痛いほど分かったが、そして彼を中心にしたチームの取り組みが素晴らしいことも見ていたが、それでも「このメンバーで関大や立命の強力な布陣に対抗できるだろうか、ひょっとしたら京大に足下をすくわれる可能性もあるぞ」という懸念は払拭できなかった。「まことにひ弱なチーム」の船出だった。
けれども、選手たちの取り組みは本気だった。冬季は体幹を鍛えるトレーニングに励み、苦しい甲山への「走りもの」も、全力でこなした。春のシーズンが始まると、1軍の試合だけでなく、積極的にJV戦を組んで下級生に経験を積ませ、新しく戦力となりそうな素材の発掘に務めた。理学療法士やトレーナーを中心に選手の体のケアに務め、故障者の早期発見と回復に務めたし、栄養分を適切に補給するために下宿生らを対象とした「朝食会」も定例化させた。
シーズンが始まると、試合に出場するメンバーは、練習への取り組みを重視して選び、チームに貢献したメンバーには「プライズマーク」を与えて、即座にその功績を顕彰した。松岡主将を中心に4年生が率先して練習に取り組み、チームのモラルを高めた。
その姿勢はグラウンドだけでなく、ミーティングや特定の選手を対象にした補習授業への取り組みでも発揮された。前回、紹介した昼休みにコーチの部屋を訪ねてのミーティングはその顕著な例である。
そういう取り組みから、4年生が自信をつけ、フットボールの未経験者や下級生が力を伸ばしてきた。春の初戦となった日大との試合では先発メンバーではなかったが、甲子園ボウルでは堂々のスタメンを務めたOLの濱本、田淵、WR梅本、LB小野、DB香山、鳥内弟らがその代表である。小野は1年生、鳥内弟と梅本は高校時代、野球をしていた選手である。
1年生では、ほかにもRB鷺野、吉澤、WR木戸、大園らが活躍。上級生に大きな刺激を与えた。
一方、ひたすら体幹を鍛え、強く当たる練習を積み重ねた成果は、強烈なタックルやブロックとなって表れた。相手の戦意を失わせてしまうようなDB香山や重田、LB池田雄や川端らのタックルは、どのチームの守備陣よりも強力だった。オフェンスでは5人のラインが粘り強く相手守備陣を制御し続けたし、WR和田や小山、TE金本、RB兵田らの強烈なブロックも、冬の練習の成果だろう。立命戦で、キッキングのカバーチームに入った小山が相手のリターナーなど3人をまとめてはね飛ばしたブロックなんて、最近のファイターズでは見たことがなかった。
そういう風に互いに励まし、鍛えあって成長してきたのが今年のファイターズである。右肩上がりの成長曲線が、どのチームよりも急激だったから、関大、京大、立命戦と続いた関西リーグの終盤戦を勝ち抜き、甲子園ボウルでも日大に勝利することができた。「まことにひ弱なチームが、開化期をむかえた」のである。
そして迎えるライスボウル。相手は「日本フットボール史上最強」とまで称されている強力なチームである。これまで先輩たちが苦杯をなめさせられた立命のOBが多数、主力選手として活躍しているし、法政や日大で鳴らしたスター選手も顔を揃えている。「開化期を迎えた」ファイターズが胸を借りるには、まことに最適の相手である。
ファイターズの諸君。全知全能を振り絞って戦いましょう。おめず臆せず、ひるまずにぶつかりましょう。君たちの「成長の軌跡」を見せつける最高の舞台が1月3日、東京ドームに用意されています。
司馬遼太郎の『坂の上の雲』はこんな書き出しで始まる。この言葉をもじっていえば、今年のファイターズは「まことにひ弱なチームが、開化期をむかえようとしている」とでもいうのだろうか。
それほどひ弱なチームだった。春、新しいシーズンを迎えた時のメンバーを振り返れば、そのことは実感できるだろう。
主将の松岡は、昨シーズン終盤のけがで、練習には加われない状態。オフェンスラインは、リーダー濱本が故障がちで、2年生になったばかりの友国や木村、長森や上沢らに頼らなければならなかったし、攻撃の司令塔となるQBはもっと悲惨だった。エースと期待された糟谷は手術後の回復期にあり、グラウンドには出られない。畑と2番手を争うはずだった遠藤も故障。急遽、高等部のコーチを志望していた2年生の橘をプレーヤーとして呼び戻さなければ、畑一人では練習にも不自由する状態だった。
デフェンスも、新戦力の台頭が待ち遠しい状態。長島、梶原、池永とそろったラインこそ強力だったが、LBやDBは3年生以下の成長に望みを託すしかない状態からのスタートだった。
「日本1になる」という松岡主将の決意は痛いほど分かったが、そして彼を中心にしたチームの取り組みが素晴らしいことも見ていたが、それでも「このメンバーで関大や立命の強力な布陣に対抗できるだろうか、ひょっとしたら京大に足下をすくわれる可能性もあるぞ」という懸念は払拭できなかった。「まことにひ弱なチーム」の船出だった。
けれども、選手たちの取り組みは本気だった。冬季は体幹を鍛えるトレーニングに励み、苦しい甲山への「走りもの」も、全力でこなした。春のシーズンが始まると、1軍の試合だけでなく、積極的にJV戦を組んで下級生に経験を積ませ、新しく戦力となりそうな素材の発掘に務めた。理学療法士やトレーナーを中心に選手の体のケアに務め、故障者の早期発見と回復に務めたし、栄養分を適切に補給するために下宿生らを対象とした「朝食会」も定例化させた。
シーズンが始まると、試合に出場するメンバーは、練習への取り組みを重視して選び、チームに貢献したメンバーには「プライズマーク」を与えて、即座にその功績を顕彰した。松岡主将を中心に4年生が率先して練習に取り組み、チームのモラルを高めた。
その姿勢はグラウンドだけでなく、ミーティングや特定の選手を対象にした補習授業への取り組みでも発揮された。前回、紹介した昼休みにコーチの部屋を訪ねてのミーティングはその顕著な例である。
そういう取り組みから、4年生が自信をつけ、フットボールの未経験者や下級生が力を伸ばしてきた。春の初戦となった日大との試合では先発メンバーではなかったが、甲子園ボウルでは堂々のスタメンを務めたOLの濱本、田淵、WR梅本、LB小野、DB香山、鳥内弟らがその代表である。小野は1年生、鳥内弟と梅本は高校時代、野球をしていた選手である。
1年生では、ほかにもRB鷺野、吉澤、WR木戸、大園らが活躍。上級生に大きな刺激を与えた。
一方、ひたすら体幹を鍛え、強く当たる練習を積み重ねた成果は、強烈なタックルやブロックとなって表れた。相手の戦意を失わせてしまうようなDB香山や重田、LB池田雄や川端らのタックルは、どのチームの守備陣よりも強力だった。オフェンスでは5人のラインが粘り強く相手守備陣を制御し続けたし、WR和田や小山、TE金本、RB兵田らの強烈なブロックも、冬の練習の成果だろう。立命戦で、キッキングのカバーチームに入った小山が相手のリターナーなど3人をまとめてはね飛ばしたブロックなんて、最近のファイターズでは見たことがなかった。
そういう風に互いに励まし、鍛えあって成長してきたのが今年のファイターズである。右肩上がりの成長曲線が、どのチームよりも急激だったから、関大、京大、立命戦と続いた関西リーグの終盤戦を勝ち抜き、甲子園ボウルでも日大に勝利することができた。「まことにひ弱なチームが、開化期をむかえた」のである。
そして迎えるライスボウル。相手は「日本フットボール史上最強」とまで称されている強力なチームである。これまで先輩たちが苦杯をなめさせられた立命のOBが多数、主力選手として活躍しているし、法政や日大で鳴らしたスター選手も顔を揃えている。「開化期を迎えた」ファイターズが胸を借りるには、まことに最適の相手である。
ファイターズの諸君。全知全能を振り絞って戦いましょう。おめず臆せず、ひるまずにぶつかりましょう。君たちの「成長の軌跡」を見せつける最高の舞台が1月3日、東京ドームに用意されています。
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