石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(36)統率力と結束力、そしてフットボールへの取り組み
甲子園ボウルの前日、朝日新聞スポーツ部で記者をしている榊原一生君(2002年卒)、大西史恭君(2008年卒)と昼食をともにした。東京、福岡と勤務地は異なっているが、ともに甲子園ボウルの取材に「特派」されてきた。
長年、朝日新聞で記者をしてきた僕にとって、二人はかわいい後輩。いつも気になる存在である。その二人がファイターズの取材のため、わざわざ出張してきてくれた。旧交を温め、ともに元気で活躍していることを知って、本当にうれしかった。会話も弾んだ。
「今年のチームはどうですか。僕はファイターズ史上最強のチームじゃないかと思うんですが」。食事が一段落したころ、大西君がこんな質問を向けてきた。
「そうかもしれんなあ」と相づちを打ちかけて、瞬間、待てよ、と踏みとどまった。
榊原君は、ファイターズが社会人代表のアサヒ飲料を破って初めてライスボウルを制覇したときの副将。主将・石田力哉君をはじめ、史上でもまれなスター選手がそろっていたときの主力選手である。大西君の代も、QBに三原雄太君を擁して甲子園ボウルに勝ち、ライスボウルでは全盛期の松下電工を相手に史上最高のパスゲームを演じている。
そういうチームで主力選手として活躍した二人を目の前にして、今年のチームが史上最強とは、なかなかいいにくい。
「今年のチームもよくなったけど、君らのチームはもっと強かった。榊原君の時は下級生も含めてタレントがそろっていたし、大西君の代はQBとレシーバーの関係が特別だった」。そんな風に答えると、大西君も「そういえば、僕の代のレシーバーは、甲子園ボウルでもライスボウルでも、手に触れたボールはすべてキャッチしているんですよね。この前、同期の連中と飲んだんですけど、そんな話で盛り上がりました」なんて答えている。やっぱり、二人とも自分たちのチームが一番強かったと思っているのだ。
食事を終え、記者会見に向かう二人と別れて帰る途中、本当に今年のチームは「史上最強」だろうかとあらためて考えた。
結論は「そんなことはない」だった。今季のチームには、年間最優秀選手賞(チャックミルズ杯)を受賞した大西志宣君をはじめ、攻撃ではRB松岡君、WR和田君、OL濱本君、QB畑君、守備ではDLの長島君や梶原君、DBの香山君や重田君が関西リーグのベスト11に名を連ねている。実際、選ばれて当然と思えるほど彼らの活躍は素晴らしかった。けれども、石田君や三原君を上回るほどの傑出した存在だったかどうかと突き詰めて考えると、なかなかそうとは言い切れない。チームとしての力量では、似たようなものだというのが正解だろう。
けれども、特筆しておきたいことが三つある。それは主将のリーダーシップとチームの結束力、そしてフットボールへの取り組みである。この三つは、少なくともこの10年間では、今年のチームがダントツだった。これだけは他の追随を許さない。
例えば、立命戦の1週間ほど前の練習中にこんなことがあった。チーム練習が佳境に入ったと思われた頃、突然、松岡主将が「ハドル!」と声を掛け、練習を中断して全員をグラウンド中央に集めた。彼にとっては、その日の取り組みがあまりにも甘過ぎる、と思えたのだろう。ハドルの中で「なんでこんな練習しかできへんねん。こんな練習で立命に勝てるのか。おまえら立命に勝ちたくないんか。日本1になりたくないんか」と声を振り絞った。感情がこみ上げてきたのか、途中からは泣きながらの檄だった。そしてその後、さらに4年生だけを集め、練習への取り組み、チームの意思統一などについて、あらためて指示を出していた。
部員はみんな主将の日頃の取り組みを知っている。率先垂範。いつも、先頭に立って練習に取り組むだけでなく、すべてのパートの練習に足を運び、声を掛け、士気を鼓舞してきた姿を知っている。だからこそ「松岡を日本1の主将にしたい」(by大西志宣君)とか「僕の言いたいことは、松岡が全部言ってますよ」(by鳥内監督)とかいう言葉が出てくるのである。
それほど信頼されている主将が泣きながら飛ばす熱い檄である。チームが覚醒し、奮い立つのも当然だろう。リーダーの統率力が人を動かすのである。
結束力といえば、こんなこともある。ファイターズの一員でありながら、高等部のコーチとしてチームを離れていた片岡君と、体育会本部に出向して本部長の重責を担っていた野島君がシーズンの終盤になってチームに復帰し、練習台を務めたり、先頭に立って練習を取り仕切ったりしていた。高等部は関西大会の決勝で敗れ、体育会本部は任期が終了したからということだったが、そこで「自分の任務は終了」とせず、チームに復帰し、チームを裏から支える役割を果たしているのである。
当然といえば当然かもしれない。けれども、最近のチームでは、残念ながらそういう姿は見られなかった。それだけに、いまこの時期にチームのために駆けつけた彼らの姿は、僕の目に頼もしく写った。そして、一度はチームを離れた彼らを再び引き戻すだけの結束力を持った今季のファイターズの凄さを再認識したのである。
練習への取り組みでは、春先、パナソニック電工との合同練習でのWR和田君の姿が思い浮かぶ。彼はその日、予定された合同練習が終わった後、パナソニックのDBの選手らに「もう少し相手をして下さい」と申し入れ、さらにブロックやレシーブの練習に取り組んだ。せっかくの機会だからと、年長の社会人を練習台に引っ張り込み、納得のいくまで練習を続けたのである。
昼食時、毎日のように学院本部に足を運び、そこで働く小野コーチや神田コーチ、大寺コーチらと定期的にミーティングを重ねていたパートリーダーやキッキングチームの姿も忘れられない。学院の専任事務職員として多忙を極めるコーチたちと意思疎通を図り、寸暇を惜しんで戦術を検討するためだが、そこにも毎日24時間、フットボールを最優先して取り組むコーチと選手との固い絆があった。
勇将のもとに弱卒なしという。それは表面的な猛々しさをいうのではない。自らの実践、行動、情熱で統率力を表現するリーダーと、それを本気で支える構成員のことをいうのである。その両者が同じ目標に向かって気持ちを一つにしたとき、チームに化学反応が起きる。最強の社会人チームを相手に、勝利への光が見えてくるのである。
あと1試合。全力を尽くしてがんばろう。
長年、朝日新聞で記者をしてきた僕にとって、二人はかわいい後輩。いつも気になる存在である。その二人がファイターズの取材のため、わざわざ出張してきてくれた。旧交を温め、ともに元気で活躍していることを知って、本当にうれしかった。会話も弾んだ。
「今年のチームはどうですか。僕はファイターズ史上最強のチームじゃないかと思うんですが」。食事が一段落したころ、大西君がこんな質問を向けてきた。
「そうかもしれんなあ」と相づちを打ちかけて、瞬間、待てよ、と踏みとどまった。
榊原君は、ファイターズが社会人代表のアサヒ飲料を破って初めてライスボウルを制覇したときの副将。主将・石田力哉君をはじめ、史上でもまれなスター選手がそろっていたときの主力選手である。大西君の代も、QBに三原雄太君を擁して甲子園ボウルに勝ち、ライスボウルでは全盛期の松下電工を相手に史上最高のパスゲームを演じている。
そういうチームで主力選手として活躍した二人を目の前にして、今年のチームが史上最強とは、なかなかいいにくい。
「今年のチームもよくなったけど、君らのチームはもっと強かった。榊原君の時は下級生も含めてタレントがそろっていたし、大西君の代はQBとレシーバーの関係が特別だった」。そんな風に答えると、大西君も「そういえば、僕の代のレシーバーは、甲子園ボウルでもライスボウルでも、手に触れたボールはすべてキャッチしているんですよね。この前、同期の連中と飲んだんですけど、そんな話で盛り上がりました」なんて答えている。やっぱり、二人とも自分たちのチームが一番強かったと思っているのだ。
食事を終え、記者会見に向かう二人と別れて帰る途中、本当に今年のチームは「史上最強」だろうかとあらためて考えた。
結論は「そんなことはない」だった。今季のチームには、年間最優秀選手賞(チャックミルズ杯)を受賞した大西志宣君をはじめ、攻撃ではRB松岡君、WR和田君、OL濱本君、QB畑君、守備ではDLの長島君や梶原君、DBの香山君や重田君が関西リーグのベスト11に名を連ねている。実際、選ばれて当然と思えるほど彼らの活躍は素晴らしかった。けれども、石田君や三原君を上回るほどの傑出した存在だったかどうかと突き詰めて考えると、なかなかそうとは言い切れない。チームとしての力量では、似たようなものだというのが正解だろう。
けれども、特筆しておきたいことが三つある。それは主将のリーダーシップとチームの結束力、そしてフットボールへの取り組みである。この三つは、少なくともこの10年間では、今年のチームがダントツだった。これだけは他の追随を許さない。
例えば、立命戦の1週間ほど前の練習中にこんなことがあった。チーム練習が佳境に入ったと思われた頃、突然、松岡主将が「ハドル!」と声を掛け、練習を中断して全員をグラウンド中央に集めた。彼にとっては、その日の取り組みがあまりにも甘過ぎる、と思えたのだろう。ハドルの中で「なんでこんな練習しかできへんねん。こんな練習で立命に勝てるのか。おまえら立命に勝ちたくないんか。日本1になりたくないんか」と声を振り絞った。感情がこみ上げてきたのか、途中からは泣きながらの檄だった。そしてその後、さらに4年生だけを集め、練習への取り組み、チームの意思統一などについて、あらためて指示を出していた。
部員はみんな主将の日頃の取り組みを知っている。率先垂範。いつも、先頭に立って練習に取り組むだけでなく、すべてのパートの練習に足を運び、声を掛け、士気を鼓舞してきた姿を知っている。だからこそ「松岡を日本1の主将にしたい」(by大西志宣君)とか「僕の言いたいことは、松岡が全部言ってますよ」(by鳥内監督)とかいう言葉が出てくるのである。
それほど信頼されている主将が泣きながら飛ばす熱い檄である。チームが覚醒し、奮い立つのも当然だろう。リーダーの統率力が人を動かすのである。
結束力といえば、こんなこともある。ファイターズの一員でありながら、高等部のコーチとしてチームを離れていた片岡君と、体育会本部に出向して本部長の重責を担っていた野島君がシーズンの終盤になってチームに復帰し、練習台を務めたり、先頭に立って練習を取り仕切ったりしていた。高等部は関西大会の決勝で敗れ、体育会本部は任期が終了したからということだったが、そこで「自分の任務は終了」とせず、チームに復帰し、チームを裏から支える役割を果たしているのである。
当然といえば当然かもしれない。けれども、最近のチームでは、残念ながらそういう姿は見られなかった。それだけに、いまこの時期にチームのために駆けつけた彼らの姿は、僕の目に頼もしく写った。そして、一度はチームを離れた彼らを再び引き戻すだけの結束力を持った今季のファイターズの凄さを再認識したのである。
練習への取り組みでは、春先、パナソニック電工との合同練習でのWR和田君の姿が思い浮かぶ。彼はその日、予定された合同練習が終わった後、パナソニックのDBの選手らに「もう少し相手をして下さい」と申し入れ、さらにブロックやレシーブの練習に取り組んだ。せっかくの機会だからと、年長の社会人を練習台に引っ張り込み、納得のいくまで練習を続けたのである。
昼食時、毎日のように学院本部に足を運び、そこで働く小野コーチや神田コーチ、大寺コーチらと定期的にミーティングを重ねていたパートリーダーやキッキングチームの姿も忘れられない。学院の専任事務職員として多忙を極めるコーチたちと意思疎通を図り、寸暇を惜しんで戦術を検討するためだが、そこにも毎日24時間、フットボールを最優先して取り組むコーチと選手との固い絆があった。
勇将のもとに弱卒なしという。それは表面的な猛々しさをいうのではない。自らの実践、行動、情熱で統率力を表現するリーダーと、それを本気で支える構成員のことをいうのである。その両者が同じ目標に向かって気持ちを一つにしたとき、チームに化学反応が起きる。最強の社会人チームを相手に、勝利への光が見えてくるのである。
あと1試合。全力を尽くしてがんばろう。
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