石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(33)アメフットは難しい
フットボールは難しい。本当に難しい。4日、甲子園ボウル出場をかけ、王子スタジアムで行われた西日本代表決定戦を見ながら、つくづくそのことを実感した。
結果は55-6。この得点だけを知った人は、ファイターズの圧勝と思われるかもしれない。しかし、現場で試合の流れを見ていると、とてもそんな気楽なことは考えられなかった。強豪揃いの関西リーグを戦う中で、チームとしての完成度が上がり、選手個々の地力でも、練習内容でも、相手の中京大を圧倒しているはずなのに、なかなか思い通りに試合を展開することができなかったのだ。
試合後のインタビューで、鳥内監督が「こんな試合やっとったら日本1にはなれへん」と答えていた。スタンドで観戦されていたファンの多くも「その通り」と思われたのではないか。
主将松岡兄をはじめ、オフェンスでは副将谷山、QB畑、WR小山の名前がスタメンから外れていた。ディフェンスでは、梶原、川端、香山の名前がなかった。スタメンに名前は連ねてはいても、WR和田や副将のDL長島らはすぐに後輩と交代し、試合経験の少ない下級生が次々と登場した。
チームの司令塔となるQBには、前半が糟谷、第3Q途中から1年生の松岡弟、斎藤、最後には2年生の橘までつぎ込んだ。ほかのポジションでも、4年間がんばってきたが、故障などで才能を開花しきれなかった4年生の控えメンバーや下級生が次々に出場した。
「2番手、3番手だけじゃなく、ポジションによっては5、6番手まで出しましたからね」(大村アシスタントヘッドコーチ)という状況。若手には試合経験を積ませ、存在をアピールする場に、ベンチを温めることの多かった4年生には思い出に残る試合にさせたいというベンチの思惑が露骨ににじみ出た試合だった。
だが、選手たちはその思いに応えることができただろうか。否、である。
得点の経過、内容がそれを証明している。チームとして組織的に攻め込んだというよりも、選手個人の能力、天分で一発タッチダウンとなった場面が大半だった。例えば、前半の立ち上がり。中京の最初の攻撃シリーズである。自陣23ヤードから始まった2度のラン攻撃はまったく進まず、第1ダウンまで10ヤードを残して苦し紛れのパス。それをDB大森が待ち構えていたようにインターセプトし、そのままサイドライン際を駆け上がってTD。K大西のキックも決まって7-0。簡単に主導権を奪った。
ファイターズの次の攻撃はファンブルで進めなかったが、自陣6ヤードという厳しい状況からスタートした3度目の攻撃シリーズでは、QB糟谷からWR南本への10数ヤードのパスがヒット。フリーで確保した南本が89ヤードを独走してTD。3本目のTDも相手パントをDB大竹がブロックし、敵陣19ヤードという好位置を得たことで得点に結びつけた。
後半も立ち上がり、相手のキックしたボールを自陣20ヤード付近で確保した鷺野がそのまま80ヤードを独走してTD。その後もRB望月と野々垣という、鷺野と同様、リーグ戦では交代メンバーとして常時、出場している選手がその個人技で相手守備陣を突き破ってTDに結びつけた。ゲームプランを組み立て、チームの組織力、総合力で相手ゴールに迫るという戦い方とは、少々異なっていたのである。
点を取ればそれでいい、勝てばいい、という試合なら、それでもよかろう。しかし、この試合の位置づけは「有望な下級生をどんどん出場させて経験を積ませたい。下級生や普段試合に出ていない上級生に、スタメンのメンバーを脅かすほどの力量があるかどうかを見極めたい」というところにあった。だからこそ、試合展開を見ながら「5番手、6番手のメンバーまで登用した」(大村コーチ)のだろう。チャンスを与えられた選手たちがその期待に応えられたかどうかという視点でみると、結構寂しいものがあった。
普段の練習では、それぞれが非凡な才能、というより飛び切りの才能(鳥内監督にいわせると、彼らは全員、関西リーグ一部の下位チームならスタメンが取れますよ、ということだった)を披露していただけに、それが試合で発揮できなかったことに僕は物足りなさを感じた。フットボールは難しい、というゆえんである。
実際、この試合の前、木曜と金曜日に上ヶ原のグラウンドへ練習を見に行った時には、松岡、斎藤という1年生QB2人はほとんど失敗する場面がなかった。この日、短いフィールドゴールを外し、PATも1本外した1年生K三輪も飛距離のあるキックをびしびしと決めていた。
ところが、試合になると、その力が思うように発揮できなかった。1年生には、決定的に試合経験が不足していること、これまでは大勢の観客の注目され、失敗が許されない状況で勝負をする機会に恵まれなかったことなどが原因だろう。そのことを考えると、彼らが存分に力を発揮できなかったことには同情する。
しかし、である。才能に恵まれた彼らが力を発揮し、スタメンの座を脅かすようになってくれないと、ファイターズの力は一段階上には上がれない。先発メンバーに「楽をさせ」「安心させ」ているようでは、チームの底上げはできないのである。
青と赤がその誇りをかけて戦い、体と体をぶつけ合い、気持ちと気持ちを切り結ばなければならない甲子園ボウルのことを見据えると、チーム全体がもう1段階上に行き、戦う集団、炎の集団にならないと勝利はおぼつかない。これからの試合では、けが人が出たからとか、経験が少ないからとかの言い訳は通用しないのである。
その点に思いを巡らせ、この日の戦いを振り返ると、本当にフットボールは難しいというしかない。
結果は55-6。この得点だけを知った人は、ファイターズの圧勝と思われるかもしれない。しかし、現場で試合の流れを見ていると、とてもそんな気楽なことは考えられなかった。強豪揃いの関西リーグを戦う中で、チームとしての完成度が上がり、選手個々の地力でも、練習内容でも、相手の中京大を圧倒しているはずなのに、なかなか思い通りに試合を展開することができなかったのだ。
試合後のインタビューで、鳥内監督が「こんな試合やっとったら日本1にはなれへん」と答えていた。スタンドで観戦されていたファンの多くも「その通り」と思われたのではないか。
主将松岡兄をはじめ、オフェンスでは副将谷山、QB畑、WR小山の名前がスタメンから外れていた。ディフェンスでは、梶原、川端、香山の名前がなかった。スタメンに名前は連ねてはいても、WR和田や副将のDL長島らはすぐに後輩と交代し、試合経験の少ない下級生が次々と登場した。
チームの司令塔となるQBには、前半が糟谷、第3Q途中から1年生の松岡弟、斎藤、最後には2年生の橘までつぎ込んだ。ほかのポジションでも、4年間がんばってきたが、故障などで才能を開花しきれなかった4年生の控えメンバーや下級生が次々に出場した。
「2番手、3番手だけじゃなく、ポジションによっては5、6番手まで出しましたからね」(大村アシスタントヘッドコーチ)という状況。若手には試合経験を積ませ、存在をアピールする場に、ベンチを温めることの多かった4年生には思い出に残る試合にさせたいというベンチの思惑が露骨ににじみ出た試合だった。
だが、選手たちはその思いに応えることができただろうか。否、である。
得点の経過、内容がそれを証明している。チームとして組織的に攻め込んだというよりも、選手個人の能力、天分で一発タッチダウンとなった場面が大半だった。例えば、前半の立ち上がり。中京の最初の攻撃シリーズである。自陣23ヤードから始まった2度のラン攻撃はまったく進まず、第1ダウンまで10ヤードを残して苦し紛れのパス。それをDB大森が待ち構えていたようにインターセプトし、そのままサイドライン際を駆け上がってTD。K大西のキックも決まって7-0。簡単に主導権を奪った。
ファイターズの次の攻撃はファンブルで進めなかったが、自陣6ヤードという厳しい状況からスタートした3度目の攻撃シリーズでは、QB糟谷からWR南本への10数ヤードのパスがヒット。フリーで確保した南本が89ヤードを独走してTD。3本目のTDも相手パントをDB大竹がブロックし、敵陣19ヤードという好位置を得たことで得点に結びつけた。
後半も立ち上がり、相手のキックしたボールを自陣20ヤード付近で確保した鷺野がそのまま80ヤードを独走してTD。その後もRB望月と野々垣という、鷺野と同様、リーグ戦では交代メンバーとして常時、出場している選手がその個人技で相手守備陣を突き破ってTDに結びつけた。ゲームプランを組み立て、チームの組織力、総合力で相手ゴールに迫るという戦い方とは、少々異なっていたのである。
点を取ればそれでいい、勝てばいい、という試合なら、それでもよかろう。しかし、この試合の位置づけは「有望な下級生をどんどん出場させて経験を積ませたい。下級生や普段試合に出ていない上級生に、スタメンのメンバーを脅かすほどの力量があるかどうかを見極めたい」というところにあった。だからこそ、試合展開を見ながら「5番手、6番手のメンバーまで登用した」(大村コーチ)のだろう。チャンスを与えられた選手たちがその期待に応えられたかどうかという視点でみると、結構寂しいものがあった。
普段の練習では、それぞれが非凡な才能、というより飛び切りの才能(鳥内監督にいわせると、彼らは全員、関西リーグ一部の下位チームならスタメンが取れますよ、ということだった)を披露していただけに、それが試合で発揮できなかったことに僕は物足りなさを感じた。フットボールは難しい、というゆえんである。
実際、この試合の前、木曜と金曜日に上ヶ原のグラウンドへ練習を見に行った時には、松岡、斎藤という1年生QB2人はほとんど失敗する場面がなかった。この日、短いフィールドゴールを外し、PATも1本外した1年生K三輪も飛距離のあるキックをびしびしと決めていた。
ところが、試合になると、その力が思うように発揮できなかった。1年生には、決定的に試合経験が不足していること、これまでは大勢の観客の注目され、失敗が許されない状況で勝負をする機会に恵まれなかったことなどが原因だろう。そのことを考えると、彼らが存分に力を発揮できなかったことには同情する。
しかし、である。才能に恵まれた彼らが力を発揮し、スタメンの座を脅かすようになってくれないと、ファイターズの力は一段階上には上がれない。先発メンバーに「楽をさせ」「安心させ」ているようでは、チームの底上げはできないのである。
青と赤がその誇りをかけて戦い、体と体をぶつけ合い、気持ちと気持ちを切り結ばなければならない甲子園ボウルのことを見据えると、チーム全体がもう1段階上に行き、戦う集団、炎の集団にならないと勝利はおぼつかない。これからの試合では、けが人が出たからとか、経験が少ないからとかの言い訳は通用しないのである。
その点に思いを巡らせ、この日の戦いを振り返ると、本当にフットボールは難しいというしかない。
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