石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」

(27)ファイターズの資産

投稿日時:2011/10/25(火) 20:08rss

 先日、武田建先生から、興味深い資料を頂戴した。タイトルは『JVのWR(TEを含む)へのお願い』。A4判の用紙14枚、45項目にわたって、WRとTEの諸君に心得ておいてほしいことが書かれている。
 第1章には「ボールを投げるとか受けるとかの技術は、一朝一夕に身につくものではありません。毎日、毎日、何回も何回も繰り返してやって、次第に身についてゆくのです。同じことを何度も、何度も試みて下さい」とある。
 第3章には「練習や試合のない日も、フットボール日記を、私が渡すノートに書いて下さい。その日の練習や試合について、自分自身の反省、考え、感じたこと、悔しかったこと、うれしかったことなど、何でも結構です。シーズン中、毎週1回、私に見せて下さい。必ずコメントを書いて、翌日、皆さんにお返しします」と書かれている。
 そして、章ごとに「セットする位置、スタンス、スタートを覚えて下さい」「相手がどんな守備を使っているかを見つけましょう」「ボールを受けなかったレシーバーは全員がブロッカーです。ですから毎日、ブロックの練習をして下さい」「ボールを受けるのは生まれつきの能力ではなく、練習の成果です」「何度も何度も、正しいスタート、きれいなスタートの動き、素早いスタートの練習をして下さい。そのためには、心の中で、口の中で、QBと一緒に号令をかけてスタートを切りましょう」などと、レシーバーに必要な基礎的な動きと、そのための練習法を懇切丁寧に説明している。
 「ボールは目で捕る」「まずボールを受けることに集中しましょう」などという、極めて初歩的な注意も何度となく繰り返される。「失敗したときに、俺はだめだ、と思うのではなく、挑戦の課題ができたと思えば、気持ちは変わり、やる気も出てきます」などという、いかにも心理学者らしい表現もある。
 こんなせりふもある。「皆さん自身をコーチの立場におき、自分をコーチの立場から見て下さい。明日の練習で何をしなくてはならないのか。どこを補わなくてはならないのか、どんな練習をすればいいのか、それをノートに書き留めて下さい。書くことにより、自分の気持ちを整理できるし、自分自身を見つめることができるようになります」
 この14枚の資料は、かつてファイターズの監督、ヘッドコーチの時代に「プロフェッサー建」と呼ばれ、日本の高校や大学にアメリカのフットボールを普及させる「配電盤」の役割を果たされた武田先生が、あらためてJVのメンバーだけを対象に書き下ろされた、いわば「伝道の書」である。文章の一節、一節から、一人でも多くの選手に活躍してもらいたいというコーチとしての願望と、フットボールへの取り組みを通じて、人間として成長するきっかけをつかんでほしいという教育者としての希望がにじみ出ている。
 それは、次のような文章からもうかがえる。「数年前まで、私は冬の間、QBの投げ込みに付き合っていました。そのころはQBが投げるのに2、3人のレシーバーが相手に来ていただけでした。そのWRが榊原貴生君であり、萬代晃平君でした。彼らは三原君が長いパスを投げたいというと、一人で走ってボールを受け、そのボールを持ち帰って、また受けに行きました。彼らの華麗なプレーの裏には、寒い、土のグラウンドの上で、こうした努力が積み重ねられていたのです」
 武田先生は79歳。世間的に言えば、とっくに「悠々自適」の暮らしを楽しんでおられる年代だろう。それが、週末ごとにグラウンドに足を運び、Vのメンバーが試合に向けた練習をしている片隅で、懸命にJVのメンバーに声を掛けておられるのである。メガホンを片手に、うるさいほど「ボールを見て!」と声を掛け、いいプレーが出たときにはすかさず「ナイスキャッチ」と声を張り上げる。その献身的な活動ぶりには、見るたびに頭が下がる。
 もちろん、JVのメンバーに声を掛けるだけでチーム力が飛躍的にアップするほど、この世界は甘くない。しかし、控えの選手たちにとって「いつも見ていてくれる人がいる」「成長を喜んでくださる人がいる」というのは、何よりも励みになる。そういう励みを持って練習することで、控えのメンバーが力をつけ、先発メンバーの座を脅かし、あわよくば彼らに取って代わろうとする。その競争がチームのモラルを高めるのである。
 ファイターズは試合に出るメンバーだけで構成されているのではない。控えのメンバーや新しく入部したメンバーの底上げがあって初めて活力にあふれ、高いモラルを持ったチームが出来上がるのである。
 その意味で、武田先生のこうした活動は、チームの発展にとって、大きな役割を担っている。チーム内での肩書きはなくても、こういう人が親しくグラウンドに顔を出し、選手諸君と交流をするのが、ファイターズの底力である。かけがえのない資産であり、チームの至宝といってもよいだろう。
 こういう活動を通じて蓄えたチームの底力を、これから始まる関大、京大、立命館との戦いで見せてほしい。
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