石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(26)完勝。でも、喜べない
先週のコラムで紹介したアエラムック「関西学院大学 by AERA」(朝日新聞出版発行、820円=税込)が爆発的に売れている。すでに重版がかかっており、続けて3刷も検討されているという。
「レジに走れ!」「僕がファイターズの特集を8ページにわたって書いている」「この特集を読むだけでも820円をはたく値打ちはある」なんて、勝手なことをほざいていた手前もあって「誰も買ってくれなかったらどうしよう」と、多少は気にしていただけに、2刷、3刷という話を聞くとほっとする。肩の荷が下りたような気分であり、期末試験が終わったような気分でもある。
そのせいか、今週はなかなかこのコラムを書く気にならず、ぼんやりと週明けを迎えてしまった。試合は土曜日、80-0という快勝なのに、何を書けばいいのか、考えがまとまらなかったのだ。というより、書こうという気分にすらならなかったのである。これを称して「燃え尽き症候群」というのだろうか。いやいや、ただの怠惰、怠けているだけである。
本題に入る。試合は80-0。近年の秋期リーグでは記憶にないほどの大勝である。ファイターズのイヤーブックで調べてみると、1983年に大阪体育大に91-0で勝ったとき以来の大量得点である。83年といえば、小野コーチが4年生の時。遠い遠い昔の出来事である。
近年のように、前半で大量リードをすると、次々と交代メンバーを繰り出し、より多くの選手に試合経験を積ませたり、時には「4年生シリーズ」といって、4年生ばかりのユニットで、記憶に残る試合を演出したりということが標準になると、12分クオーターの試合では、とてもこれだけの点は入らない。相手のファンブルや、こちらのインターセプトなどが続出して、ファイターズがボールを持つ機会が圧倒的に多いのなら、話は変わってくるが、先日の試合でのターンオーバーは、DB大森のインターセプトだけだった。
それだけ、ファイターズの攻撃力が上がってきた、守備陣も鉄壁の守りを固めたということだろう。
攻撃はたしかにリズムがよかった。立ち上がりの第1プレーで、1年生RB鷺野が一気に85ヤードのキックオフリターンTD。次の攻撃シリーズではRB望月の29ヤードランで陣地を稼ぎ、残る42ヤードはQB糟谷から1年生WR大園へのTDパスで仕上げる。
3度目の攻撃は糟谷の23ヤード独走で陣地を進め、仕上げは糟谷からWR梅本へ5ヤードのTDパス。4度目は糟谷のスクランブルや大園へのあわやTDという長いパスなどで一気にゴール前に迫り、残り1ヤードを望月が走り込んでTD。4度の攻撃シリーズをすべて短時間の攻撃でTDに結びつけ、K大西のキックも確実に決まって、第1Qだけで28点。その間、守備陣は完全に甲南大の攻撃を押さえ込んでいた。おまけに、第1Q終了間際には大西が先週の神戸大戦に続くオンサイドキックを成功させて、攻撃権をもぎ取った。まったく非の打ち所がない12分だった。
こんな攻撃を続けていると、当然チームの雰囲気は盛り上がってくる。相手の意気は消沈する。第2Q以降も、ファイターズの攻守のパフォーマンスが面白いように決まり、前半だけで49-0と引き離した。
後半は、QBに1年生の松岡弟を起用するなど、次々と新しいメンバーを投入したが、もう勢いは止まらない。第3Qに14点、第4Qに17点を積み重ねて、ついに80点の大台に乗せた。
だが、そんな試合を見ても、僕には満足感も達成感もまったくなかった。
ファイターズの試合の後、第2試合での立命館大のパフォーマンスがあまりにすごかったからである。でかくて素早いOL陣、どんな場面でも確実に陣地を稼ぐRB、一人や二人のタックルでは倒れないWR。その攻撃力は「モンスター軍団」そのものだ。
もちろん、守備陣も並外れた強さとスピードがある。おまけに集中力が素晴らしい。ボールキャリアめがけて2人、3人、4人と飛びかかってくるたたみかけるような守備は、ファイターズの研ぎ澄まされた攻撃力をもってしても、隙を見つけるのが難しいかも、と思うほどだった。
とにかく攻撃にも守備にも、多彩な人材がいる神戸大を相手に、簡単に78点を挙げているのだから、やっかいな相手というしかない。こういう相手との戦いが1カ月後に迫っている。80-0の完勝だからといって、喜んでいる場合ではないのである。
そんな試合だったが、無条件にうれしかったプレーがいくつかある。その一つがゲーム終了直前、K大西が47ヤードのフィールドゴールを完璧に決めてくれたこと。大量リードの試合にあっても、あえて厳しい状況に身を置き、しっかり仕事を果たした彼のプレーに、職人の魂を見た。これからの3試合に臨むファイターズの全員が、あのような集中力を見せてくれれば、モンスター軍団に一矢を報いることも不可能ではないと、かすかな光明が見えるようなプレーだった。
決戦まであと1カ月。その前には、二つの難敵が控えている。全員が集中力を研ぎ澄ませて練習に取り組み、決戦に臨んでもらいたい。
「レジに走れ!」「僕がファイターズの特集を8ページにわたって書いている」「この特集を読むだけでも820円をはたく値打ちはある」なんて、勝手なことをほざいていた手前もあって「誰も買ってくれなかったらどうしよう」と、多少は気にしていただけに、2刷、3刷という話を聞くとほっとする。肩の荷が下りたような気分であり、期末試験が終わったような気分でもある。
そのせいか、今週はなかなかこのコラムを書く気にならず、ぼんやりと週明けを迎えてしまった。試合は土曜日、80-0という快勝なのに、何を書けばいいのか、考えがまとまらなかったのだ。というより、書こうという気分にすらならなかったのである。これを称して「燃え尽き症候群」というのだろうか。いやいや、ただの怠惰、怠けているだけである。
本題に入る。試合は80-0。近年の秋期リーグでは記憶にないほどの大勝である。ファイターズのイヤーブックで調べてみると、1983年に大阪体育大に91-0で勝ったとき以来の大量得点である。83年といえば、小野コーチが4年生の時。遠い遠い昔の出来事である。
近年のように、前半で大量リードをすると、次々と交代メンバーを繰り出し、より多くの選手に試合経験を積ませたり、時には「4年生シリーズ」といって、4年生ばかりのユニットで、記憶に残る試合を演出したりということが標準になると、12分クオーターの試合では、とてもこれだけの点は入らない。相手のファンブルや、こちらのインターセプトなどが続出して、ファイターズがボールを持つ機会が圧倒的に多いのなら、話は変わってくるが、先日の試合でのターンオーバーは、DB大森のインターセプトだけだった。
それだけ、ファイターズの攻撃力が上がってきた、守備陣も鉄壁の守りを固めたということだろう。
攻撃はたしかにリズムがよかった。立ち上がりの第1プレーで、1年生RB鷺野が一気に85ヤードのキックオフリターンTD。次の攻撃シリーズではRB望月の29ヤードランで陣地を稼ぎ、残る42ヤードはQB糟谷から1年生WR大園へのTDパスで仕上げる。
3度目の攻撃は糟谷の23ヤード独走で陣地を進め、仕上げは糟谷からWR梅本へ5ヤードのTDパス。4度目は糟谷のスクランブルや大園へのあわやTDという長いパスなどで一気にゴール前に迫り、残り1ヤードを望月が走り込んでTD。4度の攻撃シリーズをすべて短時間の攻撃でTDに結びつけ、K大西のキックも確実に決まって、第1Qだけで28点。その間、守備陣は完全に甲南大の攻撃を押さえ込んでいた。おまけに、第1Q終了間際には大西が先週の神戸大戦に続くオンサイドキックを成功させて、攻撃権をもぎ取った。まったく非の打ち所がない12分だった。
こんな攻撃を続けていると、当然チームの雰囲気は盛り上がってくる。相手の意気は消沈する。第2Q以降も、ファイターズの攻守のパフォーマンスが面白いように決まり、前半だけで49-0と引き離した。
後半は、QBに1年生の松岡弟を起用するなど、次々と新しいメンバーを投入したが、もう勢いは止まらない。第3Qに14点、第4Qに17点を積み重ねて、ついに80点の大台に乗せた。
だが、そんな試合を見ても、僕には満足感も達成感もまったくなかった。
ファイターズの試合の後、第2試合での立命館大のパフォーマンスがあまりにすごかったからである。でかくて素早いOL陣、どんな場面でも確実に陣地を稼ぐRB、一人や二人のタックルでは倒れないWR。その攻撃力は「モンスター軍団」そのものだ。
もちろん、守備陣も並外れた強さとスピードがある。おまけに集中力が素晴らしい。ボールキャリアめがけて2人、3人、4人と飛びかかってくるたたみかけるような守備は、ファイターズの研ぎ澄まされた攻撃力をもってしても、隙を見つけるのが難しいかも、と思うほどだった。
とにかく攻撃にも守備にも、多彩な人材がいる神戸大を相手に、簡単に78点を挙げているのだから、やっかいな相手というしかない。こういう相手との戦いが1カ月後に迫っている。80-0の完勝だからといって、喜んでいる場合ではないのである。
そんな試合だったが、無条件にうれしかったプレーがいくつかある。その一つがゲーム終了直前、K大西が47ヤードのフィールドゴールを完璧に決めてくれたこと。大量リードの試合にあっても、あえて厳しい状況に身を置き、しっかり仕事を果たした彼のプレーに、職人の魂を見た。これからの3試合に臨むファイターズの全員が、あのような集中力を見せてくれれば、モンスター軍団に一矢を報いることも不可能ではないと、かすかな光明が見えるようなプレーだった。
決戦まであと1カ月。その前には、二つの難敵が控えている。全員が集中力を研ぎ澄ませて練習に取り組み、決戦に臨んでもらいたい。
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