石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(21)嵐の中の開幕
台風である。豪雨、それも72時間の総雨量が1000ミリを超す、想像もつかないほどの歴史的な豪雨である。
先週の土曜から日曜にかけて、紀伊半島中央部には、地球の天井が破れたような大雨が降った。僕が働いている新聞社のある和歌山県田辺市でも山が崩れ、土石流が氾濫して多くの家屋が倒壊した。人命も失われた。生活道路はもちろん、幹線道路も至る所で寸断され、数え切れないほどの集落が孤立状態に置かれた。停電は続き、水道は断水したまま。携帯電話も固定電話も通じない。状況がつかめないから、被害の全容も把握できない。道路が不通だから、復旧工事の車両や大型重機も搬入できない。
そういう厳しい状況だから、取材する記者も命がけである。車1台が通るのがぎりぎりという間道を縫って現場に走る。2次災害の危険を承知しながら、行方不明者の救出作業を取材する。氾濫する暴れ川の写真を撮影する。わが部下ながら、その奮闘ぶりには本当に頭が下がる。まったく場違いな場所ではあるが、この場を借りて(多分、社内の人間はだれもこのコラムを読んでいないだろうが)彼、彼女らの献身的な努力に、心からの称賛を贈りたい。ありがとう。
若い記者たちがこのように奮闘しているのに、その上司である僕は、西宮の自宅で立ち往生である。職場に駆けつけようとしても、電車も高速道路も不通。身動きがならない。何より、4日はファイターズの開幕戦である。それを見捨てて、田辺に駆けつけるという選択肢ははじめからなかった。
代わりに、3日は台風の間隙を縫って、上ヶ原の第3フィールドに出かけ、平郡雷太氏の記念碑に手を合わせ、彼を悼んで植えられた山桃の葉っぱを一枚、お守りとして頂戴してきた。帰りには上ヶ原の八幡さまに立ち寄り、100円玉をチャリンと賽銭箱に投げ込んだ。ファイターズの勝利を祈り、選手諸君の活躍をお願いしてきた。100円分の功徳はあるだろう。
ついでに、関西学院のシンボルである時計台に手を合わせ、ランバス礼拝堂も、外からそっと拝んできた。西洋の神様、日本の神様、そして天の雷様にまで、あれやこれやとお祈りしてきたから、きっと御利益があるに違いない。
そうして迎えた同志社戦。ファイターズは、立ち上がりこそぎこちなかったが、次第に力を発揮し、終わってみれば48-0。堂々の勝利だった。
試合の流れは、得点経過にそのまま表れている。第1QはK大西のフィールドゴールによる3点だけ。無用な反則があったり、ゴール前で攻めあぐんだりして、攻撃がリズムに乗れなかった結果である。守備陣も、相手QBの手の込んだ「めくらまし」に振り回される場面が続いた。
第2Qになると、攻守ともにようやく落ち着いてきた。6分45秒、RB望月の中央突破で待望のTD。大西のキックも決まって10-0。11分、相手が無理に投げ込んだミドルパスをDB池田が余裕でインターセプト、そのままゴールまで65ヤードを走り込んでTD。大西のキックも決まり17-0。
後半に入ると、ファイターズの攻守の歯車がかみ合ってくる。松岡、野々垣、鷺野の快足RBトリオと、パワフルな望月のランを使い分け、次々にダウンを更新。野々垣の左サイドラインをかけ上げる59ヤードの独走TDなど、ランプレーだけで4本のTDを決め、大西のフィールドゴールとあわせ、後半だけで31点。
守備陣も2度のパントブロックなど、激しいチェックで相手を寄せ付けない。前半、幻惑されていた相手QBの動きにも、梶原を中心としたDL陣がパワーで対抗。ぴたりと動きを封じ込んでしまった。
振り返れば、ファイターズの仕上がりの良さが目についた。だが、それ以上にこの試合で僕が注目したのは、選手たちの必死懸命の取り組みだった。
例えばそれは、松岡主将の率先垂範ぶりに表れていた。昨年、負傷した左肘のけがが回復途上というのに、終始、試合に出続け、チームを勇気づけた。なにしろ、本職のRBだけでなく、リターナーとしても出ずっぱりだったのだ。それは今季に賭ける主将の意気込みを絵に描いたような場面だった。
後半出場したQB糟谷は、中途半端に投げたパスが相手DBにインターセプトされた。しかし、その途端、とうてい追いつけないような逆サイドから懸命にボールキャリアを追いかけ、ゴール前10ヤード付近でタックルに成功。一発TDを食い止めた。
このプレーに奮い立った1年生DL岡部は、次のプレーで相手QBをサック。10ヤード以上のロスを奪った。続く2プレーも守備陣がロスを奪い、結局、フィールドゴールの狙えない位置まで相手を追い込んで完封に成功した。失敗を自らのプレーで挽回した4年生QB、それを意気に感じて奮い立った1年生。攻守の歯車がかみ合うとは、こういう場面をいうのだろう。
松岡主将を中心に、気持ちを前面に出して戦う今季のファイターズに注目したい。
先週の土曜から日曜にかけて、紀伊半島中央部には、地球の天井が破れたような大雨が降った。僕が働いている新聞社のある和歌山県田辺市でも山が崩れ、土石流が氾濫して多くの家屋が倒壊した。人命も失われた。生活道路はもちろん、幹線道路も至る所で寸断され、数え切れないほどの集落が孤立状態に置かれた。停電は続き、水道は断水したまま。携帯電話も固定電話も通じない。状況がつかめないから、被害の全容も把握できない。道路が不通だから、復旧工事の車両や大型重機も搬入できない。
そういう厳しい状況だから、取材する記者も命がけである。車1台が通るのがぎりぎりという間道を縫って現場に走る。2次災害の危険を承知しながら、行方不明者の救出作業を取材する。氾濫する暴れ川の写真を撮影する。わが部下ながら、その奮闘ぶりには本当に頭が下がる。まったく場違いな場所ではあるが、この場を借りて(多分、社内の人間はだれもこのコラムを読んでいないだろうが)彼、彼女らの献身的な努力に、心からの称賛を贈りたい。ありがとう。
若い記者たちがこのように奮闘しているのに、その上司である僕は、西宮の自宅で立ち往生である。職場に駆けつけようとしても、電車も高速道路も不通。身動きがならない。何より、4日はファイターズの開幕戦である。それを見捨てて、田辺に駆けつけるという選択肢ははじめからなかった。
代わりに、3日は台風の間隙を縫って、上ヶ原の第3フィールドに出かけ、平郡雷太氏の記念碑に手を合わせ、彼を悼んで植えられた山桃の葉っぱを一枚、お守りとして頂戴してきた。帰りには上ヶ原の八幡さまに立ち寄り、100円玉をチャリンと賽銭箱に投げ込んだ。ファイターズの勝利を祈り、選手諸君の活躍をお願いしてきた。100円分の功徳はあるだろう。
ついでに、関西学院のシンボルである時計台に手を合わせ、ランバス礼拝堂も、外からそっと拝んできた。西洋の神様、日本の神様、そして天の雷様にまで、あれやこれやとお祈りしてきたから、きっと御利益があるに違いない。
そうして迎えた同志社戦。ファイターズは、立ち上がりこそぎこちなかったが、次第に力を発揮し、終わってみれば48-0。堂々の勝利だった。
試合の流れは、得点経過にそのまま表れている。第1QはK大西のフィールドゴールによる3点だけ。無用な反則があったり、ゴール前で攻めあぐんだりして、攻撃がリズムに乗れなかった結果である。守備陣も、相手QBの手の込んだ「めくらまし」に振り回される場面が続いた。
第2Qになると、攻守ともにようやく落ち着いてきた。6分45秒、RB望月の中央突破で待望のTD。大西のキックも決まって10-0。11分、相手が無理に投げ込んだミドルパスをDB池田が余裕でインターセプト、そのままゴールまで65ヤードを走り込んでTD。大西のキックも決まり17-0。
後半に入ると、ファイターズの攻守の歯車がかみ合ってくる。松岡、野々垣、鷺野の快足RBトリオと、パワフルな望月のランを使い分け、次々にダウンを更新。野々垣の左サイドラインをかけ上げる59ヤードの独走TDなど、ランプレーだけで4本のTDを決め、大西のフィールドゴールとあわせ、後半だけで31点。
守備陣も2度のパントブロックなど、激しいチェックで相手を寄せ付けない。前半、幻惑されていた相手QBの動きにも、梶原を中心としたDL陣がパワーで対抗。ぴたりと動きを封じ込んでしまった。
振り返れば、ファイターズの仕上がりの良さが目についた。だが、それ以上にこの試合で僕が注目したのは、選手たちの必死懸命の取り組みだった。
例えばそれは、松岡主将の率先垂範ぶりに表れていた。昨年、負傷した左肘のけがが回復途上というのに、終始、試合に出続け、チームを勇気づけた。なにしろ、本職のRBだけでなく、リターナーとしても出ずっぱりだったのだ。それは今季に賭ける主将の意気込みを絵に描いたような場面だった。
後半出場したQB糟谷は、中途半端に投げたパスが相手DBにインターセプトされた。しかし、その途端、とうてい追いつけないような逆サイドから懸命にボールキャリアを追いかけ、ゴール前10ヤード付近でタックルに成功。一発TDを食い止めた。
このプレーに奮い立った1年生DL岡部は、次のプレーで相手QBをサック。10ヤード以上のロスを奪った。続く2プレーも守備陣がロスを奪い、結局、フィールドゴールの狙えない位置まで相手を追い込んで完封に成功した。失敗を自らのプレーで挽回した4年生QB、それを意気に感じて奮い立った1年生。攻守の歯車がかみ合うとは、こういう場面をいうのだろう。
松岡主将を中心に、気持ちを前面に出して戦う今季のファイターズに注目したい。
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