石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(18)決意の丸刈り
8月である。原爆忌、高校野球、施餓鬼にお盆。こんな言葉を並べてみただけも汗が噴き出してくる。夜明けとともに始まる蝉の大合唱が、今日の暑さがただごとではないと教えてくれる。パソコンの前に座っただけで、汗がにじんでくる。
それでも、どこかに秋の気配が見えてくるのがこの時季だ。例えばヒグラシ。奥山では早くもカナカナと鳴いている。ただ騒々しいだけのアブラゼミやクマゼミとは違って、ヒグラシのカナカナは、どこかもの悲しい。三田市近郊の田舎で育った僕は、子どもの頃、長い夏の一日の終わりを告げるように鳴くこの声を聞くと、いつも遊びをやめて家路を急いだことだった。
そしてツクツクボウシ。お盆が終わるころから鳴き始めるのだが、この声が聞こえ始めると、いつも夏休みの宿題に追われていた。長い休みに入ったその日から、2カ所の親戚に預けられ、年齢の近いおじさんたちと遊びに遊んだつけが、ツクツクボウシの鳴き声とともに取り立てられるのである。
8日は立秋。暦の上では、さっさと秋が立っている。ファイターズの夏期練習もとっくに始まり、今は東鉢伏の合宿で心置きなく鍛錬に励んでいる。僕も今日から合宿に出かけ、練習を見学するつもりだが、その前に、先日、上ヶ原で見た選手たちの様子について、一つだけ報告しておきたい。
4年生の男子全員がつるつるの丸坊主になっていることだ。幹部からは、その理由について取材していないので、詳しい事情は分からないが、とにかく選手もマネジャーもトレーナーも分析スタッフも、見かけた4年生の頭は全員つるつる。今シーズンは春から、松岡主将、谷山副将をはじめ、4年生の多くが自主的に頭を刈り上げていたが、全員そろってとなると、なかなかの迫力だ。
頭を丸めるといえば、いくつかのケースがある。何か不始末があったときに、その責任を負うべき人が反省の意向を示すためという場合もあるし、心機一転の気持ちを表明するために剃ることもある。何事かを決意して、その証しとして、頭を丸めることもある。単に長い髪が暑苦しいから短くするということもあるし、組織の方針として、丸刈りを強制することもある。
いま甲子園で熱戦を繰り広げている高校野球チームを見ても、丸刈りにしている選手は少なくない。
しかしファイターズでは、近年、あまり見かけなかった光景である。個人の都合で刈り上げている選手はいつの時代にもいたが、夏休みからスタッフも含めた4年生が全員、丸刈りにしたことはここ数年では記憶にない。よほど、心に期すことがあるのだろう。
丸刈りといえば、京大のイメージが強い。とくに80年代後半から90年代の京大は、シーズンが深まるとともにつるつるに剃り上げる選手が多く、そのでかい体格と合わせ、近づくのが怖いような雰囲気を持っていた。それに対抗するファイターズも、そのころは秋のシーズンが深まるとともに、丸刈りの選手が続出。最後の京大と関学の決戦では、両軍の主将、副将がともにつるつるの坊主頭でコイントスをするのが定番だった。そのころはまた両軍ともに坊主頭が絵になる選手がいっぱいいた。ファイターズの池之上選手、ギャングスターズの屋敷選手らである。
彼らの姿を見るたびに、当時の僕は「全員が丸坊主というのは、息が詰まる。アメフットはもっと自由で創造的なスポーツ。チーム全員が右へ倣えで丸刈りというのはいただけない。一人や二人は、長い髪をなびかせて走るあまのじゃくがいてもいいのに」と思っていた。今もずっとそう思っている。
けれども、今年のファイターズを見ていると、その考えを少し修正したくなった。「気持ちを引き締めたい、4年生の姿勢を示したいというのなら、4年生全員が丸刈りにするのもいいじゃないか」と思うようになったのである。
それは今シーズンが始まって以降、頭を丸刈りにしてずっとチームを率いてきた4年生の幹部連を見てきているからだ。今季は主将も副将も、パートリーダーも、早い時期から丸坊主だった。彼らの今季にかける意気込みを、シーズンの終盤ではなく、いまこの時期から4年生みんなで共有し、さらに高めて行こうという決心が丸刈りという形になって表れたというのなら、それもよしと思ったのである。
さて、このような4年生の決意がチーム力のさらなる向上につながるのかどうか。その答えを求めて、東鉢伏に出発しよう。
それでも、どこかに秋の気配が見えてくるのがこの時季だ。例えばヒグラシ。奥山では早くもカナカナと鳴いている。ただ騒々しいだけのアブラゼミやクマゼミとは違って、ヒグラシのカナカナは、どこかもの悲しい。三田市近郊の田舎で育った僕は、子どもの頃、長い夏の一日の終わりを告げるように鳴くこの声を聞くと、いつも遊びをやめて家路を急いだことだった。
そしてツクツクボウシ。お盆が終わるころから鳴き始めるのだが、この声が聞こえ始めると、いつも夏休みの宿題に追われていた。長い休みに入ったその日から、2カ所の親戚に預けられ、年齢の近いおじさんたちと遊びに遊んだつけが、ツクツクボウシの鳴き声とともに取り立てられるのである。
8日は立秋。暦の上では、さっさと秋が立っている。ファイターズの夏期練習もとっくに始まり、今は東鉢伏の合宿で心置きなく鍛錬に励んでいる。僕も今日から合宿に出かけ、練習を見学するつもりだが、その前に、先日、上ヶ原で見た選手たちの様子について、一つだけ報告しておきたい。
4年生の男子全員がつるつるの丸坊主になっていることだ。幹部からは、その理由について取材していないので、詳しい事情は分からないが、とにかく選手もマネジャーもトレーナーも分析スタッフも、見かけた4年生の頭は全員つるつる。今シーズンは春から、松岡主将、谷山副将をはじめ、4年生の多くが自主的に頭を刈り上げていたが、全員そろってとなると、なかなかの迫力だ。
頭を丸めるといえば、いくつかのケースがある。何か不始末があったときに、その責任を負うべき人が反省の意向を示すためという場合もあるし、心機一転の気持ちを表明するために剃ることもある。何事かを決意して、その証しとして、頭を丸めることもある。単に長い髪が暑苦しいから短くするということもあるし、組織の方針として、丸刈りを強制することもある。
いま甲子園で熱戦を繰り広げている高校野球チームを見ても、丸刈りにしている選手は少なくない。
しかしファイターズでは、近年、あまり見かけなかった光景である。個人の都合で刈り上げている選手はいつの時代にもいたが、夏休みからスタッフも含めた4年生が全員、丸刈りにしたことはここ数年では記憶にない。よほど、心に期すことがあるのだろう。
丸刈りといえば、京大のイメージが強い。とくに80年代後半から90年代の京大は、シーズンが深まるとともにつるつるに剃り上げる選手が多く、そのでかい体格と合わせ、近づくのが怖いような雰囲気を持っていた。それに対抗するファイターズも、そのころは秋のシーズンが深まるとともに、丸刈りの選手が続出。最後の京大と関学の決戦では、両軍の主将、副将がともにつるつるの坊主頭でコイントスをするのが定番だった。そのころはまた両軍ともに坊主頭が絵になる選手がいっぱいいた。ファイターズの池之上選手、ギャングスターズの屋敷選手らである。
彼らの姿を見るたびに、当時の僕は「全員が丸坊主というのは、息が詰まる。アメフットはもっと自由で創造的なスポーツ。チーム全員が右へ倣えで丸刈りというのはいただけない。一人や二人は、長い髪をなびかせて走るあまのじゃくがいてもいいのに」と思っていた。今もずっとそう思っている。
けれども、今年のファイターズを見ていると、その考えを少し修正したくなった。「気持ちを引き締めたい、4年生の姿勢を示したいというのなら、4年生全員が丸刈りにするのもいいじゃないか」と思うようになったのである。
それは今シーズンが始まって以降、頭を丸刈りにしてずっとチームを率いてきた4年生の幹部連を見てきているからだ。今季は主将も副将も、パートリーダーも、早い時期から丸坊主だった。彼らの今季にかける意気込みを、シーズンの終盤ではなく、いまこの時期から4年生みんなで共有し、さらに高めて行こうという決心が丸刈りという形になって表れたというのなら、それもよしと思ったのである。
さて、このような4年生の決意がチーム力のさらなる向上につながるのかどうか。その答えを求めて、東鉢伏に出発しよう。
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