石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(17)温故知新
暑い!
さすが8月、日本の夏である。毎日、汗まみれになって過ごしている。
この炎天下、上ヶ原でチーム練習を始めたファイターズの諸君の苦労を思うと、暑いなんていってはおれないが、それでも暑いものは暑い。今年は「脱原発」に向けたささやかな意思表示として、あえてエアコンを使う時間を限定しているから、なおのことだ。
このところ、必要があって、ファイターズの歴史をあれこれと調べている。古い卒業生から話を聞き、OBの書かれた書物を片っ端から読んでいる。ここ数年の「イヤーブック」や「Fight On」を手近なところにおき、機会あるごとに目を通して、新聞記者の感覚に触れる言葉を探してもいる。
そんな中で、思うことがある。ファイターズは、本当に人に恵まれて誕生した幸せなチームであるということだ。
チームの誕生は戦前だが、すぐに「敵性スポーツ」として活動はストップさせられ、実質的な活動は太平洋戦争が終わってから。その草創期。物資もなければ、食料もない。あるのは、戦争が終わったというある種の開放感と、若くて元気な人材、そして世界とつながる関西学院という舞台だけ。そういう中からの再スタートだった。
だが、調べを進めていくうちに、このチームはその時々に必要な人材を次々に得て、その「人々の力」でチームを育ててきたということを実感した。その後のチームの歩みを知っている僕は、草創期に人に恵まれたことが、どれほどの力になったことかと思い知ったのである。
このことについては、また別の機会に書くが、いまここでいっておきたいのは、ファイターズ(当時はまだこの名前はなかったが)においては、勝利のために必要な事柄がすべて草創期から、その芽を吹いていること。チーム運営の方針を確立することの必要性、リクルート、戦術の導入、相手チームの情報収集、そして指導者の確保。そういったことにいち早く注目し、そのために必要な行動を次々と起こしていること。そういう希有なチームだったということである。
その徹底度には差があるかもしれないが、いまではどこのチームもやっているそういった事柄に、草創期から取り組み、それを実行してきたというのはただごとではない。それを、周囲の大人からいわれてではなく、チームを構成する学生自らが自主的、自発的に実行してきたことを知ると、これはアメリカンフットボールという枠を越え、人間の成長、発達から、教育ということの本質にまで及ぶ壮大な物語であるということに気づかされるのである。
もちろん「勝ちたい」ということがそのエネルギーになったのだろう。勝つために知恵を出し、工夫を重ねるうちに、その必要性に気がつき、気がついたことを片っ端から実行したということだろう。手探りで進めていくうちに、それがチームのノウハウとなって蓄積されたということもあるだろう。そういう蓄積をたくさん持っていることを伝統と呼ぶのかもしれない。
しかしそれは、伝統という言葉で、神棚に祭り上げておけばいいというものではない。温故知新。古きを訪ね、新しくを知るである。いま現在の活動に生かさなければ、意味は半減する。
戦後の草創期に「勝ちたい」と思って、チームのみんながそれぞれの分野で努力した。リクルート、戦術の研究、相手チームの分析……。いまから見れば、その内容は荒削りでお粗末だった。相手チームの情報を入手するといっても、撮影機材一つない。ただ試合会場に出かけ、試合の様子を目に焼き付けて来るだけだ。新しい戦術を研究するにも、当初はアメリカの原書しかない。それも図書館に出かけて必要なところをノートに写し、それを翻訳して、プレー内容や仕組みを想像するしかないという状態だ。リクルートといっても、選手には何の特典もない。有望な選手がいると聞けば、ひたすらその選手の家に出かけて関西学院を受験してくれるように説得するだけだ。
いまから見れば、余りに原初的なやり方だが、それでも「勝ちたい」一心で、彼らはそれを自主的、自発的にやり続けた。
いまのファイターズの諸君も「勝ちたいという気持ちでは、草創期のメンバーには負けてはいないだろう。ならば、彼らが自主的、自発的に成し遂げたことを、いまもやったらどうだろう。もちろん、覇権を争うライバルは増え、それぞれが強くなっている。60年前とは、環境も激変している。同じ方法、同じ努力では、実りにつながらないかもしれない。
けれども勝利を求めて、どん欲に努力するその姿勢、その心構えは、いまも通用するはずだ。温故知新。歴史に学び、いまを生きる。ファイターズの諸君にとっても、必要なことだと僕は思っている。
さすが8月、日本の夏である。毎日、汗まみれになって過ごしている。
この炎天下、上ヶ原でチーム練習を始めたファイターズの諸君の苦労を思うと、暑いなんていってはおれないが、それでも暑いものは暑い。今年は「脱原発」に向けたささやかな意思表示として、あえてエアコンを使う時間を限定しているから、なおのことだ。
このところ、必要があって、ファイターズの歴史をあれこれと調べている。古い卒業生から話を聞き、OBの書かれた書物を片っ端から読んでいる。ここ数年の「イヤーブック」や「Fight On」を手近なところにおき、機会あるごとに目を通して、新聞記者の感覚に触れる言葉を探してもいる。
そんな中で、思うことがある。ファイターズは、本当に人に恵まれて誕生した幸せなチームであるということだ。
チームの誕生は戦前だが、すぐに「敵性スポーツ」として活動はストップさせられ、実質的な活動は太平洋戦争が終わってから。その草創期。物資もなければ、食料もない。あるのは、戦争が終わったというある種の開放感と、若くて元気な人材、そして世界とつながる関西学院という舞台だけ。そういう中からの再スタートだった。
だが、調べを進めていくうちに、このチームはその時々に必要な人材を次々に得て、その「人々の力」でチームを育ててきたということを実感した。その後のチームの歩みを知っている僕は、草創期に人に恵まれたことが、どれほどの力になったことかと思い知ったのである。
このことについては、また別の機会に書くが、いまここでいっておきたいのは、ファイターズ(当時はまだこの名前はなかったが)においては、勝利のために必要な事柄がすべて草創期から、その芽を吹いていること。チーム運営の方針を確立することの必要性、リクルート、戦術の導入、相手チームの情報収集、そして指導者の確保。そういったことにいち早く注目し、そのために必要な行動を次々と起こしていること。そういう希有なチームだったということである。
その徹底度には差があるかもしれないが、いまではどこのチームもやっているそういった事柄に、草創期から取り組み、それを実行してきたというのはただごとではない。それを、周囲の大人からいわれてではなく、チームを構成する学生自らが自主的、自発的に実行してきたことを知ると、これはアメリカンフットボールという枠を越え、人間の成長、発達から、教育ということの本質にまで及ぶ壮大な物語であるということに気づかされるのである。
もちろん「勝ちたい」ということがそのエネルギーになったのだろう。勝つために知恵を出し、工夫を重ねるうちに、その必要性に気がつき、気がついたことを片っ端から実行したということだろう。手探りで進めていくうちに、それがチームのノウハウとなって蓄積されたということもあるだろう。そういう蓄積をたくさん持っていることを伝統と呼ぶのかもしれない。
しかしそれは、伝統という言葉で、神棚に祭り上げておけばいいというものではない。温故知新。古きを訪ね、新しくを知るである。いま現在の活動に生かさなければ、意味は半減する。
戦後の草創期に「勝ちたい」と思って、チームのみんながそれぞれの分野で努力した。リクルート、戦術の研究、相手チームの分析……。いまから見れば、その内容は荒削りでお粗末だった。相手チームの情報を入手するといっても、撮影機材一つない。ただ試合会場に出かけ、試合の様子を目に焼き付けて来るだけだ。新しい戦術を研究するにも、当初はアメリカの原書しかない。それも図書館に出かけて必要なところをノートに写し、それを翻訳して、プレー内容や仕組みを想像するしかないという状態だ。リクルートといっても、選手には何の特典もない。有望な選手がいると聞けば、ひたすらその選手の家に出かけて関西学院を受験してくれるように説得するだけだ。
いまから見れば、余りに原初的なやり方だが、それでも「勝ちたい」一心で、彼らはそれを自主的、自発的にやり続けた。
いまのファイターズの諸君も「勝ちたいという気持ちでは、草創期のメンバーには負けてはいないだろう。ならば、彼らが自主的、自発的に成し遂げたことを、いまもやったらどうだろう。もちろん、覇権を争うライバルは増え、それぞれが強くなっている。60年前とは、環境も激変している。同じ方法、同じ努力では、実りにつながらないかもしれない。
けれども勝利を求めて、どん欲に努力するその姿勢、その心構えは、いまも通用するはずだ。温故知新。歴史に学び、いまを生きる。ファイターズの諸君にとっても、必要なことだと僕は思っている。
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