川口仁「日本アメリカンフットボール史-フットボールとその時代-」

#18 フットボール伝来記 3 ―焼失した日記―

投稿日時:2008/09/25(木) 09:05rss

 蒸気機関、ガス灯、反射望遠鏡、道路舗装、切手、万年筆、グランドピアノ、自転車、タイヤ、石油精製、近代銀行、モールス信号、スピードメーター、レインコート、冷蔵庫、電話、ガスマスク、レーダー、救命胴衣、クロロホルム麻酔、ペニシリン、テレビ、ビデオ・レコーダー、これらに共通するものは?

 答は、発明したのはみんなスコットランド人、である。スコットランド人は産業革命を推進する多くのものを創り出した。エジソンの父も、エジソンの一番弟子の父親もスコットランド人であった。

 前回の記事に出てくるマクギル大学はJames McGillより遺贈された4万ポンドを基金として創立された大学である。McGillはスコットランドで事業を行ったのちカナダに移住、毛皮取引で成功おさめた。バスケットボールを考案したジェイムズ・ネイスミスもスコットランド系であり、マクギル大学を卒業した。記事を読まれた関西学院の方からマクギル大学のMcGillは「マギル」と表記しますとのご指摘をいただいた。学院の文書はそれで統一されているので今後は「マギル」と表記したいと思う。

 今回、ラトガーズ大学を取り上げる予定だったが、変更してマギル大学のことを書きたいと思う。灯台下暗しなのでご指摘のあった方にお願いしたら、たくさんの資料をお送りいただいた。関西学院はマギルと学生交換協定をしているという。母校のことなのだが知らずにいた。またスクール・モットーの“Mastery for Service”は学院の4代目院長であったC.J.L.ベーツが高等学部長時代に提唱し、その後、学院全体のものになったという。これはマギル大学マクドナルド・カレッジのモットーと同じであることも教えていただいた。この間のことを調べられておられる学院史編纂室の池田裕子さんが「関西学院史紀要」第6号(2001年4月20日)に「カナダ訪問記」と題して書かれており、目下他の資料も含めて勉強中である。池田さんにはFIGHTERSの65周年DVDを制作する時、たいへんお世話になった。

 アメリカは最初の大学対抗のゲームが行われた1869年に大陸横断鉄道が開通したように鉄道の時代に入っていた。1874年、マギル大学はハーバード大学とお互いが採用しているルールで交互にフットボールの試合を行った。当時はアメリカ国内においても大学ごとにルールが異なり、交流戦を行うときはまずルールの交渉からになった。このときはまず最初にハーバード・ルールでゲームを行い、翌日にマギル・ルールでゲームを実施した。スコットランドはラグビーが盛んであったのでマギル大学もラグビー・ルールであった。これがアメリカにおいてラグビー・ルールで行われた最初のゲームになった。マギル大学のあるモントリオールとハーバードのボストン間の距離はおよそ400km。鉄道で移動したと推測するのだが、おそらく10時間以上かかったのではないだろうか。時代は大きく下るが終戦後の甲子園ボウルで来阪する関東の大学は10時間以上をかけての遠征であったらしい。1950年に、「特急つばめ」がダイヤ改正により東京―大阪間を8時間で走るようになった。19世紀のサッカーの発展も鉄道の沿線沿いに進んで行った。アメリカでも鉄道会社の社員で構成されるチームが本格的なプロ・チーム出現以前にあったという。

 名前に関する余談をしたいと思う。外国人の日本語表記は難しい。McGillは「マギル」だが、おなじみのMcDonaldは「マクドナルド」であるし、かつてのアメリカの航空機製造会社、McDonnell Douglas社は、「マクダネル」であった。何か法則性があるのかも知れない。

 #15でも発音が分からないと書いたHeffelfingerのような一見しても想像がつけられないスペルがある。NFLのひいきチーム、セインツに1990年代前半、Bobby HebertというQBがいた。最近プレイオフに出るまでになったが、当時は弱小チームだったのでテレビの放送に取り上げられることがめったになかった。したがって、エースQBなのだが雑誌のスペルを見てもセカンド・ネームの発音が分からなかった。プロ・フットボールのテレビ解説をしている専門家に聞いたところ「ヘバート」と教えられた。のちにセインツのゲーム・ビデオが手に入って耳をこらして聞くと、何度聞き返しても「エーベァ」だった。セインツはニュー・オーリンズがフランチャイズなのでHebertもフランス系の可能性が高い。フランス語においては最初の“H”は発音されないので「エーベァ」なのであろうと思っているが、いかがであろうか。

 さらに余談を加えると、日本人の名前はもっと手ごわく、「纐纈」という苗字は13通りの読み方がある。こうした同じ漢字で多数の読み方を持つものが日本の名前には多く、ご本人に聞いて見なければ分からないということが往々にしてある。読み方が異なっても同一の字であれば1つの名前として数えると日本の苗字は10万あるそうである。これに「斉藤」の「斉」のように「斎」を初めとして同音異字なども数え上げると30万近くになるといわれているが、個人情報保護法もあり今後はさらに調査が困難になるので、正確なことは分からないようである。アメリカは世界各国から移民してきているので約100万に上るという。
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