石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(7)教える力と学ぶ力
15日のJV戦、近大との試合が終わった後、鳥内監督が4年生だけをフィールドに集めて話をされた。5分が過ぎ、10分たっても終わらない。普段なら、その日の試合で気になったポイントを手短に話して解散、という段取りだが、この日は違った。何より口調が厳しい。声こそ荒げないが、時には特定の部員を名指しして、その行動に「ダメ出し」をされる。
ようやく話が終わった後、憮然とした表情の監督に「何を注意されていたのですか」と聞いてみた。
「下級生に対する指導について、です」「4年生が普段、下級生に何を教えているのか。どんな教え方をしているのか。試合の中でも教えられることはいっぱいあるのに、なぜ、その場で指導しないのか。そういうことについて注意しただけです」という話だった。
答えは抽象的だったが、その日の試合を見ていた僕には、監督が言おうとされることが痛いほど分かった。それほど、反省点というか、教訓というか、ある意味では見どころの多い試合だった。
この日のスタメンで、1週間前の関大戦に先発したメンバーはDLの岸君一人。パンターに大西君の名前が入っていたが、キッカーは2年生の上仲君。実質的には、普段試合に出場する機会の少ないJVのメンバーが主役の試合だった。
相手は昨年まで、関西リーグの1部で戦っていた近大。昨年から活躍していたメンバーもいるし、個々の能力ではファイターズの1軍にも引けを取らないような選手が何人もいる。試合経験の少ないJVのメンバーにとっては、ハードな相手だった。
案の定、試合は最初から互いに決め手を欠き、互いにパントを蹴りあう膠着状態。ようやく2Q中盤、ファイターズはQBが2年生の橘君から1年生の斎藤君(中央大付属)に交代、そこからRB坪谷君と雑賀君のランで活路を開く。最後はゴール前12ヤード、雑賀君が中央を走り抜けてTD。上仲君のキックも決まって7-0で前半を折り返した。
後半に入ると、試合慣れしたメンバーの多い近大のペース。ファイターズは次々と1年生を含む新しいメンバーを投入したこともあって、じりじりと陣地を奪われていく。挙句に自陣11ヤードから1年生QB前田君(高等部)の投じたパスが相手DBに奪われ、そのままTD。7-7の同点で試合を終えた。
最初に言った通り、この日出場した選手たちは、試合経験の少ない選手ばかり。そのせいか、攻めてはスタート時の反則が多発したし、守っては相手QBの多彩な動きに振り回される場面が続出した。パスカバーも甘く、同じルート、同じ選手への短いパスを何度も通された。パントやキックオフの目測を誤ってボールを受け損なう場面も再三あった。フィールドゴールも決まらなかった。
普段の試合で、1軍のメンバーが当たり前のように決めているプレー、あるいは高校時代には簡単に決めていたプレーが、彼らにはとてつもなく難しかったのである。
当然である。同じアメフットといっても、高校と大学ではレベルが違う。練習と試合とでは内容が違う。練習ではできても、試合では思い通りにならないことは、よくあること。まして、今春入学したばかりの1年生や昨年1年間は体を作ることに専念してきた2年生に、経験豊富な1軍メンバーのようなパフォーマンスを求めること自体、無理がある。
逆にいうと、この日の試合に出た選手たちにとっては、大学「1部リーグ」のレベルの高さを実感できただけでも、意味がある。活躍できた選手、不本意な結果に終わった選手、それぞれがこの日の試合を糧にし、あらためて朝鍛夕錬、しっかり練習に取り組んでいけばそれでよいのである。
問題は、その取り組み方である。下級生は日々、目標を持った練習をしているのか。決められたメニューをこなすだけで満足してはいないか。上級生は適切な指導をしているのか。マニュアル通りの指導で良しとしてはいないか。あるいは、メニューを提示しただけで、責任を果たした気にはなっていないか。そういうことをしっかり見ていかなければならない。あの日、試合後に監督が注意し、4年生に猛省を促されたのも、多分、そういうことだったであろう。
最近読んだ植物生態学者、稲垣栄洋さんの「身近な雑草の愉快な生き方」(ちくま文庫)に、こんなことが書かれたいた。
「あるものは、踏みにじられてぼろぼろになりながらも、小さな花をしっかり咲かせている。あるものは、コンクリートの隙間で乾ききったわずかな土に根付いてそれでも太い茎を伸ばしている。またあるものは、木枯らし吹きすさぶ凍った大地で光を求めて青々と葉を広げている。たかが雑草とさげすむ人もいるだろう。しかし、名もなき小さな雑草たちでさえ、こんなにも生命の炎を燃やしているのだ」
「雑草ばかりではない。動物も、鳥も、昆虫も、肉眼では見えない微生物も、すべて生命あるものは、より強くいきたいというエネルギーを持っている。すべての生命が強く生き抜こうと力の限りのエネルギーを振り絞っている。向上心のない生命はないのだ」
こういう話である。向上心のない生命はない。あの日、JV戦で悔しい思いをした選手たち、その選手たちをしっかり指導できなかった上級生諸君。どうか、向上心を持ち、工夫を重ねて目標に向かってほしい。
ようやく話が終わった後、憮然とした表情の監督に「何を注意されていたのですか」と聞いてみた。
「下級生に対する指導について、です」「4年生が普段、下級生に何を教えているのか。どんな教え方をしているのか。試合の中でも教えられることはいっぱいあるのに、なぜ、その場で指導しないのか。そういうことについて注意しただけです」という話だった。
答えは抽象的だったが、その日の試合を見ていた僕には、監督が言おうとされることが痛いほど分かった。それほど、反省点というか、教訓というか、ある意味では見どころの多い試合だった。
この日のスタメンで、1週間前の関大戦に先発したメンバーはDLの岸君一人。パンターに大西君の名前が入っていたが、キッカーは2年生の上仲君。実質的には、普段試合に出場する機会の少ないJVのメンバーが主役の試合だった。
相手は昨年まで、関西リーグの1部で戦っていた近大。昨年から活躍していたメンバーもいるし、個々の能力ではファイターズの1軍にも引けを取らないような選手が何人もいる。試合経験の少ないJVのメンバーにとっては、ハードな相手だった。
案の定、試合は最初から互いに決め手を欠き、互いにパントを蹴りあう膠着状態。ようやく2Q中盤、ファイターズはQBが2年生の橘君から1年生の斎藤君(中央大付属)に交代、そこからRB坪谷君と雑賀君のランで活路を開く。最後はゴール前12ヤード、雑賀君が中央を走り抜けてTD。上仲君のキックも決まって7-0で前半を折り返した。
後半に入ると、試合慣れしたメンバーの多い近大のペース。ファイターズは次々と1年生を含む新しいメンバーを投入したこともあって、じりじりと陣地を奪われていく。挙句に自陣11ヤードから1年生QB前田君(高等部)の投じたパスが相手DBに奪われ、そのままTD。7-7の同点で試合を終えた。
最初に言った通り、この日出場した選手たちは、試合経験の少ない選手ばかり。そのせいか、攻めてはスタート時の反則が多発したし、守っては相手QBの多彩な動きに振り回される場面が続出した。パスカバーも甘く、同じルート、同じ選手への短いパスを何度も通された。パントやキックオフの目測を誤ってボールを受け損なう場面も再三あった。フィールドゴールも決まらなかった。
普段の試合で、1軍のメンバーが当たり前のように決めているプレー、あるいは高校時代には簡単に決めていたプレーが、彼らにはとてつもなく難しかったのである。
当然である。同じアメフットといっても、高校と大学ではレベルが違う。練習と試合とでは内容が違う。練習ではできても、試合では思い通りにならないことは、よくあること。まして、今春入学したばかりの1年生や昨年1年間は体を作ることに専念してきた2年生に、経験豊富な1軍メンバーのようなパフォーマンスを求めること自体、無理がある。
逆にいうと、この日の試合に出た選手たちにとっては、大学「1部リーグ」のレベルの高さを実感できただけでも、意味がある。活躍できた選手、不本意な結果に終わった選手、それぞれがこの日の試合を糧にし、あらためて朝鍛夕錬、しっかり練習に取り組んでいけばそれでよいのである。
問題は、その取り組み方である。下級生は日々、目標を持った練習をしているのか。決められたメニューをこなすだけで満足してはいないか。上級生は適切な指導をしているのか。マニュアル通りの指導で良しとしてはいないか。あるいは、メニューを提示しただけで、責任を果たした気にはなっていないか。そういうことをしっかり見ていかなければならない。あの日、試合後に監督が注意し、4年生に猛省を促されたのも、多分、そういうことだったであろう。
最近読んだ植物生態学者、稲垣栄洋さんの「身近な雑草の愉快な生き方」(ちくま文庫)に、こんなことが書かれたいた。
「あるものは、踏みにじられてぼろぼろになりながらも、小さな花をしっかり咲かせている。あるものは、コンクリートの隙間で乾ききったわずかな土に根付いてそれでも太い茎を伸ばしている。またあるものは、木枯らし吹きすさぶ凍った大地で光を求めて青々と葉を広げている。たかが雑草とさげすむ人もいるだろう。しかし、名もなき小さな雑草たちでさえ、こんなにも生命の炎を燃やしているのだ」
「雑草ばかりではない。動物も、鳥も、昆虫も、肉眼では見えない微生物も、すべて生命あるものは、より強くいきたいというエネルギーを持っている。すべての生命が強く生き抜こうと力の限りのエネルギーを振り絞っている。向上心のない生命はないのだ」
こういう話である。向上心のない生命はない。あの日、JV戦で悔しい思いをした選手たち、その選手たちをしっかり指導できなかった上級生諸君。どうか、向上心を持ち、工夫を重ねて目標に向かってほしい。
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