石井晃のKGファイターズコラム「スタンドから」
(3)JV戦の二つの光景
今季、待望の初戦はJV戦。大阪産業大学を上ヶ原の第3フィールドに迎えて、期待される新戦力が次々に登場した。
まず目についたのは、2年生RB雑賀(高等部)。第1Q5分過ぎ、ゴール前2ヤードを走って先制のタッチダウン(TD)を獲得したのを皮切りに、第3Qに13ヤードの独走TD、第4QにはとどめのTDを決め、ベンチの期待に応えた。高等部では野球部。チームでも1、2を争う足の速さが魅力で、鳥内監督も1年生の時から期待していた。
だが、1年生の時は、まだアメフット選手としての体が出来ておらず、激しいコンタクトにも戸惑いを隠せない様子。秋のリーグ戦ではたまに起用されたが、そのスピードを生かす場面はなかった。
それがひと冬を越して一変した。体が一回り大きくなり、密集の中に突進していくことを怖がらなくなった。ボールを持ってからの視野も広がったようで、この日は相手守備陣を巧みにかわし、持ち前のスピードで抜き去る場面が何度もあった。獲得ヤードは12回で71ヤード。175センチ、72キロとファイターズのRBの中では体も大きく、今後、試合経験を積んでいけば大いに期待できそうだ。
レシーバーでは、3年生の岸本(高等部)と森本(啓明学院)の動きが目についた。それぞれ急所でミドルパスを何度も確保し、確実に陣地を進めた。人材がそろっている先発陣の中に割って入るのは大変だろうが、WRは何人いても出番はある。今後の活躍に注目したい。
QBは前半が3年生の畑(高等部)、第3Q後半から2年生の橘(高等部)。この日は、両チームが事前に話し合って「QBへのタックルは禁止」という特別ルールで臨んだため、比較的自由に動けたはずだが、二人の出来は明暗を分けた。畑はパス中心で攻めたが、レシーバーとのタイミングが合わず、なかなかパスが通らない。逆に橘は、ラン中心のプレーコールだったが、ときおり交える短いパスが次々とヒットした。
昨年からときおり試合に出ていた畑はともかく、橘はほとんど試合に出ることがなかった選手。秋のシーズンもスカウトチームのQBとして、ひたすら守備陣を鍛えるためにパスを投げていた。
そんな選手だったが、この日は違った。最初は、基本に忠実なハンドオフを繰り返し、ランプレーで陣地を進める。試合の雰囲気に慣れてくると、今度は立て続けにパスを投げた。ランが進んでいたから、パスも通る。14回投げて94ヤードを獲得、2本のTDをもぎ取った。
守備で目についたのは、鋭い出足で再三相手QBに襲いかかったDLの3年生、朝倉(武蔵工大付)と2年生の中前(高等部)。DL陣も層が厚いが、この日のような動きができれば、二人とも先発の一角に割って入ることが期待できる。春のシーズンを通じて、その成長に期待したい。
DB陣では、2年生大森(関西大倉)のいかにもアスリートらしい鋭い動きと、同じく2年生鳥内(高等部)の相手レシーバーに対する執拗なマークが印象に残った。
このように、活躍した選手の名前を並べ立てていくと、今季のファイターズは大いに期待できる、と思われた方が多いだろう。ところが、見る人が見たら、また別の景色が広がっていたようだ。例えば、武田建先生の目に写った光景。この日のレシーバー陣の出来栄えには、大いに不満があったという。
試合直後、顔を合わせるなり「手に当てたボールを落とすのはレシーバーの責任。30年前の私なら、頭から湯気を立てて怒鳴ってましたよ」。言葉も顔つきも穏やかだったが、内容は辛らつだ。フレッシュマンレシーバーの指南役として、ずっと練習を見守ってこられただけに、教え子たちのこの日の状態には我慢がならなかったのだろう。鳥内監督に「レシーバーにアフター(練習)をやらせてよろしいですか」と了解を求め、試合を終えたばかりの選手を集めてパスキャッチの練習を始められた。
普段の試合ではなかなか目にすることのない光景。それを眺めながら、10数年前、和歌山県の高校野球界であった出来事を思い出した。それは、夏の高校野球和歌山大会の準々決勝が終わった日の夕刻のこと。優勝候補の本命に挙げられていた智弁和歌山高校の選手たちは準々決勝を戦った直後に学校のグラウンドに集合、高島監督からアフター練習を強制された。部内からは「試合を終えたばかりの選手に練習を強制するなんて、体を壊しますよ」と反対する声もあったそうだが、監督は「それで壊れるような選手なら仕方がない。甲子園で優勝する、という目標を立てた以上、それにふさわしいチームを作らなければならない。今日のようなふがいない戦い方では、和歌山では勝てても甲子園では勝てない」と練習を強行したという。
和歌山大会終了後、当の選手からその時の様子を聞いて「高校生を相手に、そこまでやるか」と半ばあきれ、半ば感心したことだった。ちなみにその年、智弁和歌山は当然のように全国選手権大会に出場。決勝で平安を破って初優勝し、優勝旗を和歌山に持ち帰った。いま楽天にいる中谷捕手が主将、近鉄に入団した高塚投手が主戦だった時である。
ファイターズが試合後の選手を集めて「アフター練習」をするなんて、少なくともこの数年は見たことがない。でも、17日の第3フィールドでは、レシーバーのパートだけとはいえ、その練習が実現した。そによって技量が向上したかどうかはしらない。しかし、「鉄は熱いうちに打て」という。少なくとも、あえて試合後の練習を強要された武田先生の熱意が選手たちの気持ちを揺るがせたことだけは確かである。
まず目についたのは、2年生RB雑賀(高等部)。第1Q5分過ぎ、ゴール前2ヤードを走って先制のタッチダウン(TD)を獲得したのを皮切りに、第3Qに13ヤードの独走TD、第4QにはとどめのTDを決め、ベンチの期待に応えた。高等部では野球部。チームでも1、2を争う足の速さが魅力で、鳥内監督も1年生の時から期待していた。
だが、1年生の時は、まだアメフット選手としての体が出来ておらず、激しいコンタクトにも戸惑いを隠せない様子。秋のリーグ戦ではたまに起用されたが、そのスピードを生かす場面はなかった。
それがひと冬を越して一変した。体が一回り大きくなり、密集の中に突進していくことを怖がらなくなった。ボールを持ってからの視野も広がったようで、この日は相手守備陣を巧みにかわし、持ち前のスピードで抜き去る場面が何度もあった。獲得ヤードは12回で71ヤード。175センチ、72キロとファイターズのRBの中では体も大きく、今後、試合経験を積んでいけば大いに期待できそうだ。
レシーバーでは、3年生の岸本(高等部)と森本(啓明学院)の動きが目についた。それぞれ急所でミドルパスを何度も確保し、確実に陣地を進めた。人材がそろっている先発陣の中に割って入るのは大変だろうが、WRは何人いても出番はある。今後の活躍に注目したい。
QBは前半が3年生の畑(高等部)、第3Q後半から2年生の橘(高等部)。この日は、両チームが事前に話し合って「QBへのタックルは禁止」という特別ルールで臨んだため、比較的自由に動けたはずだが、二人の出来は明暗を分けた。畑はパス中心で攻めたが、レシーバーとのタイミングが合わず、なかなかパスが通らない。逆に橘は、ラン中心のプレーコールだったが、ときおり交える短いパスが次々とヒットした。
昨年からときおり試合に出ていた畑はともかく、橘はほとんど試合に出ることがなかった選手。秋のシーズンもスカウトチームのQBとして、ひたすら守備陣を鍛えるためにパスを投げていた。
そんな選手だったが、この日は違った。最初は、基本に忠実なハンドオフを繰り返し、ランプレーで陣地を進める。試合の雰囲気に慣れてくると、今度は立て続けにパスを投げた。ランが進んでいたから、パスも通る。14回投げて94ヤードを獲得、2本のTDをもぎ取った。
守備で目についたのは、鋭い出足で再三相手QBに襲いかかったDLの3年生、朝倉(武蔵工大付)と2年生の中前(高等部)。DL陣も層が厚いが、この日のような動きができれば、二人とも先発の一角に割って入ることが期待できる。春のシーズンを通じて、その成長に期待したい。
DB陣では、2年生大森(関西大倉)のいかにもアスリートらしい鋭い動きと、同じく2年生鳥内(高等部)の相手レシーバーに対する執拗なマークが印象に残った。
このように、活躍した選手の名前を並べ立てていくと、今季のファイターズは大いに期待できる、と思われた方が多いだろう。ところが、見る人が見たら、また別の景色が広がっていたようだ。例えば、武田建先生の目に写った光景。この日のレシーバー陣の出来栄えには、大いに不満があったという。
試合直後、顔を合わせるなり「手に当てたボールを落とすのはレシーバーの責任。30年前の私なら、頭から湯気を立てて怒鳴ってましたよ」。言葉も顔つきも穏やかだったが、内容は辛らつだ。フレッシュマンレシーバーの指南役として、ずっと練習を見守ってこられただけに、教え子たちのこの日の状態には我慢がならなかったのだろう。鳥内監督に「レシーバーにアフター(練習)をやらせてよろしいですか」と了解を求め、試合を終えたばかりの選手を集めてパスキャッチの練習を始められた。
普段の試合ではなかなか目にすることのない光景。それを眺めながら、10数年前、和歌山県の高校野球界であった出来事を思い出した。それは、夏の高校野球和歌山大会の準々決勝が終わった日の夕刻のこと。優勝候補の本命に挙げられていた智弁和歌山高校の選手たちは準々決勝を戦った直後に学校のグラウンドに集合、高島監督からアフター練習を強制された。部内からは「試合を終えたばかりの選手に練習を強制するなんて、体を壊しますよ」と反対する声もあったそうだが、監督は「それで壊れるような選手なら仕方がない。甲子園で優勝する、という目標を立てた以上、それにふさわしいチームを作らなければならない。今日のようなふがいない戦い方では、和歌山では勝てても甲子園では勝てない」と練習を強行したという。
和歌山大会終了後、当の選手からその時の様子を聞いて「高校生を相手に、そこまでやるか」と半ばあきれ、半ば感心したことだった。ちなみにその年、智弁和歌山は当然のように全国選手権大会に出場。決勝で平安を破って初優勝し、優勝旗を和歌山に持ち帰った。いま楽天にいる中谷捕手が主将、近鉄に入団した高塚投手が主戦だった時である。
ファイターズが試合後の選手を集めて「アフター練習」をするなんて、少なくともこの数年は見たことがない。でも、17日の第3フィールドでは、レシーバーのパートだけとはいえ、その練習が実現した。そによって技量が向上したかどうかはしらない。しかし、「鉄は熱いうちに打て」という。少なくとも、あえて試合後の練習を強要された武田先生の熱意が選手たちの気持ちを揺るがせたことだけは確かである。
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